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『ヒキニートがオフ会で惚れたあの子のために社会参加を目指した話なんだけど、需要ある?』

『需要があったら書く』


クーラーの効いた4畳半の部屋にパソコンのタイプ音が響く。窓の外から聞こえる蝉の声が煩い。いいなぁ、お前らはリア充で。こっちは彼女いない歴=年齢だ、馬鹿野郎。苛立ちを消すためにシルバーのiPodに手を掛ける。スイッチを押すと、可愛らしい少女の歌声が流れ出した。【colorful】はネットで活動中の若手アイドルだ。覆面をして全力で歌い踊るパフォーマンスが特徴で、近々大手企業からデビューするのではと噂されている。まあ、2ちゃんのスレに書いてただけだから、本当かどうかは怪しいけどな。心地よい歌声を聞き流しながら、液晶画面を覗き込んだ。


「誰も書き込んでこないし……」


はぁ、と小さくため息をつく。そりゃそうか。誰も興味ねぇよな。夏休みの真っ只中に2ちゃんしてるやつの話なんて。もっと楽しいこといっぱいあるしな。海に行ってビーチバレーしたり、夏祭りで線香花火したり。彼女なんか作ったりしてさー、いちゃいちゃするんだろ、リア充は。夏は俺みたいなインドア派のやつにも高まるテンションを強要してくるから嫌いだ。負け惜しみ?そんなこと言われなくても分かってる。分かってるからこそ、言わずにいられないんだ。誰にも迷惑かけてないし、それくらいはよしとしている。自分の中で。


「やっぱ止めとくか。こんなの意味ないし。うんうん、そうしよう。」


自嘲気味に笑って、そう呟く。室内に流れる曲はいつの間にかアニソンに変わっていた。このあとはネトゲでもしようなんて考え立ち上げたばかりのスレを閉じようとしたとき、ふと画面に映る文字が目に飛び込んできた。


『ちょっと気になるので支援。スペックはよ。』


まじかまじかまじか!支援してくれるやついた!やべぇ、テンション上がってきた!高まる心臓の鼓動を抑えながらキーボードを打つ。指先にじっとりと汗が滲んでちょっと気持ち悪かった。


『支援してくれてありがとう。

スペック:俺 26歳(♂) ヒキニート 170cm 65kg 童貞

真希 22歳(♀) 150cm 細身 堀北真希に似てる

こんなもんでおk?』


『おk 堀北真希似か、裏山。』


『真希ちゃん紹介しろよ。』


『どうやって知り合ったんだ。kwsk』


おー、結構集まってきたな。ねらーは暇なのか。美人だと知った途端に食いついてくるあたりは流石だな。真希との出会い、オカマバーで起きた事件、天才ハッカーの登場、書きたいことはたくさんある。


『書きためてないからゆっくり話す。

まずは俺と真希が出会ったきっかけから。

それは【REAL】のオフ会だった。』


そう、全てはあのオフ会から始まったんだ。まさかあの時を境目に人生が変わることになるなんて、思いもしなかった。

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