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僕と君は愛せない  作者: 朝澄 容姿
君咲優蘭と銀楼鈴音
7/38

12月2日 あなたの事を知りたくて

ハァハァ…


このままじゃ…このままじゃ遅刻してしまう!!!


現在時刻は午前7時52分。僕は寝起きの体にムチを打ち、最寄りのバス停まで全速力で向かっていた。




何故こんなことが起きてしまったのか、それは数時間前までに溯る。






深夜2時






「…そろそろ寝たいんだけどなぁ…」



先日、僕と同じく異性に激しいトラウマのある同級生『銀楼鈴音』と出会った。

異性の顔が見えなくなるというかなりキツめなトラウマの効力を僕と銀楼さんの間では何故か発動しないと言う事など諸々の奇跡に奇跡が重なった事により、お互い唯一話せる異性としてお互いを知るためにLINEを交換した。


僕自身、『トラウマの効力』に脳がやられていると気付いた時にはまさかそんな状態で女子とLINEを交換できるなんて思ってもみなかったため、少々遂げ舞い上がっていた節もあるが…

まさか深夜の2時までLINEでのやりとりが終わらないと言うことが起こるなんて、流石に予想だにしていなかった。


今僕は電気を消した暗い部屋のベットの上で眠い目を擦りながら銀楼さんとLINEをしている、やり取りが終わった瞬間に眠りに着けるようにするためだ。


部屋に鳴り響くのは昨日設置した時計の秒針の音。

無情にも時計の針は止まってくれず、2時10分、11分と時間はゆっくりとだけど確実に進んでいく。


僕の家から学校までにはバスを利用しても30分以上はかかる。

なので朝の7時には起きなきゃいけないけどこんな時間まで起きていたら7時に起きるなんて不可能に近い。


ほんとショートスリーパーの人に憧れる…

とほほ…



ピロリン


丁度通知音の鳴ったスマホに視線を時計から戻す。


『君咲くんは家どこら辺なの?』

『かわいいくまのスタンプ』


「質問攻め…かれこれ2時間は続いてる」


明日の為に正直寝たい。ただ銀楼さんが僕に興味を持っているのと同じように、僕も銀楼さんに対して決して小さくない興味を抱いている。

それは異性として気になっているのか、同じ傷を舐め会える仲間ができた…ことを喜んでいるからなのか正直なところ僕にも分からないけど。


僕は慣れた手つきでロックを解除し文字を打つ。


『蒲池駅の近くだよー』


『あのバス停があるところの?』


『そう!いつもそこから学校に行ってるんだ!』


『そうなんだ』


『うん』


『分かった、じゃあ明日も学校あるしもう寝ようかな』


『あ、分かったおやすみー』


『うん、おやすみ』


『goodnightって描いてある可愛いうさぎのスタンプ』



「…終わった」


ふぅ

と、一息付く。枕元にあるコンセントにスマホを差し込み、すこし背伸びをして部屋の電気を消し、やっと待ち望んでいた睡眠に辿り着くことが出来た。


「ふぅ…おやすみなさい」






僕は目を閉じ夢の世界へ浸れることにに思いを馳せた。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




ギン




「眠れない」



バッと、勢いよく立ち上がる。そして


「寝れねぇぇぇぇ!!」


と、満月の夜に雄叫びをあげる、満月の夜に覚醒する狼男ばりの奇声を発しゼェゼェと肩で呼吸をする。


「…今何時だ?」


スマホを確認するするとそこには『4時25分』の文字。


「に…2時間近く目を瞑っていただけだったのか…」


気づけばベッドに入ってからもう2時間も経っていた。眠れない時あるあるのひとつで、『 眠かったのにずっとなんか変な考え事をしていたら眠れなくなっていて気付いたら相当な時間が経っていた件』というものがあると思う、それが今の僕だ。


転校初日やクラス替えの前の日は眠れなくなる、アレだ。


僕の場合銀楼さんの事や悠二君たち、そして今後の学校生活のことを考えていたら眠れなくなっていた。

それと今回は寝る直前までLINEをしていた事によりブルーライトをガンガン浴びていたというのも眠れない要因のひとつだろう。


「くそ…どうすれば…」


1回落ち着き、また布団の中に潜る。


『何も考えるな…自然と、自然と寝るんだ…』


何も考えない、無の時間。


『………』



あ、よし、どんどん意識が遠のいていく…

行ける行けるぞーーーー







ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



と、まぁそれで現在に話が戻るんだけど。


もうその結果は言わなくてももう分かってるはずだ。


そう、僕は寝坊した。

いや、考えてみたらこんな睡眠時間で寝坊しない方がおかしいと開き直ることすらできる。


朝起きて時計を見た時は絶望はしたが正直予想がついていたからその絶望はそこまで大きなものじゃなかった。


ただ、遅刻はしたくない。

それにまだ転校してきて1週間も経っていない。そんな中遅刻したら僕は相当だらしないやつだと思われるだろう。

それは何としても避けなくてはいけない。


『だらしないと思われる』という事は『僕のこう思われたくないランキング』第2位にくい込むほど嫌な事だ、なぜならだらしない人にまともな人はいないと個人的に強く思っているからだ。

ちなみに第1位は『不潔』だ。


中等部の時に所属していたテニス部を引退してから、体育の授業以外まともに運動していない僕からしたら完全なる嫌がらせとしか思えないほどこの街は坂道が多い、それに加えて走っている今この現状、寝起きで最悪のコンディションという事もありバス停に着くまでに僕の体力は底をを尽きようとしていた。



「ハァッ…ハァ…」


「…君咲くん」


「ハァ…ハァ…へ?」


気のせいか?今一瞬銀楼さんの声が聞こえてきた

オイオイ、ついに幻聴まで聞こえるようになったのか?そんなのもう末期じゃないか…


「君咲くん!」


「ってうぉぉぉ」


幻聴なんかじゃなかった、気づけば僕の目の前に美しさの権化である銀楼さんが立っている。


「おはよう」


「おっ…おは、よう」


なんで、銀楼さんがここに?

確か昨日聞いた銀楼さんの家は学校の近くにあって家とは反対方向のはずなのに…


「バス、あと5分後だってそんな走らなくても間に合うよ」


「そ、そうなんだ…」


「…あ、もしかして昨日遅くまでメールしてたから寝坊しちゃった?」


銀楼さんは眉をへの字に曲げ、申し訳なさそうな顔でこちらを見てくる。

まぁ確かにそれも理由の一つかもしれないがそのあと寝れなかったのが寝坊した1番大きな理由だし、銀楼さんに罪悪感を抱かせる訳には行かないし…

よし、ここはうまい具合に誤魔化そう。



「あ!いや違うよ!朝ダラダラしてたら遅れちゃってさ」


「そうなの?なら良かった…」


「うん、所で銀楼さんはどうしてここに?」


「どうしてって、君咲くんここに住んでるって言っていたから」


「え」



…銀楼さんは当たり前かのように言ってきてるが、友達に最寄り駅を教えてもらったからってその次の日にいきなり迎えにくる人なんて居ないと思う。少なくとも僕の15年の人生の中ではそんな人はいなかった。

それにわざわざ時間の限られている朝に逆回りして迎えに行くなんて尚更だ。

…凄く申し訳ない気持ちで胸がいっぱいになる。


「…ごめんね銀楼さんわざわざこんな所まで…」


「?どうして君咲くんが謝るの?」


「え…だって」


「…?私は君咲くんとお話したかったからここまで来ただけだから」





不意に弓矢が僕の心臓を貫く。


おっ、お話したかった…だけ…


まっ…まじかぁぁぁぁ… 


かっ…可愛すぎるだろぉぉぉ


朝食にカレーライスを出されてる気分だ…朝からこんな……っカロリーオーバーだ…ぐ


銀楼さんのあまりの美しさにひとり顔を手で覆い隠し悶絶してる様子を見てキョトンとしている銀楼さんがまた可愛くて…。普段女性についてあまり可愛いとか美しいとかそういった類の感情を抱かない僕でさえ悶絶してしまう。


凄い人だな…銀楼さん…






ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




僕と銀楼さんはバスに乗り一番後ろの席で二人並んで座った。


銀楼さんと隣合わせで座っているという事実に僕は激しく萎縮しとてつもない緊張に襲われていた。

隣に座っているのが銀楼さんというのも緊張する原因ではあるが、僕は幼馴染と4人の姉妹以外の女性と話したことがあまりない。

つまり僕は圧倒的に女性免疫が足りてないのだ。



と、だいたい予想はついてたのにいざ隣に座るとなると…緊張からか汗が止まんない…

汗も汗で、綺麗な滴る様な汗だったらまだ良いものの僕が流しているのはギットギトの汚い汗。最悪だ。

ここまで自分の汗腺を恨んだことは無い。



しかもバスに乗ってから沈黙が流れている。

めちゃくちゃ仲のいい家族や友人からまだしも知り合ってから数日しか経っていない人とのこの空気は少々、いや大分気まずい。


僕が話を切り出すか?いやでもなんて言えばいいんだ?

睡眠時間が少なすぎたからか全く頭回らないし変なこと聞いちゃいそうだし、どうしようーーー


「…君咲くん」


と僕が心の中で葛藤していると銀楼さんが口を開いた。

内心救われた気持ちになったがそれは内緒だ。


「ん、何?」


「やっぱり大丈夫なんだね」


「え?」


「君咲くんと隣合わせに座って、肩が触れ合う位置にいてもなんにも起きない」


「…そう言えば」



朝からトラウマの効力を受けない銀楼さんとしかいなかったからすっかり忘れていたけど、僕は女性を見ると激しい動悸に襲われる。


それは銀楼さんも同じことだ。



「…君咲くん」


「うん」


「君が居てくれて救われた…ありがとう」


「…僕も、銀楼さんがいてくれて良かった」


「フフ、この会話…何回目だろうね」


「あ、確かに」



フフと笑みをこぼす銀楼さんはこの世の誰よりも美しいと思った。


『次は大桜高校前〜大桜高校前〜』


「あ、次だ。」


「…意外と早いね」



楽しい時間はすぐに終わってしまうもので次の駅が学校の最寄り駅だ。



「もっと話したー」



ポチ!


「うお!」


凄い勢いで銀楼さんが『次おります』のボタンを押した。

銀楼さんが座っていたのは窓側じゃなくて廊下側だった為僕の方に身を乗り出してボタンを押していた、そのため僕の体の銀楼さんの体が至近距離で触れ合う。



「ど、どうしたの?」


「フフフ私…このボタン押すの好き」


「あー、なるほど…」





…この朝だけで昨日の深夜まで続いたLINEの何倍かは銀楼さんについて知れた気がした。










ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


キンコンカンコーンキンコンカンコーン





昼休みを告げるチャイム音、授業という鎖に繋がれていた僕達にとってそれはその鎖を断ち切る為のファンファーレだ。


「飯だ飯ー!」


「ふあーねみー」


皆は思い思いに声を上げる。

こんなふうに自由に声が上げられるのも鎖が解き放たれている昼休みに許された特権だ。


みんな仲のいいグループに固まり、弁当箱やコンビニのおにぎりなどを取り出す。

僕も昼ごはん…と行きたいけど、昨日少々とある心残りがあったんだ。


「優蘭〜メシ食おうぜ!」


「ごめんちょっと用事が!」


「おぉ!そうかじゃあ先食ってるぜ」


「ごめんね!」


悠二君からのありがたいお誘いを断り僕は教室を後にした。


長い階段を降り、校庭へ向かう。


「はぁ、はぁ、階段……なが……すぎるだろ……」


人間はどんな事象や境遇にも慣れると言うが、悲しいことに僕がこの心臓破りの巨大階段に適応する未来は全く見えない。


1階に付くとすぐ下駄箱がある。


新品の上履きを脱ぎ、元は白一色だったスニーカーに履き替え校庭に出た。


校庭は一般的な高校の大きさで、芝のサッカーコートがありその周りには陸上部が使うであろうトラックに囲まれている。

うちの高校はサッカーが強いらしく、昼休みにも関わらず練習に精を出していた。




僕が昼休み運動部でもないのに校庭に向かう理由はサッカー部の練習を眺めるというものではなく


この校舎に沿って植えられている花たちだ。


今僕の眼前には、小さな植木鉢が数十個ほど並んでいてその一つ一つにそれぞれ花が植えられている……と言った光景がひろがっている。

植木鉢にはそれぞれジャノメエリカ 、ヒューケラ 、葉牡丹、スイートアッサム 、パンジー・ビオラ 、プリムラ・ジュリアン などの様々な花が植えられていた。


「お花界隈」で言うところの王道メンバー達が飾られてはいるものの、肝心の手入れは全くと言っていいほどされておらず雑草が生え放題。


そして満足に水も与えられていないのか花も萎れていた。




「こんな綺麗な花たちが放置されてるのは可哀想だ…僕か手入れしてあげる」


数日前にこの寂しい花壇を見つけた時にそう思いたったのが全ての始まり。その日から僕の昼休みの日課はこの場所に来てお花や花壇の手入れをするというものに決まったのだ。


僕は生まれてから花に囲まれて育った。


君咲家に引き取られる前…まだ両親が生きていた頃は花屋を営んでいた。

両親が他界したのはもう10年も前の話だから両親との思い出は実際ほとんど覚えてない、だけど花屋の息子として産まれたからか、幼少期を花に囲まれて過ごしてきたからか、自分の心の根底にはいつも花がある。


その為花に対しては人一倍気をつかって生きているつもりだ。


思い返せば君咲家の両親や妹達…姉…にも誕生日には花を送っていたものだ…

僕が居なくなっても、まだ手入れしてくれてるだろうか。



昼休みは40分、その限られた時間で何処までやれるかが勝負だ。よし!やるぞー!!










ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


キンコンカンコーンキンコンカンコーン


「あっ…まじか…」


無情にも鳴り響く昼休みの終了を告げるチャイムの音。それは花壇の手入れの終了を表していた。


「んー、半分も終わんなかったなー」


悔しいが、授業に遅れる訳にはいかないし終わんなかったところはまた明日やればいい。

長時間曲げていてため軋んでいる腰を叩き、なんとか立ち上がる。


「あー、あの階段……またのぼらないといけないのかーーーってええ!?」


後ろ向くとそこには銀楼さんが立っていた。


「な…なんでここに?」


「教室から…君咲くんが…花壇の手入れしてるの…見えたから」


「見えた…から…?」


「うん」


「あ…それに…」


銀楼さんは僕の弁当箱を持っていた。


「これ、忘れてたから届けようと思って…でも君咲くん集中してたから…」


さ…最悪だ…

僕は集中すると人一倍周りが見えなくなる。

銀楼さんは多分ずっとここに立っててくれた…


「ごめん!!本当にごめん!!全然気づかなかった!!」


「?気にしないで、私が勝手にした事だから」


「っ…でも…」


「…美しいと思った」


「へ?」


「こんな誰も手入れしていない花壇を綺麗にしても…誰も褒めてくれる訳でもない…なのにずっと黙々と誰も見てなくても、誰にも知られなくても」


「昼休みを投げ打ってまで…自分のするべきことをしていた自分の…したい事をした君を…私は美しいと思った」


「っ…」


「私、君のことを見るのが好きになったかも」


「へ?」


「じゃあ、授業始まるから…弁当一応ここにおいておくね」


「う…うん」



銀楼さんは小走りで校舎の中に消えていった…


僕はかけられた衝撃の言葉の数々が、頭の中を縦横無尽た駆け巡っていたためしばらくこの場に立ち尽くしていた。



………………






「あなたのことを見るのが好きって…どういう事だぁぁぁぁぁ」




誰もいなくなった校庭に僕の声が木霊した。


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