転職
朝の朝礼。
店の主人がためにもならない話をしている。
「ロゼル。」
アクビを噛み殺したしたその時主人に名前を呼ばれた。
「はい?」
「お前クビ。」
何を言われたのか解らずにフリーズした。
「オーナー!どう言う事ですか?」
キリヤが怒鳴るのと同時に他のメンバー達も納得いかないと抗議してくれた。
みんないい人だ。
「ロゼル。お前女なんだってな!オラービックリしたぞ!うちは女は雇ってないんだ。」
俺は苦笑いを浮かべた。
「………なら、仕方ないっす。」
他のメンバー達はかなり驚いた顔をしている。
「ロゼル。お前………本当に女なのか?」
キリヤは驚いたように言った。
「まあ、不本意ながらな。」
「なら、俺が嫁にもらってやる。」
キリヤは真顔でそう言った。
「日給いくら?」
「は?」
「結婚はビジネスだろ?日給で決めてやる。」
俺の言葉にその場にいた全員がドン引きしている。
「俺は結婚に夢も希望も持ってねえから。仕事だと思わねえとする気にならねえ。」
その時部屋の中に笑い声が響いた。
「日給いくらならお前は俺の物になる?」
笑い声の正体はゼノス様だった。
「人の仕事奪っといてなに言ってんだ!俺は奪われるのが嫌いだと言っただろう。汚いことしやがって。」
俺は静かにそう言った。
「汚いことか?純粋にお前が欲しいだけだろうが。俺に雇われろ。」
「純粋に運び屋としてなら雇われてやっても良い。」
「嫁じゃなくて良いのか?俺は獣の族長でこの国の宰相様だぞ。」
「それがどうした?俺からすれば飴玉くれるただのおっさんだ。」
ゼノス様は楽しそうに笑う。
「俺の物になるんだから名前はリンでいいよな。」
「駄目に決まってんだろ!俺はロゼルだ。あの日リンは挽き肉になって死んだんだから。」
頭の上に例にもれずのっかっている子猫がゆるい鳴き声をあげた。
「挽き肉?………お前…霧の森に行ったのか?」
ゼノス様は知ってるんだ。
霧の魔物の事を。
「暫くハンバーグは食えなくなったよ。」
「お前よく生きてたな。」
「傭兵にボコボコに殴られてたから可哀想になったんじゃね?そいつが一番最初に死んだから。」
「リン。」
「ロゼルだ。」
「お前は俺が甘やかして育ててやるから安心しろ。」
「そりゃどうも。」
俺は頭の上から子猫をどかして腕に抱いた。
「そう言えばその猫………」
「なんだよ。」
「お前はそれが何だか解って連れてるのか?」
獣だからわかるのだろうか?
「わかってるけど?」
「なら何で連れてるんだ?」
「命の恩人だから?かな?」
ゼノス様がなぜか殺気を放つとアルビノの瞳が金色に変わった。
「アルビノ!やめろ!」
ここにいる人達はいい人だ。
死なせる訳にはいかない。
「ようやくハンバーグ食べれるようになったんだからやめてくれ。」
アルビノの瞳は元の赤に戻った。
「アル、いい子だ。」
ゼノス様は一気に飛びのくと言った。
「リン、お前それを手なずけてんのか?」
「アルはいい子だよ。俺に害があるやつしか殺さない。」
「リン。それは相当力があるぞ。」
俺はアルの頭を撫でながら言った。
「世界で一番強いよな~。」
ゼノス様は目を見開いた。
「まさか、霧の………」
「うん。」
「森に帰してきなさい。」
「嫌だよ。」
「リン!それは危ない生き物だぞ!可愛い猫ちゃんじゃないんだぞ!すぐにでも殺されちゃうかも知れないんだぞ!」
ゼノス様は俺を本気で心配しているらしい。
「俺が死ぬのが恐いと思っていると思ってるのか?アルに殺されるなら一瞬だ。苦しまずに死ねる。本望だ。」
「リン、俺はお前が死んだと聞いたときお前を買っておけば良かったと本気で後悔したんだぞ!もう、あんな思いをしたくない。」
「ゼノス様。俺はあの時あんたに買われなくて良かったと思ってんだぜ。俺は俺の物でいれるんだからさ。」
俺は笑顔を作った。
「アルにはゼノス様達も殺さないように教え込むからさ、安心しろよ。」
「………わかった。それはもういい。それより、リンにはまず、言葉使いから直させねえとな。」
「直さねえよ。」
「直させる。俺は城で働いてんだぞ。」
「………直さなくてもできる。心配すんな。」
「まず無理だろ!マナーからだな。」
「できる。俺完璧だから。」
死に物狂いに叩き込んだんだ。
そう簡単には忘れられる訳がねえ。
「楽しみにしとけよ。」
「不安しかねえ。」
俺を呆れた顔で見下ろすゼノス様は俺の肩を抱くとまわりにいる運び屋達に背をむけた。
「リンは俺がもらってく。」
それだけ言い捨てて俺を連れ出した。