3;窓の外
どうしよう…。
ボクは唖然となって壊れてしまった「窓」を見つめた。
それはもはや窓ではなく、ただのガラクタだった。
窓がなくなってしまった事が現実味を帯びてくると、ボクは急に孤独を感じた。
ボクにとっての世界が一気にこの五畳半だけになってしまったのだ。
心臓が無駄に早くなっていた。
落ち着こう…、落ち着こう…。
ボクはそう思ってボクの部屋の窓に近寄ってカーテンを開けた。
ボクの部屋の窓は、マンションの内部にある箱庭に面している。
箱庭といっても、背の高いマンションの壁のせいで光は差し込まず、そこは日夜陰気な雰囲気が漂っていた。
ボクの部屋は五階。
この窓からは周りの家の窓ぐらいしか視界に入らないし、ボクはこの窓からの景色が嫌いだった。
外の空気が吸いたい。
久しぶりに窓を開ける。
少し肌寒いが、心地よい空気が流れ込んできた。
それは、長い間忘れていた空気の味だった。
この空気は、色んな所を旅して、今ボクの前に来ているのだろうか…。
ふとそんな考えが頭をよぎった。
この空気は今はボクの前にいるけれど,恐らく、このマンションの外から…、町も越えて、海も越えて、遠くから旅をしてきたのだろう…。
ボクが知らない事も、見たくない事も全て見て感じ取って、その間を流れてきたんだろうか。
ボクは窓から手を伸ばしてみた。
ボクの手は、今、ボクの5畳半の世界の外にある、そう思うと、その手が果てしなく自由な存在に思えた。
…。
その時だった。
ボクは背筋に冷たい物を感じた。
僕の隣人なんだろうか…、僕から見て左側にある小さい窓に人影がうつっていた。
…黒い人影。
でも、その目は確実にこっちを見ていた、射る様に…。
…見てはいけない…。
でもボクの目は導かれる様に、ソレと目をあわせていた。
少年。15歳ぐらい…だろうか。
無表情でガラス越しにボクを見つめていた。
無表情…、でもその瞳には色んなものが映っていた。
ゾクッ…。
一気に背筋に悪寒が走った。
それは無意識なのだろうか。
ボクの頭は警告をならしていた。
見たくない…!!
ボクは金縛りが溶けた様に、カーテンを閉めた。
カーテンの奥の開けっ放しの窓から冷たい風が入ってくる。
静かな部屋の中で自分の鼓動だけが無駄に大きく聞こえた。
さっきまではあんなに涼しく気持ち良かった風も、今は気味が悪い以外のなんでもない。
でも、ボクは窓に近寄りたくなかった。
また…、あの少年を見てしまえば…、いや…、もう見たくはなかった。
あんな恐ろしい目は。