1-5.移住す
一か月後、軍司は東京にいた。札幌の郊外に住んでいたのだが、日本の都市へと引越しをしていた。すでにかなりの金額を手に入れていたため、仕事はしていない。今の肩書は一様、投資家ということになっている。
今、軍司はまだ生活感のない部屋で、一際大きなモニターのPCの前で黙々とマウスを動かしていた。今週のノルマを早々に達成させるためである。ノルマと言っても軍司には容易いでただの作業に近い。ノルマとは株のデイトレードだ。一様の肩書とカモフラージュのため、ある一定のノルマを決め少し株で儲けている自分を演出していた。プロバビリティーを持つ軍司にとっては、RPGのレベルをコツコツ上げるようなもの。コツコツ上げてはパティーをたまに全滅されるがごとく、上手く儲けを調節していた。
しかし、ただ負けるのも癪にさわるので、たまに大勝ちしてしまうのは考え物だが。
そして軍司が慣れ親しんだ札幌の郊外から、東京へ引っ越してきたのには意味がある。
《軍司以外の能力者》だ。
軍司はプロバビリティーを使い、自分以外の能力者が東京にいることを突き止めた。突き止めたといっても
《軍司以外の能力者が日本にいる可能性》
《軍司以外の能力者が北海道にいる可能性》
《軍司以外の能力者が青森県にいる可能性》
《軍司以外の……。
というように、根気強く調べていっただけなのだが。
最後の確認として、
《軍司と同じ能力の可能性 0%》
となった。軍司はここで一息つく。同じ能力で無いということは、自分の存在を知られていないかもしれない。甘い考えが頭をよぎる。
「いや、甘い。この問題を流したままにしたらダメだ。自分から動いて行かなきゃダメだ。」
他の能力者は、得体の知れないもの。
――――
日本に2人いるんだ。世界にはもっといるかもわからない。能力者で組織を組んでるかもわからない。そんな組織が二つ対立しててみろ。ゴタゴタに巻き込まれるのは、目に見えてる。政府が能力者を探している可能性だってある。考えだしたら切がない。
「よし!まずは東京にいる、能力者と接触してみよう。やばそうなら、地の果てまでも逃げてやる。」
もし政府などがかかわっていた場合、個人である軍司が逃げ切れる訳はないのだが、そんなことは考えずに東京への移住を決心したのだ。
「しかしなぁ。」
探すといっても切がない。また根気よくプロバビリティーを使うのか?そんな気力はない。
着の身着のまま、東京に来て適当に3LDKの家を千代田区借り、家具も適当に揃えた。
何とも忙しい、落ち着かない日々が続いたためか。
まずは、のんびり東京を楽しみたい!これが軍司の最重要項目となった。
「お酒でも飲みにいこー。」
なんとも楽天家らしい、一面が出たが本人に言っても認めないだろう。本人はいたってまじめだ。いや、まじめなつもりだ。
「けど、まだ早いから、スクランブル交差点とやらが、どんなもんか見に行くか。」
お気に入りのジャケットを羽織り、鞄を持って軍司は玄関を出る。
「いやー、これまたすごいな。」
ニュースなどで上空からのスクランブル交差点は何度か見たことがあるが、実際に己の目で見るのとでは、迫力が違う。
「よく、誰もぶつからねーな。」
周りをきょろきょろと見回し、完璧なおのぼりさん丸だしで、一人東京観光を楽しむ軍司。
------しかし、こうなったら俺以外の能力者を探すのは、難しいな。『人は動く』そう、交通機関の多いこの東京。東京に能力者を見つけた時のように探していくのは、難しい。なぜなら、『渋谷にいる可能性。で100%と出ても、たまたま買い物で来ていて帰宅されてしまう場合や、電車で偶然通っていただけの場合などなど、近づこうとすればするほど、絞り出すのが難しくなる。
しかも、相手がどんな能力者かわからない。うかつに動き回らない方がいいか。
軍司は外出前の、のん気な考えをやめ、すぐに帰宅することにした。
------まずはネットだ。どんなに信憑性が低くてもいい、何か情報がないかチェックしよう。それと並行してプロバビリティを使って思いつく限り試して行こう。何としてでも他の能力者を探し出す。敵か味方か、その他の何かか。
「後手に回ったら終わりだ。」
軍司は見えない相手に恐怖を覚える。その帰路は足早に思考を廻らせながら歩を進めていった。
しかし、軍司の思惑はすでに崩れ去っていたのである。
???「みーつっけた!」
軍司の運命を変えた一瞬である。