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聖獣王伝説  作者: 超人カットマン
第二章
9/55

第九話 公式戦闘

 源が聖獣の森へと迷い込み、そこで「植物女皇ラフレシア」と出会った事件より、しばらくの時が経過した。彼は夏休みを満喫しており、今日も家でのんびりしている。

「源、休みなのでくつろぐ事を悪いとは言いませんが、たまには…」

 ドラグーンは、聖装の中から源にこう言ったが、源は、

「偶にはって、この間聖獣の森に行ったばかりなのに?」

 と、言った。

「それはそうですが…」

 ドラグーンは口ごもると、少ししてから源に言った。

「その聖獣の森に来ていた謎の機械族聖獣、まだ情報を集めて無いですよ。」

「ああ、それね。別に急ぐ事でもないと思うけど。」

 ドラグーンの言葉に、源がこう返すと、

「それもそうだが、俺達も最近体が鈍って来てるんだよ。」

 と、聖装の中から、フェニックスが言った。彼が言いたいのは、ここしばらく聖装の中に押し込まれてばかりなので、たまには外に出て遊びたいと言う事である。

 フェニックスの言葉が終わると同時にである。源の携帯にメールが届いた、

「誰だ?」

 源がこう言いながら、届いたメールを確認すると、怠そうに起き上がった。

「どうしたんですか?」

 恐らく、聖装の中でニヤニヤしているのだろう。ドラグーンがこう訊くと、

「神司部の活動、これからあの時のハイドラの手がかりを探すんだって。」

 と、源は答えた。





 そして十数分後、源は聖装を持って学校にやって来た。そこには、自分を除いた神司部のメンバー、江美、彩妃、直樹、薫がそろい踏みしていた。

「源、一番最後よ!!」

 源が姿を現すや否や、部長の江美はこう言った。神司部は彼らが団結するにあたって、名義的に名乗っている名前なので、本来の部活と違い遅刻の概念は存在していないのである。

「と言う事は、連絡が来たのは僕が最後って事ですか?」

 源はこう言うと、皆に訊いた。

「それで、ハイドラの手がかりを探すって訊いてるけど、当てはあるんですか?」

 すると、

「はい?」

 江美以外の面子が、同時にこう言った。

「え? ほら。」

 不思議に思った源が、自分の元に来たメールを見せると、皆は、

「そんな話訊いてないよ。とにかく集まれって。」

 と、言った。そして、

「どういう事?」

 と、江美に詰め寄った。

「え、えっと。その…」

 江美は口ごもると、こう言った。

「その、源はまだ入ったばかりだから、やる事を教えた方が良いかな?って。」

 この時、源はある不快感を感じ、江美にこう言った。

「部長さん、特別扱いは気に入らないんで、止めて貰えます。」

 彼自身、明治時代から続く割と良い家系の家に生まれている。それゆえか、幼稚園の時代には変に特別扱いされた記憶があり、それ故に友人が一人も居なかった時代がある。それゆえ、自分が特別に見られるのはともかく、そうやって扱われるのは我慢ならないのだ。

「えっと、はい、分かりました。」

 江美は源にこう言うと、改めて皆に今日の活動に付いて説明することにした。

「さっき源に私のメールを見せられて分かってると思うけど、今日は前の夏祭りに出現したハイドラを探しましょう。」

「さっき源も訊いてたけど、当てはあるの?」

 江美の言葉に、彩妃が質問すると、

「現場に再び行けば何とかなるでしょう。」

 江美はこう言った。

「と言うか、なんでハイドラに拘るんだ?」

 その江美に、直樹が肝心な事を訊いた。

「確かに、それは気になっていた。」

 他の面子も、同様にこう言うと、江美はこう答えた。

「簡単に言えば、神司部の戦力アップ。話によるとあれは神司の持っている聖獣みたいだし、うちの学校の生徒ないし関係者なら、そのまま入部。違う人でも、こちらに協力の意志を付けられればOKと言う事。」

「出来るかなぁ~?」

 江美は自身たっぷりにこう言っているが、他の面々は一様にこう思った。もしあの時のハイドラが、聖獣たちの言う通り神司の制御から外れたのならともかく、神司が意図的に放ったとすれば、戦力どころか自分たちにとっても危険な存在になりかねない。





 しかし江美は、

「やってみなければ分からない!!」

 と、皆に言い放ち、強制的に現場へ皆を連れて来た。あの日は夏祭りだったので、多くの人で賑わっていた。しかし今は平日であるため、人通りは少ない。時折車が通り、色々な服装の人々が通っている。出かけるなり、帰るなり様々な道を歩いているのだろう。

 それぞれ違う方向を見ながら、皆は江美に言った。

「やっぱり何も残ってませんね。」

 と、彩妃が、

「あの時は決闘空間に飛ばしたんだ。」

 と、直樹が、

「ここに痕跡が残るはずは無いと思うけど。」

 と、薫が言った。

「はいはい、そういう事を言う前に何かを探す。少なくとも奴は最初現実世界に居たんだから、何か残してると思うよ。」

 江美が皆にこう言って、鼓舞している最中、源は何をしていたかと言うと、

「よーし、あとちょっとで…」

 近くにあった自販機の前で這いつくばり、地面と自販機の隙間に手を突っ込んでいた。

「主、何してるんですか?」

 聖装の中のドラグーンが、半ばあきれた口調で源に訊いた。因みにドラグーンの基本的な源の呼称は「源」だが、呆れたりツッコんだり、立場を弁えるべき時は「主」となる。

「後ちょっと、後ちょっとで10円に手が届く。」

 腕を伸ばしながら、源は言った。

「じゅ、10円?」

 ドラグーンは、いかにも信じられないと言わんばかりの口調で、源に言った。

「主、確かに金は大事でしょうけど、いくら何でも10円で地面に這いつくばるのはどうかと。はっきり言って、恥ずかしいです。」

 確かに人通りはまばらだが、一人の少年が一生懸命自販機の下に手を突っ込み、10円を獲得しようとしている光景というのは、知り合いにしてみれば知らん振りして通り過ぎたい所である。

「あの、何やってるの?」

 源の近くにやって来た江美は、何とも言えない表情で源に訊いた。

 源がドラグーンに訊かれた時と、全く同じ答えを返すと、

「いくら何でも、10円でそこまでするのは…?」

 江美はこう言った。一方の源は、

「たかが10円、しかし10円。」

 と言って、自販機の下を探っている。

(源の家って貧乏なの?さっきは、古くから続く名家の生まれって訊いたけど?)

江美は様子を見ながらこう思った。その内に、手ごたえを感じたのか、突っ込んでいた手を出した。

「取ったどー!!」

 源がこう言うと、彩妃や直樹、薫もやって来た。

「どうしたの?」

 三人が訊くと、源は手に持っている10円と思われていた物を見せた。

「? メダル?」

 見た者達が同時にこう思うと、

「残念でしたね源、10円では無いですね。」

 ドラグーンも聖装の中からこう言った。

 源が自販機の下より引っ張り出したのは、綺麗な銀色に輝くメダルである。恐らく、ゲームセンター等に使われているタイプの物であろう。表と裏にキャラクターの絵が描かれている。

 源が何故間違えたのか、恐らくそれは地面の色や、光の当たり具合の影響であろう。

「僕の苦労は一体何のために?」

 がっかりしたのか、源がこう言ってメダルを放り投げた時、

「あ、見つけてくれたんだ。」

 後ろから誰かがこう言って、源の放り投げたメダルをキャッチした。

「はい?」

 皆が同時にその方向を見ると、そこには良家の生まれなのだろう。普通の少年の着こなしながらも、どこか気品が感じられる服装が特徴の少年が居た。手には畳まれた、黒い扇子がある。

「見つけたって?」

 源がこう訊くと、少年は説明した。

「実はこの間、ゲームセンターの帰りにポケットにメダルが忍び込んでいた事に気が付き、返しに行こうとするも、落としてその下に落としてしまったんだ。」

 少年の言うその下とは、自販機の下の事だろう。

「とにかくありがとう。」

 少年はこう言って、その場を立ち去ろうとした。しかし、いつの間にかその行く手を阻んだ江美が、彼にこう訊いた。

「貴方、神司だよね。」

「は?」

 源たちは勿論、少年も江美の訊いた事には驚いた。少年は、江美の言葉を冷静に理解すると、こう言った。

「まあ、そんな者だ。俺の名は松井祐介って言うんだ。」

 そして、彼の聖装なのだろう、手に持っている扇子を開いた。すると、そこから一枚のカードが現れた。

 カードに描かれている、十本の首を持つ黒いドラゴン族聖獣の絵を見た瞬間、皆は一様に叫んだ。

「あー!!ハイドラ!!」

「? ああ、ハイドラだけど?」

 ハイドラがどうした? と言いたげな表情で、祐介が言うと、

「まさか、ここまで簡単に見つかるなんて。」

 江美は驚きを隠せない表情を浮かべてこう言うと、祐介に話した。自分たちは神司で、かつての夏祭りの時に彼が暴走し、その際自分たちと交戦した事を。

「アンタらだったの?ハイドラの言ってた聖獣の主って?」

 祐介がカードを見ながらこう呟くと、彩妃が訊いた。

「と言うか、なんで貴方のハイドラは暴走してるの?」

 その口調は質問していると言うより、詰問しているに近かった。恐らく彼女は、彼がハイドラを暴れさせていた、と思っているのだろう。

 その事を悟ったのか、祐介は最初から説明することにした。

「あれは、丁度花火が始まる前の夜の事だった…」





 仕事の忙しい両親が出払い、家で一人だった祐介は、夏祭りの花火の時間に差し掛かると同時に、いそいそと準備を始めた。

 あらかじめ冷やしておいた、四分の一カットの西瓜の一部を切り取ると、それと麦茶の入ったボトルを持ってベランダへ出て行った。ベランダと言っても、洗濯物を干すには十分以上に広いスペースがある。

「後は、これで良しと。」

 どこからか小さなテーブルを取り出し、そこに西瓜と麦茶のボトル、そしてコップを置いた。花火を見ながら、麦茶と西瓜を楽しもうと言う魂胆なのだろう。

「しかし、今日は暑いな。」

 祐介は、ここまで急いで動いたので体が熱くなったのか、聖装である扇子で自身を扇いだ。涼しい風が吹いて来て気持ち良いが、この後まずい事になった。

 いきなり強風が吹くと、祐介の扇子に当たり、中のハイドラのカードが抜けて、そのまま飛んで行ってしまったのだ。

「あ―!!」

 祐介は慌ててカードを取ろうとしたが、間に合わずカードは遠くへ飛んで行ってしまった。





「それで、あの瞬間に具現化して、暴走するに至るわけか。」

 彩妃がこう言うと、江美が今回の事に置いて、最も重要な事を言った。

「それで祐介君?」

「祐介で良いよ。」

 江美の呼称に、祐介がこう言うと、江美は咳払いして言った。

「私たちはあっちの小学校に所属する神司で、今後大きな戦いがあるかもと言う事で、神司部と言うのを作ったんだけど、祐介も入らない?」

 この誘いに、祐介は少し考えると、

「俺の所属する学校は、こっちです。」

 と言って、こちらから見れば源たちが通う学校より手前にある学校を指差した。その後、

「俺自身は良いよ、でも、こっちが何ていうか。」

 ハイドラのカードを見ながら言った。彼が言うには、ハイドラは首が沢山ある故か、群れると言う行動を何よりも嫌うらしい。

「何とか説得できない?」

 江美が訊くと、祐介はこう言った。

「口で説得するのは無理だけど、力で無理矢理言う事を訊かせる事は出来るかも。」

「はい?」

 この言葉に、江美や源、彩妃、直樹、薫が一様に目を丸くすると、

「神司、松井祐介と聖獣ハイドラの名の元に宣言する。今ここに、聖獣バトルの開催を宣言する。」

 祐介はこう言いながら、手に持った扇子を開き、それを掲げて叫んだ。

「照覧あれ!!」

 その瞬間、祐介も含め、その場に居た人間は皆、その場より消え去った。





 皆が気が付くと、そこは数多くの聖獣や神が居る、コッロセオを思わせる場所だった。あちこちに天秤を思わせる飾りが付いており、その天秤は観客席の聖獣や神の声援で、グラグラと揺れている。

「何ここ?」

 ここがどこか分からない面子が、一様にこう言うと、

「ここは決闘空間。」

 と、祐介は言った。

「え、でも決闘空間って?」

 疑問に思った薫は、自分たちが良く行く決闘空間の特徴を言った。神司が決闘空間の展開を宣言すると同時に行くことに出来る、現実世界を忠実に再現した場所。それが彼らの認識する決闘空間である。

「確かに、ここもそちらも決闘空間です。違うのは、使用する際の用途ですね。」

 すると、どこからか声がした。皆がその方向を見ると、そこには白装束を身に纏った、長い黒髪が特徴の美しい女性が居た。背中に白い翼がある事から考えて、巨人族か妖精族の聖獣だろうと考えると、

「お初にお目にかかります。私は獣族の、リブラスワンと申します。」

 白鳥の特徴を持つ獣族聖獣「リブラスワン」は自己紹介し、一礼した。

(ああ、鶴の恩返しみたいな感じか?)

 人の姿を取っている事を疑問に思った源だったが、助けた恩を返される昔話を思い出し、こう思った。

 その中で、リブラスワンはこの場所について説明した。

「そもそも決闘空間と言うのは、聖獣が全力で戦う事を唯一許された場所の総称なんです。みなさんの良く行く世界は、いうなれば聖獣の討伐のための世界。ここは純粋な力試しや、神司同士で何かを手っ取り早く決める際に使用するのですよ。」

 決闘空間の説明を終えたリブラスワンは、次にこの世界での戦いについて説明した。


聖獣バトル、規則

基本は一対一で聖獣同士を戦わせ、先に規定の霊力を失い、実体を保てなくなった聖獣が出た時点で決着、霊力を残している側が勝者となる。一対一の構図を守れるのであれば、味方の乱入、相手の妨害等の行為は大方認められるが、以下の決まりは絶対に守らないといけない。


1、バトル中、如何なる理由があろうと神司を直接攻撃してはいけない。(例外有)


2、バトル中、神司が体の不調等を訴えた場合、どんな状況であろうと試合を中断、もしくは中止しないといけない。ただし、虚偽を訴えた場合、虚偽を訴えた側にペナルティを加算、相手が上記のルールを守らなかった場合、無効となり試合を続行する。


3、原則、味方の乱入や相手の妨害は認めるが、行動開始より十秒間限定である。十秒が経過したら、直ちに行動をやめなければいけない。十秒が過ぎると自動的に行動を封じるが、それでも行動を続けようとするとペナルティが加算される。


「以上です。もしも理由があって試合を中断させたい場合、乱入しないで私に言って下さいね。」

 説明を終えたリブラスワンがこう言うと、

「と言うか、つまりどうなったら勝ちなの?」

 と、薫が祐介に勝利条件について訊いた。先ほどの説明は分かりにくかったのだろうか。なので、祐介は簡潔に説明した。

「簡単に言えば、最初にバテたら負けなんだ。柔道の場合は、一本を取られたら強制的に負けになるけど、こっちの場合は一本取られても、競技の続行が可能な限り競技を続けて、最終的に試合をしてるどちらかが動けなくなったら、これまでの試合の成績に関わらず負け。つまりは、ガンガン攻撃して霊力を削り取って勝つのも、逃げ回って相手に霊力を消費させて勝つのもOKなんだ。」

「要するに、一番動き続けられたら良い訳ね。」

 彩妃がこう言うと、リブラスワンは皆に訊いた。

「試合の形式は、祐介さん対丘小学校神司部で良いのですよね。」

 その事を祐介が肯定すると、神司部の面々は一様に驚いた。

「つまり、五対一って事?」

 直樹がこう訊いた。いくら何でも無茶では無いか、と思っているのだ。

 一方の祐介は、あっけらかんと笑いながらこう言った。

「これくらいしないと、ハイドラは納得しないし。と言うか、ハイドラかなり強いよ。」

 祐介の態度を見ていると、本当に五人連続で相手し、勝つ自信があるのだと思われる。それに、折角有利な状況の中、それを捨てるのもどうかと思うので、とりあえず神司部の面子はそれを受け入れて、控えの席に向かった。





 決闘空間全体に流れている、リブラスワンの実況を訊きながら、神司部の面子は戦いに出る順番を決めていた。

「それじゃあ、最初に誰が出る?」

 江美が皆に訊くと、誰かが名乗り出るより前に、ある人物が名乗りを上げた。

「じゃあ、私が行く!!」

 彩妃である。かつての戦いでは、彼女のイスフィールは早々に戦闘不能にされた為、その時の雪辱を晴らしたいのだろう。

「勝つ自信はあるの?」

 江美が試しに訊くと、彩妃はこう宣言した。

「無いから作って来る。」

 つまりは、自身は無くても負けるつもりは無い、と言う事である。

「そう、じゃあよろしく。」

 江美がこう言った事で、彩妃はフィールドに出て行った。勿論、聖装のギターを持った状態で、

「行くよ、イスフィール!!」

 彩妃は一枚のカードを取り出すと、聖装に付いたスロットに差し込み、張られた弦を一回ならした。その結果、五線譜や音符の演出を伴い、イスフィールが姿を現した。

 一方、祐介のハイドラはすでに姿を現しており、イスフィールの前にその巨体を晒している。

「ほう、あの時の小娘か。我に渡り合えるだけの力を得たのか?」

 どの首が喋っているのか、ハイドラがこう言うと、

「今回は待ったなし!!遅れても待ってあげません!!」

 イスフィールは錫杖と指揮棒を構えながら、こう宣言した。

 互いの準備が整った事を悟ったリブラスワンは、右手に軍配、左手に天秤を持つと、

「聖獣バトル、ready go!!」

 と、叫んだ。この瞬間、空間の中にゴングを思わせる甲高い音が響き、聖獣や神が大歓声を上げた。

「先手必勝!!イスフィール!!」

 試合が始まるや否や、彩妃は聖装にカードを一枚差し込んだ。そのカードには、妖精族の聖獣が、数人に分かれている絵が描かれている。

「マイセパレート!!」

 マイセパレートと言うのは、妖精族の聖獣であれば誰もが使える技であり。自らの姿を複数に分身させる効果がある。

「分身を用いて的を絞らせない作戦?普通ならそれで良いけど。」

 祐介はこう言うと、手を振ってハイドラに指示を出した。結果、ハイドラは複数ある首で分身も含めたイスフィールに襲い掛かった。

 ハイドラの口が迫っても、イスフィールは全く動じなかった。軽い動きで首をそれぞれ回避すると、一人一本の首に纏わりついた。そして、その首にそれぞれ違う事を囁いた。

「本物はあちらです。」

「私は偽物です。」

「偽物を称する者は本物です。」

「私こそが本物です。」

「この中に本物は居ません。」

 全部を書くと、キリが無いので省略。この状態で彩妃とイスフィールが狙っているのは、ハイドラの集中力を欠き、尚且つ首の代表を見つけることである。ハイドラは確かに複数の首を持ち、様々な情報をいち早く知ることが出来る。しかし、いくら首が多くても、体が一つしか無い以上、最終的な行動を決める首の代表、もしくは十一個目の脳があるはずである。イスフィールの一連の行動で、首の代表が見つかるか、ハイドラ本人が混乱すればそれで良し。その瞬間に反撃に移るつもりなのだ。

 やがて、ハイドラの首の内、偽物その七の纏わりついた首が大きく動くと、別の首がそのイスフィールに噛みつこうとした。彩妃はその行動を、代表の首が目立つ動きをし、それに他の首が応じたのだろうと考え、

「今の首に攻撃!!」

 と叫んで、聖装にカードを差し込んだ。そこには、妖精族の聖獣が分身し、様々な技を繰り出している絵が描かれている。

「フェアリーコンボ!!」

 結果、イスフィールは彩妃の指示した首にめがけて、様々な属性の技を繰り出した。ある物は火属性、あるものは氷属性、あるものは雷属性、またあるものは、持っている錫杖や指揮棒で相手を殴る技である。

「よし、いっけぇ!!」

 彩妃がイスフィールにこう言うと、祐介はこう言った。

「成程、ハイドラの行動の決定権を持つ首を探していた訳か。でも、ハイドラの行動は首が決める事じゃないし、そもそもハイドラは人の話を聞かない。」

 すると、ハイドラは技を受けながらも、十本の首を両側に広げた。そこには、巨大な一つ目があった。その目はギョロギョロと周りを見回すと、イスフィールを見つけると同時に睨み付けた。

「え?」

 イスフィールが気が付いた時には、彼女の分身は消え、あろうことか身動きもとれなくなっていた。

「どうしたの?!」

 彩妃がこう訊くと同時に、祐介は聖装の扇子に一枚のカードを差し込んだ。扇子の上にカードを置き、扇子を畳むと言う珍しいやり方を使用している。

 結果、ハイドラは左右に広げた首の口に、激しい熱エネルギーを集中させ始めた。

「行け!!ダークヒドラ!!」

 祐介がこう叫ぶと同時に、ハイドラは左右に広げた首を閉じ、十本の首から黒い火炎を吐き出し、イスフィールに浴びせた。身動きを取れないイスフィールはこの技を回避できずに被弾、霊力を失い実体を失った。

「勝負あり!!勝者、ハイドラ!!」

 審判であるリブラスワンが宣言することで、第一試合はハイドラの勝ちとなった。





 試合が終わり、黒焦げになったイスフィールと戻ると、彩妃は皆にこう言った。

「ゴメン、啖呵切って負けちゃった。」

 すると、江美が急に立ち上がった。皆は怒るのかと思ったが、予想に反して江美は、

「それで良いの。と言うか、部長の私より彩妃に勝たれたら、私の立場とプレッシャーが半端無いじゃない。絶対勝たないとって。」

 と、彩妃に言った。別に怒っては居ないようである。

 気を取り直して第二回戦に挑む事になり、江美は周りを見回しながら、今回は誰かに訊くことなく二番手を指名した。

「直樹、頑張って負けて来なさい!!」

 笑顔で酷い事を言う江美に直樹は、

「酷いな!?」

 あからさまに不満を訴えたが、それでも大人しくフィールドに出た。

「まあ何であれ、勝負事で負けるつもりは無いしな。行くぜ、フレアノドン!!」


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