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僕は彼女を殺して、彼女になる。  作者: Kfumi
Ⅰ 痛みを感じるか?
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00 I = Who are you ? -1-

 空が青いということを知ったのは、私がまだ小学校に入学したての頃だった。



 私のクラスには、学年で見ても一番といっていい、とても可愛らしい女の子がいた。

 いつも清潔で綺麗な洋服を身に纏い、清楚で可憐で、髪の長い笑顔の素敵な女の子だった。


 その子の名前はもう覚えていない。

 確か何か可愛らしい花の名前が入っていた気がする。


 その花の子は、先生からも褒められることも多いし、ちょっと転んだときも、すぐに周りの男子たちに助けてもらっていた。


 だから、周りの女子から反感を買いやすかったかといえばそうではない。


 花の子は、女子からの評判も高かった。


 気品もあるし、お道化るときはお道化、真面目なときは相手に対し親身になって話を聞く。

 花の子は誰に対しても優しかったのだ。



 私以外には。



 ある日、絵を描く授業があった。

 校庭の好きな場所を選び、好きな景色の絵を描く授業だ。


 私には景色を好きになるという感覚がわからなかったが、絵を描くことは好きだったので、校庭の坂になっているところに座り、真っ赤な空と真っ黒な校舎の絵を描くことにした。


 そのとき、花の子が私の右斜め下に友人たちと共に座った。

 そして、私と同じ景色の絵を描き始めた。

 青い空と白い校舎の絵だった。


「へんなの」


 私はつい口を滑らしてしまった。

 だって、私の見える景色とは違う。気持ちの悪い絵だと思ったからだ。

 その声は花の子の耳に届いてしまった。


 彼女は私のほうを振り向き、まるでゴミでも見るかのような目を向けた。


 その目はあのときの目に似ていた。



 給食時間に食べきれず吐いてしまったA君という男子がいた。


 その吐しゃ物をクラスのみんなは気持ち悪がっていたが、先生と花の子だけは、「そういうこというのやめなさい」とA君の心配と掃除をしていた。


 でも私は確かに見た。


 花の子は、その吐しゃ物とA君に対して、物凄く軽蔑した眼差しを送っていた。

 その目はクラスの誰よりも残酷で、気持ち悪がっている目だった。


 A君はあのあと何故か転校してしまった。



 その目が今、私に向けられている。

 そして、花の子は友人たちのほうに向き直り、私に聞こえるような声で言った。


「気持ちの悪い服」


 私は服を一着しか持っていない。

 家が貧乏だからということもあるが、それだけが原因ではない。

 私は今まで服が欲しいと思ったことはなかった。

 でも、そう言った方が()()()()()()な気がして、母に尋ねたことがある。


「ねえ、お母さん。服が欲しい」


 母は私のほうを見て、涙を流し、一晩中かけて私の頬を殴り続けた。

 兄が身を挺して止めてくれなければ、私はもしかしたら死んでいたのかもしれない。

 だから私は服を一着しか持っていない。



 花の子は、友人たちと共に再び私の方を向いて、クスクスと小鳥が囀るような笑い声を発した。

 そして、私のもとに近づいて、私のキャンバスに茶黒い色の絵の具をぶちまけた。

 それを見て、クスクス笑ったあと、筆の汚れを落とすために使っていたバケツの水を私の頭の上からかけてきた。

 そうしたら、花の子たちの笑い声は小鳥の囀りから、下品な馬のいななきのような声に変わった。


 その声に反応して、先生が私たちのもとにやって来た。


「貴方たち、どうしたの?」


 花の子は見事なほどの悲しそうな、まるで私を心配しているような表情に変えていった。


「転んで水を被っちゃったみたいで、私、拭いてあげていたんです」


 花の子はいつの間にか、ポケットから綺麗なハンカチを取り出して、私の顔を拭いた。


 周りの友人たちはクスクス笑いを堪えていたが、先生は一切気づかずに、花の子の行いを褒めた。


「さすが、いい子ね。まあ、綺麗なハンカチ! 汚れちゃうからやめなさい?」


 先生は私の汚れよりも、花の子のハンカチの汚れのほうを気にした。


 そして、私に一言「大丈夫?」と声をかけると続けていった。


「気味の悪い絵ね~。ほら見てみなさい。空って青いでしょう? 校舎も白いでしょう?」


 私はバケツの水で濁った視界で、懸命に先生のいう景色を捉えようとしたが、全くその青さも白さもわからなかった。


「絵、描き直した方がいいわね。水でふやけちゃったから丁度よかったと思いましょうね。ポジティブに考えましょう!」


 先生は悪気があったわけではないのかもしれない。

 あくまでも転んで水を被った私を励まそうとしたのかもしれない。


 でも、ハンカチで私の顔を皮膚が捲れてしまうほどにゴシゴシと強く擦る花の子の顔は、私に対する嘲笑で幸せそうだった。



 花の子は、おそらく自分と同じような名前を持つ私を嫌ったのだと思う。


 似ていたとかではなく、ただ同種のように思われるのが嫌だったのだと思う。



 腹立たしいとは思わなかった。

 憎いとも、恨みたいとも、花の子が嫌いにもならなかった。

 でも、ただなんとなく、目障りに感じた。


 だから、私はその翌日、花の子を殺した。


 校舎裏の林の中、呼び出しにノコノコと現れた彼女は誰にも気づかれることなく、綺麗な血しぶきをあげて、私の目の前で死んだ。


 花の子の喉元には、私が切り裂いたため、赤い薔薇の蕾のような傷ができていた。


 びくびくと震えて、どくどくと赤い液体を垂れ流して死んだ。



 後悔もなければ、罪悪感もなかった。

 喜びも、悲しみもなかった。


 でも、花の子から吹き上がる真っ赤な血の色だけはとても綺麗だった。


 本当に、生まれてから今まで見てきたものの中で一番、綺麗だった。


 涙が出そうになるくらい、綺麗だった。



 これが、私の人生における初めての殺人だった。

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