第十一話 約束
遅れてしまって申し訳ございません。
それでは第十一話です。
時を遡り、盗賊に襲撃され、零司が来る少し前
停止した馬車の窓には内側からカーテンが掛かっており、中の様子は外からは分からない。そんな馬車の中に独りで待つ女性、アリシア・フィアリス・アースティア王女は少し震えていた。
(盗賊…まさか襲われるなんて…)
カーテンを少し開けて出来た隙間から外を覗く。周りでは、自分の護衛として付いてきている、アースティア王国近衛騎士団の4人が、馬車には決して近づけさせまいと、奮闘しているのが見える。騎士達の個々のレベルが高いのはアリシア自身よく分かってはいるが、なにせ相手は多数。騎士は一対多の戦いを強いられている。盗賊達も決して雑魚という訳では無い。アリシアは、騎士がやられてしまうのでは無いかと、不安な顔をしながら外を見詰めていた。
その時、一人の若い騎士が盗賊によって倒されてしまい、今にもトドメを刺されそうな状態。
(あっ…待って…。)
見つかる危険があり、声は出せない。心の中で呟く言葉は届かない。
(お願い…誰か助けて…!)
アリシアは仲間の危機にも関わらず、何も出来ない自分を悔やみ、手を固く握りしめ、いないはずの誰かに祈る。盗賊は若い騎士に、今まさに剣を振り下ろそうとしている。だめだ…そう思った時、戦場に黒が差した。全て飲み込むかの様な漆黒の髪、向けた瞳はどす黒い血のような色をしている少年。いつの間に現れたのか、気がついたら盗賊の頭を踏みつけて立っていた。何者かは分からない。だが、誰でもいい。アリシアは、絶望の淵に指した一筋の光に是が非でも頼りたかった。
(ん…ここは…。)
かたかたと揺れる車内。その中で、いつの間にか眠っていたアリシアは目を覚ます。辺りを見渡し状況を確認しようと体を起こす。周りを見ると、すぐ横、ほんの数センチの所に目を瞑った男性の顔がある。
「ひゃっ!」
思いもよらぬものが目に入り、アリシアは変な声を上げる。その声で目を覚ました男性、零司は目を開け、アリシアを目に入れると、すぐに話しかける。
「おはよう。よく眠れたすか?」
「あ、おはようございます…って、そうじゃなくて!あ、あの零司様、こんなに近くで何を?」
アリシアは少し頬を赤らめて零司にこの状況の説明を求める。
「あぁ、アリシアが急に倒れたから、寝かせてあげようと思って、膝枕を。」
「ひ、膝…枕…」
零司の言葉に尚も赤くした頬を隠すように俯きながら言う。
「あの、私はどれくらい眠っていたのでしょう?」
「だいたい、10分ぐらいか?」
「そうですか。あの、ありがとうございます。」
「いや、良いよ。」
会話が終わり沈黙する。二人とも、さっきの出来事で話しずらいのか、目を合わさぬよう顔を逸らしている。
ー俺が貰ってもいいのか?
「っ……///」
アリシアの頭の中に零司の言葉が反芻する。
(あれはどういう…)
「あ、あの!」
コンコンッ
アリシアが言いかけたところで馬車が停止、扉を誰かがノックする。零司とアリシアの二人は慌てて距離を取り服装を正す。
「ど、どうぞ。」
「失礼します。王女様、零司殿ホルンへと着きました。…どうかなさいましたか?王女様。」
扉を開け顔を覗かせたのは団長のバルガス。馬車が商業都市ホルンに着いた事を報告しに来たバルガスは。顔を少し朱に染め、目を泳がせているアリシアに疑問の目を向ける。
「い、いえ!大丈夫です。ありがとう。」
「はぁ…失礼しました。」
バルガスはそう言うと扉を閉める。今はどうやら、街の正門で検問の為に並んでるようだ。
「じゃあ俺はここで降りる。乗せてくれてありがとう。」
「いえ、助けていただいたのですから当然です。」
「偶然だって。」
「ふふっ、そうでしたね。」
零司の謙遜に微笑みを返すアリシア。だが、その顔には少しの寂しさが見て取れる。アリシアは立ち上がった零司に声をかける。
「あの!これを…」
そう言って、首に掛けたネックレスを外したアリシア。それを今度は零司の首へとかける。それは、キラキラと輝く宝石で繋がれていて、中心には鮮やかな緑色をした宝石が着いているネックレス。知識のない者でも一目見て高価だと分かるもの。
「これ…こんなもの貰っても良いのか?」
そう聞いたアリシアは、零司の両肩に手を置き見つめながら言葉を発する。
「もちろんです。それを持っていれば、アースティアの王城に入ることが出来ます。」
「そ、そうか。」
暗に会いに来いという言葉に少したじろぐ零司。
「もちろん会いに来ていただけるんですよね?」
顔に出ていたのか、有無を言わさぬ笑顔で釘を刺してくる。
「あぁ。」
会いにいく事が嫌ではなく、むしろ嬉しい気持ちが大きい零司は笑顔で返す。
「いつになるかは分からないけど会いにいく。」
「はい、お待ちしております。でも、あまり遅くならないでくださいね?」
アリシアは、そこで一旦言葉を切る。そして、零司に体を寄せ、耳のそばで囁く。
「…なるべく早く私を貰いに来てね?」
小さく発せられた一言に、零司の心臓は鼓動を速くする。おそらく、顔は朱に染まっているだろう。零司はコクリと頷くことしか出来ない。
顔を離したアリシアも顔が真っ赤に染まっている。
「じゃあ…」
「はい。」
少し気まずいながらも二人は別れる。
馬車から降り、騎士達に挨拶をした零司は、検問の列に並び直す。未だに赤く染まった頬を叩き、気持ちを入れ替える。街に着くまでに、なんとも濃い時を過ごした道のりであった。
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