サラーシェとリン
おままごとをした翌日。
「ロゼ。」
躊躇いがちにギルネストに呼びとめられた。
「なんだ?」
「少し話がある。」
ギルネストの真剣な顔に俺は苦笑いを浮かべた。
「そんな顔になるような話なのか?」
「………そうだな。」
聞きたくないとは、言えない空気だった。
「解った。」
俺はギルネストに連れられて初めてギルネストの執務室に入った。
薄暗い部屋は壁じゅうに設置された本棚のせいであるのが一目瞭然で、唯一ある大きな窓も厚いカーテンに覆われ、本が痛まないようにしてあった。
ギルネストは昼間でも明かりを灯しているのだと説明した。
「で?話って?」
「………ロゼにとってはムカつくだけの話かも知れないが………自分の武器になると思って聞いて欲しい。」
「早く言えよ。」
ギルネストは暫く黙ると言った。
「侯爵家の跡取りはお前だけなんだ。」
………は?
俺は意味が理解できなかった。
「侯爵には妾の子供がたくさんいたが認知しているのがサラーシェだけだった。サラーシェを政略結婚の道具だと思っていた侯爵は死ぬ事でお前に全てを譲る事になったわけだ。」
なんと言ったら良いのだろうか?
「…で?」
「お前がサラーシェに戻っても良いと思えるなら、居場所があるって言いたかったんだ。」
貴族に居場所なんて………求めてない。
「お前が姫様のためにサラーシェになれるなら、たまにでいいからサラーシェになるのも良いんじゃないか?」
ギルネストはそう言って俺に笑顔をむけた。
「考えておけ。」
ギルネストの言葉は衝撃的だった。
竜にブラッシングをしながらギルネストの言葉を考えていると、気配を感じて振り返った。
「ロゼル君!また来ちゃった!」
聖女はニッコリ笑った。
「ねえ、ロゼル君は姫様にしか興味が無いの?」
「はい!」
速答すると引かれた。
「じゃあ、ロゼル君は私のサポートキャラかも知れない。」
今日は意味の理解できない事ばかり言われる。
「サポートキャラ?」
聖女様は笑顔を強めた。
「私は恋愛するためにこの世界に呼ばれたと思うの!」
俺は絶句した。
聖女は魔王を倒すために召喚されたはずだ。
「だって、格好いい人ばっかりなんだもん。王子様もゼノス様も、ギルネスト様も。」
俺は思わず聞いていた。
「ギルネストには婚約者が居るんじゃないのか?」
「ああ、サラーなんとかさん?あの人はライバルキャラだね。」
「ライバルキャラ?」
「そう、恋のライバルで当て馬的存在。他には王子様の一度だけあった初恋の令嬢とか、ゼノス様のリンって言う死んじゃった恋人とかって奴がいい例だよね!」
どうしたらいいんだ?
「たしかリンって人も運び屋だったって聞いたけどロゼル君はリンって人知ってる?美人系?可愛い系?」
俺は躊躇いながら言った。
「ガリガリの小汚ないガキ。」
「そんなわけないじゃん!ゼノス様の恋人だよ!」
「ゼノス様の恋人じゃないですよ。」
「だって、メイドさん達が言ってたよ。」
俺は溜め息をついた。
「聖女、リンは俺の恋人じゃねえよ。」
そこに苦笑いを浮かべたゼノス様があらわれた。
「ゼノス様。」
聖女がゼノス様の名前を呼ぶ。
「リンはツンデレの可愛い女だった。俺が初めて欲しいと願った女だ。」
聖女は口元をひきつらせた。
「俺はリンが好きだが、アイツは違うんだろうな。俺の完璧な片想いだ。」
なんだか俺に聞かせようとしているみたいに、ゼノス様は俺に視線をうつす。
俺はゼノス様から目をそらした。
「ゼノス様はその人しか愛さないの?死んでしまったんでしょ。」
聖女の言葉にゼノス様は苦笑いを浮かべた。
「死んだから他なんて思えるわけが無いだろ。俺はリン以外を求めちゃいない。」
聖女は暫く渋い顔をすると用があるからと去っていった。
「良いように"リン"を使ったな。」
「本心だ。」
ゼノス様は嬉しそうに笑った。
「ロリコン。」
「好きに言え。」
「………ありがとうな、俺もゼノス様が好きだ。」
ゼノス様は驚いた顔をした。
「………なんて、言うと思ったのか?ゼノス様は俺の雇い主。それ以上でもそれ以下でもねえよ。」
ゼノス様の眉間にシワがよる。
「俺の大事な雇い主。だろ?」
「ツンデレが。」
「ツンデレじゃねえよ。」
「いや、ツンデレだ。」
そう言うとゼノス様は俺の唇に噛みついた。
思いっきりゼノス様の股間を蹴りあげてしまったが、許して欲しいと切実に思った。
ゼノス様はロゼちゃんにキスしすぎですかね?




