No.1
千歳桃也は夢を見ていた。
辺りには広く平原が広がっており、一際目立つ一本の木。
夢を見ているはずなのにどこか暖かさを感じる。
そして湧き出る暖かな感情。
一番その思いが強くなっていく方へ、自然と歩みを一本の木に向けていた。
そして知るはずの無い誰かが木の傍にいるのに気がつく。
何故だかとても嬉しかったのだ。
嬉しさのあまりに傍に歩み寄ろうとした時、夢が終わる。
「高校の初日から不思議な夢をみたもんだな」
そう。千歳桃也は今日から高校生になる。
机の上には未使用の綺麗なカバンに、壁には下ろし立てのしわ一つ無い制服がかかっている。
興奮と緊張が入り混じり複雑な感情の中ゆっくりと体を起こす。
時間を確認すると7時50分。
「…やべ、初日から遅刻とかは無しだな」
いそいそと準備し、いつものように朝食の置かれているテーブルには手紙にお金。
両親は共働きをしており朝は早くから、夜は遅くまで仕事をしている。
「慣れてはいるつもりだったんだけどな…」
少しの寂しさを胸に朝食をすませ、行ってきますと一言学校に向かった。
少しの早歩き、学校までは徒歩20分前後。
通学路には大きな桜並木があり毎年この季節は桜がとても綺麗なのだ。
ゆっくりと鑑賞していたい思いを抑え早々と学校へ急ぐ。
すると後ろから誰かが勢いよく近づいてきてカバンをひったくられる。
「お~はよっ! 遅刻する~よっと!」
そう朝から一際元気な彼女はお迎えさんの隣に住んでる幼馴染の倉持薫。
「痛ってぇなおい! 人がせっかく桜を…っておい! 」
「はいはーい! もたもたしてると置いてっちゃうよ! 」
桜なんてゆっくり眺めてる暇もなくいそいそと追いかける。