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僕と君は愛せない  作者: 朝澄 容姿
君咲優蘭と銀楼鈴音
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11月5日 プロローグ

『あいつ姉とヤったらしいよ』


『しかもその動画を自分で拡散してたんだって』


教室の真ん中で生徒達が話している。


『まじきもいよな』


大っぴらに、隠す気もなく、僕の話題を。


『近寄らないようにしようぜ』


『正直幻滅』


『こんな奴だったなんてね』





四方八方から聞こえてくる罵声。


人間の耳というのは悪意のある構造をしていて、声の大小に関わらず何故か自分の悪口だけがどんな言葉よりも鮮明に耳に入ってくる。


某少年探偵が言っていたが言葉というのは凶器だ。その一つ一つが鋭利なナイフとなって不躾に僕の心を切りつける。



いたい、


いたい



いたい、痛い。




ナイフは



僕の心臓を



刺してくる。





『やっっ...やめて...僕は悪くな...』







僕は…なんも悪くないはずなのにどうして僕が...





僕が……!僕が……!僕が……!僕が……!



でも……みおり……、美織だけは……。僕を……。


幼い頃から一緒にいる赤髪の彼女を思い浮かべる。


『蕾沢美織』



彼女なら、美織なら、僕のことわかってくれるーーーー

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー





『優蘭...あなた最低ね』







生きてる価値ないんじゃない?






彼女の口からその言葉が発せられた瞬間に教室から人が消え、たちまち足元は瓦解し辺りは空虚に包まれた。


何も見えない、何も聞こえない、なんの感触もしない、平衡感覚すら失われている。


そんな闇の中に白い影が生まれ『君咲真彩』の形を形成していく。





彼女の影は僕の体に絡みつき、こう囁いた




『あなたはわたしのものよ』





ーーーーーーーーーーあ



テンテレテンテンテンテンテン






あぁ...夢か...




煩く鳴るスマホのアラームか乱暴に朝が来たと伝えてくる、僕は寝ぼけた目を擦りながら机に置いてあるスマホを引き寄せアラームを止める。


7時を指していた、どうやら転校初日に遅刻という大惨事は免れたらしい。

時計が機能してくれて助かった。


カーテンを開け外の光を感じる。



「うわっ」



換気しようと窓を開けると、冷たい風が流れ込んできたため慌てて閉じる。

今は11月、本格的に寒さが身を凍えさせてくる季節だ、窓の外にある木は殆ど葉が抜け落ちていた。



だが空は雲ひとつない快晴。少し気分が高揚する。


寝室を出て台所に向かう、朝飯はパンとハムエッグでいいかな、そんなことを考え僕は朝を過ごしていた。







独 り の 朝 を。







僕が夢で見た出来事、あれは1ヶ月前の僕に実際に起こった出来事。

姉に監禁され僕の全てを文字どうり奪われたあの忌々しき日。




だけどホントの地獄はそのに後訪れた。


姉が僕のLINEに登録してある友達全員に僕の顔と体だけが写った事の最中の動画と


『姉とヤッてます』


というあたかも僕が言ったかなような言葉が添付されたメッセージを送ったのだ。



そうして瞬く間に姉との行為を撮影した動画を自分から拡散していく『ド変態近親相姦ハメ撮り野郎』というレッテル張りをされた。



友達だと思っていた人からは疎まれ、クラスの女子からは汚物を見るかのような目で見られ続けた。


家に帰れば何も反省していない姉に傀儡として扱われ姉の性欲を発散させられるという日々。


僕自身が養子ということもあり父さんと母さんも姉の味方、どこへ行っても居場所がない状態となった。


そんな生活を続けていくうち遂に僕の精神は壊れた。

言葉を発することもまともに出来なくなっていたんだ。


流石に危機感を感じたのか、今月になってようやくお父さんが姉や友達のいたあの町から離れた所にある高校に転校させる手続きを取ってくれ僕は今その高校がある街、『大桜区』で一人暮らしをさせてもらっている。


''それ''の本質がただの厄介払いだとしても、これから生きていけるだけの生活環境と学ぶための学校を提供してくれた父さんと母さんには感謝しかない。



「ありがとう……ございます」





そんなことを考えているうちにパンは焼き上がり、ハムエッグはいい感じに焼け上がった。


少々形の歪となったハムエッグを器に移し、それをテーブルまで運ぶ。


やっぱり母さんみたいに上手くは行かないかー...


と、自分の料理の出来に少々ガッカリしながら朝食をとった。






朝食を食べ終えた僕はハンガーにかけておいたパリパリのビニール袋に入れられた真新しい制服に袖を通し、『ブレーザー着るの初めてだな』とか思いつつ住まいであるアパートを出た。





外はやっぱり寒いな...正直寒さには弱いほうだ。



……だけど。


もう他の人の罵声や悪意ある視線に怯えなくて済むのならと思うと、『寒さ』と言うものは僕にとって些細な問題に過ぎないんだなと痛感した。










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