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欠陥少年は精霊使いに憧れる  作者: 磯崎 瑞樹
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03 ティアクリナ

「終わった?」


保健室を出るとラーテルに声を掛けてくる少女がいた。

艶やかな青色の髪を揺らして微笑みかけてくる少女にラーテルも微笑み返す。


「あぁ、終わったよ。リナ、別に待っていてくれなくても僕は大丈夫だ」


「そういうわけにはいかないわ」


「もう治療も二年目だよ、そろそろ慣れてきてもいいのに」


「し、心配なのよ」


リナと呼ばれた少女がやれやれといった具合に首を横に振る。

少女の名はティアクリナ。ラーテルと同じ孤児院で共に育った幼馴染のような存在だ。ラーテルたちが育った地域ではティアから始まる名前が多く、孤児院内でも2~3人いた。なのでラーテルは区別をつけるため、幼少の頃より少女をリナと呼んでいる。

旧知の仲であるティアクリナは、クラス内において唯一ラーテルに好意的な人物であり、ラーテルの心の支えでもあった。

そんな彼女がラーテルと共に学院にいるのは、もちろんラーテルのようにどこか欠陥を抱えているからではない。


「スイレンだって心配してるのよ?」


ティアクリナがちらりと横を見やると、ふわっとした空気の流れが一瞬にして凝縮されるような気配がした。同時に、人形のように綺麗な人が現れる。

淡い水色の髪に、端正な顔立ち、トパーズのような青い瞳、すらりとした長身に無駄のない引き締まった脚、一言で言えば美人さんである。

背中に煌めかせた精霊紋は四画。


中位精霊との契約。

大体の人間が下位精霊と契約するのに対して、ティアクリナが契約したのは人型の水属性の中位精霊だった。

精霊とは力の塊。強い力を持つならば、それなりに教養を与えなくてはいけないのがサンローラン王国での決まりだ。

まして人型は動物型や植物型等と違い、マナの扱いに長けるだけでなく意思の疎通も比較的容易であり、契約者によっては精霊が契約者の負の面にひっぱられて暴走することもある。

力の使い方を知れば、暴走の危険は減り、王国としても優秀かつ強力な精霊魔法師へ至る可能性がある精霊使いを確保できる。

だからこそ彼女は、王立高等学校への入学を認められた。

要はエリート候補生なのだ。

ラーテルとは出来が違う。


そんなラーテルの内心に気付いたのだろうか、スイレンが優しくラーテルに微笑みかけている。

ラーテルもそれを受けて挨拶を交わした。


「久しぶり、スイレン。元気だったかい?」


「元気ですって、ラーテルのことが気になってあまり元気そうには見えないけどね」


スイレンの代わりにティアクリナが応える。


「はは、僕は大丈夫だよ。ありがとうね、スイレン」


なんでもない、という風にラーテルは笑ってスイレンに礼を述べた。


精霊はマナの塊に魂、いわゆる自我と呼べるものが宿った存在だ。

言葉を発すればそれだけでも世界へ干渉できる。

力なき下位精霊であれば特に気にすることはないのだが、中位以上は格が違う。

それ故に契約精霊は会話を契約者に依存する。

契約者であればマナとの同調が常に行われているため、頭の中に言葉を送るだけで会話が成り立つ。

その契約者を通訳代わりにすることで、他者との会話も成立させていた。


「スイレンも変わりないようだけど、リナも相変わらずだね」


ラーテルがスイレンの主張激しい身体とリナの主張のない慎ましい部分を交互に見て言う。


「あん?喧嘩うってるのかしら??」


ティアクリナのマナが周囲の空気を支配し、ビキッと音を立てる。慌ててスイレンが間に入る。


「わかってるわよ」


スイレンが宥めるようにティアクリナの髪を撫で、ティアクリナが頬を膨らませてプイッと横を向いた。


「スイレンはなんて?」


「さーね!教えてやんない!」


二人でキャイキャイと騒いでいると、後ろで勢いよくドアが開いた。


「お前らうるさいぞ!ここ一応保健室なんだからな!特に人がいないからって私のことを忘れるなよ!」


ミネルヴァ先生が大変ご立腹の様子で立っていた。


「す、すみません」

「ごめんなさい」


シュンとするラーテルとティアクリナを見て、ミネルヴァはもういいとでも言うように手のひらを振る。


「気持ちはわからんでもないがな、ラーテルは少し交遊関係が狭すぎだ。ティアクリナばかりではなく、たまにはクラスメイトにも話しかけろ」


「うぇ」


「そんな顔をするな。気持ちはわかると言っただろ?」


ラーテルが苦虫を噛み潰した様な渋い顔をしている。


「まったく仕方のないやつだ」


ふっと笑うと、ミネルヴァはラーテルの頭に手をのせて、そのままグリグリと揺するように撫でた。


「ティアクリナも、ラーテルをあまり甘やかすな。男子たるもの肉体的にも精神的にも強くあってもらわねばならんからな!」


「は、はい」


「男女差別はんたーい!」


「黙れ」


もじもじするティアクリナを可愛らしく感じながら、ミネルヴァはラーテルの額を指で弾いた。


「あぁ、そうだ。ラーテル、ティアクリナ、言い忘れていた」


「なんですか?」

「はい」


「お前らちょっと来週あたりデートしてこい」


「え!?」

「ふぁっ!?」


目を白黒させるラーテル、赤面して慌てるティアクリナ。

両名の反応を楽しみながら、若いっていいなとミネルヴァはつぶやく。


「ぶっちゃけ今ラーテルの治療に行き詰まっていてな。正直お手上げ状態なのだ。来週いっぱい私は王都で活動報告のためにここを空ける。ちょうどいいから、ラーテルには大精霊の祠で大精霊と会い、お前の治療について聞いてきて貰いたい」


ダメダメだよまったく、といった具合に両手を上に挙げてひらひらさせるミネルヴァ。


「ぶっちゃけすぎてません?」


白目でジトジトとミネルヴァを見ながら不満を言うラーテルに続いて、ティアクリナも疑問を口にする。


「それに、大精霊様は王都にいらっしゃると聞いています。祠はいわゆる宗教的な意味合いしかなく、そこにご本人様がいらっしゃるとは聞いておりませんが?」


「ふむ。確かに対外的にはそういうことになっている。が、まぁ行けばわかるだろう」


「それで、仮に大精霊に会えたとして、僕は僕の何について聞けばいいんです?」


「まずはお前の属性についてだ。私の仮説が正しければ、大精霊は確実にお前に興味を持つ。あとは勝手に色々教えて下さるだろう。私の口から今お前に断定してしまってもいいのだが、まだ仮説の段階だ。研究者としては不確定な結論を下したくない」


「僕の属性がわかるんですか?」


「あぁ、わかる。だが、わかったところで手の打ちようがない。色々試してはいるんだが、どうにもその先に進めない。行き詰まっているとはそういうことだ」


ふぅと長くため息をついて、ミネルヴァは言葉を続ける。


「だから、創世記からいる大精霊の知恵を借りたい。私が行ってもいいのだが、ラーテル本人が直接診て貰った方が話が早いだろう」


「わかりました」


真剣な面持ちで頷くラーテルに、安心しろとミネルヴァが笑いかける。


「なに、デートだと言っただろう? 楽しんでくるといい。祠は歴史的にも社会的にも十分勉強になるだろう。見るだけでも価値はあるさ。あぁ、ただ、道中魔物がいないとも限らん。ラーテルとて鍛えてはいるだろうが、精霊魔法が使えるやつが側にいた方が安全だろう。ティアクリナ、そういうわけだ。頼めるか?」


「は、はい!!」


こうして、ラーテルとティアクリナが大精霊の祠へ行くことが決まった。

その様子を廊下の影から伺う者がいたことに、契約精霊を含む全員が気付くことはなかった。














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