1-2.探る
うっすらと目を開ける。部屋の電気はついたままだ。服も昨日帰ってきたままの姿だった。帰宅後、飯も食べずに崩れるように寝たらしい。鬱陶しい携帯のアラーム音を消し、ゆったりと体を起こす。
「はぁ。」
毎度お馴染みのため息と共に、風呂場にシャワー浴びに立ち上がるが、そこではたと気づく。
「あっ、今日休みじゃん。……なんだよ、ちくしょう。」
悪態を付きつつも、少し得した気分の軍司は、まだ温もりの残るベッドへと潜り込んだ。
------ 今日は一日なんもしない!
そう心に誓いを立て、ゆっくりと夢の世界へ落ちていく。
‥
‥‥
‥‥‥ん?
夢の世界への道すがら、軍司はある異変に気付く。その異変を確認するため、閉じきった瞼を開く。
「なんだ?あれ。」
ベッドから見えるテーブルの上に置いてある財布の上に、ぼやけた何がある。あるという表現が正しいかはわからないが、財布の上にうっすらと何かが文字のようなものが浮かび上がっていた。
「んー。」
自分が寝ぼけているのか、目にゴミでも入っているのか、疲労から幻覚でも見ているのか、その’何か’に、目を凝らす。
するとぼやけていたものは、はっきりと。しかも薄かったものは濃くなり始めた。
《当選確率 10%》
「あん?」
一人暮らしが長く独り言は当たり前のように出てくる。
まず、注目すべきはそこに確かに浮かび上がっている
《当選確率 10%》
という文字だ。にじり寄るようにテーブルの上の財布に近づく。首を左右に振り、いろいろな角度から見てみるが
《当選確率 10%》
は必ず俺の真正面に表示されている。
------ついに頭がいっちまったか?
最近の疲れ方は異常だった、特に昨日は倒れかけたのだ。目をつむり、頭をゴンゴン叩く。
「ふぅー。」
一息ついて、ふっくりと目を開ける。それでもそいつは、財布の上にくっきりと居やがる。
「なんなのこれ。」
しかし、このままという訳にもいかない。それよりも訳が分からなすぎて、楽しさすら感じている。
「一体全体、何が何で何なんだ?」
軍司の語彙力はさておき、財布を手に持つ。当然のごとく財布と一緒に
《当選確率 10%》
もついてくる。
「おお、これは面白いな!ではでは、財布の中身を確認しましょうか。」
一人暮らしの悪い癖だ、独り言が自然と出てくる。軍司は財布を開き、中身と取り出し始めた。
まずはお札を財布から取り出す。1000円が4枚。
「26歳にもなって、4000円しか無いとか泣けてくるな。まぁ、使う予定も無いし、おろせば有るし。」
誰に言い訳しているのだか、拗ねながら独り言い訳をつぶやく。
小銭も出したが、財布の上の
《当選確率 10%》
は変わらない。
次は免許証を取り出す、変わらず。
クレジットカード、変わらず。
キャッシュカード、変わらず。
数々のポイントカード、変わらず。
スクラッチカード10枚束、変わら……変わった!
いや、変わったというか、
《当選確率 10%》
がスクラッチカードの上に表示されている。
財布の上からは文字は消えていた。消えたというより元からスクラッチカードに表示されていたようだ。
「んー。どういうことだ?」
眺めていてもしょうがないので、とりあえずスクラッチカードの袋を開けてみることにした。スクラッチカードを袋から取り出すと、またもや表示が変化する。
《当選確率 0%》
《当選確率 0%》
《当選確率 0%》
《当選確率 0%》
《当選確率 100%》
《当選確率 0%》
《当選確率 0%》
《当選確率 0%》
《当選確率 0%》
《当選確率 0%》
カード1枚1枚に文字が浮かんだ。
「おいおい、まじかよ…。」
ここまでされたら、さすがの軍司でも察しがつく。体には興奮と寒気からくる鳥肌が立っていた。
「とりあえず、試してみるか。うん。」
テーブルの上に散らばっている小銭から10円を選び、まずは
《当選確率 0%》
をすべて削ってみる。
‥ガリガリガリ
「よし!すべてはずれだ。」
常人では喜べない結果だが、今の軍司はうれしい結果だ。残るは《当選確率 100%》1枚。
「行くぞ…。」
力が入りすぎないように、慎重に尚且つ素早く削る。
「あっ。…当たった…。」
スクラッチカードには横一列に並んだ同じ絵柄が描かれていた。軍司はすぐ横の当選金額を確認する。
「200えん。」
「あー!!!俺は馬鹿か!10枚買えば1枚は当たりだろうが!何、浮かれてんだ!何、ドキドキしてんだ!あー、馬鹿らしい。」
スクラッチカードを上に放り投げ、カーペットに寝転ぶ軍司。しばらくボーとしていたが、すぐにガバッと起き上がる。
「違うだろ。あの文字の事を考えるんだろ。」
軍司の謎はまだ続く。
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