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僕と君は愛せない  作者: 朝澄 容姿
君咲優蘭と銀楼鈴音
19/38

1月26日 僕の想いと君の覚悟

「僕は銀楼さんの姿を僕にトラウマを与えた張本人である姉さんと…重ねていたんだーーー」




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー






あの口論(のようなもの)の後気まずい雰囲気の中カレーを食べ終えリビングのソファに二人並んで座った。


「…優蘭…」


私は優蘭の本心が知りたかった、優蘭がなにか私に言えないことを隠してるのは最早明白で私はその中身をただ切実に知りたかった。


沈黙が流れるリビング、なかなか言い出せない優蘭の手を私は握る。


自分の内に溜め込んでいたものを吐き出すのは容易じゃない。

私のこの短い人生の中で何度も同じ経験をした、辛さは痛いほどわかる、だから待つ、優蘭が口を開き言葉を紡ぐまで私はずっと優蘭の隣で待っている。


私は優蘭を愛してる、いや愛してると言う稚拙な言葉じゃ表せない程、優蘭の事を想っている。

だから、優蘭がどんな残酷な真実を私に告げたとしても私は…



「…ぎん…ろう…さん」


「…う、うん」


「多分、僕は今から銀楼さん傷つける」


「わかってる、それは…覚悟してる」


「…言わないっていうのは…逃げだよね」


「うん、私は言って欲しい…言わないで曖昧に誤魔化したとても今後私達の関係に大きな溝が入ると思う」


「だから言って欲しい」



優蘭は依然顔を伏せたままだ。


今優蘭の思考の中にどんな思いが駆け巡ってるのかは分からない…けどこれだけは断言出来る、私は優蘭の全てを肯定する。



だからーー


「銀楼さん!」


「は、はい!」


い、いきなり来た…

さっきまで俯いていた優蘭は今度は真っ直ぐ私の目を見ている、決意を固めたみたいだ。


「…銀楼さん…僕は…」


「うん」


私も優蘭の目を見る、この視線は逸らしてはいけない、逸らしたら大切なものが無くなってしまいそうだから。




「僕は…!」


「…」


「銀楼さんと僕にトラウマを植え付けた張本人である姉さんの姿を重ねていたんだ」


「…え?」


優蘭から告げられた真実、私は優蘭の姉と姿を重ねられていた…?



「…どういうこと?」


私の頭では理解できず思わず声が漏れる、私の姉の姿を重ねていたからどうしたんだ、それが優蘭をここまで追い詰めた『隠し事』なのか?それにしてはあまりにも…



「違うんだ…僕はただ姉さんの姿を重ねてたんじゃない」



優蘭は言葉を選んでいるようだった、適切な言葉を選んで丁寧に言葉を紡ごうとしている

ただそれでは優蘭の思いの本質がわからない


「……優蘭それじゃわかんないよ」


「…っ…僕は」


「大丈夫、私はあなたの全てを肯定する」


「……銀楼さん…」


握っていた手をさらに強く握る。

『私はあなたと共にある』

その意思表示だ。

優蘭は決意を固めたかのか顔を上げ、口を開く。



「…銀楼さんに言ってなかったよね」


「うん」


「僕がトラウマを与えられた時のことを」


「…!」


確かに思い返してみれば、私のトラウマの理由は話したことはあっても優蘭ののトラウマの理由を聞いたことは無かった。


「僕はね…実の姉に…その…犯されたんだ」


「お、犯された?」


犯されたって…まさか



「数日間、日の光の当たらない部屋に監禁されてその間ずっと姉さんに…性処理道具として扱われてた」


「…そんなことが…」


優蘭のトラウマ、それは私の想像していた何倍も凄惨なものだった。


確か優蘭は血の繋がらない姉と妹が居ると言っていたけど、まさか…そんなことをされていたなんて…


「怖かった…昨日まで楽しく過ごしていた毎日が一瞬にして壊れた」


「うん」


「血は繋がらないにてしても実の姉に性の対象として見られていたこととか、何日間も監禁されていた事とか…悪夢のようなことが僕にのしかかってきた」


「それに…その後姉は僕と行為をしている時の動画を僕の通っていた学校の友達に拡散した」



「っ…!」


「当たり前の話だけど、皆からは異常者として見られて、どんどん疎外されて行ってさ」


「……そしてその時仲の良かった幼馴染から…生きてる必要ないとまで言われたんだ…」


…言われのない噂で疎外させる苦しみを私は知っている…だからより優蘭の苦しみが理解出来る。

優蘭は私の何倍も…辛い思いをしてたんだ。



「こんな話銀楼さんに言うのもおかしな話だけど、僕はその幼馴染に…信頼…いや恋心に近いかもしれない感情を持ってたんだ」


「…うん」


「なのに、『生きてる価値が無い』ってはっきり言われた…それが僕が女性恐怖症になった一番の原因だと思う」


「それで僕は辛くなって逃げて…この街に来た」


「そしたらそこに銀楼さんが居た」


「…うん」


「僕と同じ傷を抱えていて、僕は君だけ見ることが出来て…当たり前だけど好きになって…」


「色がなかった僕の世界がどんどん鮮やかになって行くのが確信できて…」


「僕は…銀楼さんのことが大好きなんだ」


優蘭からのストレートな思い、私から優蘭に想いを伝えるとこはあっても優蘭から私に思いを伝えてくれるのはあまりない、いやほとんど無い、だから純粋に嬉しかった。


「大好き…大好きなんだ」


「私もだよ…」


「だけど」



「銀楼さんは姉に近づいてきてる」


「え?」


優蘭から出た言葉、私は優蘭にトラウマを与えた憎むべき相手である優蘭の姉に近づいてきてる?にわかに信じ難い言葉だった


「…優蘭はどうしてそう思ったの?」


「昨日のキス…」


「キスが…どうしたの?」


「僕は銀楼さんを制止した…なのに銀楼さんは止まらなかった」


「っ…」


「その時…思ったんだ…姉も同じようなことしてきたなって…」


「…」


「銀楼さんの愛が…一瞬、姉の狂気じみた愛情と重なってしまったんだ」




思い返してみれば、私は優蘭の合意無しに…自分の欲望の思うまま優蘭と自分の唇を重ねていた。


記憶がフラッシュバックする



昨日の昼休み、屋上の記憶だ。


『優蘭とキスしたい』

『ねぇ優蘭もっとしたいな』



全部私が言った台詞…







…全部…全部私のせいじゃないかーー







「………」



「全部、私のせいだ」



「銀楼さん…」


「優蘭は何も悪くない、私は…自分の欲しか考えていなかった優蘭とキスをしたい、その想いに焦がれて優蘭の気持ち全く考えていなかった」


「なんで…優蘭がこんな苦しまないといけなかったの?全部私のせいだったじゃん」



恐らく昨日のキスの後から優蘭は思い悩んでいたのだろう、『自分の姉と銀楼さんを重ねてしまった』って…だからLINEも返信しなかったし今日もその事を私に悟らせないように振る舞ってた…


なのに私は優蘭の事を何も考えないで『作り笑いやめて欲しい』とか『LINE返信来ない』とかしか考えていなかった


私は馬鹿だ…私がこの世で1番忌み嫌う『自分の欲を満たすことしか考えていない人間』に自分がなっていたことにどうして気づかなかったんだ…


「ごめんなさい優蘭…」


「優蘭のことが好きで周りが見えてなかった…優蘭が嫌な思いしてる事に…気づかなくて舞い上がって…私は…馬鹿だ。」


「…銀楼さん…」


私は思わず強く握っていた優蘭の手を離す。

私は優蘭の手を握る権利なんて最初から無かったんだ、私みたいな自分のことしか考えていない人間は父親の性処理道具としてしか生きる価値が無かったんだ、人並みに幸せを求めても愛する人を傷つけるだけだったんだ。


「優蘭…ごめん…私は…」


「わかってる、あれは銀楼さんは僕のことを愛してる…愛してくれているからこその行動だって」


「…っ」


「だけどあの時の僕には心の余裕がなかったんだ、昨日までそんな素振りを見せなかった銀楼さんがいきなりキスをしてきて正直混乱してた…だからこんなことになってしまった」


「それに、さっきはああ言ったけど銀楼さんは姉さんと大きな違いがあるんだ」


「違い?」


「僕は姉に対して恋愛感情を抱いていなかったけど銀楼さんには抱いてる」


「…どういう…こと?」


「…つまり、好きな人にキスされたかされてないかってこと…」


「え…」


「僕は銀楼さんの事が大好きなんだ、だから…」


「優蘭…」



「こんなに心が痛いんだ!!」


「…っっ」


「大好きな人と、自分のトラウマの元凶の姿を重ねた自分が腹立たしいんだ!」


優蘭は切なる視線で私を射抜く。

きっと優蘭が私とトラウマの元凶である姉を重ねてしまいここまで思い詰めていたのは、私の事を愛していたから。

愛している存在と自分の憎むべき相手を重ねてしまったことに酷く後悔をし、自分を責めてるんだ。

優蘭は際限ない陽だまりのような優しさを持っている、どこまでもお人好しで、どこまでも美しい。


そんな心を持っているのが優蘭だ、だから私は優蘭を好きになったんだ。


「ごめんね銀楼さん…僕はこんな人間だ」


「ううん、私の思いは何一つ変わらない、優蘭が好き愛してる。」


「だけどまた僕は君と姉の姿を重ねてしまうかもしれない」


「いいよ、全然大丈夫」


私は優蘭のトラウマも全部含めて優蘭を愛してる。だから優蘭が私に愛想を尽かしてしまうその日まで私が優蘭を嫌うことなんてありえない。



「ぎん…ろうさん…」


「私は絶対に優蘭を嫌わない、優蘭がこんな私と居たいと思ってくれるのなら絶対に優蘭の手を離さないよ」


私は離してしまった優蘭の手を握る。


私は絶対に優蘭を自分からは離さない、「優蘭の隣にいる権利がない」と揺れていた心に強く言い聞かせた。優蘭が私のことを好きでいてくれる限り私は優蘭の隣にいるんだ。

私が考えていた権利とか資格とかそんなのどうでもいいんだ。優蘭が私このことを好きで居てくれる、それだけでずっと、ずっと、私は優蘭の隣にいる理由になる。




「私は優蘭のことを愛してる」



「…ありがとう…こんな僕を好きになってくれて」


「優蘭こそこんな私を好きになってくれてありがとう」


「…うん………」


優蘭の目には暖かい水溜まりが出来ていた。

その水溜りから溢れた水が優蘭の頬へ伝う。


「あれ?なんで僕…泣いて…」


「…そんなに思い詰めてたんだね」


「ごめんね、ごめんね」


「謝らなくていいよ、優蘭」



私は優蘭の頭に手を乗せる。

優蘭の綺麗な髪に沿って優しく優蘭の頭を撫で、自分の胸へと抱き寄せた。



「泣き止むまでこうしてるよ」


「グスッ…ごめ、んありがとう」



優蘭の涙で私の服は濡れたが嫌な気はしなかった、むしろ私の中は嬉しい気持ちに包まれていた。




私には貴方しか居ない。だから貴方のことを尊重する。ずっと貴方のことを考える。自分の欲はもう捨てる。キスもセックスもしなくていい。貴方がそこに居てくれればそれでいい。





ずっと好きだよ、優蘭。




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー








あれから何時間かたった。


僕が僕の心に秘めたものを全て無作法に吐き出し銀楼さんにぶつけ、その後いまだになんでかは分からないけど号泣して銀楼さんの胸の中でずっとないていた。



「…恥ずかしい…」


横を見る。

横には目を閉じ気持ちよさそうに寝ている銀楼さんが居る。

申し訳ないことに服の胸の部分は僕の涙でぐっしょぐしょになっている 。


「…本当に…申し訳ないことしたな」


だけどお陰様で僕が思いつめていたものは全て吐き出せた。

さっきとは比べられないくらい程僕の心は晴れ晴れとした感情に包まれていた。


寝ている銀楼さん頬を撫でる。

「ありがとう」


…頬にキスはまだ僕には早い…



ソファから立ち上がり自分のベッドから掛け布団を持って来て銀楼さん上に掛ける。


「…お詫びに何か買ってこようかな」


散々迷惑をかけたんだ、それくらいするのは男しての義務だろう。


そう思い立つと、財布を持ち近くのコンビニへと向かった。


辺りはすっかり夕暮れに包まれていた。


「…僕は何時間泣いていたんだ…」





ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「ありがとうございましたー」


コンビニ店員の活気に溢れた声を背中に受け僕はコンビニを後にした。


銀楼さんに買っていくのは最近話題の『激辛スイーツ』激辛スイーツって思えば最高に矛盾してるけど銀楼さんは常人じゃ理解出来ないほどの辛いもの好きだ、多分世界で1番辛いと言われているトリニダード・スコーピオン・ブッチ・テイラー(Wikipedia調べ)を丼1杯分出されても『おいしいー』っていいながら余裕な笑みを浮かべてると思う。


そう考えてみるとコンビニで売っている激辛スイーツなんてたかが知れているがこの前このスイーツの

CMが流れていた時目を輝やかせていたので食べたがっているのは確実だろう。


「銀楼さん喜んでくれるかなー」



僕は早歩きしながら家へと向かう。





トントン






不意に方をトントンと叩かれる

「はい?」


条件反射的に僕は後ろを振り向く、銀楼さんは気配を消すのが得意だから気付いたら背後にいて肩をポンポン叩かれる。

そのため肩を叩かれたら一瞬で振り向くという癖がついてしまったのだ。


後ろには女の人が立っていた。

しかし、やはり顔は黒に染められていて分からない。


だけど銀楼さんが昨日言っていた通り、顔を見ただけで動悸が激しくなるような事は起きなかった。


「ど、どうしました?」



「ポケットから財布落としましたよーって…え?」



「はい?」


「嘘…でしょ?」



女の人はぼくの顔に衝撃を受けているが、なんの事かさっぱりだ…

まさか…泣きすぎて目が腫れすぎてるとか?



…有り得る…



だけど次の瞬間、思いもしなかったある言葉が飛んで来た。

















「お兄……ちゃん?」













「……!?」



飛んでくるはずの無い言葉。



そしてその瞬間、目の前の彼女に張り巡らされていた黒いモヤが剥がれ落ちる。














そこには、見覚えのある人物がそこに立っていた。




それはここにいるはずの無い人物。




なんでーーー











「真奈……?」



「ッ……!お兄ちゃん!!」



僕が家に残してきた3人の妹、そのうちの一人







二女の真奈がそこに立っていたのだ。


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