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この作品には 〔ガールズラブ要素〕〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

短編・その他

異世界でエルフを売るお仕事

作者: 山科碧葵

「いらっしゃいませ~」


 近くのギルドに(やと)われた男性勇者の一人が、今日もまたうちの店に来た。


「やぁルリルちゃん。新しい()入ってないかな?」

「入ってますよ~。お兄さんの大好きなナイスバディな褐色(かっしょく)さんが」

「見せてくれないか?」

「どうぞ、こちらです」


 店の奥の「幼女」、「褐色」、「ハイエルフ」、「従順(じゅうじゅん)」と書かれた扉を順々

に巡り、一番奥の「新着」と書かれた扉を開ける。


「あの娘ですよ」


 褐色肌のお姉さん型エルフが椅子の上にちょこんと座っている。

 目線はちょこっと下を向き、時折溜息をついている。

 勇者は褐色エルフを見つめながら品定めをした。


「よし買った! いくらだい?」

「物が良いので3000ギルカになりますね」

「3000か……仕方無い。それだけの価値はありそうだ」

「まいどありがとうございます。ではどうぞ……」


 褐色エルフのナンバーの書かれた腕輪を外し、勇者に手渡した。


「この腕輪をもう一度はめ込めれば勇者様の従順なお仲間になりますよ」

「分かった。ほいよ、3000ギルカ分の金貨だ」


 (はか)りを持ってきて金貨の重量を計る。

 ここをサボるといつか絶対騙される――と、前世で商売をしていた父が毎日の

ように言っていた。


「偽金も無いようですね。それにピッタリです」

「じゃあこの娘をもらっていくよ」


 腕輪をはめ直された褐色エルフは、さっきまでの暗い表情を一変させ勇者の腕

にギュッと抱きついている。

 私はこっそりと自分のステータス画面を(のぞ)き、

 MP8799546/9999999

 まだ大丈夫ね。

 心の中でホッとしてから、意気揚々と手を振る勇者を送り出した。


「またどうぞーっ!」



 私は転生者だ。

 しかも前世では正真正銘男の子。

 そう……あの事故にさえ()わなかったら、私はここにいなかった。





 私が俺だった頃――前世で俺は公立中学に通う青春真っ盛りな男子中学生だっ

た。

 ただその歳でもうエルフっ娘好きで、よく帰りにエルフ系のちょっぴり刺激の

強いコミック本を立ち読みしている――

 というちょっぴり危ない学生だった。

 普段は若いお姉さんが店番をしているので、そんな書籍を買うなんて恥ずかし

くてできない。

 だが希にお爺さんが店番をしている日があった。

 お爺さんが相手なら――買える!

 そう考えた俺は毎日その店に通い続け、ようやくお爺さんが店番の日にエルフ

コミックを堂々と購入することができた。


「あひゃあぁ! 念願の念願の……エルフっ娘コミック――」


 ……()かれた。

「エルフーっ!」と叫びながら国道で轢かれる――というもう思い出すだけで壁

を叩きたくなるような黒歴史を残し、俺は命を落とした。

 その後天界をさまよっていると、青い髪の女神様となんやかんや契約してこの

世界に転生することになったのだ。


「来世では何になりたいですか?」

「エルフ!」

「お仕事は――」

「エルフ!」

「能力は……」

「チートで」


 マジでこんな会話だったと思う。

 もう数年以上前のことだから忘れかけているけど。

 そんなわけで私はこの世界にエルフとして生まれ、エルフを売る仕事をしてい

ます。

 別に奴隷(どれい)とかじゃ無くて、勇者様が気持ちよく冒険やクエストを行えるように

ですね――はい。すみませんほぼ奴隷扱いされてます。

 一応この世界では奴隷禁止法なる法律があるんですが、人間にしか適応されな

いらしくてエルフは対象外らしいです。

 殺人罪は重罪だけど殺虫剤はゴロゴロ売っている。

 元の世界がどれだけ人間中心に回っていたのか、人間以外の生物になってよう

やく分かりました。



 でも楽しかったです。

 アマゾネスのような生活をしているエルフの群れに生まれた私は、大人になる

までずっとエルフっ娘に囲まれて成長。

 毎日毎日別のエルフっ娘に抱きかかえられ、それはもう天国のような暮らしを

していました。

 ――ただですね。

 この世界に転生して三年くらい()った頃、エルフ間での戦争があったんです。

 それで一気にエルフは絶滅の危機に襲われ、今ではこうしてまるで商品のよう

に扱われています。

 何でもエルフの遺伝子はほぼ全てが人間以上に優れていて、遺伝の法則に従い

エルフの血を受け継いだ生物は八割がたエルフとして生まれるんです。

 だから現存するエルフは本能的に性欲が高く、異性の生物と毎日のようにアレ

コレしているそうです。

 私は特殊なエルフなので売られることはありません。

 女神様からもらった能力のおかげで、私に逆らうエルフや人間はこの世界には

存在しません。

 MP9999999

 おまけスキル:自身を含む、生物のステータスを見ることができる。

 MPを1消費することで以下の能力を使用可能。

 能力:魔力を込めた腕輪で従順な奴隷を作る。

    全身に魔力を満たせ、完全回復魔法(ゴッド・ヒーリング)により即死しても生き返る。

    魔力を増幅させ、MPを完全に回復させる。

 上記の能力により、私がもし誰かと戦っても絶対に負けません。

 無双系能力は持っていませんが、持っているスキルが全部反則(ぜんぶチート)級なので問題な

く生活できてます。




 私はさっきの売り上げを数えながら、店内のテーブルの上でウトウトとしてい

た。

 温かくて気持ちが良い。

 そんな至高(しこう)の時間を邪魔する大きな声が店内に突入してきた。


「ルリルちゃん! 緊急のお仕事だ。助けてくれ」

「何かあったんですか?」

「うちのギルドナイトが古代龍に出会って、身体(からだ)を粉々にされてしまったんだ」

「分かりました。すぐ行きます」


 私は依頼人と一緒にすぐ隣のギルドまで駆け込んだ。

 数人の受付嬢や窓口の方々、そして仲間と思われるギルドナイトたちが毛布を

囲んで神妙な顔つきをしている。


「あそこです……」


 そこには人間の原型を留めていない、バラバラになった真っ赤な肉片が綺麗に

並んでいた。

 私はその破片を拾い集め、完全回復魔法を使用する。


神的回復(ゴッド・ヒーリング)


 粉々だった肉片は徐々に中央に集まり、ゆっくりと形を整えてもとのギルドナ

イトの姿へと回復した。

 私はその復元されたギルドナイトの全身を眺め驚愕した。


「女性だったのですか!?」

「ああ。しかもエルフだったらしい」


 顔を見ると――確かに、耳が少し長く緑色の綺麗な目をしている。

 戦地に行くエルフがいるなんて……


「身内もいない。孤独な人生を送ってくたらしい」


 エルフを売る身として――私自身エルフとしてとても悲しいことだった。

 戦うしか生きる道が無く、素性を隠して今までギルドナイトとして戦ってきた

なんて……

 私の中でちっぽけだった正義感が爆発した。


「私のところで雇っても良いですか? 売買では無く、従業員として」

「戦いがトラウマだろうからな。ギルドからは特に転職の縛りは無い」


 私はギルドナイトの(ほお)を撫でた。


「これからは一緒に安全な仕事をしましょうね……」





「ルリルさん……♡」

「ちょっと……まだ営業中なんだからやめなさい」


 元ギルドナイトのエルフっ娘、エミィは完全に復活した。

 私の店で従業員として働いてもらっているんだけど……


「ルリルさん……可愛い。いい匂い……♡」

「だから! 今お仕事中――見るなーっ!」


 店の入口付近で男性勇者たちがこっそりと店内を覗いている。

 客なら入れ。違うなら帰って!


「ルリルさん……もう我慢できませんわ」

「きゃぁぁ! エミィ!」


 エミィに押し倒され、入口付近で固まっている勇者たちからドッと歓声が上が

る。


「うはぁ! マジだ……マジなエルフっ娘同士の百合シュチュ……!」

「エミィちゃん! もっと。もっとルリルちゃんを可愛がって!」


 エミィは百合エルフだったらしい。

 新しい種類だ~なんて喜んで調べてたら、普通のエルフ以上に性欲や物欲そし

て独占欲が高いということが分かった。

 毎日毎日エミィに可愛がられる生活。

 私は元々男の子なので、エルフとイチャイチャできるのは構わないんだけど――


「うぉぉ……!」

「わぁー!」


 エルフ目的で買いに来た方々が、私とエミィの(から)みを見るだけで満足して帰っ

てしまうので――

 客が減った。

 売上が減った。

 しかも販売しているエルフたちまで、私たちの関係を真似してイチャつきあっ

ているから夜うるさい。

 もう少し静かにしてよーっ!

 これからもエミィとのこんな生活も悪く無いな――などと考えながら、私はど

うすればこの状態で売上が伸びるかを必死に考えていた。



 翌日。

 ルリルのエルフ屋の前に手書きの看板が立てかけられていた。


「ルリルとエミィの百合百合ショー。観覧料4000ギルカ」



 その後ルリルのお店が繁盛したかどうか。

 ルリルとエミィは幸せに暮らしているか……

 それはまた別のお話。

恋愛やサービスよりお金が大事なエルフさんのお話でした。

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