第八話 女機襲撃
ある時、昆虫採集のために訪れた場所で、聖獣の森と呼ばれる場所へ迷い込んだ源と、仲間の聖獣たち。彼らが森を取り仕切る「植物女皇ラフレシア」に会った瞬間である。突然大きな衝撃が走った。
「な、何ですか?」
源が驚くと同時にラフレシアに訊くと、ラフレシアは、
「最近、この森を侵略している聖獣の一隊があるのですけど、このタイミングで?」
と、言った。
一方のレイラは、衝撃が収まると同時に、
「すべての兵士聖獣に告ぐ!!直ちに民を安全地帯へ避難、その後、敵を迎え撃つ。」
樹の中、そして森のあちこちに響くようになっているのだろう、アサガオを思わせるマイクにこう叫ぶと、彼女も部屋を出て行った。
また、伏せて衝撃に備えていた源とその聖獣たちはと言うと、
「良し、僕たちも手を貸そう!!」
源が聖獣たちにこう宣言し、誰もそれに異を唱えなかったので、レイラと同様に部屋を出て行こうとしたが、
「なりません。」
ラフレシアが、自らの能力で床より植物を生やして、源と聖獣たちの行く手を阻んだ。
「なんでさ!!」
ステゴサウルス・Jackがラフレシアに訊くと、
「貴方方は確かに招いていない客かもしれません。ですが、一度この森に入れた以上、私にとっては大切な客人。それに…」
彼女は一旦口ごもり、こう言った。
「奴らは戦闘力レベルにして7000の聖獣とも渡り合える強力な聖獣の集まり、たかが4000どまりの相手で叶うとでも?」
「7000?つまり貴女方、部族皇に並ぶ戦闘力の持ち主と言う事か?」
ドラグーンは驚くと同時にこう言った。戦闘力レベルと言うのは、聖獣が戦闘を行った結果、どれくらい強いのかを表した数値で、最低1000から、最高で10000まで存在している。因みに、4000と言う戦闘力レベルは、強くも無く弱い訳でも無い、標準的な聖獣である事を表している。とはいえ、戦闘力レベルが純粋に聖獣の強さとなるわけでは無いので、純粋な力比べにならない限り、戦闘力レベル3000の聖獣が二体掛かりで、戦闘力レベル5000の聖獣に勝てる訳では無いが、
「だから何ですか?関係無いですよ。」
こう言い放つ源に対し、ラフレシアはこう言った。
「関係大有りです!初心者の神司の戦闘に置いては、戦闘力レベルが何よりも重要になるのですよ。私と渡り合える力があるなら、話は別ですが。」
ラフレシア自身、これで力の違いと危険を理解してくれると考えていた。しかし、源はこう言った。
「つまり、奴らを倒せるだけの力があるなら、貴方にも勝てると言う訳ですね。」
そして、聖獣たちを集めると聖装を取り出し、複数の技カードを差し込んだ。
「ダブルクロー、フレアカッター、エレキシュート、ウィングブレード、グランスピン。」
その結果、
「エレキシュート!!」
最初にエレクトードが、口から電流の弾を発射する技「エレキシュート」を発動させて、行く手を阻んでいる植物にダメージを与えると、
「ダブルクロー!!」
ドラグーンは両手に仕込まれた剣を振り回し、連続で二回斬りつけ、
「フレアカッター!!」
フェニックスは炎を全身に纏い、炎の刃となって植物に突撃し、
「ウィングブレード!!」
ジェットシャークは、主翼の変形した刃で植物を切り付け、
「グランスピン!!」
ステゴサウルス・Jackは、源たちと戦闘時に使用していた、高速の縦回転技を繰り出し、植物を攻撃した。
結果、電車が激突しても傷一つ付かず、折れ曲がる事すら無い筈のラフレシアの植物が焼け焦げてボロボロになり、やがて砕け折れた。
聖獣が次々と部屋を出て行く中、源は最後まで残り、ラフレシアにこう言った。
「例え力が無くても、戦う理由が無くても、それを戦わなくて良い理由にする事は出来ないのでは無いですか?」
そして、聖獣たちに付いて外に出ると、飛行機形態になったジェットシャークに乗り込み、現場に向かって行った。
その頃、現場では警備会社を経営していると言う「ディノニクス・walker」の集団と、敵の聖獣たちが交戦していた。
「行くぞ!!」
ディノニクス・walkerは一斉に飛び上がると、聖獣たちのリーダーなのだろう、一番
前に居る、長いブロンドの髪と抜群のスタイルが特徴の女性の姿をした聖獣に、鋭い爪による攻撃を喰らわせた。
「どうだ!!防御の薄い妖精族に、この攻撃は応えるだろう!!」
ディノニクス・walkerの一人がこう言うと、相手の女性型聖獣は、こう言った。
「妖精族?残念だけど、私は妖精じゃない。」
そして、攻撃をまともに受け止めた筈なのに、骨はおろか肉も切られていない腕を、鋭い刃に変形させると、ディノニクス・walker達を吹き飛ばした。
「悪いな、私は機械族だ。」
機械族だと言う女性型聖獣は、笑顔でこう宣言すると、刃に変形させた腕を再び変形させ、七つの銃口を持つガトリング砲にすると、
「このままハチの巣になるのと、一発で逝くのと、どっちが良い?」
と、ディノニクス・walkerに訊いた。
「どっちも願い下げ、と言ったら?」
ディノニクス・walkerのリーダーがこう言うと、相手の聖獣は、
「そう、ならさようなら。」
と言って、ガトリング砲を連射し、大量の弾丸をまき散らした。弾丸の着弾と同時に、大量の砂煙が巻き上がると、
「凄い、あの数を一回の攻撃で…」
「流石、ドロシー様!!」
ドロシーと呼ばれた機械族聖獣の部下なのだろう、人工衛星を思わせる小さな機械族聖獣たち「ハヤブサ」が、こう言った。しかし、ドロシーは、
「勝って兜の尾を締めろ、戦闘はまだ終わってない。むしろ、今から大変だ。」
と言って、ガトリング砲を再び構えた。すると、突然周りに生えている樹の枝が揺れ始めた、
「な、何だ?」
ハヤブサ達がこう言うと、ドロシーは周りを見ながら言った。
「これは、まさか?」
その瞬間、木の枝より大量の固い木の実が、弾丸のように発射された。
「うわぁぁぁ!!」
ハヤブサ達が攻撃を受け、混乱に陥ると同時に、ドロシーはガトリング砲で木の実を打ち落とした。
「くっ!!動ける者は後どれくらい居る?!」
ドロシーが皆に訊くと、
「だ、ダメです…」
ハヤブサ達は攻撃を受けた為に、全員が負傷していた。
「さあどうしますか?これで貴方は一人ですよ。」
すると、木の陰から声が聞こえた。
一方のドロシーは、状況的に不利になっているが、それでも冷静さを失わずに、こう言った。
「流石はいずれ植物女皇ラフレシアの後を継ぐ者と言われているだけはあるな。あの一瞬の中でディノニクス・walker達を守り、尚且つ微弱な振動を受けて木の実を発射する木を成長させるとは。」
今まで巻き起こっていた砂煙が晴れると、ディノニクス・walker達の前に木の壁がそそり立ち、それが弾丸をすべて受け止めていた事。木の実を発射した木の傍に、レイラが居る事が明らかになった。
ドロシーが腕を元に戻すと、レイラは影から出て、ドロシーに言った。
「もう一度言います。これで貴方は一人です。」
しかしドロシーは、あくまで冷静にレイラに言った。
「一人なのは貴女も同じ事、もしかして、この状態で仲間が来る予想でも?」
「さあ、どうでしょう。」
レイラはこう言うと、ドロシーと戦闘を始めた。
一方、現場近くへとやって来た源たちは、ジェットシャークから降りて周りを確認していた。あちこちの木が焼けたり、抉られたり、折れたりしているので、機械的な何かが襲撃したのだろう。
「酷いな、この有様。」
フェニックスがこう言うと、
「とにかく急ごう!!」
源はこう言って、皆を連れて進もうとした。しかし、
「お待ちを、あちらより何者かが来ます!!」
ドラグーンは何かの気配を感じ取り、源たちを止めた。
「誰か?」
ステゴサウルス・Jackがこう言うと同時に、ドラグーンの示した方向より、ディノニクス・walkerの集団「ディノニクスズ」がやって来た。怪我をしているので、襲撃者と交戦したのだろう。
「おい、大丈夫か?」
エレクトードがこう訊くと、ディノニクスズのメンバーの一人が、こう言った。
「俺たちはとりあえず大丈夫だ。だが、レイラ様が一人で、」
「戦っている、か。」
ジェットシャークが、彼の言いたい事を予想し、こう呟くと、
「なら急ごう!!ラフレシア様の言う所によると、自分に匹敵する戦闘力を持つ敵が来てるみたいだし。」
源はこう言って、ディノニクスズの面々に、ラフレシアの居る樹の中が避難所として解放されている事を伝えると、その方向に向かって行った。勿論、ドラグーン達も一緒である。
その頃現場では、レイラとドロシーが激しい戦いを続けていた。
「セイ!!ヤア!!」
レイラは、兵隊を鍛える過程で覚えた格闘術で、ドロシーに攻撃を行っている。岩をも砕きそうな蹴りや拳が、何度もドロシーを掠めていくも、これまで一発も当たっていない。
レイラは一旦距離を取ると、息を整えながら思った。
(どうなってるの?さっきから一発も攻撃が当たらないなんて?)
一方のドロシーは、どこに仕舞っておいたのか、片手銃を取り出すと、それを左手に持ちながら言った。
「さてと、次はこちらから行かせてもらおうか。」
そして、引き金を引くことで、数発の弾丸を発射した。
レイラは、それらを飛んで回避すると、地面に数個の種を植えた。着地してバランスを取ると同時に、
「育って!!スパイシーフラワー!!」
こう言って、地面の中に自身の霊力を送り込んだ。結果、地面から複数の赤い花が生えて、赤い花粉をあたりに舞わせ始めた。
赤い花粉で視覚が効かない中、ドロシーはこう言った。
「スパイシーフラワー、出す花粉は加熱性が高く、少しの熱ですぐに爆発を起こすと言う。」
「そうですよ。貴女が銃火器を使えば、すぐに大爆発です!!」
レイラはこう言って、違う植物の種を植えようとした。しかし、ドロシーは、
「なら好都合。」
と言うと、左手に持った片手銃を、何のためらいも無く発射した。その結果、銃弾が発射された時の火花が花粉に点火し、あたりに爆発が発生した。
「な、何て事を?」
レイラは、爆風と煙で視界がままならない状況で思った。この爆発はあくまでけん制のためで、ロクなダメージを与えられる植物では無い。だが、あの距離で爆発を受ければ、防御できてもかなりの霊力を消費する事になる。スパイシーフラワーの名前を知っている時点で、相手もこの事実を知っていたはずである。
「好都合?まさか?!」
ドロシーの考えに気が付いた時には、既に遅かった。視界が悪い中、ドロシーが煙の中から飛び出し、レイラに襲い掛かった。何も持っていなかった右腕は、巨大な怪物の口のようになっており、レイラを食べようとしているのか、大きく開いている。
レイラは飛んで回避しようとしたが、後一歩間に合わず、左腕を食いちぎられてしまった。
「不意打ちを狙ったつもりだったが、結局躱されたか。」
食いちぎったレイラの腕を食べる自身の腕を見ながら、ドロシーはこう言った。
一方のレイラは、食いちぎられた腕の痛みに苦しみながら、こう言った。
「相手聖獣の体の一部を捕食し、霊力を回復する。噂通りの能力を?」
しかしその後、腑に落ちない事を思いつき、ドロシーに訊いた。
「でも、あの爆発の中で、どうやって私の居場所を特定したの?」
一方のドロシーは、ネタばらしは趣味じゃないと言いつつも、彼女に教えてあげた。
「私たち機械族の聖獣には、レーダーと言う物が付いて居る。たとえ目を瞑って、耳を塞いでいても、敵の場所を正確に知ることが出来る便利な物がな。」
「そうか、だから私の攻撃が…でも!!」
レイラはドロシーの言葉を聞くと同時に、腕の付け根だった場所に力を込めた。その結果、腕の無かった場所から、新たに腕が生えた。植物族特有の治癒能力であり、霊力を消費するだけで、欠損した体の一部をすぐに再生させられるのだ。最も、神司を持つ聖獣であれば、聖装の中に戻るだけでどんな傷も治せるが。
「成程な。だが、それでお前は相当な霊力を消費した。戦うのはともかく、帰る分はあるのか?」
レイラの腕で霊力を回復したドロシーは、まだまだ余裕なのか、腕を剣に変形させてレイラに訊いた。
「さあ、どうだろ。」
レイラはこう答えたが、
(帰る分も残ってないよ!!)
心の中ではこう思っていた、そして、ドロシーが腕を振り上げるのを見ると、
「ラフレシア様、申し訳ありません。」
最後を悟ったのか、こう呟いた。
ドロシーが腕を振り下ろした、まさにその瞬間である。
「せーのぉ!!!」
爆風によって倒れた木を踏み台に、ドラグーンとジェットシャーク、そして源が飛び出して、ドロシーの背中を蹴り飛ばした。
「え?ええぇぇぇ!!」
ドロシーはあまりに予想外だったのか、回避できずに吹っ飛んでいき、爆発を受けながらも奇跡的に立っていた木の激突、その後木と共に倒れた。
「あ、貴方たち?」
レイラが、突然の援軍に驚くと、遅れてやって来たフェニックスが、レイラに近寄りこう言った。
「怪我は無かったか?」
レイラは、あったけど治した、と答えると、
「何でここまで来てるんですか?」
と、源たちに訊いた。この言葉に、源はこう答えた。
「うーん、そうだね。そこに戦いがあるから?」
「なんで疑問形?」
源の言葉に、ドラグーンはこうツッコんだが、それでも、彼の前に立つと、蹴り飛ばしたドロシーの方を向いて言った。
「これで戦況は五体一、まだやりますか?!」
その言葉を受けて、フェニックスたちも前に出ると、蹴り飛ばされたドロシーはこう言った。
「まさか、私が不意打ちされるなんて。」
そして、何事も無かったかのように立ち上がると、レイラに訊いた。
「彼は今の代の植物の担い手さんか?」
この問いには、レイラでは無く源が答えた。
「残念ながら、担い手さんじゃ無いよ。」
「そうか、何にせよ私の前に立った以上、始末する!!」
源が答えると同時に、ドロシーもこう言って、戦闘の第二ラウンドが開始された。
「斬撃の舞!!」
最初にドラグーンが、両腕に仕込んだ剣を用いて放つ、不規則な斬撃の嵐を浴びせて攻撃を行うと、
「フレアカッター!!」
フェニックスが高速で接近し、炎を纏い剣と化した翼で、ドロシーを斬りつけた。
「斬撃のコラボレーション、受ける事は出来ないか?」
ドロシーは、防御の構えを取った状態で高くジャンプし、ドラグーンとフェニックスの立つ場所より、少し離れた場所に着地した。
しかし、聖獣たちに指示を出す綾小路源は、その動きを読んでいた。むしろ狙っていたのだろう、聖装のスロットにカードを一枚差し込んだ。
「グランドラム!!」
差し込んだのは、恐竜族の聖獣が地面を踏み鳴らしている絵が描かれたカードで、カードが差し込まれると同時に、違う場所で待機していたステゴサウルス・Jackは、激しく地面んを踏み鳴らし始めた。
その結果、地面は踏み鳴らされるペースに共鳴するようにして振動を発し、ドロシーの足場は激しく上下に揺れ始めた。
「くっ!!」
ドロシーは自身の背中を変形させて、飛翔するためのバーニアの取り付けた翼を取り出すと、それを用いて上空へ飛び上がった。
その後、腕を銃器に変形させて、上空から攻撃を仕掛けようと考えたが、
「そうは行かんぞ!!」
エレクトードが舌を伸ばしてドロシーの足を捕まえ、これ以上上がれないようにしていた。
「良し!!エレキキャプチャー!!」
エレクトードが動くと同時に、源も聖装のスロットにカードを差し込んだ。差し込んだのは、エレクトードが捕まえた相手に放電している絵が描かれたカードである。
「喰らいな!!」
エレクトードがこう言うと、彼の舌を伝って、何万アンペアもの電流がドロシーに流れて行った。
「グアァァァ!!」
この一撃でドロシーが叫びをあげると同時に、
「最後に俺だ!!」
上空を飛んで待機していたのだろう。ジェットシャークがドロシーに接近し、飛行機の状態で着地する際の足で、ドロシーを捕まえた。
「行くぞ!!」
エレクトードも放電をやめると、ドロシーを捕まえている舌を思いっきり引っ張った。
「うおぉぉぉぉ!!」
ジェットシャークも下に向かって加速し、ドロシーと共に高速で落下して行く、
「ほらよ!!」
そして、地面に激突する直前でドロシーを解放し、ジェットシャークは上空へ上がって行った。結果、ジェットシャークの加速と、エレクトードの引っ張りによる加速を受けて落下していたドロシーは、成すすべなく地面に激突した。
「決まった!」
ドロシーが落下する衝撃に備えるため、源の元に下がっていたフェニックスがこう言う中、その後ろで様子を見ているレイラは、こう思っていた。
(なんて人と聖獣たち、本当に神司になったばかりなの?)
本来、神司になったばかりの神司とその聖獣は、連携がうまく取れない事で、聖獣本来の力、つまりは戦闘力レベルと繰り出す技の威力が、戦いの中で重要になってくる。それなのに、綾小路源は聖獣たちの能力を的確に把握し、それに合わせた連携を考えて指示を出し、聖獣たちも互いを、そして何より源を信頼しているのか、それを完璧にこなしている。
何よりも驚きなのは、通常の聖獣では指一本触れる事すら叶わないとされる機械族聖獣ドロシーに、こうして一矢報いている事である。
(今から三百年くらい前にラフレシア様に取り立てて貰って、そうして日々鍛錬を重ねて来たけど。彼らはもうすでに私より強いと言うの?)
レイラはこう思いながら、ある事を考えた。彼らに付いて居れば、自分もより強くなれるのでは無いか、と。
しかし、
「それはダメ!私はラフレシア様の跡継ぎなのだから!」
と言って、考えを改めた。
一方のドロシーは、自身の機体にかなりの衝撃を受けたのだろう、フラフラ立ち上がりながら言った。
「いくら手加減していたとはいえ、私が一方的にやられるとはな。久しぶりに見る強敵となると、ここで始末した方が良いかもしれないな。」
「やっぱりそうか、戦闘力レベル7000に匹敵するにしては、弱すぎると思ったけど、本気じゃないんだ。」
ドロシーの言葉を聞いた源がこう言って、聖獣たちが再び構えを取った瞬間である。ドロシーの体が変化を起こし始めた。腕は変形前より太くなり、足も同じく太く長くなった。胴体もそれに合わせて強化された形状になり、顔は大きく変形し、美しい女性から星形の角を持つ異形の者へと変わって行った。
「いつぶりだ?この姿を神司の前に晒すのは?」
ドロシーがこう言うと、レイラは源にこう言った。
「あの姿です。あれが戦闘力レベル7000に匹敵する姿です。」
「成程、となると…」
源は様子を見ながらこう呟き、聖装のスロットに一枚のカードを入れようとした。
しかし、それより前に、
「変形前にかたを付けるまで!!」
樹の陰から何かが飛び出し、手に持った刀でドロシーを一閃した。
「なにぃ?!」
レーダーに反応はあっただろう、だが変形中であった為に反応出来ず、ドロシーは刀の一閃を受ける事になった。それにより、変形は不完全な状態で止まってしまい、右腕と左足、胴体の左半分、頭部に角が生えた状態と言う不完全な姿になった。
突然の新手の出現にドロシーは驚いたが、何よりも驚いたのは、新手の正体である。これには、源とその聖獣たち、そして何よりレイラが驚いた。
「ら、ラフレシア様?!!」
現れたのは、植物女皇ラフレシアその人なのだ。
「な、なんでこちらに?」
驚くレイラが訊くと、ラフレシアはこう言った。
「勝手に危険地帯に向かって行った、彼らの連れ戻しにです。」
「え?ラフレシア様がこちらに寄越したわけでは無い?」
レイラが訊くと、ラフレシアは当然でしょう、と返して、
「今のは峰で吹っ飛ばすだけでしたが、次は真っ二つにして差し上げます。一度だけ言います、疾く失せなさい!!」
ラフレシアは刀を構えて、こう告げた。
一方のドロシーは、
「そうは行かない!後の危険は先に排除する!!」
こう言って、強化された方の腕で、攻撃を繰り出そうとした。しかし、
「ウワァァァ!!」
逆にエネルギーの奔流を受けて、ドロシーは攻撃を中断、膝を付いた。
「ど、どうなっている?」
ドロシーがこう言うと、ラフレシアはこう言った。
「簡単な事だ、強化された方のパワーに、強化されてない機体が耐えられない。」
そして、まだ元気な源と仲間の聖獣を見ながら言った。
「そちらは一人、だがこちらはまだ六人残っている。ロクに戦えない状態のそちらに、勝ち目があると?」
ドロシーは、自分たちの戦力に動ける者は居ないと判断すると、
「撤退する。」
と、ハヤブサ達に行って、彼らを逃がし後、自分もその場より消えた。
ドロシーが消えるや否や、レイラはラフレシアに訊いた。
「兵士たちに追撃させますか?」
「その必要は無いわ。」
ラフレシアは、即答でこう言うと、源を見ながら言った。
「多分、もうここには来ないでしょう。余程の事が無い限り…」
その後、森の中央にそびえる樹に帰って来た源たちと、レイラとラフレシア。最上階のラフレシアの部屋に戻ってから、
「取りあえずは、レイラを守って下さった事に感謝します。」
ラフレシアは、源にこう言った。
「いえいえ、相手が手加減してくれていたお蔭ですよ。ラフレシア様が来てくれなかったら、こうは行かなかったと思いますし。」
源がこう言うと、
「それもそうですね。」
ラフレシアは笑顔でこう言うと、真剣な顔になって源に言った。
「言っておきますが、きっと奴らは貴方を標的にするでしょうね。」
「? と言うか、連中は何者何ですか?」
ラフレシアの言葉に、源が訊くと、
「私にも分かりません。ただ一つ言えるのは、神司を持たずに実体化出来る聖獣であり、徒党を組んで何かを行っていると言う事しか…」
ラフレシアは、こう答えた。
「それってまさか?」
ラフレシアの言葉を聞いた源と聖獣たちは、一様にこう言った。ドラグーン、フェニックス、エレクトードの三体は元々、聖獣たちが追い求めている「聖獣王伝説」の中で行われている何かを調べる為に来ており、源と新たに仲間になったジェットシャーク、ステゴサウルス・Jackも、その話は聞いた事がある。
それと何か関係があるのではないか、一様に思ったのだ。
「取りあえず、ここを出たら少し調べてみるか。」
エレクトードがこう言うと同時に、源は自身の着けていた腕時計を見て、こう言った。
「あれ、もう四時半なんだ。」
時計の針は、ぴったり四時半を指している。彼の様子より、彼が早く帰らないと行けない事を悟ったラフレシアは、こう言った。
「この森の出口が知りたいのでしたよね。森のはずれに、扉木と呼ばれる二対の木が生えている場所が複数あります。その間を通れば、現実世界には戻れます。場所は保障できませんが、遠く離れた場所に飛ぶことは無いでしょう。」
ラフレシアが、聖獣の皆は扉木がどんな物かは分かりますよね、と訊くと、
「色々とありがとうございます。」
聖獣たちは揃えて礼を述べると、
「それじゃあ、失礼します。」
源はこう言い残して、その場を去って行った。
その後、彼は言われた通り扉木の生えている場所に行き、その間を通る事で、無事に元の世界に戻って来た。
その際、自分を探していた警官隊と友人の博明を、突然現れる事で驚かせた。
源が立ち去った後、ある程度まで霊力を回復させたレイラは、ラフレシアに会いに行った。
「あの、ラフレシア様?」
レイラはラフレシアの部屋に入るや否や、何かを彼女に訊こうととした。しかし、ラフレシアはそれを制すると、
「構わないけど、今はダメですよ。」
と、レイラに言った。
「え?」
レイラは驚いた。なぜなら、ラフレシアは自分が訊こうとした事の答えを、訊くより前に答えたのだから。因みにレイラが訊きたい事と言うのは、自分も一時的に綾小路源の元に行っても良いか? と言う事である。
「確かに、この森で鍛えるのも良いけど、外に出て色々な経験をする事で得られる事もある。でも、まだ時期が悪い。」
「時期ですか?つまりそれは?」
レイラが訊くと、ラフレシアはこう答えた。
「早かれ遅かれ、きっと来るはずよ。彼が持つべき力を持ち、尚且つ貴女の力を必要とする瞬間が。」
一方、日本の何処かにあるとある場所。そこでは、先ほど聖獣の森より撤退してきた聖獣ドロシーが、ある人物の話を聞いていた。
「手を抜いたとはいえ、お前を撤退させるレベルの神司がこの時代に居るとはな。」
ドロシーの目の前の人物はこう言うと、
「お前は一旦、違う仕事に…」
気を使っているのか、それとも違う意味でかは分からないが、ドロシーに違う役目を与えようとした。
しかしドロシーは、
「いいえ、このままで良いです。」
と、言った。
「何故?」
と、訊くと、
「私は機械です。ですが、プライドと言う機能位ちゃんと身に着けています!!」
と、ドロシーは言い残し、その場から去って行った。
その背を見ながら、ある人物と一緒に居る、甲虫の姿を取る昆虫族聖獣は、
「アイツ、あんな性格の奴でしたっけ?」
一方、
「さあな。だが、ドロシーがあそこまで拘るんだ。きっと我々にとって危険な存在となるだろうな。然るべき力と仲間を得た時に。」
彼の隣の人物は、こう言った。