魔法司令官
「まずは、リンの竜を城の竜舎に預けねえとな!」
「城?行きたくねえ。」
「駄目だ。」
ゼノス様に言われて仕方なく城に行くことになった。
城につくと、竜舎をまかされているという熊耳尻尾の獣人さんが俺の竜を竜舎に連れていってくれた。
「リンは俺の執務室で菓子でも食って今後のことを話すか?」
「遠慮する。」
「お前お菓子好きだろ?」
「………好き。」
ゼノス様は暫くだまると言った。
「もっかい好きって言って。好きって!」
「怖いよ!言わねえし!」
ゼノス様は俺の肩に腕を回すと強制的に歩かせた。
「そう言うなよ。リンが喜ぶと思って仲間達が俺の執務室に置いてった菓子がたくさんあんだよ!」
その時視線を感じた。
視線のする方を見ると一人の男がたっていた。
「ゼノス!お前はまたなんの許可もなく城に人を入れる気か?」
「お?魔法司令官殿!こいつは俺の専属の運び屋だ。」
「運び屋?」
魔法司令官………ギルネスト、バラマーシェ俺はこの男を知っている。
俺はゼノス様の後ろに隠れた。
「リン?どうした?」
俺はうつむいた。
あれから何年もたっている。
ギルネストが俺を覚えているとは限らない。
「顔を見せろ。」
真横からギルネストの声がして、顎を摘ままれて強制的に上を向かされた。
「………サラーシェ。」
俺は顎にある手をはらいのけた。
「誰のことでしょいか?」
俺はギルネストから視線をはずしてそう言った。
ギルネストは俺の腕を掴むと手首を見た。
俺の手首には三角形の形に黒子がある。
それを見つけたのがギルネストだった。
「サラーシェ。」
俺は顔をそむけた。
「リン?サラーシェってなんだ?」
「リン?どう言う事だ?貴女…今度は何を企んでいる?」
俺は意をけっしてギルネストを見た。
「ギルネスト様。お願いがございます。父には私の事を黙っていて下さいませんか?」
「貴女は知らないのですか?貴女の父君は去年死去しましたよ。」
俺は思わずフリーズした。
仕方がないと思う。
父親だと言うあの男が、母親を目の前で殺したあの男が死んだのだ。
「驚くのも無理もないです。流行り病で呆気なく死にましたからね。やはり、父親に虐待されて逃げ出したのですね。」
ギルネストは俺が殴られていることを知っていた。
だが、ギルネストは何も出来なかった。
俺を助けるには幼すぎた。
「逃げ出した訳ではないのです。私はあの男に家の中で一番要らない物だと言われ………売られたのですよ。そうですか、あの男は死にましたか………とどめがさせなくて残念でございます。」
「リン!」
ゼノス様が怒鳴ったのが解って笑みがもれた。
「ゼノス様。あの男は父親とは違うから、俺に父親なんて居ないから………あれは俺の母親を殺した敵だった。ギルネスト様、教えてくださりありがとうございました。フフフ、俺を殴った奴は皆死んでいくな~!」
なぜかゼノス様に抱き締められた。
「リン、すまなかった。お前は小さな体にいろんなものを詰め込みすぎている。」
「ゼノス様。俺は今が幸せならそれでいい。ゼノス様は俺を殴ったりしないだろ?」
「当たり前だ。」
「なら、良いじゃん!俺の平穏無事な生活を脅かす奴は皆死んだんだから。」
俺はゼノス様を押し退けて、ギルネストの方を見た。
「俺はなんも企んでねえよ!その日暮らしにゼノス様に雇われた、ただの運び屋だ。得体が知れないってんなら解雇するようにゼノス様に言ってくれ。」
ギルネストは眉間にシワをよせた。
「サラーシェ!なんだ、そのしゃべり方は?淑女として恥ずかしくないのか?」
「ギルネスト様は俺の兄貴か?………淑女?笑わせんな!出来るなら男に生まれたかったぜ!」
ギルネストは俺から視線をはずしてゼノス様を睨んだ。
「お前がサラーシェをこんなんにしたのか?」
「リンは初めて会った時からこんな感じだったぞ?」
「そのリンとはなんだ?」
「声が鈴を転がしたみたいで可愛いから、リンって俺がつけた。」
「犬猫じゃないんだぞ!」
「だって!リンって名前つけなかったら、おい!か、お前!だぞ!」
ギルネストは俺が貴族だった時にあの男によく会わされた男、俺が政略結婚するために最初に選ばれた男だ。
俺が飽きるだろうと思ったのか、難しい話ばかりしている男だった。
俺はこの男と一緒に居るときは殴られないと知っていたから、難しい話でも楽しかった。
「面倒臭いから他の勤め先探してきて良いか?」
「「駄目だ!」」
なぜかゼノス様とギルネストはハモって言った。
「ギルネストは関係ないだろ!」
「サラーシェは私の婚約者です。」
「なっ?」
俺は首をかしげた。
「その話ってまだ継続してんだ。サラーシェなんて死んだことにしとけば良いのに。」
「貴女はここに存在しているのに、死んだことになんかできる訳がないでしょう!」
ギルネストはそう言った。
「馬鹿か!リンは俺のもんだ!」
ゼノス様は俺を抱き締めた。
「ゼノス!サラーシェをはなしなさい。」
「ギルネストにはやらん!」
面倒臭い。
その時だった。
城の塔の上で何かが動くのが見えた。
「ギルネスト様、あの子………危ない。」
ギルネストとゼノス様は俺の指さす方を見た。
「「姫!」」
塔の上の窓から体をのりだしている少女。
ギルネストの魔法よりも先に少女は窓から落っこちた。
「アル!あのこを無傷で助けろ!」
俺の声に頭の上にしがみついていた子猫は霧に姿を変えた。
霧は一気に立ち込め少女を包み込んだ。
そのまま霧は俺の所に戻ると吐き出すように少女を俺に投げてよこすと子猫の姿に戻り定位置の俺の頭に戻った。
「大丈夫ですかお姫様?」
俺がそう言うと姫様は俺を見て顔を赤らめた。
「あ、ありがとうございます。」
可愛いな~!
俺がのほほん~っとしているなかギルネストが叫んだ。
「サラーシェ!森に帰してきなさい!」
「え~!さっきゼノス様にも言われたけど嫌だよ。」
「それがどんなに危険な生き物かサラーシェは解ってない!」
「ゼノス様にも似たような事言われたけど………アルに殺されるなら本望だ!」
ギルネストは真っ青だ。
「ギルネスト………諦めろ。かえって引き離すほうが危険だ。挽き肉にされるぞ。」
ゼノス様は苦笑いでそう言ったのだった。