1-3.知る
「あの文字はスクラッチカードだけに反応すんのか?それにしても曖昧な表示だよな。」
まず、軍司が確かめなければならないのは、浮かび上がる文字の信憑性。くわえて他のものでも表示されるのか、表示をどこまで明確に理解できるかだ。
「よし、まずはまたスクラッチカードを買って来よう。」
軍司は壁掛けの時計を見るが、すぐにその考えを改める。時計の針はまだ7時、社会人にとっては忙しい時間帯だが休日の軍司には関係ない。むしろこの休みにために頑張ってきたのだ。
「スクラッチカードの販売がだいたい10時ぐらいからだろうか。後、3時間何かできることはないもんか。」
軍司は思考を巡らすが、そうやすやすと答えが出てくるものでもない。
「先、風呂でも入るか。」
寝起きの頭をスッキリさせれば、何か出てくるかもしれない。ましてはジッと考え込むよりはましだろう。
軍司はシャワーを浴びながら、考える。
------当選確率が分かっただけなら、あまり使えないよな。まして、さっきのは当たったけども200円だったしな。しかも店頭にあるスクラッチカードは、すでに印刷されているから、当たり外れが決まっちまってる。いや待てよ?スクラッチカードの10枚に1枚は200円の当たりだとする。その中に1等の当たりが混じっていた場合どうなるんだ?
《当選確率 200%》
こんな感じに表示されんのか?そんなのおかしいだろ。
頭の中で整理するはずが、大きな疑問となって跳ね返ってきた。軍司はすぐさま風呂場から出て、急いで体をふく。テーブルの上にある、スクラッチカードのもとへと駆け寄る。カードには、《当選確率 100%》浮かび上がったままだ。
------当選確率を変えられると楽なんだがな。
軍司は念じた。念じるとはよく分からないが、目を細めいろいろ念じ方を試していく。
「当たる確率……これじゃ意味ねぇ。………ん?おいおい、まじかよ!」
軍司は目を疑った。手に持っているスクラッチカードの表示に変化があったからだ。
《当たる確率 100%》
「これはいけるぞ!次は…1等当選確率!」
表示は先ほどのように変化していったが、今回は決定的な違いが出た。
《1等当選確率 0%》
「よし!願ってもない展開だ!」
軍司は一人部屋で渾身のガッツポーズと雄たけびを上げた。たしかに今スクラッチカードには《1等当選確率 0%》と浮かび上がっている。5等、200円の当たりカードにだ。
「これは大きな収穫だ。スクラッチを買う時に
《1等当選確率 100%》
のやつを選んで買えばいいんだ。」
スクラッチカードを選ぶ程度の事なら、売店のおばちゃんも許してくれるだろうと、一人うなずく軍司。
「ちなみに……。やっぱ、だめか。」
%の数字を変えようと、試みたが何の反応も示さなかった。当たり前といえば当たり前だ。すでに何当かの当選は確定している。くっきりと印刷されているものを変えることはできないようだ。
「でもまだ数字を変化させれないと決まったわけじゃないんだよな。宝くじとか買ったらどうなるんだ?競馬とか。」
当選の表示を変えられたのだ。確率そのものを変えられない可能性がないわけではない。
考えただけでも夢は広がる。しばらく、当たってもいない宝くじの使い道を妄想していたが、はたと気づく。
------この能力は何なんだ?いつ手に入れた?いつまで使えるんだ?何うれしくなって、一番大切なことを見落としてるんだ。よし、整理しよう。
軍司はソファーに腰掛け、思考を巡らす。
『今日、起きたらすでにこの能力はあった。では昨日の寝る前は?…いや、あまり覚えてないな。疲れて、飯も食わずにそのまま寝たんだ。財布すら開けてないから、スクラッチも確認できてないな。でも何かあるとしたら昨日のはずだ。んー、でもこれといって普段と違うことはなかったと思うんだが。んー。』
腕を組み、部屋の天井へと目線をやる。天井は水玉模様の凹凸のある白い壁紙が貼られている。
「あれ?飴玉…あのおばあちゃん。」
そこで軍司は飛び起きる!
『新しい世界を楽しんで!』
「あのおばあちゃんか!?あの飴か?おいおい、ずいぶんとファンタジーじゃないの!」
確証はないが軍司の中に確信が生まれる。随分と科学的根拠やら何やらが、抜け落ちているがそんなものに構ってはいられない。見えるものは見えるのだ。
「こうしちゃいられねぇ。あの飴玉の効果がいつ切れるかも分かんないんだ。試せること、できることは全部やるぞ!時間が足りなきゃ、仕事も休んでやる。こんなチャンスめったにないんだからな。普段から有給もろくに取らせてくれないんだ。インフルかノロにでもなったってでっち上げればいい。よし!まずは準備だ。」
家を出た後の行動もあまり考えずに、服を適当に着ていく軍司。この能力を試したくてウズウズしているのだ。
準備の最中、軍司はこの能力の事を“プロバビリティ”(確率)と呼ぶことにした。
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