1月26日 願望と愛情
プルルルルルルルルルルル
真っ黒な暗闇に包まれた深夜。
鳴り止まない着信音、パトカーのサイレンのような煩わしさを孕んだそれは僕の部屋を間違いなく狂気で支配していた。
「まだ止まらないのか、、銀桜さん」
そう、この鳴り止まない着信音の送り主は銀楼さんだ。
そしてこの着信の嵐は現時刻をもって継続3時間を迎えた
何故このような凶行に彼女は及んだのか、それは僕が帰宅してから彼女との一切の連絡を断ち切った事にあると思う、
僕は学校で彼女とキスをした時姉の顔を浮かべてしまった、それは銀楼さんと姉の姿を重ねてしまったんだ。連絡を断ち切った理由はそれにある。
「いつも家に帰ったら深夜まで電話してるのに急に電話出なくなったら…そりゃ不審がるよね」
正直、どんな顔をしていいかわからない。
僕は銀楼さんの僕を求める恍惚とした表情を僕の上に跨る姉の表情と重ねた。
形は違えど、二人の愛のベクトルは同じ方向を向いているかもしれないということに気づいてしまったんだ。
常に僕は最悪を想像する。
「銀楼さんもいつか、姉のように…」
「ッッツ」
あまりの自分の浅はかな考えに僕は苛立ちを覚えた。
「だけど、、ごめん銀楼さん、どんな顔して話せばいいか分からないんだ」
スマホを部屋の隅に置き、僕は厚い布団にくるまり枕に顔をうずくめた。
「早く止まってくれ…」
チュンチュン
鳥のさえずりと共に太陽が顔を出す。
早朝の来訪だ。
「…朝か…あの状況でも僕って寝れるんだ」
自分の睡眠欲の高さにある意味脱帽しつつ僕は部屋の隅に置かれ役不足と訴えるスマホを手に取る。
「通知は止まってるけど着信履歴が凄いことになってる…」
着信履歴には148件という目ん玉が飛び出てもおかしくないような数字が確かに刻まれてた
「銀楼さん…寝てないのかな…」
この夜だけにこれだけの電話をかけてくるんだ、銀楼さんはきっと一睡もしていない。
「ごめんね…」
銀楼さんから逃げてばかりな自分の不甲斐なさに呆れ、ベッドに深く腰をかける。
「…銀楼さん…」
ピロリン!
「うぉぉ!」
急にLINEの通知が入った。
タイミングがタイミングなだけに思わず変な声が零れてしまった。
「…銀楼さんからだ」
どんなメッセージが送られてきたのか、果てしなく気になる…
それによって今後の対応を決めたいし…
恐る恐る、震える指で既読はつけないように銀楼さんからのメッセージを確認する。
既読をつければ大変な事になるそれは何となくわかってた。
ピッ
「ん…」
『起きてる?』
『先生からの説教長くて疲れちゃった?』
『ごめんね私が調子乗るから…』
『…起きたらLINEしてね』
「…とスタンプ。このスタンプ可愛いんだよなぁ」
一応まだ不審がっては居ないみたいだ、ごめんね銀楼さんせめて、今日だけはよく考えないといけない僕と銀楼さん…そして姉について。
僕はもう一度ベッドに倒れ込み腕で目を覆った。
「銀楼…さん…」
「僕は銀楼さんを好き、それは間違いない」
「だけど昨日、恐怖心を抱いてしまったことも事実だ」
「果てしない矛盾、ハ…僕らしいな」
ピロリン
「ッ…!」
突然の通知の音に思わずベッドから跳ね起きる。
スマホを取り、時間を確認すると時刻は8時を回っていた。
「もうこんな時間か」
どうやら僕は銀楼さんのことを考えているうちに寝落ちしていたらしい
「はぁ…」
まだ今日が始まってから半分も経ってないが自分に呆れる回数がとてつもなく多い、思わずため息がこぼれる。
…銀楼さんからのメッセージ…
また震える指で確認する。
『もう8時だよ?』
『いくら疲れてるとはいえ優蘭が8時まで寝てることなんてある?』
『もしかしてだけど無視してる?』
「マジかよ…」
スマホは僕の手を綺麗にすり抜けてベッドの上に落ちる
「勘づかれるの早すぎるでしょ…」
たまに銀楼さんの勘の良さに尊敬を通り越して恐怖を覚えることもあるけど今回はそれをはるかに超えている、語彙力がないから今の感情を適切な表現で表せないけど恐怖以上の何かが僕を今襲ってるのは確かだ。
ピロリン
ピロリン
怒涛の勢いでメッセージが送られてくる。どうやら考えるヒマはないらしい。
『もし』
『無視してるとしたら』
『私、怒るよ』
「まずいまずいまずい」
焦りのあまり乱雑に髪を掻きむしる。
ピロリン
『私を驚かすつもりでやっているなら水を差すようで申し訳ないけど』
『そういうドッキリ?あまり好きじゃないな』
『私は優蘭と楽しくお話したいだけ』
『お願い、早く返信して』
『寂しい』
心が痛い、まるで鈍器で殴られてるみたいだ。
だけどなにも考えず返信すれば逆に銀楼さんを傷付ける事になるかもしれない。
どうしようどうしよう
時というものは残酷なもので時間が欲しい時に限って時間の進みを早くさせる。
だから僕は前のメッセージが送られてきてから1時間も経っているなんて気づかなかったんだ。
ピロリン
『優蘭』
メッセージが送られてくる。
今銀楼さんが、どんな表情で文字を打っているかは分からないけど、想像はつく。
罪悪感が僕の全身を支配する。
『もしかして、私の事嫌いになった?』
『あ…キス…やっぱり嫌だった?』
『もしそうだったら』
『ごめんなさい』
『謝るから…もうそんな事しないから』
『許して』
『私は優蘭の隣に居たいだけだけなの』
『お願いします』
『許してください』
「ごめんッッ」
僕は激しく動揺した、なぜらな文字だけでも銀楼さんがどれだけ思い悩んでいるかがわかるからだ
「ーーーーー…あ」
刹那。
瞬間指に力がはいってしまった。
そう、この機能をの危ないところは少し力加減を間違えたらトーク画面を開いてしまうのだ。
「や…やっちまった…」
最悪のミス。
恐らく銀桜さんのスマホのトーク画面には
『既読』
の文字がきっちり刻まれているだろう。
そしてその通り既読をつけてから2秒で返信が来る
『優蘭!?』
「うーーもうどうにでもなれ!」
半分やけくそで僕は銀楼さんへのメッセージを打ち込む
『ごめん銀桜さん!!ほんとに寝てた!!』
『良かった…てっきり嫌われたのかと』
ピロリン
『そんな事ないよ!』
『ホントにごめんね』
『絶対嫌うなんてありえないからね!』
『でも夜の電話…連絡無しにすっぽかされたら、不安になっちゃうよ』
「…」
『ほんとにごめん!!』
『電話も…出れなくて』
『僕はほんといっつもダメ人間だ』
僕は銀楼さんの言葉に合わせて、数少ない言葉の選択肢からよく吟味し文章を作成する。
間違いは許されない。
『うん』
『でももういいよ!』
『その変わり今日のデート楽しませてね 』
「え…あ?」
僕の努力も虚しく、1番危惧していた悪魔の単語
『デート』
が一瞬にして顔を出す。
最悪だ…
『今日は順番的に優蘭の家に行く日だから』
『10時に優蘭のアパートに行くね!』
『じゃあまた後で』
銀楼さんからのメッセージは止まらない。
そしてその勢いも止まらない。
なので
『うん』
僕が銀楼さんに対して切れる言葉のカードは最早これしかなかった。
馬鹿だった…今日は土曜日、僕達は土曜日に毎週欠かさずお家デートをしているんだ。混乱しすぎてすっかり忘れた。
まずいまずいまずいまずい非常にまずい…どうしよう!!
このままじゃ勘のいい銀楼さんに全部見透かされて終わりだ!
考えないと、猶予はあと1時間だ…まだどうにかなる時間だ。
死んでも銀楼さんに悟らせるわけにはいかない、そんなことあってはならない!
そして
地獄のお家デートだけは何としても防がなきゃいけない!!
僕の長い一日が……始まる。
今年受験生なので思うように小説を投稿できなくて申し訳ありません!
ただストックを完成させたので前よりかは更新頻度は高くなると思います!
今後ともよろしくお願いします!!