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僕と君は愛せない  作者: 朝澄 容姿
狂るいはじめる愛情たち
28/38

3月1日 見つからないものと見つかってはいけないもの

長らくお待たせしてしまって本当に申し訳ありません…。

そして本編再開開始に伴って過去の話も大幅に加筆してあるので良ければ是非第1話から読み直して貰えるとまた新たな優蘭達の一面が見えるかなと思います!

では本編始まります!


『次は小森町、小森町〜』


無機質なアナウンスが流れているバス車内。

バスの中はこのアナウンスが透き通って聞こえるほどの静寂に包まれている。


聞こえてくる音といえば反対車線を通る車の音や前の席に座っている人のイヤホンから漏れる音楽くらいなものだ。


まぁ朝のバス車内なんてこんなものだろう。


特に今日は月曜日、サラリーマン達は昨日までの休みとお別れし会社という地獄に等しい所へと駆り出されなければいけないのだから。


当然僕はまだ学生、会社へ行くサラリーマンの心情なんか完全にわかったりはしない。ただ、学生もサラリーマンも休みを終わらせたくないという思いだけは同じはずだ。


僕はバス内に居るサラリーマン達へ『頑張れ!』と強い念を送った。


「優蘭、今日朝早かったんだね」


「!」


僕がサラリーマン達に強く念を送っていると横の席に座っている銀楼さんから声をかけられた。


僕の横にいるのは手を膝に置き、行儀良く座っている儚げな美しさを纏う少女。


恋人同士の関係になってもう数ヶ月経つとは言え未だにその美貌には慣れることはなく、目が合うだけで心臓がキュッと掴まれたかのような感覚に陥る。



「あぁ…うん、真奈が家に来ててさ…やっぱり時間通りに行動する兄の姿を見せー」


「え!真奈ちゃんが来てるの?」


「えっ!」


僕の言葉を遮り銀楼さんは目を輝かせながら興奮気味に僕の顔に近づいてきた。


どうやら銀楼さんと真奈は、この前少しあっただけなのにも関わらずもうLINEでよく話す仲だという。

女子同士の友情…と言うやつなのか?



「…優蘭…」



銀楼さんはその破壊力抜群の上目遣いで僕を射抜く。


銀楼さんは自分の美貌を自分で理解しているのか、どうしても通したい要求がある時最終手段として自分の美貌で僕の決心を揺らがせようとしてくる。


…今回通したいと思ってる要求はひとつしかないな。



「今日の夕ご飯…3人で食べようか」


「!!…ありがとう!」


自分の要求がアイコンタクトだけで伝わったことが嬉しかったのかいつもよりも大きな声を出して喜びを表現する。…かわいい…


ただ銀楼さんがこの上目遣いで僕にお願いをする時は決まって最後の手段。

つまり『 僕が折れそうにないけどどうしても銀楼さんの通したい要求があるとき』にいつも使われる。


…なんでいきなり上目遣いをしてきたんだろう。僕が真奈と家族水入らずの時間を過ごしたいと考えてる…と思ったのかな。


「優蘭、ドキドキしてる…?」


「え?」


「嬉しい」


「……え?」





その上目遣いの理由が今解明された……



ただ、したかったからだ。




『 次は〜大桜高校前〜大桜高校前〜』



僕の全思考が銀楼さんに支配されている中、バスは僕達の降車駅に辿り着いていた。




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



キンコンカンコーンキンコンカンコーン



4時間目の授業を終えるチャイムが校内に響き渡る。


このチャイムは僕たちにとって長い長い午前中の授業の終焉、そして昼休みという休息の時間を告げるファンファーレでもある。噂によればこのチャイムを聞いた者の体力、攻撃、素早さ、その全てのステータスが上昇されるらしい。


僕自身、その説は身をもって立証済みで自分自身の体力等のステータスが上がってると何度も実感させられた。

現にさっきまで睡魔に襲われていてHPの残りがあとわずかという状態だった僕だが、このチャイムを聞いた瞬間HPが全回復し逆に睡魔を討伐してしまうという状況に陥った。

つまりこの説は正しいのだ。



「優蘭、ご飯食べよう」



男子高校生特有のなんの生産性の無い意味不明な思考を頭の中で巡らせている僕を見兼ねてか、可愛らしい弁当箱を携えた銀楼さんが声をかけてくる。



「あっ、うん、行こうか」



僕はバックの中から急いで弁当箱を取り出して銀楼さんの元へと急ぐ。



その時にふと、僕の斜め後ろの空席が視界に入った。




今日も来なかったね…悠二くん……




僕の恩人であり、友人である大崎悠二君。彼はここ1ヶ月全く、学校に来ていない。


先生が言うにはあと2回特定の授業を欠席したら単位が取れず留年が確定してしまうらしい。


僕は何がなんでも悠二君の留年を防がなければいけない。

それは悠二君の友人として僕が果たすべき義務であるとさえ思ってる。

 


ただ悠二君に何度メールを送っても電話をしても全く返事はかえってこずなんの音沙汰もない。

それに僕は悠二君の家も知らない。


友人の危機に瀕していてなお何も出来ない無力な存在であると自分自身に呆れ、そして同時に自分の唯一と言ってもいい友人である悠二君のことを僕は何も知らないんだと全方位から体を支配する虚無感に襲われる。





『 僕は何も…悠二のことを知らない…』





ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



「銀楼さん…これって…」



「ん?ただのパスタだよ?」



図書室。

本来昼休みは立ち入り禁止なのだが図書委員である銀楼さんの特権を発動させ毎日静かで長閑な時間を過ごせるここ、図書室でで昼食をとっている。


…なんてことはどうでも良くて。


僕は今、銀楼さんの弁当箱に入れられた見てるだけで舌がピリつくような、その全体をくれないに染められた『謎麺』に全注意を向けている


この『謎麺』の正体を銀楼さんはパスタと言っていたがそれはパスタに対する最大級の侮蔑なのではないかとすら思ってしまう。


僕の目の前に異常なまでの存在感を放ってるこの麺をパスタと言うには、なんと言うか…あまりにも禍々しすぎるのだ。


銀楼さんは屈指の辛いもの好きで、一緒に作って食べるカレーの辛さはいつも『限界突破MAXめっちゃからいやつ』で僕はまともに食べれたものじゃなかった。

しかし最近やっとそこまで辛くないカレーの良さに気付いてくれたようで、1ヶ月程前のあの人を殺すことさえも可能であると思わせる程のカレーを食べることはなくなった。


僕はその銀楼さんの変化に遂に激辛依存性が克服されたかとひとりピースサインを掲げていたのだがそれは僕の思い込みに過ぎなかったようだ。


銀楼さんが辛さ以外の美味しさを追求し出したのはあくまでカレーだけで、その他の料理は絶賛辛さを追求中ということか。


こりゃまいったぁ〜〜



「優蘭…もしかしてこのパスタ食べたいの…?」


「え?」


この展開…なんだか前もやったような……


「本当はあげたくないんだけど…そんな目で見られたら…特別サービスだよ?」


「…え?」


何を言っているんだ銀楼さんは。


ぼ…僕がこのパスタを凝視していたのは食欲がそそられていたという訳ではなく、生命の維持に関わるような劇物が自分の隣にあったから全神経を注いで自分の安全を守っていたに過ぎない。


しかし、そんな僕の思いなど伝わるわけもなく、銀楼さんは上機嫌で口笛を口ずさみ、肩を揺らしながら丁寧にフォークでパスタを絡め取っていく。そしてその目は確かに期待に染っていた。


絶対あげたくないって嘘だろ、あげる気満々だよね?食べさせる気満々だよね?



「はい…あーん…」



僕の眼前に突き出されたのは凡そ人間の生み出したものではないような禍々しいオーラの放っている謎麺。


正直逃げたい…これを食べたらタダじゃ済まないと本能が既に結論を出している。


だけど、フォークを僕に差し出している銀楼さんは僕がこの謎麺を食べることに胸を躍らせている。


大好きな…大好きな銀楼さんの期待を…裏切る訳にはいかない!


逃げちゃダメだ…逃げちゃダメだ…逃げちゃダメだ…!!



「いた…だきます」



僕は意を決して謎麺を口に放り込む。











その瞬間僕は気を失い。

目覚めたのは午後の授業3分前。



その後、僕と銀楼さんは当面昼休みの図書室利用を禁止された…と言えばどのような惨劇が起きたのか予想してもらえるだろうーーーーーーー







ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「…優蘭?大丈夫?」


「うん、もう大丈夫だよ」


「良かった…ほんとにごめんなさい…」


「気にしないでよ、もうなんともないからさ」


「うん……」


気付けば午後授業は終わりを告げ、放課後の時間へと突入していた。


午前中の授業のときは時計にパルプンテでもかけられているんじゃないかと錯覚するくらい時の流れがが止まっているが、逆に午後の授業は時計にピオリムがかけられているんじゃないかと言うくらい時の進みが早い。気付いたらもう放課後だ。


さっきの会話からもわかるように昼休みの惨劇を引き起こした銀楼さんは酷く落ち込んでいるが正直食べた僕の責任もかなり大きいものがあると思うから、銀楼さんは気に病まないで欲しいというのが本音だ。




だけど…こういった事で落ち込み、元気を失う優しい性格を持っている銀楼さんだからこそ僕は銀楼さんのこと愛しているんだとも思う。



「あ…今日…委員会の集まりがあるから…優蘭は先帰ってて」


「え?委員会の集まり?僕待ってるよ?」


「真奈ちゃんがいるんでしょ…?1人で寂しがってるんじゃない?」


「あー…」


唐突に告げられた委員会の集会。

この学校の委員会活動はその委員会ごとに大きな差があり、周回を定期的に開く委員会と開かない委員会で大きく別れている。


銀楼さんの所属している図書室委員会は前者の委員会で、月に3〜4回は集会を開いている。


しかしその集会は長くても1時間程度で終わるので、その間いつもなら教室で暇を潰しているのだが…



今日は家に真奈が居る。




アポ無しで急にやってきたとは言え流石に半日以上一人で過ごさせるのは酷な話だろう…



「…その言葉に甘えるよ、先に家で待ってる」


「…うん…」


「これスペアキー、終わったらみんなでご飯食べよう」


「うん、じゃあ委員会いくね…」


手を小振りに振り、銀楼さんは教室から立ち去った。


さて…僕は家に帰るか。


筆箱と必要最低限の学習道具をバックに詰めて教室を出る。

長い階段を下り、1年の下駄箱があるブースに向かう。

学校の正門を出る手左に曲がるとすぐに『大桜高校前』のバス体があるのでそこで10分ほど待っているとバスがやってくる。


そこから10数分ほどバスに身を任せ、家の最寄り駅に着いたらそこから徒歩20分ほどで自宅のアパートに着く。


最寄りのバス停から自宅までの道に広がる住宅街は人気もあまり多くなく閑静な出で立ちではあるものの

、所々に開花のときを今か今かと待ちわびている桜の木が植えられており、春になると町一面が桜模様に変わるらしい。


僕はそんな美しいであろう景色を銀楼さんと…悠二君…そして真奈と…。

みんなと一緒に美味しいご飯を囲みながらこの街の桜を堪能したいなと心の底から思っている。

心を許せる恋人と、友人と、家族と…美しい時を共有したいと願うのは人としての自然の摂理なのではないかと僕は思う。




みんなで…桜…見たいな…





ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



ガチャッ



「ただいまー…」


自宅の扉を開けて、ここ数ヶ月発したことのなかった言葉を発する。


独り暮らしにも存外慣れてきてはいるが、自分の帰宅を喜んでくれる人がいるというのはやはり精神的にも楽になるし心が暖かくなる。


「って…寝てるのかな?」


おかえりーー

と、僕の帰宅をよろこぶ真奈の返事を期待していたのがどこからも真奈の声は聞こえない。


……


返事を貰えなかったことに少し落胆したものの、真奈は恐らく夜中に実家を飛び出してきたため充分な睡眠が取れてないのだろう。


と言うか、妹から「ただいま」を言って貰えなかっただけで落胆する兄とかシスコンを極めすぎているのではないかと少し焦るが、正直自分のことを割とシスコンだと理解しているからそのダメージはそこまで高くない。



恐らくリビングでソファに座りながらテレビかなんかを見ているときにそのまま寝落ちしてしまったんだろうなと推測を立て忍び足でリビングに向かう。


ガチャァ…


少し音を押えリビングの扉を開ける。



なんで忍び足をしていたり音を立てずに扉を開けたのかと聞かれたら特に理由は無いが、僕は何故か昔から人が寝ていると静かに行動するようになるという特性を持っている。


自分の深層心理の中で、人を起こさないように配慮しようとしているのかそれとも特に理由は無いのか、僕がこういう行動に出る理由というのは現在も解明されていない。


ゆっくり音を立てずに扉を開けていたから、少々時間を取ったが遂にリビングの扉が全部開く。









え?







「お兄ちゃん……これ……なに?」





リビングへの扉を開くと、そこには呆然と『何かの箱』を持って立ちつくしている真奈が居た。


その顔は絶望に打ちひしがれており何か、ただ事じゃない事案が真奈の中で起こっているんだと瞬時に理解する。 

家のどこからも返事が聞こえなかったのは真奈が寝てたからではなく、真奈が返事の出来る状況になかったから……だったのだ。



「何があったの!?真奈?」


僕はリビングのタンスの前で立ち尽くしている真奈に駆け寄る。普段真奈のこんな表情を見ることはあまりない、何か、何か真奈の中で重大な何かが起こったはずだ。

真奈が僕の家にやってきたのは両親…そして姉との確執が原因だ。まさかその確執に拍車をかけるような出来事が、僕のいない間に起きてしまったということか…?



「真奈ーーー」



「お兄ちゃん、これなに?」



自分に近付いて来た僕を静止するように、真奈は持っていた箱のようなものを僕の目の前に突きつける。



「これなにってーーーーえ?」



理解が追いついた。


真奈が僕に突き出してきた箱の正体。


…箱には大きく0.01と書かれていた。




「これっ……って」


僕が箱の正体に気付くとすぐに真奈はその箱を地面に落とし激しく踏み付ける。



何度も何度も踏みつけられた箱はぐっちゃぐちゃに変形し中身のゴムが宿を失った人々のように外へと放りだされる。




「お兄ちゃん…したんだね?」




「…え?」




「……してたんだね…」





したんだね…

…と噛み終わったガムを道端に吐き出すように言葉を吐き捨てた真奈は、10年間と言う長い時間一緒に過ごしてきた僕が見たことがないほどの憎悪と…失望と…諦観と、そしてありとあらゆる負の感情が込められたような、形容しがたい悪夢のような顔で僕を…見つめてきた。










「お姉ちゃんにされたことを、銀楼さんと」


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