14. あの日の誓い
「……」
「……」
リキョウの町外れに位置する小さな宿、その中でも一等安い部屋に、シウとルカの二人はいた。互いに背中合わせに座り込み、二つの寝台と小さなテーブルだけが置かれた質素な部屋で、シウとルカの二人は沈黙を守っていた。
この部屋の手配はルカがしたものだった。どのようにしてこの部屋を借りてきたのかシウは知らない。しかしそのことですら彼にとってはどうでもいいことだった。
すぐ下の階は食堂になっている。窓を開け放しているせいか、部屋には食欲を誘ういい香りが漂っていた。それでもシウは口を開くどころかいっこうに動きだす気配を見せない。いい加減耐え兼ねて言葉を発したのはルカだった。
「ねえ、シウ。お腹空かない? 何か食べに行こうよ」
「……」
しかしシウはそんなルカを一瞥するとすぐに視線を逸らしてしまった。
怒っているようには見えない。しかし、その表情はいつものシウのものではないように思えた。食事の匂いにも微動だにしないのがそれを表している。
「じゃあ僕、ここに持ってくるよ。何か食べたいものがあったら言ってよ」
「……」
結局、ルカは何の言葉も発さないシウを後にして食堂へと向かった。
◆
ぐうと腹の虫がなるのをおかまいなしに、シウはベッドの上にごろりと横になった。
「……なんで俺があんなガキに説教されなきゃなんねーんだよ……」
ぽつりと、ふて腐れるように呟く。脳裏に蘇るのは、今日の港での出来事。盗みは良くないと説く、自分よりずっと幼いルカの言葉だ。
「そんなの……分かってるつーの。でも、それでも、そうしなきゃ生きてこれなかったんだ。そうしていれば、レレィは助かっていたかもしれないんだ」
決して重い病だったわけではない。それでも命を落としてしまったのは、満足な食事を与えられなかったからだ。やせ細り、やがて水さえも受け付けなくなった妹は、恨み言ひとつ言うことなく死んだ。シウは、その瞬間の光景を今でも心に留めている。忘れることなど出来なかった。
だから誓ったのだ。
「……《コトダマ》さえ、《コトダマ》さえ手に入れば――」
世界の最果てに送り届ければ、《コトダマ》の在り処を教えると言ったルカ。そしてその場所はこの大陸にあるのだ。
「レレィ……、お前を生き返らせてやるからな」
あと少しなんだ。
シウは枕に顔を沈ませ、呟いた。