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王子

「アネモネ!」

城の中から慌てて出てきたのはまたしても知っている人間だった。

「お兄様!」

俺は抱えていた姫様を下に下ろしゼノス様の後ろに隠れた。

「ギルネスト、君が助けてくれたのかい?僕の妹がすまなかった!本当にありがとう。」

「いえ、自分は何も。」

「ではゼノスかい?」

「いえ。」

ゼノス様は俺の方をチラリと見た。

その時俺は手を捕まれた。

「あなたの名前を教えて下さいませんか?」

俺の手を掴んでいるのは姫様だった。

俺は満面の笑みで言った。

「ロゼルと申します。以後お見知りおきを!」

「ロゼは男の人女の人?」

「姫様の望むままに思ってくださって結構でございます。」

ゼノス様とギルネストは俺を睨む。

「「女でございます。」」

「姫様が望なら性転換魔法を受けてもいい。」

「「させるものか!」」

なんなんだこの二人の息の合方は?

「君………何処かで会ったことないかな?」

姫様の可愛さのせいで、この国の王子様に間合いを詰められたことに気がつかなかった。

「…何処かで………君………バルコニーの………」

俺は観念して王子様に頭を下げた。

「御無沙汰申し上げております。」

「ああ!君ともう一度話がしたかったんだよ!」

「私は二度とごめんこうむりたい!」

「え?」

俺はゼノス様を盾にした。

「ぼ、僕は君に何かしてしまったかな?」

慌てたように王子様は俺の顔を見ようとした。

俺はそのままゼノス様を盾にした。

「いいえ………王子様がどうこうではないのです。」

「では、なぜ?」

聞いたら後悔するくせに。

「貴方様と会話したことにより………私は売り払われた。」

その言葉に一番驚いたのはギルネストだった。

「なぜだ?王子と会話しただけだろ?」

俺は姫様の耳をふさいで言った。

「あの男が俺と王子が一緒に居るのを見た時、王子の顔はくもっていた。それだけ、それだけで今まで服に隠れる所しか殴らなかったあの男にボッコボコにされた。もう要らないって言われてだ。むしろ殺してくれないかと本気で思った。」

俺は小さく笑った。

「思い出したくもない。」

キョトンとした顔で俺を見ている姫様が可愛らしい。

「サラーシェ。君は………」

ギルネストの顔が歪む。

ギルネストは俺を助けたいと思ってくれていた。

それが出来なかったのはギルネストがなんの力も持たない子供だったからだろう。

「ロゼル。俺はもうロゼルだ。サラーシェなんてあの男がつけた名前なんかで二度と俺を呼ぶな!お前の婚約者候補の一人が死んだ。それでだけだろう?あの男ももう居ない。俺はようやく自分を自分の物に出来た。だからギルネスト、ロゼルって読んでくれよ。俺はギルネストの貴族には必要のない話のお陰で運び屋になれたんだ。ギルネストには感謝しかないんだ。」

ギルネストは悔しそうな顔をした。

王子様は青い顔をしている。

無理もないだろう。

自分のせいで人生の変わった奴が目の前に居るんだから。

「俺は今、幸せなんだぜ。誰にも助けを求めないで居られるんだからさ!」

俺は笑顔で姫様の耳から手をはなした。

「姫様!ゼノス様の執務室にお菓子がたくさんあるんですよ!食べに行きましょうか?」

「………良いの?」

「当たり前じゃないですか!おっさんとお菓子食べるよりも可愛らしい姫様と食べるほうが幸せですよ!」

姫様はニコッと笑ってくれた。

「ゼノス様案内。」

「お、おお!」

ゼノス様は苦笑いを浮かべると姫様を肩車して歩きだした。


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