1月26日 僕の嘘と君の願い
内容を大幅に変えました!
元々二通りのストーリーを考えていて、こっちじゃな方を17、18部として出したのですがよく考えてみると、こっちのストーリーの方が面白いぞという考えになり私の独断と偏見でストーリーを改変しました。
迷惑をおかけして、誠に申し訳ありませんでした。
では本編をお楽しみください。
なお前半部分は前回のものと変わりはありません。
「優蘭強いね、手加減してくれてもいいんだよ?」
「あ〜じゃあ次あんま使ったことないキャラ使うよ」
「いや、でも手加減されたら勝った時嬉しくないし…」
「何それ」
「やっぱ手加減しなくていいよ!次は勝つからね」
「了解、期待してるよ!」
銀楼さんは僕の家に来ている。
週に一度のお家デート、リビングにあるテレビの前に2人で座り今は対戦格闘ゲームに精を出している。
一見いつもと変わらないお家デート
ただ、今日は
いつものお家デート、とはいかない。
昨日から銀楼さんは異常とも言える愛をぶつけてきた、それは既視感のあるもので僕の姉が僕にしてきた行為と似た何かを感じた。
なので一日銀楼さんと距離を置いて思考を整理したかったのだが、そうもいかないのが悲しい現実。
僕は銀楼さんに曖昧な感情を抱きながらボロを出さないように努めなくてはいけない。
『フィニッシュ!』
「あ、負けた」
「やった!優蘭に勝った!」
「うー、」
と、考え事をしていたらゲームが終わっていた。
画面に映し出されたのは無情にも敗北の2文字。
銀楼さんはコントローラーを床に置き手と足をパタパタさせて喜んでいる。
「優蘭に勝ったの初めてかもしれない!」
「そうだっけ?」
「うん!そうだよ!」
銀楼さんはキャラに合わずはしゃいでいる余程僕に勝てたのがうれしかったのだろう。
てかこんな喜ぶ銀楼さん見たことない。
前だったら銀楼さんの見た事ない姿を見れたって内心盛り上がっていたんだろうけど今日はそんな余裕もない程心を張りつめてる。
「…」
「優蘭?」
「うわ!」
銀楼さんが僕の顔を覗き込む。
まつ毛とまつ毛が触れ合う距離、近すぎる。
「そんなに負けたの悔しかった?」
銀楼さんは悪戯っぽい笑みで僕の顔を見つめる
「ちがうよ、ちょっと考え事を…」
あ、やべ
「考え事って何?」
やっちまった
自ら墓穴を堀に行くというとてつもなく頭の悪い行動を取ってしまった。
さっきあんだけボロを出さないと意気込んでいたのにその決意は一瞬にして砕かれた。
何をやってるんだ僕は
拳を強く握る、自分の阿呆さに呆れかえる。
だけど今は後悔より弁解をしないと勘のいい銀楼さんに全て見透かされてしまう。
「あぁ…今日の昼ごはん何にしようかと思ってさ」
「…」
視線と視線がぶつかる。目を逸らせば一瞬で嘘だとバレる視線を外すことは自分の嘘を認めるのと同義だ。
「…」
「…僕の顔になんかついてる?」
「…いやついてないよ?」
「ならよかったよ、そんなに見てくるからー」
「ただ、優蘭今日おかしいなと思って」
「え?」
「心の片隅に置いてある感情だから言おうか迷ってたけど、いいや」
「うん」
ドクン ドクンドクンドクンドクンドクンドクン
心臓の鼓動が聞こえる。
今まで体験したことの無い速さと音に衝撃を受けつつ今自分に降り掛かっているピンチにも絶望している。
どうしようーー
銀楼さんの小さい口が開かれる
「ー」
「やっぱりあんなキスした次の日ってどんな顔して会えばいいか…わからないよね」
「え…あっ…うん」
銀楼さんが発したのはある種僕の予想だにしない言葉だった。
ふぅ、良かった…まだ本質は捉えられていない。
首の皮一枚繋がったぞ。
「…じゃあさもう1回しようよ」
「へ?」
「もう1回キスすれば気まずさも無くなると思うから」
銀楼さんは目を輝かせながら僕に訴えてくるその目はまるで餌を求める子犬のような純粋さを孕んでいて少し愛おしさを感じてしまうが…
生憎、今僕はこの欲求に応えられる程の余裕を今は持ち合わせていない。
なので答えは『NO』これに尽きる。
「ごめん銀楼さん今ちょっと体調悪くてさ…そういうことしたいって思えないんだ」
銀楼さんの琴線に触れないように言葉を選んで危険を回避する、それが僕に与えられた唯一の抵抗権だ。
「う…そうなの?でも優蘭が嫌なら仕方ないや」
「ごめんね…」
言葉ではそう言いつつも僕に要求を拒否された銀楼さんはわかりやすく落ち込んでいる。
銀楼さんは口数はあまり多くないが感情がよく顔に現れる今は口を尖らせて眉毛が下をむいてるので間違いなく落ち込んでいるだろう。
内心心苦しく思うけどお互いのためだ。
僕の心の中にある不安を銀楼さんが知ったらいまの比にならないほど落ち込むと思う、絶対に、それは避けなきゃいけないんだ。
「じゃあ僕ご飯作ってくるよ」
「え!体調悪いのに無理しないでよ私が作るから」
「いいよ気にしないで、これくらいなら出来るから」
「…キスは出来ないのに?」
銀楼さんは最後何か言っていたが小声で言っていたから何と言っていたのかよく聞こえなかった。
銀楼さんの料理は美味しいけど何故か食べたあといっつも気を失ってしまう、今日は全ての事において細心の注意をはらわないといけない、だから不安要素は少しでも消しておきたい。
「よし、頑張るぞ…」
僕は頭を掻きながらリビングの隣にあるキッチンへ向かった。
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『今日の優蘭君何かおかしい』
それが私が今日朝一番に気づいた事だった。
私がそう思うのも仕方の無いことだと思う、だって
優蘭の家の扉を開けて私をでむかえる時の顔がいつ
もと明らかに違うものだった。
いつもならその綺麗な顔立ちの美しい飾らない笑顔を見せてくれる、だけど今日のは飾らない笑顔ではなく、『造られた笑顔』だった。
『飾らない笑顔』と『造られた笑顔』その差はどうやって判断したの?と聞かれてもその問いに対する明確な答えは用意出来ないと思う、なぜならこれは単に私の捉え方によるものが大きいと思うから。
だけど、私はもう優蘭君の笑顔が『造られたもの』だということを確信している。
だから、さっきの調子悪いっていうのも多分嘘、なんでそんな嘘をついたのかは分からないけど…
そして、そもそもここに至るまでにいつもと違うイレギュラー的事象が起きている、それは
昨日の夜から朝まで連絡が取れなかった。
と言う事だ。
こんな事は今まで起きた事が無かった、優蘭は非常にマメな性格でLINEを送ったら基本どんな時でも1分も経たないうちに必ず返信を送ってくれる。
そんな優蘭がいきなりLINEを送ってくれなくなったのは私的には大事件だった。
今では優蘭が寝てて気づかなかったと言う真実がわかったけど、それが明らかになるまでは心の置き場所が分からなくなるほど混迷していた。
夜は不安と焦燥で眠れず、涙は止まらない、不安すぎるが故に外に出て家の周りを徘徊していた。
そんな精神状態だった。
だけど連絡が通じた瞬間は嬉しくて、半強制的にデートの約束を取り付けて目の下のクマと涙の跡はメイクで誤魔化して優蘭の家に来た。
少し優蘭には申し訳ない気持ちもあるけど大目に見て欲しい、私は早く優蘭に会いたかった。
そしてキスもしたかった。
「…優蘭」
さっきまで優蘭がいた位置は今は空席になっている。
隣の部屋にあるキッチンへ行ってしまったから私は今ひとりぼっちだ。
優蘭の家のキッチンはリビングとは繋がってなくて1回リビングの外に出てひだりの扉を開けてキッチンに入る必要がある。
だからお料理中に2人で会話するって言うことが出来ない。
「ゲーム、一人でやっても楽しくないや」
私はコントローラーを置き、ソファに深く腰掛けた。
「…あ、いい匂い、」
キッチンからカレーのいい匂いがする、私がカレーが大好きだということを知ってから優蘭君は毎回カレーを振舞ってくれる、そしてその味は毎回毎回進化を遂げ段々プロの味へと近づいている。
私の為に作ってくれている…と思うのは少々傲慢な気もするが、優蘭はきっと私の為に作ってくれているのだろう、そう思うと愛おしくて愛おしくてたまらない。
…優蘭がどんな隠し事をしていようと私は優蘭を愛してる、その事実だけは絶対に揺るがない。
だから優蘭…何も隠す必要は無いんだよ。
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「いただきます!」
昼の12時、 僕と銀楼さんは昼食を取っていた。
メニューはカレー銀楼さんの大好物だ。
それを表すかのように僕の目の前に座っている銀楼さんはカレーを美味しそうに頬張っている。
「んー美味しい!」
「ありがとう」
僕が料理をしたくなる理由のひとつにいつも銀楼さんが美味しそうに食べてくれるからというものがある。
やはり人間、自分の作った料理を美味しそうに食べてくれる人がいたら幸せなものだ。
それに出会った頃は感情の起伏が人一倍少なかった銀楼さんが僕の料理をこんなに幸せそうに食べてくれるのを見るのも好きだ。
銀楼さん…
僕は銀楼さんの事を間違いなく愛してる。
愛してるんだ…。
「…優蘭?食べないの?」
「え…あぁ」
「料理してくれた本人に言うのもなんか変だけどすっごく美味しいよ」
「ハハハ…ありがとう」
「…」
銀楼さんのスプーンが止まる、スプーンを止めることなく動かしてたのにどうしたんだ?
「どうしたの?お腹いっぱい?」
「……優蘭…」
「ん?」
一瞬の静寂。
嫌な予感がする。
「何でそんなに心ここに在らずみたいな返事してくるの?」
「え…」
「さっき体調悪いって言ってたけど…そんなことないでしょ」
…最悪だ…
全部、全部見透かされていた。
やっぱり銀楼さんは僕が思っているより何倍もーー
「優蘭、何を隠してるの?」
「え?いや!何も…隠してないよ!!」
「…優蘭…」
「ほんとだから!第一なんで僕が隠し事をしなくちゃいけないんだよ!」
半分ヤケクソで反論する、稚拙な反論、いやこれは反論とすら言えないだろう、言うならば子供の癇癪だ。だけど、そんな子供まがいの反論しか今の僕の脳みそには出来なかった。
「…嘘…」
「え?」
「嘘、つかないでよ」
「嘘なんかじゃーー」
「だって今日の優蘭はいつもの優蘭じゃない!いつもならそんな取ってつけたような笑顔しない!!」
「っ…」
「今日は楽しいデートにしたかった…だから言わないでおこうと思ってた…だけど、そんな笑顔…私に見せないでよ…」
「…銀楼さん」
「これは完全に私の主観で申し訳ないんだけどその笑顔ほんとに嫌いなんだ」
「…」
「前にも言ったよね…友達だと思っいていつも私の前ではニコニコしていた女子が実は私のことを嫌ってて…私の前ではその笑顔を振りまいてた…」
「最初は全然わかんなかったんだけ段々、他では普通の悪意のない笑顔を浮かべている人でも私の前では作られた笑顔を振りまいているということに気づいて行ったの」
「だから…優蘭にその笑顔をして欲しくない…」
「隠してることあるなら言って欲しい」
取って付けたような笑顔…?
僕は、そんな顔をしていたのか…?
「私と優蘭の関係は他の人のそれとは違う、だから…!」
「隠し事なんてしないでよ」
銀楼さんの初めて見せる激情。
銀楼さんは僕に求愛行動を取ることはあっても、こんな声を荒らげ訴えるようなことはしない。
僕が、僕がそうさせたんだ。
取ってつけたような笑顔振りまき銀楼さんを傷つけて、今日を乗り切ることだけを考えて、銀楼さんを傷付けないようにって動いても結局銀楼さんを傷つけてる…
ぼくは最悪な男だ、
「ごめん、ごめん」
これしか僕に許された言葉は無かった。
「…謝らなくていい、だから教えて欲しい」
「…」
「優蘭が隠している事を」
「僕が…隠していること…」
「うん」
銀楼さんは真っ直ぐな視線で僕を貫く、だけどその事実『自分の愛している人が自分をトラウマを与えた人物と同一視している』という事を知ったら銀楼さん間違いなく今の比にならない程、傷つく。
でもここで答えをはぐらかせば銀楼さんは僕のことを信用してくれないだろう。
どうする、どっちの方がーー
って考えてる時点で僕は駄目なのか。
「…ごめんね銀楼さん」
「え?」
「僕はクズだ」
「急にどうしたの?優蘭はクズなんかじゃー」
「…今…僕は僕が秘めているある『事実』を話すか話さないか…その基準をどっちのほうが丸く収まるか、で考えていた」
「どういうこと?」
「僕は…銀楼さんのこと考えてるフリしてちゃんと向き合おうともせず、この場を丸く収めることだけを考えていた」
「…っ!」
「初めから僕は銀楼さんに向き合う覚悟も、自分の闇と向き合う覚悟も…持っていなかったんだ。」
「…優蘭…」
僕は本当クズだ、銀楼さんを姉と重ねて、その銀楼さんを傷つけないようにと立ち回っていたがそれも実際自分が銀楼さんに嫌われたくないというエゴ。
誰の気持ちも考えていない恣意的で自分本位な考え方。
こんなクズ…姉の性処理道具がお似合いだったんだ…
「ごめん銀楼さん…」
「……優蘭…教えてよ」
「…」
「私は優蘭の事が好き…愛してる…だから!優蘭の事なら全部受け止められる、好きだから!愛してるから!優蘭がどんな人間でも私は優蘭の優しい部分、美しい部分を知ってるから!」
「絶対に優蘭の事…見放したりしない!」
「…銀楼さん…」
「優蘭…お願い」
銀楼さんのそれは心からの言葉だ、だから
僕にはそれに応える義務がある…
たとえ銀楼さんを酷く傷つけけたとしても、ぼくは真実を話さないといけない…
銀楼さん傷つけなきゃいけない
その義務から逃げ出したい、僕は善人でありたい、人を傷つけたくない、人を傷つけたら姉と同じ人種になってしまう、
だけどーーーーーーーーー
「銀楼さん」
「うん」
「僕は昨日銀楼さんとキスをした時…」
「うん」
「銀楼さんに、姉の面影を浮かべていたんだ」
真実を解き放つ。
たとえそれが銀楼さんを傷つけたとしても、しなくてはいけないんだ。
それが僕の義務なんだ。