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水の檻  作者: 香野三弥
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第十章 加奈 <MIZUKI>

水貴目線

 第十章 加奈 <MIZUKI>



 加奈は約束の時間を10分過ぎた頃、TERA'Sに現れた。

 私は窓際の一番奥の席で、加奈が走って店に入ってくる様子を見ていた。

 焦らなくていいのに、昔から変わらないなあ。

 加奈は約束に遅れることをとても嫌がる。その癖、人が遅刻しても何とも思わないらしい。待つのはいいけど待たせるのは嫌いなんだよね。


「ほんと、ごめん、ちょっと打ち合わせが長引いちゃって。」


「走らなくていいのに、相変わらずだね」


「あ、デザートプレートとアップルティーソーダね、飲み物先に下さい」


 置かれたお冷やを一口飲んで、メニューも見ずにオーダーをする。


「お疲れ様、忙しそうなのにごめんね。」


「ぜーんぜん、大丈夫!それより聞いてよ」


 来たな、と思う。加奈の聞いてよが始まると、しばらくは口を挟むことはできなくなる。どうやら今日の取材相手がかなり酷かったようだ。



「あーもう、今日という今日はホントに頭に来た。何あの開き直り。だいたい、初めからうさんくさかったのよ。私は基本的に霊能者っていうのはいると思ってるよ。世の中不思議な現象は山ほどあるし、あんた見てきたしね、私は。でもさあ、ここまで偽物臭ぷんぷんのやつには初めて会ったわ。ちょっとつっこんで検証しようとすると、信じない人にこれ以上お話することはありません、と、こうなのよ。こっちは記事書かなきゃいけないから、それこそつっこみどころ満載の穴だらけの話でも真剣に聞いてるってのに、やってられないわよ。だいたいどうしてまじめで正当派の雑誌『仏像』でこんないい加減な神秘体験なんて特集組むのよ、そこから間違ってる!売れればいいってもんじゃないでしょ?」


 そこまで一気にまくし立てた加奈は、目の前に置かれたばかりのアップルティーソーダを一気に半分ほど飲んだ。


「うん、確かに、売れるかどうかも疑問だけど」


「でも『仏像』ってマニアの間ではバイブルみたいなもので売れてるのよ、そこそこ。

だからギャラもいいほうだもの」


「へえ、そうなんだ。加奈ってファッション系が多いイメージだったから、どんなジャンルの記事も書くんだね。」


「仕事選べるほど売れっ子じゃないもん。それに知らない分野に手を出した方がおもしろいしね、事前の準備は大変だけど。」

「加奈は変わらないね」



 その時、ケーキがワゴンにのって目の前にやってきた。


「あ、このデザートプレート何種類まで選んでいいの?」

 

「何種類でもお好きなだけ」


 

 板のように薄い腰の黒服のギャルソンがニッコリと微笑む。



「じゃあ、全部!」


「かしこまりました。少々お時間をいただきます。」

 


 と言って、目の前で10種のケーキを薄くカットし始める。



「水貴は食べないの?」


「ああ、うん、お酒がまずくなる」


 私はブラックコーヒーを飲みながら、ギャルソンが慣れた動きでプレートを仕上げていく手元を見つめていた。


「あんたほど、酒のイメージから遠い人間もいないのに、これだもんね」


「加奈こそ、この後付き合ってくれない気?締め切りなの?」


「別腹よ、分かってるでしょ、腹が立つと甘い物食べたくなるの。締め切りはまだ先」



 アイスクリームとフルーツソース、チョコレートで美しくデコレーションされたスイーツ盛り合わせが加奈の前に置かれる。


「ありがとう。で話って?」


 早速ベリーのタルトに取りかかりながら、加奈は私に話を向けた。


「話があるって言ったっけ?」


 一応はとぼけてみる。


「あんたからいきなり会いたいなんて、やばい事があったに決まってる。何年友達やってると思うの。」



 加奈は、あの夢の中の黒い人物をおそらく知っている。誰もそのことにふれなかった理由も含めて、聞き出せる相手は加奈しかいない。そのためには今の状況を説明する必要があった。

 だけど、どこから話したらよいのか、この数日の急展開に私自身ついていけてない状態なのに。



「別にやばくはないけど、少しやっかいなことにはなったかも」


「あんたはもともと、やっかいな子よ、これ美味しい、つぶつぶまで入ってるじゃん」


 イチゴのムースをすくいながら事も無げにきついことを言う。加奈の毒舌は高校時代からなのでもう慣れっこだ。美味しそうに次々とケーキを平らげていく加奈を見つめながら、


「椎名さんが、ベリーハウスに引っ越してきた」



 加奈のスプーンが口元で止まった。スイーツを口に運ぶ手を止めたのだから、この一言のインパクトは大きかったに違いない。



「ちょっと待った、何それ、まさか彼と付き合うことにしたってこと?いきなり一緒に住むってか?ううん、その前に確認したいんだけど、あの、椎名貴志よね?常に女性問題で週刊誌を賑わしてるイケメン映画監督の椎名貴志なのね?」



 頷く。そこまで念を押さなくてもいいのに。



「聞いてないよ!私は」


「言ってないもん」



 加奈は大きく息を吸い込んで、私を正面から見据えた。



「信じられない。それより凛が許可したわけ?あの凛が!」


「したよ」


「あいつ何考えてんの?認めたって事よね二人の関係を。信じられない」



 信じられないを連発してから、スプーンはとりあえず口の中に収まった。



「この三年おとなしかったと思ったらいきなりだもんなあ。恋をするのはいいよ。むしろ早くして欲しかった。いつまでも凛とままごとしてるよりね。でも、リハビリの相手としては、最悪だよ。彼の過去のスキャンダル知らない訳じゃないでしょ?椎名氏と仕事するって聞いた時、いやな予感がしたんだよな~。」


 思いっきりため息をつかれて、少しひるんでしまったが、肝心の本題に入ることにした。



「それで・・・・聞きたいことがあって、加奈に。」


「何よ、聞きたいのはこっちなんだけど、何でいつも面倒な相手に惚れちゃうわけ?何で傷つくような恋ばっかするわけ?あんたバカだよ。全然懲りてない。私は怒ってるんだよものすごく!ほら触ってごらんよ、解るでしょ」



加奈は私の左手を引き寄せて握った。すぐに加奈の色が体の回りに浮かび上がり、ライトグリーンの爽やかな光があふれ出す。



「怒ってないよ、加奈は。いつもと変わらない綺麗なグリーン。それに私は心が読める訳じゃない。たまに強い感情が色として見えることがあるだけだよ。」



 加奈はつまらなそうに口の端で笑うと、手を離した。



「うちらからすれば十分エスパーだけどね。水貴は・・・共感覚っていうんだっけ?」


「うん、萌子先生に会って、初めてこの感覚に名前がついたの。なんだかほっとした。二つ以上の感覚が混ざり合っている人が世の中に時折いるんだって。数字に色が付いて見えたり、味覚に形を感じたり、ニ長調の曲を聴くとオレンジ色が見えたりとかね。でも私みたいにその人のイメージが色として見えるというのは、ものすごく少ないらしい。」


「今日のインチキ霊能者は別として、いわゆるスピリチュアル系のオーラを見る人っているでしょ?私はずっとそっちかと思ってたんだよね」


「たぶん違うと思う。私が見る色に意味は感じないもの。激しく感情が動くと、その色が薄まって、たとえば怒りや憎しみだと黒い色が浮き上がって来る事があるけど、感情を色で感じているだけ」


「いつも思うんだけど、水貴が見ている世界を見てみたいと思うよ。すごくカラフルなんだろうね」


「どうだろ?私は生まれた時からそうだから、普通になっちゃってる。加奈が見てる世界だってもしかしたら加奈だけのものかもしれないよ。たとえばこれ」


 ケーキのイチゴを指さす。


「加奈には何色に見える?」


「赤でしょ?」


「どんな赤?」


「どんなって、イチゴの赤、これはかなり濃い感じ、よく熟れてるし」


「ほらね、赤にもいろいろあるわけ。どんな風に見えてるかなんてひとりひとり違うんだよきっと」


「なるほど、勝手に赤って名前つけて、お互いわかった気がして、でも全然違うこと感じてるのかもしれない。」


 加奈は小さくため息をつくと、少し首を傾けて私を見た。


「あんたが聞きたいことが何なのか察しはつくよ。」


「じゃあ、言う。なにがあったか本当のことが知りたい。」


「事故のことね」


「夢を見るの。何度も同じ夢。黒い車が崖からゆっくり落ちていく。私は倒れていて、それを見ている。すると、真っ黒い光に包まれた男の人が私の手をとって抱きしめるの。知ってる人だと思うのに、ただ怖くて、いつもそこで目が覚める。」



 じっと加奈は黙って聞いていたが、しばらく口を開こうとしなかった。自分の中で何かを整理している感じと言ったらいいのか言葉を慎重に選んでいるようだった。残りのケーキを食べながら、



「真崎先生は?なんて?」


「萌子先生には言ってない。夢を見始めたのは最近なの。それに、なんだか言ってはいけないような気がした。加奈は知ってるんでしょ?どんな事故だったのか。不思議なの、どうして今まで知ろうとしなかったのか。だっておかしいじゃない、記憶をなくしたってどんな事故で何があったのかも聞いてないなんて。誰も教えてはくれなかったけど、私自身も聞こうとしなかった。普通に考えたら、変だよ。そんなの・・だからもしかしたら・・」



 いつも漠然とした不安はあったし、つじつまの合わないことに出会った時は目の前に暗い穴があるような怖さがあった。でも、ほとんど生活に不便はなかったし、番組契約で毎回違うスタッフと組むことの多い仕事がら、深いつきあいもなく問題は起きなかった。

 だから忘れてしまった事にたいして、切実に思い出したいという執着はなかったのだ。でもこれは恐ろしく不自然なことだ。



「つまり、真崎先生が何らかの暗示で封印したって思ってるわけ?」



 私は頷いた。カウンセリングのたびに催眠状態にして意識の変化を確認された。

そのとき暗示を与えられていたとしたら。



「だとしたら、凛も共犯だね。」


「共犯って・・・」


「二人はできてる訳だし、むしろ主犯は凛かもしれない。あいつ、あんたのためなら何でもやりそうだもん。今でこそまともに話ができるけど、昔なんか、絵を描き出したら食事も寝ることも忘れちゃうエキセントリックなガキだったし、今度は椎名さんまで加わって、あんたのまわりは危ないやつばっか」



 今夜は、毒舌に拍車がかかりそうだ。



「椎名さんはそんな怖い人じゃないよ」


「どうだか、どうせあんたの判断基準はそんな気がするっていう程度なんだから。」



 加奈の言うことは当たってる。確かに私は二ヶ月分の椎名さんしか知らない。それも監督としての顔がほとんどだ。でも自分の感覚を信じて生きていくしかないんだ。人を好きになるのに理由なんか探したこともなかった。多かれ少なかれ誰だってそうなんじゃないかと思う。



「加奈の知ってることを教えて。さっき言ったよね、面倒な相手ばかり好きになるって、それは誰のこと?」



 まずいことを言ったという顔をして、加奈は残りのケーキを口に運んだ。



「聞かない方がいい事もある。真崎先生の判断は正しいよ。だから私も何も言わなかったんだ。自然に思い出すならともかく、事実だけ知ったって、感情がついてこない。もてあまして、どうにもならなくなるよ。」


「加奈までそんなこというとは思わなかった。」


「私だってあんたを守りたいってのは同じなんだよ」


 思わず涙があふれてきた。みんなが私を守ろうとする。でも、私は守られたい訳じゃないんだ。周りから壊れ物を扱うようにされることが情けなかった。今まで眠っていた感情が体の中から少しずつわき上がっていることを最近感じていた。椎名さんに触れた事で私の中で何かの堰が切れたみたいだ。



「私は、自分に起きた本当の事を知りたいだけだよ、忘れたままでは、一歩も前へ進めない。もう、私は凛のところに逃げ込む訳にはいかないから」


「そんな風に泣かれたら、まいっちゃうよ」


「夢の中の人は、私の恋人だったんじゃないの?もしそうなら私はこのまま椎名さんを好きになってもいいの?答えてよ、加奈!」


「わかった・・・その人は、たぶん合田さんだと思う。事故の時あんたと一緒だった。」


 ごうだ?


 名前を聞いても私の中で何の変化も起きなかった。やはりその人の記憶はきれいに消えている。事故で携帯も壊れて電話帳もメールの履歴もすべてが消失してしまったし、手帳にもその名前は無かった。あったのはGと言うイニシャル。


 G、ごうだ。



「カイザー映画社の人らしいよ。でも、ふたりの関係は私も知らない。水貴あの頃少しおかしかったから。私にも隠し事してたし。でも、もう終わったんだよ、彼は事故の後、すぐ日本を離れたって聞いた。だから彼が現れて今の水貴の生活を壊したりはしないから、不安になる事はないよ。」

 


 加奈の声は聞こえていたが、私の中には入ってこなかった。



「ごうだ・・・」



 思い出せない、やはり会わなければダメなのだろうか?会えば、何かを思い出せるかもしれない。



「今、その人どこのいるの?」


「私は、ほんとに知らない。あ、でも真崎先生なら知ってるかもしれない。合田さんは真崎先生の学生時代の友人だって言ってた。その紹介で担当医になったんだよ。」


「そう、だったの」



 あまりにも私は知らなさすぎた。



「凛に聞きなよ、彼とはもう正面から話す時期が来てると思う。たぶん、突破口は凛が握ってる。今はそれしか言えない。」



 その後場所を変えて飲んだが、それ以上は何も話してくれなかった。


 加奈は学生時代から彼氏いない歴0を更新中で、現在はちょっと名の知れた格闘家と付き合っていた。今回はもう一年になるのでかなり長い。彼の自宅マンションに半同棲中だ。

 先月、写真週刊誌に激写されて、目の上に黒テープ付きで世に出てしまった強者だ。



「諒さん、元気?週刊誌の件はもう落ち着いたの?先月は最高に忙しかったから、話も聞けなくてごめんね」


「あいつは、元気すぎるぐらいよ。編集部に殴り込みに行ったらどうしようかと気が気じゃなかった。うまくいってるわよ、ものすごく。それより水貴の方がよっぽどあぶないんじゃない?椎名さん最近また話題だし、週刊誌に狙われるわよ。彼は常連なんだから。で、実際、どうなの?」



結局、椎名さん情報をこれでもかと言うくらい細かく聞かれた。でも、私が答えられた事は本当に少なかった。


「十六年前、椎名さんに会ってたんだ。『水の檻』の撮影現場にいたの」


「水貴が出た映画ね。そんな昔、まだあんた小学生でしょ?」


「うん」


「覚えてたの?水貴は」


「なんとなく、色だけは覚えてた。初めて会った時懐かしい感じがしたの。椎名さんは私を探したって言ってた」


「ふうん、なんか運命的な再会って感じ?他に女とかが出てこなきゃいいんだけどね」


「それでも、私は椎名さんといたい。」


「本気なんだ。もっともあんたの場合、なんか感じたんでしょ?」


「うん、だから、大丈夫」


「そっか」


 別れ際、


「水貴が幸せならそれでいいよ。」と加奈は言った。



 私は、幸せだよ、と答えて手を振った

 



 ベリーハウスに向かってのんびりと歩く。


 冷房で冷えた体がじんわりと戻っていく。私はこの感覚がとても好きなので、加奈は、彼が迎えに来るから送ると言ってくれたけれど断った。


 ほんの五分の道のりだ。


 夏の夜独特の濃密でほのかに甘い空気が、アスファルトの熱が冷め切らぬ街を包んでいた。


 胸一杯に吸い込むと、体中に都市の夜が満ちてくる。

 この街にしかない優しさを抱いた夜の匂いだ。

 タクシーの流れが多い。もうすぐ日付が変わる頃ね。

 赤いテールランプが次々と遠ざかり、夢の中で落ちていく車を思い起こさせる。


 繋がらない記憶の断片が、また少し私を不安にする。

 



 リビングのドアを開けて、私は立ちつくした。

 鏡にはカーテンが引かれ、ソファーが向かい合わせになり、間にはテーブルが置かれている。オーディオのセットはそのままだが、タンスや飾り棚の位置もそれに併せてずいぶん移動していた。いったいこれは・・・部屋の様変わりに立ちすくんでいると、キッチンから凛と萌子先生が出てきた。


「おかえり」


 凛の笑顔はいつもと変わらなかった。でもなにかが違う。


「どうしたの?これ」



「大変だったのよ、さっき片付け終わったところで、これからものすごーくおそい夕食。

水貴も食べる?萌子特製炊き込みご飯よ。おかずは鳥忠の焼き鳥買って来ちゃった。冷や奴、お新香付き。お茶漬けというオプションもあるけど?」


 今は二人と一緒にいる心境ではなかったけれど、お茶漬けの一言に陥落してしまった。


 大きなテーブルに並んで座った二人はご飯を食べながらビールを飲んでいた。向かい側で桜エビと塩昆布の炊き込み茶漬けをいただく。刻んだ柴漬けと梅干しがのっていた。口の中で昆布のいい香りがふわっと広がり、お酒を飲んだ胃に優しく沁みた。



「美味しい。萌子先生お料理うまいんですね。」


「バツイチでも主婦歴は5年だからね。仕事持ってると、炊き込みは強い味方なの。おかずを一品減らせるし、おにぎりにしたら翌日のお弁当や夜食にもなるでしょ」



 萌子先生が離婚していることは知っていた。以前、凛が、萌子はまだもとの旦那に惚れてるんだよねって、少し寂しそうに言っていた。



「水貴、萌子がここに越してくることになった。」


「え?」


 思いも寄らぬ言葉がまた、私を混乱させた。


「よろしくね、来週の休みには来ることになると思う」


「そうですか、なんだかびっくりして」


「僕もびっくりしてるよ」


「私もよ、勢いでそうなっちゃった。」



 なんだか二人がとても楽しそうに見えた。


 それから二人は引っ越しの段取りの話になったので、私はごちそうさまと言って椅子から立った。

 二人から同時におやすみと言われて、三人で思わず笑ってしまった。これからはこの生活が日常になるのだ。



 萌子先生が凛に本気だということは、だいぶ前から気づいていた。でもそのことを鈍感にも解っていない凛に、私はあえて黙っていた。

 凛との時間を手放したくなかった私は、完全に凛が萌子先生だけのものになってしまうことが嫌だったのだ。

 それが理不尽なわがままであると知りつつも言い出せなかった。凛もいいかげん気づいたのだろう。


 鏡にカーテンを引いた事は私に対するストレートなメッセージだ。


 二人だけの部屋はもうなくなったんだ。


 凛の早い変化に少し胸が痛んだが、私にそれを悲しむ資格はない。これで、凛も新しい一歩を踏み出せる。 




 椎名さんという大きな波が、もう私たちの三年を飲み込もうとしていた。

 


 

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