聖女様
俺が貴族じゃ無くなってかなりたつが、まさか貴族でも無いのに城で働く日が来るとは思ってなかった。
俺が今向かっているのは姫様の部屋だった。
「ひ~め~様!遊びましょ!」
三階にある姫様の部屋から縄梯子がおりてきて、俺はそれを使って姫様のもとに向かった。
「ロゼいらっしゃいませ。」
姫様の笑顔のお出迎えに思わず笑顔になったのだが、姫様の部屋には先客がいた。
王子とギルネストだ。
「何で二人が居んの?」
王子は苦笑いを浮かべた。
「僕らは避難してきているんです。」
「避難?」
俺が首を傾げるとギルネストが言った。
「聖女様だ。」
「聖女?」
「ああ、異世界から来た聖女様から逃げて来ているんだ。」
異世界から来た聖女様?
「美人?可愛い?」
「容姿は整っていると思うが?」
「へー!」
その時姫様が俺の手を掴んだ。
「私は………あの人嫌い。」
「こら!アネモネ!めったな事を言っては駄目だ!彼女は魔王を倒すために召喚された大事な客人なんだ。アネモネにそんなことを言われたら悲しくなってしまうぞ!」
「………ごめんなさい。」
姫様がシュンとしてしまった。
「なに逃げて来ている奴が偉そうな事言ってんだ!人間誰しも生理的に受け付けないって人間が居るだろ?俺が王子を嫌いなように!」
王子はかなりショックを受けたように顔を両手でおおって俯いた。
「ロゼ、王子を苛めるな。面倒だ。」
「ギルネスト、もう少し優しい言葉を選んで欲しかったんだが?」
王子は絞り出すように呟いていた。
「姫様は何で聖女様が嫌いなんでしょうか?」
俺が姫様の顔を除き混むと、姫様は静かに言った。
「だって、聖女様は私が見えていないみたいなんですもの。私も居るのにお兄様にしか話しかけてきて下さらないし、ギルネストとゼノスにも笑いかけるのに私は無視するの。」
典型的な貴族の御令嬢と大差ないんだな。
権力者に群がる御令嬢達も女は空気のように扱うからな。
「だから、無視しないロゼは大好きよ。」
「無視するわけないじゃないですか!王子を無視することはあっても姫様を無視なんてできません。」
姫様はニコニコと笑って俺に抱きついてくれた。
その時だった。
ノックの音もなくドアが開き、ゼノス様が飛び込んできた。
「助けろ!」
ゼノス様は全力疾走してきたようで肩で息をしていた。
「ゼノス!貴方がここに来たら聖女様に見つかってしまうでしょ!」
「聖女グイグイ来すぎ!無理!怖い!」
イケメン権力者達が、こんなに怯える聖女様とは凄いな。
コンコン。
ノックの音が響いた途端にゼノス様とギルネストはドアと対面しているソファーの後ろに隠れた。
ドアが開くとそこには黒髪黒目の肩までのストレートヘアーが可愛い女の人が入ってきた。
彼女は部屋を見渡すと俺に笑顔をむけた。
「私の名前は佐々木美優って言います。あなたは?」
「ロゼルと申します。聖女様。」
「美優って呼んでください。」
「いえいえ!畏れ多い事に御座います。私はただの運び屋!地位も名誉もないただの平民です。あなた様とは言葉を交わすことすら許されるとはおもえません。どうぞ、そちらの王子をお連れくださいませ。あなた様が大事だと先程おっしゃってらしたので文句もないでしょうから。」
顔を上げた王子は口元をひきつらせた。
「嬉しい!ナサニエル様行きましょう!」
聖女は王子の腕にしがみつくと王子を連れて部屋を出ていった。
姫様は悲しそうにその姿を見送った。
「姫様、申し訳ございません。兄君を生け贄に差し出してしまいました。」
「………良いの。お兄様だって大事な客人だと言ったのですから。」
姫様はたしか今年で9才のはず。
綺麗な金髪をゆるくウエーブさせ、青い瞳が印象的な可愛い姫様である。
つらそうな顔なんて見たくない。
「姫様。空の散歩にいきませんか?俺でよければ竜に乗ってみませんか?」
姫様は驚いた顔をした。
「魔法司令官として言わせていただけるなら反対です。誰か護衛を付けてからでないと許可できません。」
ギルネストはソファーの裏から立ち上がって言った。
「なら俺が付いていってやる!ロゼは俺の運び屋だしな。」
「え~ゼノス様いくら払ってくれる?」
「おま!また金か!」
ゼノス様がショックを受けた顔をした。
「嘘だよ~!姫様のためだし今回は。ギルネストは?一緒に行くか?」
「………わかった。一緒に行こう。」
ギルネストは呆れたような諦めたような顔をしていた。
ギルネストは何だかんだで優しいと思わずには居られない。
「では、姫様と行く空の散歩にレッツゴー!」
「オー!」
ゼノス様はノリノリで叫んでくれた。
「ほら、ギルネストも姫様もオー!」
ゼノス様の言葉にギルネストと姫様は恥ずかしそうにオー!っと言った。
「ギルネストの照れ顔レア!」
思わず呟いたら睨まれた。
俺は笑いを堪えて3人を俺の竜のもとへ案内するのだった。
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