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聖獣王伝説  作者: 超人カットマン
第五章
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第二十九話 対決朱雀

 ドイツに住むと言う神司「アッシュ・クリアフィールド」に出会うため、ドイツへと渡って来た江美たち神司部の面々は、ある出来事を切っ掛けに互いの正体を明かさないままアッシュ本人と出会い、一人の敵と相対していた。

 目の前の敵は、五人の神司に囲まれると言う状況の中でも、欠片の余裕も失っていなかった。枝毛が気になるのか、時折自分の毛先を気にしていた。

 対するアッシュや江美たちも、警戒心を解かないまま敵である「朱雀姫メリジェーン」と対峙していた。アッシュは過去に何度も彼女と交戦した事で、江美たちはこれまで何度も様々な状況を乗り越える事で培った第六感で、相手の実力がこれまでに会った敵の中でも群を抜いている、と理解しているからだ。

 すでに決闘空間が展開されることで、周囲から人は消え去り、風や川の水が流れる音だけが響く中、近くに生えている木から花が一つ地面に落ちた。これを合図にしたのか、アッシュの呼び出した聖獣「雷獣」は、全身を電流で強化して飛び出し、メリジェーンへと襲い掛かった。

「はぁぁぁぁ!!」

 口に生えた牙に電流を纏わせると、メリジェーンの喉元へ食らいつこうとした。炸裂すれば岩を砕き、鉄柱を断ち切りかねない一撃であったが、

「よっと。」

 メリジェーンは舞うような動きでそれを回避すると、

「はい。」

 雷獣の首根っこを掴み、アッシュの元目がけて投げ返した。雷獣はそのまま空中で受け身を取って着地した。メリジェーンの方は、全身を電流が駆け回っていた雷獣を掴んで投げたにも関わらず、

「うぅ、痺れちゃった。」

 涼しげな顔のまま、こう言った。指が問題なく動いている所から、少し痺れただけで火傷は無いようである。

 アッシュは、メリジェーンにこう言った、

「まったく、本当に手癖だけは賞賛に値するよ。家でよくつまみ食いしてるだけあって。」

 メリジェーンはしばらく前より、アッシュの元に現れては彼の用意しておいた料理を、彼や彼の主は愚か、雷獣を初めとする彼の聖獣たちにもばれない様につまみ食いを繰り返しているのである。だがある時、その現場を本当に偶然、アッシュの連れている聖獣の一体が抑え、それ以来彼とメリジェーンの小競り合いが行われるようになったのだ。

「だって、置いてあるんだから食べるか否かは私の勝手でしょう?」

 一方のメリジェーンは、罪悪感も反省も欠片も無いようで、こう言い放った。ちなみに、彼女が初めてアッシュと出会った時は、こう言い放ったのである。

「お菓子を食べれば良いじゃない。」

 徹底したお姫様思考に、アッシュはこう宣言した。

「こうなったら、執行猶予を大幅に押し切ってやる!! 泣いて謝れ!!」

 そして、今まで聖獣を出すも見ているだけであった江美たちの方に顔を向けると、こう言った。

「みなさんも戦って下さい、彼奴を泣いて謝らせる為に!!」

「…はい、分かりました。後者はとりあえず置いておいて。」

 アッシュの一言と剣幕に、江美たちはこう答えると、自分たちも戦う事にした。

「彩妃、援護を頼む!!」

 最初に動いたのは、薫とギュオンズで、薫が一枚の技カードを使用すると同時に、ギュオンズはその場から飛び出した。

「レーザーソード!!」

 技カードを読み取ったギュオンズの右手は、五本の指がある手の形状から、フォークを思わせる形状へと変形し、そこから光で構成されるエネルギーで形作られた剣を出現させ、メリジェーンを切りつけた。

「よっと。」

 メリジェーンは、先ほどの雷獣と同様に軽やかな動きでこれを回避した、しかし、

「援護は任せて下さい!!」

 薫に援護を頼まれた彩妃の聖獣、イスフィールが彼女の背後にまわり、両腕をしっかりと固めることで動きを止めた。

「イスフィールのバカ力を甘く見ないでよ。戦闘役のヴァルキリーエリートだって、腕相撲じゃ彼女に勝てないんだから。」

 彩妃はメリジェーンにこう言うと、聖装であるギターのスロットにカードを差し込み、皆にこう言った。

「耳を塞いで!!」

「?」

 彼女の言葉に疑問を覚えながらも、メリジェーンと彩妃、イスフィールを除いた面子が揃って耳を塞ぐと、

「スタン・シャウト!!」

 彩妃が技名を叫ぶと同時に、イスフィールは大きく息を吸い、一瞬だけでも耳にしただけで、全身の筋肉や神経は愚か、思考さえも固まりかねない、金切り声にも似た絶叫を繰り出した。この技は妖精族の聖獣が使う事の出来る技の一つで、叫びを耳にした敵の行動を止める事が出来る。唯一の欠点は、元々失聴している場合や耳を塞いでいる場合、一切の効果が無いという事である。それと同時に、機械族聖獣の持つ「A(アンチ)F(ファンタズム)E(エフェクト)」でも、その効果は打ち消されて普通の絶叫になってしまうのも弱点である。

 彩妃はイスフィールの神司である為、スタン・シャウトの影響は受けず、耳を塞いだ他の面々は技の効果を受けなかったが、腕を取られていたメリジェーンは至近距離でその声を聞いてしまい、動けなくなってしまった。

「今よ、攻撃して。」

 彩妃は皆にこう合図を送ったが、神司の面々は耳を塞いでいる為、聖装もカードも持つことが出来ない。聖獣の方も、AFEを持つギュオンズ以外は耳を塞いでいるので、行動を取る事が出来ない。

(しょうがないな。)

 彩妃はこう思うと、唯一自由な動きを取れるギュオンズの神司である薫の傍へと赴き、彼の服のポケットから適当なカードを取り出し、ブレードのスキャナーに通した。

「ロケットパンチ!!」

 結果、ギュオンズの腕からバーニアが出現すると、メリジェーンめがけて飛んでいき拳は鳩尾に命中した。

「ぐぅ!!」

 無抵抗の状態での急所への一撃は、メリジェーン自身も堪えたようで、口から鈍い声が漏れだした。

 イスフィールはギュオンズの技が発動された途端にメリジェーンを解放しその場を離れた。それと同じくして技も解除したので、皆は再び行動が出来るようになった。

「良し!」

 アッシュは新たなカードを取り出すと、聖装のスキャナーに通した。

「エレキシュート!!」

 結果、雷獣は口の中に何百万ボルトもの電流を集中させて、一個の雷球を作り上げ、それをメリジェーンめがけて放った。

「凄いな、源のエレクトードも同じような技を使うけど、あんな威力は出ないのに。」

 江美はアッシュの、雷獣の力を見てこう呟くと、自身も聖装である棍棒のスキャナーにカードを通した。

「ファイアーボール!!」

 江美の聖獣であるアーケロンドは、口の中に火炎を集中させて火球を作り上げると、それを雷獣の放ったエレキシュートめがけて放ち、雷球を粉々に砕いた。

「ちょっと、何をするの?!」

 アッシュはアーケロンドの行動に驚き、江美にこう言ったが、江美では無くアーケロンドはこう言った。

「まあ、見てなって。」

 すると、粉々に砕けた雷球の電流は、雷獣に吐き出された時のエネルギーによって、地面を伝いながらメリジェーンへと迫っていった。更にはアーケロンドの火球が弾けて飛び散った炎も、その電流に乗ってメリジェーンに迫っていった。

(これはまずいわね。)

 メリジェーンは心の中でこう思うと、高く飛んで攻撃を躱そうとした。だが、

「俺たちも。」

「忘れるなよ。」

 今まで何もしていなかったため、そろそろ何かをしようと考えていた直樹と、彼の聖獣フレアノドンはこう言った。空を飛ぶフレアノドンは、飛び上がろうとしたメリジェーンの頭上を取ると、全身を炎で覆い、やがて炎は光になって降り注いだ。

「イカロス・サンシャイン!!」

 直樹が技名を叫ぶと同時に、飛び上がろうとしたメリジェーンは突如とてつもない重力を感じ、足はその場から動かなくなり、まるで地面に縫い付けられたと錯覚した。

「行っけー!!」

 アッシュ達がこう叫ぶ中、地面を伝ってメリジェーンに迫る電流と、その電流の発する電磁波に押されて迫る火炎は、共にメリジェーンへと炸裂し、あたりに大爆発を発生させた。その際、周囲の地面は抉れ、木の葉は吹き飛び、周囲の建物のいくつかが壊れる等、決して少ないとは言えない被害が出たが、皆が居るのは決闘空間の中なので、現実世界には特に問題は無かった。





 爆風に耐えつつ、皆は少しだけでもダメージは与えることは出来ただろうと考えていた。だが、

「あーあ、私の羽で作った羽扇が台無し。また作り直さないと。」

 周囲を覆う煙が、突如発生した熱風によって吹き飛ばされると、相も変わらず呑気な口調のメリジェーンが目の前に現れた。しかも、身に着けているドレスや地肌には軽い火傷の後しか残っておらず、その火傷も消えるように治癒してしまった。唯一手ひどい損害を与えられた羽扇も、彼女がどこからか赤い羽根を取り出し、ダメになっている羽と付け替える事で元通りになってしまった。

「お、おいおい、普通なら全身大火傷でも十分軽い傷なのに、ほぼ無傷とか……」

 アッシュがメリジェーンの様子に言葉を失うと、メリジェーンはこう言った。

「私が朱雀姫であると知りながら、理解が及んでいなかったのね? 灼熱と夏季を司る私は、熱や光を受け取る事で、自らの力をより高めることが出来ると言う事を。」

 更に、彼女は羽扇で口元を塞ぎながら、こう言った。

「それに、貴方達の攻撃だって、効いていると思わせていただけで実は全く堪えてないもの。もっと艶やかな反応してほしいなら、善処するけど。」

 自分たちは様子見も兼ねていたとはいえ、全力の力を持って攻撃を繰り出していた。だが当のメリジェーンは、攻撃されていると言う認識では無く、じゃれて来ていると言う認識で目の前の敵に当たっていたのだ。その事を理解し、アッシュや江美たちが若干気おされると、

「そちらばかり何かをしていてもつまらないでしょう? 今度は私が。」

 メリジェーンはこう言って、自らが武器としているのだろう、羽扇を構えて技を繰り出した。

「炎竜旋風!!」

 メリジェーンが技名を呼称すると、今まで見た事の無い大きさの炎の竜巻が出来上がり、雷獣を初めとする皆の聖獣を吸い込んだ。

「わぁぁぁぁ!!」

 聖獣たちが竜巻の中で激しく回転する中、

「イスフィール?! 無事?!!」

 彩妃はイスフィールを心配し、

「アーケロンド、何とか脱出して!!」

 江美はアーケロンドに指示を出した。しかし、

「大丈夫じゃないし! それに無理だ!!」

 竜巻の中の聖獣たちの中でも、炎属性である為に炎に強く、尚且つ防御力の高いアーケロンドが、皆を代表して江美たちに言った。それと同時に、竜巻も解除されて、聖獣たちは地面に落下した。炎属性であり防御力も高いアーケロンドと、機械属性であり耐熱性も高い金属で体を構成するギュオンズは何とか無事のようだが、炎属性を持たない上に防御力の低い雷獣やイスフィールは既に戦闘不能で、炎属性でも防御力の低いフレアノドンは、雷獣やイスフィールと同様に戦闘不能に陥っていた。

「戻って! イスフィール!!」

「雷獣、ゆっくり休んで。」

「よくやってくれたな、フレアノドン!!」

 江美、アッシュ、直樹が倒れた自身の聖獣を聖装に戻すと、メリジェーンは続けて頭上に火球を作り上げた。

「ファイアーボール!」

 彼女は先ほどアーケロンドの繰り出したのと、まったく同じ技を繰り出そうとしているのだろう。だが、彼女の頭上の火球はアーケロンドが作る火球と比べると、後者が芥子粒に見えてしまうほどの巨大さを誇っている。

「な、何さあれ?!」

 薫が驚くと、アッシュは拳を握りながら悔しそうに呟いた、

「これまでの小競り合いは全部遊びの延長だったって事かよ。」

 一方の江美の方は、相手の攻撃の規模に気おされながらも、薫にこう訊いた。

「薫、あれを使って何とかできない?」

「あれって、Xプログラムの事?」

 薫は江美に訊き返すと、こう言った。

「意味ないと思う。あの力を制御できるならともかく。」

 薫の言葉に、江美は表には出さないまでもがっかりした。その様子を何かで理解したのか、アッシュは彼女たちにこう言った。

「何か秘策でもあるの? じゃあ、隙を作るから準備しておいて。」

 アッシュの言葉に、江美と薫は驚いた、

「隙を作るにも、貴方の雷獣はさっき倒されたばかりじゃ……」

「まさか、自分でタイマンするつもり?」

 江美、薫の順番にこう言うと、アッシュは一枚のカードを取り出し、こう言った。

「何も、俺の聖獣が雷獣一体とは言ってないよ。」

 そして、そのカードをスキャナーに通すと、こう叫んだ。

「キャンサード! 君に決めた!!」

 すると、アッシュの聖装から雷獣を呼んだ時と同じように霊力が迸ると、霊力は小川の水の中へと入り込み、水の中から大樹と同じくらいの大きさを誇る鋏が飛び出し、やがて全身を金属のように固い甲殻で覆った、巨大な蟹のような姿の獣族聖獣「キャンサード」が現れた。

「………」

 アッシュが新たに聖獣を呼んだことで、皆は一度絶句すると、皆を代表して直樹が彼に訊いた、

「お前、聖獣を複数持っているのか?」

「そうだよ。」

 直樹の問いにアッシュはこう答えると、技カードを聖装で読み込んだ。

「アクアセイバー!!」

 結果、キャンサードの右腕、正確に言えば右側の巨大な鋏に水のエネルギーを凝縮した刃が現れ、メリジェーンの攻撃をいつでも受けられる体制になった。

「………」

 一方のメリジェーンは、黙ったまま自分の頭上に作り上げた、巨大な火球を投げつけた。その火球は真っ直ぐに飛んでいき、キャンサードが右腕の刃で受け止めた。地面に付いた足が八本あり、尚且つ巨体である故に体重の重いキャンサードであるが、火球を受けた瞬間に、少しずつであるが彼は後ろへと押されていった。

 しかしアッシュは、キャンサードが攻撃を受け止めると言う役目を果たしたと考えると、薫、江美にこう叫んだ。

「今です!!」

 アッシュの合図を受けると、薫はすぐさま「X program」と書かれたカードを聖装のスキャナーに通した。結果、

「X program install!!」

 涼やかな女性のような声がギュオンズから響き、彼はその姿を劇的に変化させた。これまで必要最低限なパーツ以外、様々なパーツがオミットされていた首、両手、両足は、ドラゴンを思わせる太く長い形状へと変化すると、背中には光の翼を出すことが出来る飛行ユニットが現れ、頭部はドラゴンのような形状に変形し口が開くようになると、目の部分には真紅に染まった瞳が現れた。

 必要な物が足りない為未だ不完全な状態であるが、ギュオンズは覚醒状態になったのだ。

 ギュオンズの覚醒が終了した、まさにその瞬間である、

「………はい。」

 メリジェーンは、今までのだんまりからうって変り、一言こう言った。その結果、キャンサードが受け止めていた巨大な火球は大爆発し、あたりに激しい熱風をまき散らした。その威力は凄まじく、八本の脚で地面を踏みしめていた重量級のキャンサードの体を大きく吹っ飛ばし、アッシュの後ろへと落下させた。

「くっ! 戻れキャンサード!!」

 アッシュはすぐさま、キャンサードを聖装の中へと戻した。

「さてと、次は何?」

 メリジェーンは、アッシュの態度からまだ聖獣は居るのだと判断し、こう言った。すると、

「ロケットパンチ!!」

 メリジェーンの目の前に、不完全覚醒を果たしたギュオンズが現れ、最初の時のように彼女の腹部へと拳を打ち込んだ。腕自体はまだ伸びていないが、太くなったのと既にバーニアは点火している事で、その威力は凄まじかったようで、

「うぐっ!!」

 メリジェーンは再び鈍い声を口から漏らした。やがて、ギュオンズの腕が伸びると、その腕に押されてメリジェーンは遠くへと飛ばされ、いくつかの建物へと激突した。

「い、痛たた。」

 建物の壁に背を預けるメリジェーンは、その状態でこう言った、

「これは、良いのを、貰っちゃったかも……」

 そして、このまま戦闘を続行しては危険かもしれない、と考えて、その場から退散しようとした。だが、文字通り目にも止まらない速度でギュオンズは彼女に接近すると、彼女の行動を封じるべく攻撃を仕掛けた。

「ひいぃ!!」

 メリジェーンは何とか攻撃を躱したが、攻撃のヒットした建物の壁や床は、堅い床にガラス細工を落としたかの如く、粉々に砕け散った。

「な、何てバカ力なんでしょう。」

 背中から真紅に彩られた朱雀の翼を出し、上空へと退散したメリジェーンは、攻撃を修了させるも、未だに自分に狙いを定めているのか真紅の瞳で睨みつけてくるギュオンズを見て、こう言った。





「す、凄い力だね。」

 様子を見ているアッシュは、江美たちにこう言った。自分の持つ聖獣たちも普通より強く、また一体だけ常識を逸した力を持つ者も居るが、メリジェーンに危機感を抱かせるほどの攻撃を繰り出すギュオンズには、驚きを隠せなかった。

 だが、次に薫の言った事で、更に驚きを隠せなくなった。

「でも、余りも強いエネルギーを制御しきれないから、制御不能状態に陥っているんだよ。まあ、身も心も浸食されて暴走状態にならなかっただけ、まだましだけど。」

「要するに、さっきの攻撃が決まったのは、相手が止まっていたと言う事もあるけど、殆どまぐれって事?」

 アッシュは薫の言葉にこう訊き返すと、ため息をついてこう言った。

「それじゃあ、もう一回隙を俺が作りますから、最強の必殺技で決めてください。」

「もう一回隙を? もう既に雷獣とキャンサードが出て来たけど、まだ聖獣を持っているの?」

 アッシュの言葉に、彩妃がこう訊くと、彼は口に答えを出さず、カードを取り出しそれをスキャナーで読み込む事で、その解答とした。

「必ず決めて下さい。こいつの拘束は奴が相手ではほんの少ししか持ちません。」





 アッシュに隙を作ってもらえる事にはなったが、薫には確実に技を決める術が無かった。制御不能に陥ったギュオンズは、エネルギーを抑えれば少しましになる物の、そうしてしまえばエネルギー消費が少なくなることで、彼自身の身に大きな影響を与えてしまう。メリジェーン自身も、かなりの防御力を持っていると思われるので、最大パワーで無いと通用はしないだろう。

(どうする? 最大パワーを制御は出来ないし、かといって手を抜いたら決まらないし)

 薫がこう考えていると、突然江美が彼の頬を引っ張った。

「な、何さ?!」

 薫がこう訊くと、江美はこう言った。

「私達を忘れないで。」

 江美自身、自分が介入する隙が無いのと、霊力消費を抑えるために既にアーケロンドを聖装に戻しているが、自分達が勝つためであれば、何でもやるつもりのようである。その心意気は、それより前に聖獣を戦線より離脱させる事になった、彩妃や直樹も同じのようである。

「みんな……」

 薫がこう呟くと、ギュオンズが彼の元へメッセージを送ってきた。

(一発だけなら、フルパワーでも確実に技を決める術がある、それは………)

 メッセージの中には、この他にもその方法を実行する手段が綴られていた。実行のためには、江美たち神司全員は勿論、すでに戦線を離脱している聖獣の協力も必要なのだと言う。

「どうする?」

 薫が皆に訊くと、江美たち三人は揃ってこう言った。

「とにかく、やるだけやってみましょう。」





 一方その頃、ギュオンズの攻撃を躱し続けていたメリジェーンはと言うと、

「これ以上続けるのは、厄介そう。」

 こう呟くと、そろそろギュオンズに反撃を行おうと、攻撃の隙を狙って距離を取ろうとした。しかし、ギュオンズは攻撃を仕掛けることなく、メリジェーンから距離を取り、そのまま動かなくなった。

「?」

 突然の事に彼女は驚いたが、相手が動かないなら攻撃してしまおうと、彼に接近しようとした。

 だが、その行動は突如地面から生えてきた巨大な木によって阻まれる事になった。その木はあっという間に成長を遂げると、メリジェーンの全身を絡め捕る事で一切の動きを封じてしまった。

「な、何?」

 メリジェーンが驚くと、木の根元に頭にはフリルのあしらわれた黒いとんがり帽子をかぶり、服装こそ魔女っ娘を思わせる格好をしておきながら、五月人形を思わせる和風甲冑の一部をその上に身に着けると言う、魔法使いなのか武士なのか良く分からない出で立ちの、少女なのか少年なのか良く分からない顔立ちの子供が居り、錫杖のような形状の巨大な槍を地面に突き刺している。

 メリジェーンは現在の状況から、彼の存在を簡単に予想した。

「あ、貴方は初めて見るけど? どなたの聖獣?」

 メリジェーンがこう訊くと、その聖獣はこう答えた。

「僕の名前はリコリスって言うんだ、アッシュに呼ばれてここに居るんだけど、よろしくね。」

 リコリスと名乗ったこの聖獣は、雷獣やキャンサードと同じくアッシュの元に居る聖獣であり、彼岸花を司る花の精、早い話が植物族の聖獣である。

「リコリス! よくやった!!」

 遠くでは、アッシュがリコリスに向けてこう言っているので、リコリスが彼の聖獣である事は明らかである。

 一方、メリジェーンより距離を取ったギュオンズはと言うと、大砲のような形状に変形すると、砲身の上にフレアノドンを据えて狙いを定め、イスフィールが下から砲身を支えて、狙いの微調整を行っている。アーケロンドは砲身の後ろでそれを受けとめ、後ろに吹っ飛ばないように支えている。

 ギュオンズが彼らに提示した作戦、それは、自分は武器になる事で攻撃に全てのエネルギーをつぎ込み、その結果疎かになる移動や照準の微調整を、他の聖獣に行わせると言う流れで、必殺の一撃を放つと言う物である。

「良し! 照準は定まった!!」

 フレアノドンが砲身の上でこう言うと、

「早くして! この状態のギュオンズって、ただでさえ重いのに!」

 砲身を支えるイスフィールは、こう文句を言った。

「エネルギー集中は今やっている! 後十秒で終わるから待っていろ!!」

 自らのエネルギー全てを攻撃のためにつぎ込んでいるギュオンズが、皆に支えられた状態でこう言う中、エネルギーの波動を遠くから感じ取っているメリジェーンは、拘束された状態でこう言った。

「す、凄いエネルギー。私でもあれを貰っちゃえばいっちゃうかも?」

「じゃあ遠慮なくいって下さいね。」

 リコリスはメリジェーンにこう告げたが、地面に突き刺した槍から、強いエネルギーを感じ取り、ある事を理解した。メリジェーンが全身の熱エネルギーを高めて、自分が生やした木を焼き払おうとしているという事を、

「そうは行かない!!」

 リコリスはすぐさま槍を地面より抜くと、高くジャンプした。その瞬間、メリジェーンを拘束していた木は枯れ果てると、ガラガラと崩れ落ちた。メリジェーンはそれにより自由になったが、リコリスには関係無かった。リコリスはメリジェーンの背後へと来ると、手にした槍を大きく振るい、翼に大きな傷を与えた。

「あぁ!!」

 不意を打たれた一撃であったのか、メリジェーンは驚いた。彼女の動きが止まったその一瞬を狙い、リコリスは更に追い打ちをかけた。槍を地面に投げつけると、先ほど枯れたのとは違う木を急成長させると、再びメリジェーンを拘束した。それだけでは終わらせず、拘束した彼女を更に自分で拘束する事で、先ほど以上に固く固めた。

「な、貴方まで攻撃に巻き込まれる!!」

 リコリスの行動に、驚いたメリジェーンがこう言うと、

「構うもんか。」

 リコリスは冷静な声で、こう言った。

 一方、最後の一撃の準備を整えたギュオンズの方はと言うと、その事を自身を支える聖獣たちに告げると、

「協力砲! 発射!!」

 発射口となっている自身の口から、これまでに放ったどの一撃よりも強いエネルギーを封じ込めた砲弾を放った。

 その瞬間、ギュオンズを中心に強烈な衝撃波が辺りを包みこみ、それをモロに受けた聖獣たちと、エネルギーを使い果たしたギュオンズは、実体化を解いて聖装の中へと戻っていった。

 アッシュも、ギュオンズの放った砲弾が良い距離までメリジェーンに迫ると、

「リコリス!! 戻れ!!」

 神司としての権限を行使し、リコリスを強制的に聖装へと戻した。その直後、砲弾はメリジェーンに命中し、彼女を拘束していた木を跡形もなく吹き飛ばすと、彼女を上空高い場所へと追放し、エネルギーを解放して大爆発を起こした。その爆発の威力は凄まじく、遠く離れた場所に居た筈のアッシュ達を大きく吹っ飛ばし、更には現実世界にも影響を及ぼした。ただし、少し強い花火程度の爆発が発生しただけで、特に騒ぎは起こらなかった。





 それから暫くして、吹っ飛ばされた衝撃で気絶していたアッシュ達は、決闘空間の中で目を覚ました。

「や、やったのか?」

 皆は目を覚ますと、揃ってこう言った。先ほどの一撃が決まった事は、皆が見届けているので、実は回避されていたと言う事は無いだろう。

 事実、目の前にはボロボロになったメリジェーンが落下してきて、地面に激突した。

「参ったなぁ~。」

 地面に激突したメリジェーンは、倒れた態勢のままこう言った。

「ど、どうだ?」

 皆が代表してアッシュがこう言うと、メリジェーンはこう言った。

「そうね、まさかここまでやられるとは思わなかった。戦うのに十分な量の霊力はもう残ってない。もう帰るだけね。」

 そして、相当な消耗をしていと自白した直後でありながら、元気よく起き上がると、彼らにこう言った。

「もう金輪際会いたくないけど、きっとこれから何度も会う事になりそうね。だから教えてあげる、私の正しい名前は、リジェス・メルトダウン。」

(Rejoice)(Meltdown)?」

 皆の中で、ある程度英語に詳しいアッシュと、彩妃がこう訊くと、リジェス・メルトダウン、自称メリジェーンは消えるようにその場から居なくなった。





 その後、決闘空間の中から出たアッシュ達は、互いに自己紹介を行った。

「改めて初めまして。俺は銀髪さんじゃなくて、アッシュ・クリアフィールド。」

 アッシュが自己紹介をすると、江美たちは驚いた。彼女たちの目的は、アッシュ・クリアフィールドと言う名前の神司に会う事であり、知らず知らずの内に目的を達していた事に。

「貴方がアッシュ・クリアフィールドさんだったの? 世界最高の神司って聞いていたから、もっとすごい人を想像していたけど。」

 皆を代表して、彩妃がこう言うと、

「がっかりしました?」

 アッシュはこう訊き返した。彩妃自身、自分の予想していたアッシュの人物像と、目の前の人物が全く違う事に驚きはしたが、がっかりはしていないので、こう言った。

「いいえ、でも何だか凄いなって思ったかな。私達よりも“小さい”のに。」

 今まで気にする機会が無かったので、誰も突っ込まないようにしていた事であるが、アッシュは背が低いのである。彩妃の記憶で言うと、薫や源は男子の中でも割と背の低い分類に入るが、アッシュはその薫よりも背が低い。

 身長の事を出すと、アッシュはワナワナと震えながらこう訊いた。

「君たち歳幾つ?」

「? もうすぐ12歳。」

 アッシュの問いに皆が答えると、アッシュはこう答えた。

「俺さぁ、ついこの間14歳になったんだけど。」

「へ? じゃあ私達より二歳年上?」

 アッシュの意外な秘密に皆は驚いたが、それを気にする必要もないので、自己紹介をすることにした。

「私は神司部部長の孫江美。」

「副部長の一条彩妃よ。」

「俺は吉岡直樹。」

「んで、増田薫。」

 江美、彩妃、直樹、薫の順番で紹介をすると、

「エイミにサキに、ナオキとカオルね。」

 アッシュは彼女たちの名前を復唱し、こう言った。

「何がどうあれありがとう。俺の戦いを手伝ってくれて。お礼になるかどうか分からないけど、果物の事は不問にしておくね。」

 彼がこう言う中、江美はこう言った。

「ううん、それよりも私達と友達になって欲しいです。私たちは女神様の力で貴方に会うためここまで来たんです。その方の話によると、これからとても大きな戦いが始まるようで。」

 江美の訴えを訊くと、アッシュは少し考えてこう言った。

「良いよ、俺の力が必要ならいつでも呼んでよ。出来る限り何とか出来るようにするからさ。」

 そして、これからお祭りが始まるという事で、彼女達も参加したらと誘ったが、そろそろ帰らないといけないという事で、その誘いを断り別れる事になった。

「何か、シンデレラ見たい。」

 別れる直前、アッシュは江美たちにこう言い、江美たちは彼の比喩に思わず大笑いした。


 アリソン・K・バトラシアに、アッシュ・クリアフィールド。日本に残った源も、ドイツに渡った江美たち神司部の面々も、二人の神司との邂逅を成功させることが出来た。

 だが、源にはまだ驚くべき出会いが待っていた。


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