第二十七話 日米協演
「改めて初めまして、私はアリソン・K・バトラシア。ワシントンDCから来た者です。」
廃工場地帯で突如源達に戦いを挑んできたアメリカ出身の神司「アリソン・K・バトラシア」は、紆余曲折を経て源達に自己紹介した。彼らの知るアメリカ人と言うのは、名乗った後握手を求めるのが普通であるが、彼女は恭しく礼をすると言う、まるで日本人のような所作をしていた。
「ああ、ご丁寧にどうも。僕は綾小路源。」
「俺は松井祐介。」
「名倉小雪です。」
「三藤直葉と申します。」
それにつられて、源達四人も同じように自己紹介をすると、
「皆様とお会いできて光栄です、今後ともよしなにお願いします。」
アリソンはこう言って、今まで下げていた頭を上げた。そして、
「と、日本人にしてみれば、自己紹介はこんな感じですか?」
と、源達に訊いた。何故こんなことを聞いたかと言うと、
「私の祖母に、乙女たる者常に貞淑且つ気品のある態度を取りなさい、と言われて、礼儀作法を厳しく仕込まれた物で。」
と、アリソンは言った。
「もしかして、貴方ってクォーター?」
彼女の言葉から、直葉がこう訊くと、
「はい、祖母が日本人です。」
と、アリソンは言った。
(見た感じ、私が近づいている事に気が付いている様子は無いし、上手くやり過ごせば何事も無く事を済ませそうだ。だが、フギンとムギンにそれが出来るだろうか?)
一方その頃、源達が居る場所の近くで、ポラリスは物陰に隠れてこう思っていた。彼女はある目的の為にこの場所を訪れ、その目的を今フギンとムギンが別の場所で実行しているのだ。源達はその場に留まって話し込んでいるので、自分が下手に行動しなければ誰も自分達に気が付くことは無いだろう。その後、少し遠回りをしていけば安全に拠点に戻れるが、あの二人にそこまで気を使えるとは思えない。
(ここは、奴らの気を引けるだけ引くべきか?)
ポラリスが刀を掴みながらこう思った瞬間である。彼女の居る場所の近くに、木の幹のように太い矢が突き刺さった。
源達と打ち解けたアリソンは、しばらくの間色々な話をしていた。自分の国の事や、自国の神司や聖獣達の事、彼女が話すばかりでは無く、源達がこれまでに出会った聖獣達の話を聞いた。
「竜皇に植物女皇、妖精女皇に機械皇、挙句の果てには水の始祖にも出会ったんですか?」
アリソンがこう言うと、源はこう言った。
「まあ、僕は機械皇だけ直接会っては居ないけど。水の始祖は昨日も会ったんだけど、どこに行ったんだか?」
そしてその後、何かを思いついたのか、こう言った。
「まさか、街に行って男でも襲っているんじゃ?!」
「え?!」
この時、祐介、小雪、直葉、そしてアリソンと彼女達の聖獣は皆、揃って言葉を失った。源の発した一言に、
「げ、源、確かにちょっと行動が読めない所があるけど……」
「仮にも聖獣のリーダー格である聖獣が、そういう事は……」
「そうだよ、常識くらい持ち合わせてる筈だよ……」
祐介、直葉、小雪の順にこう言うと、聖装の中でフェニックスが皆を代表し説明した。
「ああ、これは紳士と神司を掛けたダジャレだよ、神司に喧嘩を売って来いって。昨日なんて当人の前でそれを言ってたんだぜ。」
「源、人前でその冗談はやめろと言っただろう。」
フェニックスの説明に続き、ドラグーンは源にこう言った。
「? 何で?」
対する源は、自分の言う冗談がどれほど人に誤解を与えるのか理解していないのか、こう言った。
アリソンはコメディの中でしか見られないような愉快なやり取りをしばらく眺めていたが、途中、聖装の中で回復中のサジタリアスドラゴンにテレパシーでこう言われた。
(アリソン、気を付けろ。近くに不自然な反応の聖獣が居る。)
(不自然な反応の聖獣?)
サジタリアスドラゴンの発した謎の単語「不自然な反応」に疑問を覚えたアリソンが訊くと、
(漂ってくるのは妖精族特有の気配なんだが、何処か巨人族やドラゴン族、挙句の果てには獣族としての気配も少し感じる。それなのに、聖獣としての反応は一つだけ何だ。)
(それは所謂“キメラ”っていう奴なんじゃないかな? これに源達は気が付いていないの?)
サジタリアスドラゴンの説明を聞き、アリソンがこう訊くと、
(気が付いていない、と言うより、気が付いておきながら無視していると言う感じか?)
サジタリアスドラゴンはこう答えた、
(何それ?)
アリソンはサジタリアスドラゴンの見立てに驚くと、彼にこう言った。
(とにかく、追い払おう。このまま何か危険な事になったら、こちらとしても都合は悪いし。)
(了解!)
アリソンの言葉にサジタリアスドラゴンはこう答えた。なので、アリソンは聖装の中である程度は回復したサジタリアスドラゴンのカードを取り出した。
「?」
アリソンの行動に源達が疑問符を浮かべると、アリソンは聖装に付いているスロットにカードを差し込み、先ほどヘルニアと戦闘を繰り広げたサジタリアスドラゴンを再び実体化させた。
サジタリアスドラゴンは実体化すると同時に弓を取り出し、ある場所目掛けて木の幹のように太い矢を発射した。
「え? 何?」
源達がサジタリアスドラゴンの行動に驚くと、アリソンは矢の飛んで行った方向を見て、こう叫んだ。
「出て来なさい、そこのキメラみたいなの!!」
アリソンの言葉が響くと、
「キメラね、個人的にはミュウミュウって呼称して欲しいけど。」
手に刀を持った状態で、かつて源達と激戦を繰り広げた謎の聖獣「ポラリス」が現れた。
「でも、私を知らないのに存在に気が付く何て流石ね。あっちの四人は見逃してくれる雰囲気だったけど、貴方はそうもいかないみたい。」
ポラリスがこう言うと、源達はこう言った。
「見逃すと言うより、泳がすだけど。」
サジタリアスドラゴンが気が付いたポラリスの存在は、源達も話をしながら気が付いていたのだ。だが、彼女がここで何をしているのかが良く分からなかったので、とりあえず無視する事で行動を起こす瞬間を待っていたのである。
「それでどうします? 見逃してくれるのならこのまま帰りますけど?」
ポラリスがこう言うと、源はこう言った。
「その前にここで何をしているのか教えてくれませんか? そうしたら見逃します。」
「言えぬと言えば?」
ポラリスがこう言うと、源は聖装を構えて言った。
「とっ捕まえる!!」
そして、聖装の中から一枚のカードを取り出すと、それを聖装の中のスロットに差し込んだ。
「湧き上がれ、変幻自在怒涛の剣!!水龍騎ドラグーン、召喚!!」
「流切怒涛の剣勢、水龍騎ドラグーン、推して参る!!」
源が決め台詞を言うと、彼方此方から青い色をしたエネルギーが集中し、源の目の前に青い鎧のような鱗を纏った翼の無いドラゴンが現れた。両腕には手甲があり、そこには片方ごと五本ずつ剣が仕込まれている。
「良し、なら俺も……」
源が動いた事で、祐介も同じように動こうとしたが、直葉、小雪はそれを制し、こう言った。
「狭いから、ハイドラは止めて。」
彼女たちが居るのは狭い工場地帯である為、巨体を持つハイドラを出せば身動きが取れなくなる上に、目立って何か騒ぎが起きかねない為である。渋々祐介が引き下がると、小雪と直葉は聖装を構えた。
「その心体、心凍冷却、冷たき息吹と未知なる力、我が朋ビッグフットをここに。」
「戦士ビッグフット、小雪の言う事は良く分からないけど、とにかく参上だ!!」
自身の聖装の斬馬刀を構えた小雪は、どこからか取り出したカードを、刀の刀身に付いているスロットに接触させた。結果、冷気を含んだエネルギーが収束し、サルのように全身が白い毛で覆われた巨人族の聖獣「ビッグフット」が現れた。
「森の竜ラベンダードラゴンを召喚!闘争のフレグランス、しかと体に刻み込め!」
「お呼びとあれば即参上!!」
続く直葉は、聖装であるナイフの柄の先端に付いているセンサーにカードを接触させた。その結果、地面から謎の植物が伸び、植物は緑色のドラゴンの姿を形作り、そのまま地面の中から全身を出した。
「ドラゴン族が二体に巨人族、植物族が一体ずつ、これでどれくらい戦えるか。」
ドラグーン、ビッグフット、ラベンダードラゴンと、元々出ていたサジタリアスドラゴンを見ながらポラリスはこう呟くと、手に持った刀を抜いて戦闘態勢を取った。
ちなみにこの時、フギンとムギンはと言うと、
「ねえムギン、ポラリス様の言ってた新兵器って、何なのかな?」
作業を続けながら、フギンがムギンに訊いた。
「それはポラリス様に訊いてみないと。」
ムギンがこう言うと、フギンはこう言った。
「きっと、巨大ロボだよ。身長3000メートル級の!」
「フギン、山じゃ無いんだから。第一、そんなにおっきいロボット作ったとして、どこに仕舞っておくの?」
フギンの言葉に、ムギンが冷静なツッコみを入れると、
「じゃあ、何千メートル級のロボットなら大丈夫なの?」
フギンはこう言った、
「と言うか、何千メートルと言う単位からして既に問題外。精々30メートルくらいよ。」
フギンの言葉に呆れたムギンは、こう言うと最後の鉄屑を手に取り、それを籠手の中に押し込んだ。物凄い量の鉄屑が押し込まれたにも関わらず、手甲は今までと同じ体積のままで、フギンやムギンが手で持てる重さしか感じなかった。
「行こうムギン、ポラリス様にこれを渡して帰ろう!!」
仕事が終わった事で、フギンは籠手を持って飛び立っていった。その背を見ながら、ムギンはこう言った。
「ちょっと待って、ポラリス様は先に帰れって!!」
しかし、フギンは止まる事無く飛んで行ってしまった。なので、
「しょうがないな!」
ムギンはこう言うと、何かの呪文と思われる文章を詠唱し始めた。
そして、四体の聖獣と戦うポラリスはと言うと、
「斬撃の舞!!」
源が技カードを読み込むと同時に、ドラグーンは両腕に五本ずつ仕込まれた剣を解放すると、それを大きく振り回す事で、大きさ、軌道、切れ味、全てが不規則な斬撃を放ち、ポラリスを攻撃した。
「はぁぁぁ!!」
ポラリスは手に持った刀で全ての斬撃を切り伏せると、大きく飛んでドラグーンへと接近し、兜割りを放った。
「飛んで!!」
すると、アリソンがこう叫び、技カードを聖装に読み込ませた。言われた通りドラグーンがジャンプで攻撃を回避すると、その後ろに居たサジタリアスドラゴンが弓を構え、矢を放ってポラリスを攻撃した。
「くっ!!」
流石に回避したり切り伏せる時間は無いと判断したためか、ポラリスは左手を前に突き出した。その結果、目の前にバリアーが出現し、サジタリアスドラゴンの放った矢を防いだ。
「防がれた?」
アリソン、サジタリアスドラゴンが同時にこう言うと、様子を見て居た小雪は、こう叫んだ。
「危ない、早くその場を離れて!!」
「?」
小雪の言葉にアリソンとサジタリアスドラゴンが共に疑問を覚えると、ポラリスはバリアーを形成した際に受けたエネルギーを左手に集中させると、それをサジタリアスドラゴン目掛けて放った。
「反射した?! カウンター………グワァ!!」
サジタリアスドラゴンは、ポラリスの行動に反応する事は出来た物の、回避は間に合わず先ほどポラリスに与えるはずのエネルギーを真面に受けてしまった。
「サジタリアスドラゴン? 大丈夫?」
アリソンが倒れたサジタリアスドラゴンにこう訊くと、源が彼女に説明した。
「ポラリスが左手に装備しているあの籠手、バリアーを形成して攻撃を防ぐと同時に、本来は自分が受けるはずのダメージを丸ごと相手に返す効果があるんだ。」
「だから、サジタリアスドラゴンは自分が放った攻撃のエネルギーを受けて、倒れたのね。」
アリソンがこう返すと、直葉、小雪が合流して、彼女に言った。
「取りあえず、アイツの能力をある程度把握している私たちで戦うから、アリソンさんは早く逃げて下さい。」
そして、謎に満ちた強敵であるポラリスと向かい合う三人と、三体の聖獣を見て、アリソンはこう思った。
(何だろ、凄いカッコいい)
彼女はアメリカに住んでいる時も、様々な神司と出会ってきた。だが、彼らは平和主義者な故か、自分より強い相手には挑まない傾向が強かった。
だが、目の前に居る彼らは、勝てる確率が安定しないのにも関わらず自信を持ってこの場に臨んでいる。自分達なら勝てると信じて居るのだろう。アリソンは少し考えると、三人に言った。
「いいえ、私だって一応は神司です。みなさんと一緒に戦います。後、私の事はアリソンと呼んでくれて構いませんよ。」
「俺も居るぞ!!」
アリソンに続いて、戦線に加わるなと言われていた、祐介が言った。
「そう、それじゃアリソン………してくれる?」
なので、源は有る事をアリソンに頼んだ。彼の頭にはこの場を何とかする秘策があり、それはアリソンの援護がある状態で初めて成功させられるのである。
「え、良いけど?」
アリソンがこう言うと、源と小雪、直葉は顔を見合わせ、その場から居なくなってしまった。
「?」
ポラリスは彼らの行動に疑問を覚え、祐介は、
「おーい! どこに行く?!」
三人に呼びかけたが、三人は誰も返事を返さなかった。
「アイツら~。」
祐介がこう言うと、アリソンはこう言った。
「まあまあ、私たちはこちらに集中しましょう。奴の弱点は、ほぼ分かりましたし。」
「マジで?」
祐介の驚きを背に、アリソンの指示を受けたサジタリアスドラゴンは、再びポラリスに向かって行った。四本ある脚で走りながら、両腕は弓を構えて複数本の矢を放った。サジタリアスドラゴンの前に進む力を受けて、矢は先ほどよりも高い破壊力を持ってポラリスに迫ったが、ポラリスは左手でバリアーを展開すると、全ての矢を防いだ。しかし、アリソンはこの事を踏まえた上でサジタリアスドラゴンに攻撃を行わせており、
「そのままの速度で体当たり!!」
と、指示を出した。その結果、サジタリアスドラゴンはポラリスの発生させたバリアーに激突し、バリアーは粉々に砕け散った。
「バリアーが砕けた?!」
祐介が驚くと、アリソンは説明した。
「ああいうカウンターの出来るバリアーと言うのは、受けたエネルギーを自身の攻撃エネルギーに還元する過程で、防御力が限りなく0になるんですよ。」
先ほどの攻防で、ポラリスの発生させたバリアーの特徴を理解すると同時に、同じ特性を持つ相手と戦った事があると言う事を思い出したのだろう。
一方の祐介は、一枚の技カードを取り出すと、アリソンに渡した。
「これを使え、言っておくが、一枚しか無いカードだから、ちゃんと返せよ。」
祐介が渡したのは、自身の聖獣の必殺技である炎属性の技「ダークヒドラ」である。
「Thanks!!」
アリソンはこう言って祐介の渡したカードを受け取ると、それを聖装で読み込ませた。
「ダークヒドラ!!」
結果、サジタリアスドラゴンは持っている弓に大量の弓を番え、一斉に放った。放たれた矢は黒い炎を纏うと、口を開けて噛みつく蛇や竜を思わせるエネルギーと共に、ポラリスに迫った。
「拙い!!」
刀で切り伏せるのも、左手でバリアーを展開するのも間に合わないと判断したポラリスは、腰から竜を思わせる太い尾を出すと、それを大きく一振りした。それにより、空気が切り裂かれると同時に強い衝撃が発生し、飛んできた矢の軌道を変えた。
「危なかった。」
尻尾を出した状態のポラリスが、一息つきながらこう言った瞬間である。
「それはどうかな?!」
頭上から声が響き、ドラグーンと一緒に綾小路源が落ちてきた。彼はアリソンが気を引いている内に、ポラリスの死角に移動したのだ。
「間に合った!!」
「喰らえ!!」
すると、源の行動を合図にしたのか、地下からラベンダードラゴンが現れてポラリスの足を地面に引き込むと、背後に移動したビッグフットが両手に纏わせた冷気を地面にぶつけて、そのまま地面を伝って冷気を運びポラリスの足を氷漬けにした。
「まさか、最初からこのために?」
ポラリスがこう言うと、源は技カードを聖装のスロットに差し込んだ。
「クインテット・スラッシュ!!」
ドラグーンが技名を叫ぶと、彼の右手に装着された手甲の中の五本の剣が解放され、研ぎ澄まされた切れ味が生み出す光が灯った。
「くぅぅぅ!!」
その剣が振り下ろされると、ポラリスは刀で受け止めようとしたが、元々自身とドラグーンとでは体重にかなりの違いがあるのと、ドラグーンに落下速度による力の付加があった事で、そのまま押されて吹っ飛ばされ、近くにあった金属の壁に強かに激突した。
(なんてこと、しばらく見ない内に、格段にレベルが上がってる。)
ポラリスは思ったよりも響いてくるダメージを感じながら、こう思った。
戦いが終わり、それぞれ散っていた面子はまた一か所に集まった。
「それで、アイツはどうするの?」
集まって早々、アリソンは倒れて居るポラリスを指差し、こう訊いた。
「まあ、捕まえよう。」
アリソンの問いに源がこう答え、その声に反応して聖獣たちがポラリスを拘束しようと飛び出した、まさにその瞬間である。
「ポラリス様~!!」
どこからともなく声が響いてきた、
「誰?」
「新手か?」
小雪、祐介が周りを見回しながら言うと、直葉は有る方向を指差し叫んだ、
「あそこ見て!!」
直葉の指差す方向には、ウェーブの掛かった金髪と赤い瞳が特徴の少女が、籠手のような物を手に持ち、ポラリスに向けてだろう、手を振っている。
「ぽ~ら~り~す~さ~ま~!!」
少女は籠手を見せながら、こう叫んだ。
「お仕事終わりました~、帰りましょう!!」
(お仕事?)
少女、フギンの言葉に皆が疑問を覚えたまさにその瞬間である、ポラリスは困った表情をした。
(な、何しているの?)
その直後、瞳が青色である事を除けば、フギンと同じ容姿をしたと言える見た目の少女「ムギン」がフギンの傍に現れ、フギンに言った。
「フギン、早く帰らないと! このままじゃポラリス様の言っていた邪魔者に見つかってしまうよ!!」
ムギンは自身は勿論、フギンも心配してこう言ったのだが、フギンは自信家としての一面も持つのか、こう言った。
「なら、アタシと私でやっつけようよ。」
一方、双子と言う特徴を持つ聖獣、フギン&ムギンのやり取りを聞きながら、源達はこう言い合った。
「ポラリスの言う邪魔者って、俺達の事か?」
まず祐介がこう言うと、
「十中八九、そうだね。」
と、源は言った。
「どうする? 戦う気満々だよ、あっち。」
「と言っても、ねえ。」
小雪、直葉がこう言った後、
「幼子と殴り合うのは、性に合わないだよ。」
と、小雪の聖獣ビッグフットは言った。
「なら、何とかして捕まえよう! どうやら彼女達も、ポラリスと面識がある存在のようですし。」
最後にアリソンが皆にこう言い、皆がそれに同意したまさにその瞬間である。
「こっち見なさい!!」
いつの間にか立ち上がったのか、ポラリスがこちらを見てこう叫んだ。
「?!」
皆が反応してそちらの方向を見ると、ポラリスは再び自身の尾を解放すると、それを大きく地面に叩きつけ、激しい衝撃と砂埃を発生させた。
皆がそれに耐え、やがて砂埃が収まると、そこにポラリスとフギン&ムギンの姿は無かった。
「逃げられた?」
祐介がこう言うと、目の良いサジタリアスドラゴンは、逃げていくポラリス達の姿を目で捉える事が出来たのだろう、静かに頷き肯定した。
この時、逃げられたと言う点では失敗と言えるが、今回途中で居なくなったフレイヤが彼らに言いつけたのは、この工場地帯で好き勝手しているポラリス達を追い出す事なので、その点では成功した、と源達は考えた。
戦いがひと段落してから、源はアリソンに言った。
「とはいえ、今回は協力してくれてありがとう。」
「ううん、私が好きでやった事だから、気にしないで。」
源の言葉に、アリソンはこう言うと、何か思う所があったのかこう打ち明けた、
「私実はね、日本には逃げようと思って来たんだ。」
「?」
アリソンの言葉に皆が疑問を覚えると、アリソンは説明した。
彼女の両親はしばらく前に離婚し、自身は日本人の血を継ぐ父親に付いて行った。その父が、最近になりある女性と再婚を決意したと言う。彼女はその事に何か一抹の不安を感じ、祖母の故郷である日本へと足を運んだのだ、かつての母との思いでに踏ん切りを付け、新たなる母と過ごすと言う決意を固めるために。
「そうだったんだ。」
源がこう言うと、アリソンはこう言った。
「でも、皆に会って分かった。未来の事を幾ら考えても意味は無い、訪れた今を精一杯頑張るしか無いって。」
アリソンは当たって砕けろな行動を起こしては良い結果を残す源達を見てこう思ったのだろうが、自覚していない源達はこう思った。
(何がそういう結論になったの?)
その後、アリソンはもう少し日本を見て回ったら、アメリカに帰ると告げると、源達の持つ携帯電話にあるアドレスを登録し、こう言った。
「何かあった時は、助けて下さいアリソン様、の題字で呼んで。助けに行くから。」
そして、サジタリアスドラゴンを戻した聖装を偽装形態にすると、旅行鞄を持ってその場を離れて行った。
その頃、源達をアリソンと邂逅させる為、邪魔者は撤退と居なくなった女神フレイヤは、影で様子を見て居た。前述の事情故に、彼女の言う「工場地帯に好き勝手する聖獣が居る」と言うのは当然方便だったのだが、運よくポラリスが居た事で、その点の問題は無くなった。
「良かった、あの娘は彼らと仲良くなれたみたいね。後は彼を懐柔するだけ、お願いねオーディン、アテナ。」
源達とアリソンが仲良くなる場面を見届けたフレイヤは、もう一人の神司「アッシュ・クリアフィールド」の暮らすドイツの方角を向き、こう呟いた。
そして、あの場で源達と交戦するも、まんまと逃げ出したポラリス、フギン&ムギンはと言うと、東京都台東区浅草にある自分達の拠点へと帰って来た。
「や、やっと着いた。」
長い距離を移動して疲れたのか、フギンとムギンがこう言うと、ポラリスは彼女達にこう言った。
「と言うか、何で私を呼びに来たの? 私は仕事が終わり次第さっさと帰れと言ったはず。」
この言葉に、フギンはこう答えた。
「だって、ポラリス様が帰れなくなっちゃたら嫌だもん。」
「私は一応止めようとはしたんです! でも、やっぱりフギンと同じ理由で。」
それに続き、ムギンがこう言うと、ポラリスは何かを思う所があったのか、二人に言った。
「本当なら厳しい処罰を下す所だけど、今回は不問と言う事にしてあげる。」
彼女の言葉を受け、フギンとムギンがほっとした表情を浮かべると、拠点で留守番をしていたドロシーが現れ、ポラリスに言った。
「あ、お帰りになられていたんですか? 早く格納庫の武器全部片づけて下さいね。物が仕舞えなくて皆困っているのですから。」
「はーい。」
ドロシーの言葉にポラリスはこう返すと、自身の武器を仕舞う能力のある籠手を持ったフギンとムギンにこう言った。
「じゃあ、そこに詰めた中身は作業場に居るリザードマンに頼んで、溶鉱炉に入れて貰っておいて、そしたら、籠手は私に返して、格納庫の武器を片づけないと行けないし。」
「はーい。」
ポラリスの真似をしたのか、フギンとムギンは二人でこう返事をすると、二人で作業場へと向かって行った。
その背中を見届けたポラリスは、こう思った。
(これであの秘密兵器を完成させられる、これで、私達が奴らに負ける事は無い。)
こうして、女神にポラリスと、二人の女性の思惑が動いている頃、源達はどうしていたかと言うと、
「じゃあ、僕はもう帰るね。」
「ああ。なら俺も。」
「じゃあ、またね。」
源の言葉を受け、祐介も直葉も自宅へと帰って行った。長い距離を移動し、小規模ではあるが戦いも行ったので、少し疲れているのだ。
「気を付けてね~。」
小雪に見送られた源は、幼い頃に幾度と通った道を通り自宅へと足を運んだ。その途中で、偶然にも大学に行っていた姉、綾小路優と合流した。
「あ、姉さん。」
最初に気が付いたのは姉であり、手を振る彼女に気が付いた源が反応すると、優は源に駆け寄りこう言った。
「私は大学での用が終わって今帰る所、源も遊びに行ってきて今帰り?」
姉の問いを源が肯定すると、何だかんだで一緒に行こうと言う事になった。その間、優と他愛も無い話で盛り上がったが、源はその中でこう思った。
(姉さんが聖獣の事を知ったらどう思うかな?)
当然であるが、源は聖獣の存在を母以外には知らせていない。その為、弟が普通の小学生として遊び回っていると考えている優に、少し申し訳が立たなくなったのである。その為、いずれ何かの拍子に聖獣達を紹介しようと考えた。
そして、自宅にたどり着き玄関の扉を開けると、そこには驚くべき光景があった。自分たちの母親である綾小路美里が、一人の男性に押し倒されているのだ。最も、美里を押し倒しているのは源も優も良く知る人物なので、問題は無い。
「父さん?!」
源と優が共に驚くと、美里を押し倒す男性、彼らの父親である「綾小路猛」は、二人を見ながら言った。
「ああ、お帰り。」
「と言うか退いて。この光景が教育に良くない事は分かってるでしょう、教師何だから。」
一方押し倒されている美里は、夫である猛にこう抗議した。その猛は時計を見ると、何かを思い出したのか、美里の上から退くと、こう言った。
「俺はこれから少し用があるんで出かけてくる。だが、直に戻ってくる。」
「二度と帰ってこないで♡」
夫の言葉に美里は、まるで仕事に行く主人を見送る妻のような口調で、こう言った。因みにこの言葉はそのままの意味では無く、
「早く帰って来てね♡」
と言う意味で解釈するらしく、猛はツッコむ事無く出かけて行った。
父親が居なくなってから、源と優は美里に訊いた。
「所で、何があったの?」
子供の問いに、美里はこう答えた、
「帰ってきたは良いけどあの人とちょっと取っ組み合いの喧嘩になってね……前半は私が押していたんだけど……」
「いつも思うんだけど、母さんと父さん、何で結婚したの?」
会うたびに夫婦と言うより、喧嘩友達のようなやり取りを繰り返す自身の両親に対し、源が普段思っている事を呟いた瞬間である。
「ただいま。」
父親の猛が帰って来た。出て行ってからまだ一時間も経っていない、
「早!!」
源と優、美里が猛が帰って来た事に驚くと、彼はこう言った。
「いや、人に会いに行ったんだけど、先方がもうこっちに来ていて。」
「人?」
猛の言葉に源と優が疑問を覚えると、美里は誰が来るか分かっているのか、苦しい表情を浮かべた。猛はその人物を紹介する為、家の中に招き入れた。
「さあ、入って。」
「はい。」
すると、扉の外から大人びてはいるが幼さの残る声が響き、扉が開けられて声の主が入って来た。その人物を見た時、源は驚いた。
そこに居たのは、自分の姉とそっくりな印象を持たせる見た目の、自分と同じくらいの歳の少女だったからである。




