第十四話 過去回想
注意
今回のエピソードは、一か所途轍もなくグロテスクな場面があります。なるべくソフトに表現しましたが、グロネタが苦手な方はお気を付け下さい。
前回までの粗筋
時間稼ぎもかねて、ウンディーネ、バロン・サムディ、ミステリアはオニキスに戦いを挑むも敗れてしまう。その後、融合契約を完了させた天音がオニキスと戦い、圧倒的な力でオニキスに一矢に報いる。
その瞬間、オニキスを中心に激しい光が発生し、周囲を包み込んだ。
突如オニキスを発生源に出現した眩い光。その光にその場に居た面々が飲み込まれ、しばらくの時が経過した。先ほどまでオニキスと激闘を繰り広げていた天音は、アーティファクト・ギアを持たない状態で目覚めた。
「あ、あれ? ここは?」
天音は周囲を見回しながら、こう思った。自分が今居るのは、どこまでも白い空間であり、穢れない白さ故に、どこまで空間が続いているか分からない。
「おーい、白蓮、千歳、恭弥、雫先輩、迅先輩、刹那、麗奈!!」
天音はとりあえず、この場に誰か居ないかと考えて自分の仲間と契約聖獣の名前を呼んだ。だが、自分の知る人物の姿が現れるどころか、返事が返ってくる様子も無い。
「俺一人なのか? と言うか、そもそもここは何処なんだ?」
天音がこう思った瞬間である。
「おーい、誰か居るのか?!」
どこからかこう叫ぶ声が響き、キィーンと言うジェットエンジンが空気を斬るような音が響いてきた。
「この音は?」
天音が音のする方向を見ると、サメを模した戦闘機が飛翔してくるのを目にした。
「ジェットシャークか?」
天音がこう言うと、やって来た機械族聖獣「ジェットシャーク」は、飛行機の形態からロボットの形態となり、天音の傍に降り立った。
「何でお前が………そうか、白蓮と融合して一緒に居たからか。」
ジェットシャークがこの場に居る理由を、天音がこう考えて納得すると、ジェットシャークはこう言った。
「どうやら、ここに他の面々は来ていないと言う事か。」
ジェットシャーク自身、自分の知っている顔を探して飛んできたようだが、知っている顔は見つからなかったらしい。
「どうする? 探しに行くか? それとも来てくれるのを待つか?」
天音がこう訊いた瞬間である。
「いいや、その必要は無い。」
女性の物と思われる音程が低めの声が響き、ヘルニアとステゴサウルス・Jackが現れた。
「お前らも居たのか?」
両者の姿を見て、ジェットシャークがこう言うと、
「それはこっちのセリフだよ。」
と、ステゴサウルス・Jackが言った。
それに続いて、今度はドラグーン、フェニックス、エレクトードが現れ、最後に源が白蓮を連れて現れた。
「と言う訳で、主要なメンバーは何とか集まれた訳だが、ここは一体どこなんだ?」
皆が集まってから、ドラグーンがこう言うと、
「状況を簡単に整理しよう。俺達は融合契約を行ってオニキスと戦い、後一歩の所まで追い詰めた。だが、会心の一撃が命中した瞬間、眩い光が発生し俺達はここに……」
天音がこれまでの事を思い出して、こう言った。それに続き、源はこう言った。
「今問題なのは、ここがどこで、僕達以外に誰が居るのかと言う事だよね。僕らだけなら、後者を省けるから良いけど。」
源がこう言った瞬間である、突如空間が歪み始めると、まるで絵具を混ぜ合わせているかのようにして、周囲の光景が変わり始めた。
「げ、源、何をしたの?」
「僕は知らないよ!!」
驚いたフェニックスがこう訊き、源がこう答えた瞬間である。彼らの周りの光景は今までの白い世界から、街と思われる場所の光景に変わった。昼間の賑やかな時間らしく、人々が何人も行きかっている。
「ど、どうなってるんだ?」
ジェットシャークが周りを見回しながらこう言うと、天音はこう言った。
「でもまあ、人が居るなら都合が良い。」
そして、適当な人物に話しかけようとしたが、その人は返事を返さないばかりか、天音の存在に気が付いていないらしく、そのまま通り過ぎてしまった。
「あ、あれ?」
自分で言うのもなんだが、一般的に見てかなり目立つ見た目の天音が存在すら気が付かれない、そんな意外な状況に置かれた天音は思わず驚いた。
一方の源は、ある事を考え付くと、目の前を通りかかった人の脚を踏もうと、自身の脚を振り上げると勢いよく下ろした。その結果、脚はその人の足を踏まずに、そのまますり抜けて地面に当たった。
「あ、やっぱりだ。」
源は自分の予想が当たっていた事に気が付くと、天音にこう言った。
「僕ら何かのイメージを見て居るんですよ。だから、話しかけても返事はしないし、危害を加えようとしても意味は無い。」
「イメージ? 誰の?」
源の言葉に、天音がこう返すと、源は有る人物を指差してこう言った。
「多分、アイツだよ。」
「アイツ?」
天音と白蓮、ドラグーン達が源の言うアイツを見た時、彼らは一様に驚いた。そこに居たのは、服装や髪形などのある程度の差異はあるが、紛れも無く綾小路源その人が居たのだから。
「これは、過去のお前の……オニキスの記憶?」
天音がこう言うと、源はこう言った。
「いいや、少なくとも僕の記憶じゃない。見た感じ、江美や彩妃達も一緒に居るけど、この二人をまとめたのが僕みたいだし。」
「確か、お前が江美と彩妃に誘われたんだったな。この世界では……」
ジェットシャークが、源の言葉に続いてこう言った瞬間である。周囲の光景が早回しに回り始めると、過去の回想が始まった。
「自らの星を穢す愚かな人類は、いずれ宇宙さえも穢し消滅させる。そんな下等生物は、今すぐに滅ぶべきなのだ!!」
「悪いけど、世界や人類を滅ぼさせる訳には行かない!!僕らの未来は、僕らで掴みとる。」
ある時は、世界中の聖獣の力を得て人類を滅ぼそうとする存在を打ち倒し、
「貴方さえ………貴方さえ居なければ!!」
「そんな事を言わないでよ、貴女が居たんだから僕は強くなれたんです。」
ある時は、宿敵であるポラリスを完全に勝利し、
「では、私も全力を出しましょう。貴方も、人類の可能性を示して見せない!!」
「言われなくても!!行くよ、グレイテスト化発動!!」
最後の戦いでは、伝説の中の伝説とさえ言われた究極のパワーアップ「グレイテスト化」の封印を解き、世界最強の聖獣「聖獣王」を倒して見せた。
不可能と言われた様々な事象を可能にした綾小路源は、いつの日か世界中の神司に英雄として扱われていた。
その様子を見ながら、天音は源を見ながら思った。
「お前、凄いな。」
「凄いのは、オニキスだよ。」
源がこう返すと、栄光に満ちている回想は突如変化した。折角聖獣王を倒しながらも、源は今のままで良いと言う理由で、世界を変える事を拒んだ。その結果、世界が自分に都合よく変わる事を期待していた神司や、神司の事を知る人物達は揃って彼を非難し始めたのだ。最初はただ言葉で叩かれるだけだが、やがて力が伴うようになり、源の仲間の神司達にもその影響が出始めた。ある人物は暴漢によって重傷を負わされ、またある人物は実家で営業していた店を権力で潰される等、散々な事になった。
当初は全く気にしていなかった源だったが、やがて自分の家族にさえも被害が来ると、仲間の神司達は勿論、家族とも訣別して一人新天地へと旅立って行った。その後、彼は神司で有ると言う事を極力隠して生活し、順調に高校、大学を出て就職すると言う、至って普通の生活を送っていた。就職先で知り合い、親しくなった女性と結ばれ、その生活は幸福に満ちているだろうと思われている。
「じゃあ、行ってきます。」
「行ってらっしゃい。」
背広を着こんだ大人の源は、玄関で見送る自身の妻にこう言うと、妻の見送りの声を背中で聞きながら、職場へと足を運んで行った。ささやかな結婚式の後に、新婚旅行に行ってしばらく仕事を休んでいたので、今日から職場に復帰するのだ。
勇んで職場に向かう源だが、彼は気が付いて居なかった。彼の後ろを付けるようにして、ナンバープレートの付いていない車がゆっくり追って来ていると。
源が職場に向か途中で、人通りの少ない通りにある信号の無い横断歩道を渡ろうとした瞬間である。今までゆっくり走っていた車が、急に速度を上げて源の居る横断歩道に突っ込み、源の体を撥ねてそのまま逃げだした。人通りの少ない通りだったので、目撃者は誰も居なかった。源は最後の力を振り絞って携帯を取り出すと、それを使って救急車を呼んだが、途中で力尽きて意識を失った。
その後、すぐに救急車が来て病院に運ばれたが、打ち所が悪かったためかこのまま二年間、意識を取り戻さなかった。
二年の歳月が立ったある日、こん睡状態の源に変化が訪れた。心拍数を表す計器の標示が、ゼロを差したのだ。
「ご臨終、ですね。」
死を看取った医師はこう言うと、彼の命を持たせていた装置の電源を切り、その場を後にした。
その場に残っていた看護師は、源の姿を見ながらこう言った。
「でも、残念ね。まだまだこれからだと言うのに。」
年配の看護師のこの言葉に、若い看護師は言った。
「そうですね、こんなに“幼い”のに。」
「幼い? ここに寝ている患者は、二十代の男性だった筈よ。」
若い看護師の言葉に、年配の看護師がこう言い返すと、
「でもこの顔立ちと身長、どっからどう見ても小学生ですよ。それに、髪の色も銀髪になってるし。」
若い看護師は、目の前で寝ている死体を見ながら、こう言った。この言葉に、年配の看護師はこう言った。
「じゃあ何か? 今までここに寝ていた筈の患者が、子供の死体と入れ替わったって言うのかい?」
この言葉が部屋に響いた瞬間である。死んでいる筈の目の前の患者、幼い姿の源は目を覚ましたのだ。
「え?」
看護師たちが言葉を失うと、幼い姿の源はベッドの上で起き上がると、看護師の顔を見て、一体何なんだと言いたげな顔をした。
「と、とにかく、先生を呼んでくるわ………」
「………お願い…します………」
年配の看護師は医師を呼びに出て行ってしまったので、自分はこの場でどうすれば良いのか分からない若い看護師は、黙ったままの源を見ながら思ってしまった。
(気まずい………)
その後、一連の身体検査を終えて、ぶかぶかの病院着から子供用の服に着替えた源は、病院を後にした。別に珍しい服装と言う訳でも、珍しい行動をしているわけでも無いが、何故か彼は目立っていた。
(何なんだよ、もう。)
疑問に思った彼は、偶然通りがかった場所にあるショーウィンドウの中を見た。そこには鏡が置かれており、自分の姿が映った。
「?!」
それを見た時、源は驚いた。背丈や顔立ちが少年時代に戻り、髪の色が銀色に変わった事は理解していたが、髪は動くたびにさらりと揺れる程に長くなっている。その髪によって、顔立ちは少年の凛々しさを持ちながら少女の美しさも持つと言う、中性的な魅力を放っていた。これでは、目立っても文句は言えない。
「はぁ、どうなってるんだか?」
源は一息ため息を付くと、その場を後にした。確かに驚いたが、彼自身は神司だった時代に常識はずれな事に数多く接してきた為、このような事象に耐性を持っていたのだ。
その後、適当な駅に向かうと路線図を見て切符を買い、電車に乗って自宅の最寄り駅へと向かって行った。
二年の時が経過した事で、若干であるが変わっている街の景観を見ながら、源は自宅、正確には自宅だった家の建っている場所へとやって来た。彼が門に手を掛け、中に入ろうとした瞬間である。彼は見覚えの無い苗字の表札が有るのを目にした。
「? アイツの旧姓は坂本だろ?」
源が自分の妻だった女性の事を思い出した。もしかして、自分が意識不明だった二年間の間に、引っ越しでもしたのかと考えたが、その考えはすぐに外れる事になった。
「あら、何か御用?」
一人の女性が、背後から源に声を掛けた。そこに居たのは、かつて源の妻だった女性その人であった。彼女は出かけていた所を見ると、病院で意識不明だった夫が目覚めたと言う話を聞いていないらしい。
源は自分でも、死んだ筈の自分が生きている理由が良く分からないのと、表札の見覚えの無い苗字を疑問に思っていたので、自分の事を偽って話を続けた。
「昔この家に住んでいたんです、前に引っ越してから偶然近くに来たんですけど、変わってませんね。」
自分が、綾小路源が入居する以前までここに住んでいた住人、と言う事にして、適当に話を進める事にした。彼の言葉に、女性はこう訊いた。
「そうなんだ、私は二年前からここに住んでいるんだけど、引っ越したのは何年前?」
(俺と結婚したからね。)
源は心の中でこう思い、こう答えた。
「引っ越したのは二年前です。」
「そうなんだ、多分入れ違いだったのね。」
源の言葉を全く疑っていないのか、こう言った。その時である、
「どうした? 客か?」
と、背後から声が聞こえた。その瞬間、
「あら貴方、お帰りなさい。」
女性はこう言って、男性に近づいて行った。
(この女、最初からこのつもりで結婚届を出さなかったな。通りで情報が来てない訳だ。)
その姿を見ながら、源は顔にこそ出さないが心の中で怒りながら、こう思った。その後、彼女に一緒に夕食でもどうかと誘われたが、
「自分にも門限があるので、今すぐ帰らないと行けないので。」
こう言って、その場を後にした。勿論、門限等と言うのは真っ赤なウソで、家無しの彼に門限等存在しない。夕食が貰えるのであれば、それは願っても無い事だが、二年間の間に何があったかを知りたいと考えていたので、しばらく違う場所に隠れて様子を窺おうと考えたのだ。
日も落ちて暗くなり、空には月が昇り夜となった。源は目立たない場所に身を隠し、聴こえるはずも無いのに、家の中で行われている会話に耳を澄ませていた。
(何やっているんだか俺様、聴こえるはずも無いのに。)
源がこう思った瞬間である。突如耳が透き通るようにすっきりし、家の中での会話が聞こえるようになった。
家の中では、このようなやり取りが行われていた。
(なあ、この記事見て見ろよ。死んだと思われていた患者が目を覚ましたって。この名前、前の夫の事だろ。)
(もう良いのよ、あんなつまんない人。)
(おいおい、そこまで言われちゃ、彼泣いちゃうぞ。)
(貴方がそれを言ったらお仕舞でしょう。元々、貴方が私を彼に近づけたんじゃない。)
(そりゃそうだけどさ。)
(貴方は野心は有るけど優しすぎるのよ。綾小路家の財産を狙って近づいたのに、彼何も持っていなかったのよ。そんな人の事を気にする必要は無いじゃない。それに、最終的にあの男を撥ねたの貴方じゃない。)
(簡単に言うけどな。人ひとり撥ねた後車を一目の付かない場所に捨てて、そこから何も不自然な所を出さずに帰るって、かなり大変なんだぜ。)
この一連の会話を聞きながら、源は思った。
(何かおかしいとは思ったが、やはりな。)
その後、男はこう言った。
(まあ、お前が俺の為の純潔を守ってくれたのは感謝するけどな。今日もさ……)
(はい、旦那様♡)
女がこう答えた瞬間、源はこう思った。
(リア充共!爆ぜちまえ!!)
その瞬間、家の中から何かが弾けるブシュと言う音が響き、続いて女の悲鳴が上がった。
源が爆ぜろと思っている頃、家の中で何が起こっていたかと言うと、
「?」
男はふと疑問に思った。体の内部から、針に刺されるような鋭い痛みが発生しているのだ。世の中には、尿酸結晶によって風が吹いただけでも針に刺されたような痛みが発生する、痛風と言う病気があるが、風も吹かない場所で何が痛いのかと男は疑問に思った。
その後、男はその思考を最後に人生に幕を閉じる事になった。突如全身の血液が全て鋭い結晶と化し、臓器や欠陥、筋肉や皮膚をズタズタに切り裂いたのだ。その為、はじけるような音が響いたのだ。
今まで一人の男性だったそれは、一瞬の内に細かい肉の欠片や血しぶきとなって部屋中に広がり、その様子を見た女は驚きの余り悲鳴を上げた。
「え、な、何が……起こったの?」
女が信じられないと言った面持で、部屋の惨状を眺めていると、
「どうしました?」
突如気が抜けた声が響き、驚きの余り震え上がった。しかし、背後に居たのは先ほど出会った、以前の住人の少年であった。
「な、何でここに居るの?」
女がこう訊くと、少年こと源はこう言った。
「何故って、ここが自宅だからだよ。」
「え、でも、貴方二年間前に引っ越したんじゃ?」
女がこう訊くと、源はある物を見せながらこう言った。それは運転免許証で、本籍はこの場所を指している。
「でもあんまりだよ。昔の旦那様も報われないね、奥さんにこんなに早く再婚されるなんてさ。」
源がこう言うと、女性はこう言った。
「あ、貴方は一体何なの?一体何を知っていると言うの?」
「何も知らないよ。」
源はこう返すと、近くにあった棚からある物を取り出し、それを女に見せた。
「これを見てよ。僕が誰か分かるから。」
彼が差し出したのは、小学校の卒業アルバムである。女がその中を見ると、そこには目の前の少年とまったく同じ顔の生徒の顔写真があり、名前の欄には「綾小路源」と書かれていた。
「貴方まさか………でも、何で?」
女がアルバムを落とし、信じられないと言った面持で彼を見ると、源はこう言った。
「ゴメンね♡ 生き返っちゃった。」
そして、最高の笑顔で女を殴り倒し、倒れた彼女を踏みつけると、彼はこう言った。
「それじゃあ、俺を騙してくれた仕返しに、蟲を沢山出産しながら死亡するの刑~♡」
「?!」
源が笑顔で言った一言に、女が恐怖と共に疑問を覚えた瞬間である。突如、下腹部に不自然な感覚を覚えた。大量の小さな生物が、元気よく蠢くような………
「じゃあね~♪」
源はこう言い残すと、その場を軽い足取りで後にして行った。
「ま、待って!!」
女は彼を呼び止めようとしたが、その時彼は既に消えていた。そして次の瞬間、女は先ほどよりも大きな悲鳴を上げた。
しばらくして、悲鳴を聞いて不安になった近所の住人が呼んだ警官がやって来たとき、彼はその場の光景に思わず言葉を失うと同時に腰を抜かし、必死になって本部の刑事たちを呼んだ。
その刑事たちが来たとき、様々な事件の現場を見てきて、凄惨な殺人事件の被害者も幾度と見てきている彼らも、その光景には思わず驚き、人によっては吐き気を催した。
部屋の中は真紅に染まっており、部屋中に錆びた鉄のようなにおいが充満し、部屋の中央には女性の死体が有り、その死体の周囲には数百匹にも及ぶだろう蟲が蠢いており、女性の髪の毛や衣服、皮膚や筋肉を食べて成長していた。しかも、まだまだ居るのか彼女のお腹は大きく膨れており、どこからか蟲がどんどん湧き出ていた。
この一部始終を見て居た、天音達と源達はと言うと、
「う、うぅぅぅうぅう。」
天音は吐き気を催し、白蓮は気分を悪くしていた。
「だから見るなって言ったのに。」
その隣で、ヘルニアは口を押えながらこう言い、
「しかしまあ、随分とエゲツナイ事をするもんだ。」
「驚きを通り越して、関心の域に入っちゃうよ。」
ジェットシャーク、ステゴサウルス・Jackは、こう呟いた。
そんな中、後に当事者になるかもしれない、綾小路源その人はと言うと、
「我ながら凄い事を………でも何だろ、何か新しい世界の扉が………」
源は、先ほど回想の中の源が浮かべていたような、悪い笑みを浮かべながら、クックックと笑いながらこう言った。
「やばい!アイツの中で目覚めてはいけない何かが目覚めそうだ!!」
「止めろ!!今すぐ止めろ!!」
その様子を見て、フェニックスとエレクトードはこう言うと、源を殴り飛ばす事で何とか新しい世界への扉を開くのを止めた。
「と言うか、回想はまだまだ続くみたいだぞ。」
そんな中、ドラグーンが皆に対しこう言った。その瞬間、周囲の光景が早回しになるように回り始め、急激に時が進んだ。
次に現れた光景は、何処かの山中と思われる深い森の中であり、綾小路源が一人の女性と会っていた。見た目こそ今と若干の差異はある物の、その姿は間違えなくウンディーネであった。
「貴方、いつまでそういう事を続けるの?」
背を向けたまま、顔を合わせようとしない源に、ウンディーネはこう訊いた。この問いに、源はこう答えた。
「さあな、でもさぁ、止めようって気にならないんだよ。楽しいとも思えないのに、つまんないとも思えない。」
「だからって、このまま地球上の悪人を殺しつくすつもり?」
こう返すウンディーネの足元には、引きちぎられ、切り刻まれ、粉みじんに砕かれた、以前まで人間だった何かが数多く散乱しており、森中を血の匂いで覆い尽くしていた。
「俺が人を殺すのは、俺が何者か知るため何だよ。少なくとも、誰であれ人を殺せば何かを感じる。それが人間のはずなんだけど。」
源がこう言うと、ウンディーネはこう返した。
「他でも無い貴方がそれを言うつもり?貴方、もうすでに化け物以外の何者でも無いじゃない。」
今の彼の容姿は、背丈や髪形とその色は同じだが、頭からは銀色の毛で覆われた耳、お尻から同じような色合いの毛で覆われた九本の大きな尾がある。彼が死後覚醒した時より一世紀程の時が経ち、その過程でこのように変化したのだ。
「と言うか、今日ここに来たのは世間話の為じゃないだろ。」
源がこう言うと、ウンディーネは彼にこう告げた。
「ええ、今日は古き良き友人として、貴方に忠告をしに来たの。」
「忠告?」
源が疑問符を浮かべると、ウンディーネはこう言った。
「ええ、もう人を殺すのは止めなさい。これまでは何とか皆を押さえつけてこれたけど、もう私が貴方を庇うのは限界になって来た。それに、人々の間で貴方が何て呼ばれているか分かっているの?」
「食人クリーチャーだっけ?」
「そうよ、それに貴方は覚醒の際に人としての肉体を残してしまい、どちらに付いても不完全な「半獣」と呼べる存在なの。聖獣と人間、両方を敵と見做されて生き残れると思っているの?」
気の無い返事を返す源に、ウンディーネがこう言うと、源はこう言った。
「あのさぁウンディーネ、一つ訊きたい事が有るんだけど。」
「?」
ウンディーネが疑問符を浮かべると、源はこう訊いた。
「節分になれば鬼は追いやられ、魔女は有無を言わさず燃やされ、悪魔は憑いた時点で祓われ、ドラゴンは宗教的に敵と認識されて駆逐された。それじゃあさ、そういう忌み嫌われる存在がこの世に存在する理由って、何の為?」
「…………」
答えに詰まったウンディーネは、少し黙り込むと、こう返した。
「とにかく、人を殺すのは少し控える事。分かった!?」
「えぇ~。」
源がいかにも不満と言った口調の返事を返すと、ウンディーネは有る事を思いつき、こう言った。
「さっきの質問の答えだけど、これから会う人なら知っているんじゃない?」
「?」
源が疑問符を浮かべた、まさにその瞬間である。
「超加速!!」
静かな声だが、はっきりとウンディーネはこう言うと、目にも止まらない速度で源の背後まで走ると、源の後頭部に強い衝撃を与えて、彼を気絶させた。
数時間後、気絶させられた源は無事に目覚める事が出来た。しかし、彼が居たのは今まで居た森の中では無く、何処かの神社と思われる。そして彼は、神木と思われる一際太い樹の幹に鎖で縛りつけられていた。何とか脱出しようと試みたが、特殊な効果が掛かっているのか外れる見込みが無かった。
(ウンディーネの野郎、ヘトパイトスの鎖で縛ったな。)
源は先ほどまで合っていた筈の旧友を思い出し、こう思った。彼女が持っている特殊な鎖は、ヘトパイトスが作ったと言われており、対象を何が有ろうと拘束し、指定された人物が外そうとしない限り、何が有ろうと外れないと言う効果がある。彼女は以前の戦いで、その鎖を使って一時的に人質を作った事があるのだ。
まともな方法で外すのを諦めた源が、違う方法でこの状況を脱出しようと考えた時である。年齢にしてまだ十歳に届いてないと思われる少年が、木の陰に隠れて自分の事を見て居るのを見つけた。
「あ、何だよ?」
源が、隠れている少年にこう言った瞬間である。突如頭上から激しい衝撃が発生し、その時の感触で源は殴られたと理解した。
「駄目でしょう莉玖、このお化けには近づいちゃダメって言ったじゃない。」
現れた巫女服を身に着けた、年齢の良く分からない美女であり、少年の名前を呼ぶと彼の手を引いて、その場を後にして行った。
少年こと莉玖は、女性に手を引かれるままその場を後にしたが、その際源に対し手を振って行った。
(何なんだよ、あの野郎。)
一方、こう思った源は、莉玖に対して吼えて返した。
源が神社の神木に縛り付けられてから、一週間程の時が経過した。地獄耳で女性と莉玖が会話している事を盗み聞いて分かった事だが、自分がここに縛られているのは、自分を連れてきた人物(恐らくウンディーネと思われる)の仕業らしく、この鎖が解くには、
「源がこれまでの所業を反省する事。」
ただ一つこれが必要なようである。
(反省しなくても出てやるよ)
源はこう思って、その点を余り気にはしなかったが、彼の懸念はまだあった。それは、何故か自分に興味を示してくる莉玖の存在である。
何が楽しいのかは分からないが、彼は外に出ればいつも源の元に居り、源が追い払ってもいつの間に戻ってきている。ある時、源は思い切って訊いてみた。
「あのさぁ、俺と一緒に居て楽しいのか?」
「全然!!」
源の問いに、莉玖は驚くほど素直にこう答えた。
「おいおい、良く飽きないな。面白くない相手と一緒に居て。」
源がこう言うと、莉玖はこう言った。
「楽しくは無いけど、面白いよ。さっきから尻尾振ってるじゃん。」
莉玖が言うには、自分の一挙一動それを眺めるだけでも十分楽しいらしい。
「バカにしてるのか。」
源が更にこう訊いた瞬間である。再び、以前も体験した衝撃を頭に感じた。殴られたようである。
「莉玖、この子に近寄っちゃダメよ。」
源を殴った女性は、こう言って莉玖を連れて行った。その際莉玖は女性に、彼にご飯上げなくて良いの、と訊いたが、
「悪い子にご飯何ていりません。」
女性はこう言って、莉玖を連れて神社の中に本堂と一緒に併設された住居に入って行った。
やがて、更に10日が経過した。源自身、神木に縛られたままと言う状況は何も変わらないが、一つだけ問題が発生した。
(腹減った。)
この一言で理解できる通り、空腹なのである。聖獣でありながら、人としての特徴を持つ半獣の彼に、聖獣における霊力切れの問題は無いが、人としての特徴を持つ以上生理学的に空腹になる。しかも、約17日は軽く絶食しているので、体力的にはほぼ限界に近かった。
そんな時である、少なくとも二度は近づくなと言われたにも関わらず、莉玖は懲りずに源の前に現れた。今回は、不格好なおにぎりを持っている。
「今日はどうしたんだ?」
一回だけため息を付くと、源はこう訊いた。すると、何か動物が唸りを上げるような音が、辺りに響き渡った。少なくとも、源は唸っても居ないし、腹もなっては居ない。
「お腹空いた、どうしよう?」
腹の音の正体は、莉玖だったらしく、源を見ながらこう言った。源は再びため息を付くと、こう言った。
「それを食ったらいいだろ、自分で持ってきた食い物何だから。」
彼のいう事は最もだが、この時莉玖は良い事を思いついたらしく、おにぎりの右半分だけをちぎると、源の目の前に差し出した。
「はい、半分こ。」
無邪気な笑顔でこう言う莉玖を見ながら、源は思った。
(そういえばこいつ、飽きもせず俺の所に通い詰めて居やがったな。考えれば、始めてかもな。ここまで他人に気にかけて貰ったのって………)
そして、何か思う所があったのか、
「ありがとう。」
と言うと、おにぎりを受け取った。
その後、源が以前の行動を反省したと判断されたのか、それとも違う理由があるのかは分からないが、次の日には源を縛る鎖は外れていた。
「そうか、こんな事があったのか。」
ここまでの事を見届けた源がこう言うと、天音はこう言った。
「と言うか、これとオニキスが出てくるのと、どういう関係が有るんだ?」
「確かに………」
天音の言葉に、皆が同意を示した瞬間である。突如彼らの頭に、誰かの声が響いた。
「話はこれで終わりでは有りません。この出会いが彼の、オニキスにとっての本当の悲劇の始まりだったんです。」
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