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聖獣王伝説  作者: 超人カットマン
第一章
4/55

第四話 制空超鮫

源が夏祭りから帰った翌日、携帯のメールを用いて彼に連絡が入った。

「これから戦闘訓練を行うので、出来れば午後一時に公園に集合。」

 これに対し、源は、

「出来れば?出来ない場合は参加しなくて良いの?」

 と訊き返した。もちろん、当然の如く、

「出来なくても参加はするように。ちなみに出来ればと言ったのは、その時間になるべく来るようにと言う意味だよ。」

 連絡を送った、神司部の部長の孫江美は、こう答えた。

 その連絡が来たのは午前十時、リビングのソファに寝転んでいた源は、時計を見て思った。

(一応行かないと)

 こう考えた源は、祭り後、友達と打ち上げに行って夜遅くまで帰ってこなかった、姉の綾小路優を無理矢理起こすと、

「僕は一時から出かけるので、その点よろしく。」

 と言っておいた。つまりは、

「昼飯は自分の分しか用意しないので、今日の昼飯は自分で何とかして。」

 と言う事である。





そして、問題の午後一時になった。指定された公園に聖獣たちとやって来た源は、周りを見回して思った。

「まさかの一番乗り?」

 昨日夏祭りに行くために学校に集合したとき、自分は三番目だった。そして今回は一番だったので、ブランコをこぎながら待つことにした。

「にしても、なんでここを選ぶかな?」

 ブランコに乗る源がこう呟くと、

「ここで何か嫌なことがあったのか?」

 気になったのか、ドラグーンが訊くと、

「いや、そういうわけじゃ無いけど、なんか幼い頃にここで、不思議な事があって。」

 源はこう言った。

「不思議な事?」

 ドラグーンがこう訊くと、

「僕が幼い頃、塾に通っていた時に一度だけここを通って帰った時があったんだけど、何故かその時、ここから家までの記憶が飛んでるんだよ。」

 源は答えて、再びブランコをこぎはじめた。

 その後、源の頭の位置がかなり高くまで上がった頃、まずは吉岡直樹が現れ、その直後に一条彩妃、その後少しして増田薫、最後に孫江美が現れた。

「部長、一番遅いですよ。」

薫がこう言うと、

「いいじゃん、参加することに意義があるんだから。それに、時間を気にすると小さい器の人に思われるよ。」

 と、江美は言って、面々に今日の活動の方針を伝えた。

「今回の活動は連絡で言った通り戦闘訓練。それと一緒に、前に出来なかった聖獣同士の自己紹介もしましょう。」

 と言う事で、まずは全員自分の所有する聖獣を召喚した。

「まずは私の方からね。」

 江美がこう言うと、

「俺はアーケロンド、炎と鋼属性。見た通りカメだから獣族。得意なのは格闘技と回転、それと空を飛ぶこと。」

 アーケロンドはこう言った。すると、新参者のフェニックスがこう訊いた、

「空を飛ぶって、具体的にどんな感じ?」

「甲羅の手足を出してる部分から炎を出して、その推進力で飛んでいる。」

 アーケロンドがこう答えると、

「じゃあ次は私ですね。」

 次に彩妃によって召喚された、胸元の開いた裾の短い青い装束と長い茶髪、背中に大きな羽が特徴の美女「イスフィール」が前に出た。

「風と鋼属性。名前はイスフィール、妖精族です。得意なのは音楽、歌も演奏も任せてください。」

 昨日会ったときのように挨拶すると、エレクトードは訊いた。

「何でもって言うけど、具体的に何が演奏出来るんだ?」

「そうですね、ピアノ、ギター、バイオリン、ハープ、琴、笙、ドラム、他にも・・・」

イスフィールの出す楽器の名前は、誰もが良く知る物から、どこかの民族が使うようなマニアックな物と、多種多様である。言い終わるのに数分かかったので、何が上げられたのか、誰も覚えていなかった。

「そこも良いけど、美人で胸も大きくて、見た目も可愛いでしょう。」

ここで、彩妃が余計なことを言うと、

「ちょ、彩妃。」

 イスフィールに口を塞がれた。

「はいはい、聖獣自慢は程ほどに、次は俺の方だ。」

続いて、直樹の聖獣が前に出た。

「俺はフレアノドン。炎と風属性、恐竜族。趣味は何かを焼くこと。」

フレアノドンがこう自己紹介すると、半ばあきれた顔で源は訊いた。

「それで、主に何を焼くの?」

「ああ、魚とか果物とか。」

フレアノドンがこう言うと、耳打ちでドラグーンが言った。

「お気を付けを、恐竜族には乱暴な聖獣が多い。何せ恐竜族の大半は、もともと存在していた恐竜が絶滅後、そのまま聖獣になったタイプであるからな。」

「ちょっと待て!何、変なことを教えている!」

フレアノドンはドラグーンに注意した。一方のドラグーンは、

「そちらがそうでなくても、大半がそうなのだから、注意することに越したことは無いであろう。」

こう言い返した。

 「はいはい、喧嘩はだめだよ。今日はあくまで訓練なんだから。」

  江美がこう言ったところで、自己紹介は薫のギュオンズの番になった。

 「俺はギュオンズ、鋼と光属性の機械族聖獣。好きな油はサラダ油だ。」

 (なんでサラダ油?そこは潤滑油でしょう)

  源たちがこう考えていると、

 「じゃあ最後、源たちね。」

  と、江美が言った。

 「え、まさかのサラダ油のネタには絡み無し?」

  若干がっかりしたようにギュオンズが訊くと、

 「ネタだったの?てっきり本気かと。」

  と、江美は言った。

 「いやいや、どこにサラダ油を好む機械が居るんだよ!」

  ギュオンズが抗議すると、皆は声をそろえて言った。

 「ここに居る。」

  この一言でギュオンズはがっかりしていたが、それには関わらず最後の自己紹介に移った。

 「まず俺はドラグーン。ドラゴン族の水と鋼族の聖獣だ。嫌いな女は、何かと猫被ってる奴。」

「だってさ、イスフィール。」

  彩妃がイスフィール見ながら言った。

「なんで私に言うんですか!?」

イスフィールは抗議したが、全員に無視されて、次の聖獣が自己紹介を行った。

「フェニックス、獣族の炎と風属性の聖獣。好きなことはマグマにつかること、後果物を燃やすことです。」

(思ったんだが、聖獣って危険な思考の持ち主が多いのか?)

 源たちがこう考えると、最後の聖獣、エレクトードはこう言った。

「誰でも一緒だと思うな、安全志向な聖獣も存在するから安心しろ。」

「となると、お前は普通と考えて良いんだろうな?」

源がこう言うと、エレクトードはこう自己紹介した。

「エレクトード、雷属性で獣属性。趣味はあちこちに静電気をまき散らし、驚く人々を眺めまわし、隙を見つけて携帯の電源を抜き取ること。」

「ちょっと待て!何その趣味、物凄い悪趣味なんだけど?!」

 聖獣も合わせて、皆がこう言うと、

「悪戯はお化けの専売特許であろう。」

 エレクトードはこう言い放ち、

「お前らも聖獣なら悪戯の一つや二つは出来たほうが良いぞ。」

 と、先に自己紹介を行った聖獣たちに言った。

「な、人々のためになる事をするのが聖獣でしょう?!」

 イスフィールがこう言うと、エレクトードはこう言った。

「ほう、昨日の祭りの時、誰も見ていない所で彩妃が突然わが主のもとに倒れこんだのも、お前の差し金だと気が付かないと思ったか?」

「イスフィール?」

 彩妃が冷めた目線で見ている、思わずイスフィールは、

「な、ああいう場所ではさり気なくフラグを立てる物でしょう!」

 と言った。すると、彩妃は、

「余計なことをしないでよ、余計に話がややこしくなる!」

 と文句を言った。そしてイスフィールに、

「罰として、源に胸触らせてあげて!」

 と命じた。

「ええ?!」

 これには、イスフィール以上に源が驚いた。男として考えれば女性の胸の触れるのはある意味で幸せだが、人前で、それも言われてやるのは物凄く恥ずかしい。一方の彩妃が、なぜこう言ったかと言うと、

「私は昨日それで凄い恥ずかしい思いをしたんだから、それと同じだけ二人に恥ずかしい思いをしてもらいます。」

 と言う事である。

「何その連帯責任?!」

 源は当然の如く文句を言った。しかし、イスフィールの方はと言うと、

「主が仰られるなら、私は如何なる罰も甘んじて受ける覚悟はございます、ですが自分の咎に他人を巻き込むつもりはありません。」

 彩妃にこう言うと、昨日の戦闘に使った先のとがった指揮棒を取り出すと、

「自害して事をおさめますゆえに、彼のことはどうかご容赦を。」

 皆とは違う方向を向いて膝をついて座って、指揮棒を持ちながら言った。

「聖獣にも自害ってあるの?」

「あるわけねえだろ。肉体その物が無いのに。」

「と言うか、あれって間違いなく脅してるよね。」

「それ以前に、あれで腹を斬れるのか?」

他の面々が呆れながらこう言うと、思わぬ助け舟が入った。

「はいはいみんな、落ち着こう。なんか訳がわかんなくなってきたから。」

アーケロンドが皆に言った。

「そういうわけだから、今回は見逃してあげて。」

 江美も同じように、彩妃にこう言うと、

「分かりました、今回だけです。」

 彩妃はこう言って、いったん矛を収めた。





話が折れてしまったが、自己紹介が終わってから、江美は皆に言った。

「さっきも言ったけど、今日は聖獣の戦闘訓練を行います。」

「何故?」

 皆が訊くと、

「現在、新入りとして綾小路源がやって来ました。これまでの連携を見直し、新たな連携を生み出す必要があります。」

 江美は胸を張って言った。

「これからの特訓のメニューも、昨日のうちに紙に纏めたから。」

「形から入る奴だな。」

「いったいいつの間に?」

 フレアノドン、アーケロンドが呆れると、江美が言った。

「では早速、みんな陣形に付いて。」





そして、皆はそれぞれ江美の指定された場所に並んだ。位置的に言うと、前衛がフェニックス、中堅にドラグーンやアーケロンド、フレアノドン、後衛にイスフィール、ギュオンンズ、エレクトードが居る。

「んで、これは何の陣形?」

 フェニックスが訊くと、江美は答えた。

「そうだね、名付けて、炎の壁の陣。」

 彼女が言うには、まずは相手が攻撃してきたときにフェニックスを盾に使って皆を守り、相手が疲れきったところで、皆で総攻撃を仕掛ける陣形だという。

「何それ?俺まさかの生贄?」

 フェニックスはあからさまに不満を訴えた。江美が不死鳥の誇りは無いの、と訊くと、

「いくら不死でも消えるときは消えるから。」

 とフェニックスは言った。フェニックスが不死と言われる所以は、一度葬っても炎に包まれて蘇る事にあるからだ。つまりは、不死は不死だが条件によっては死ぬと言う事だ。

「不満ですか、では。」

 江美はこう言うと、新しい陣形を教えた。今度は逆に、エレクトードだけが後衛で、他は全員前衛である。

「で、今度はどんな陣なんだ?」

 エレクトードが訊いた。対して江美は、

「名付けて、ある意味背水の陣作戦、こうやってカエルと言う気色悪い存在を後ろに控えさせておいて、何としても勝つという気合を込める陣形。」

と言った。当然、

「誰が気色悪いだ、誰が!」

 エレクトードは文句を言った。そして、

「キモ可愛いと言ってくれ。」

と、江美に訴えた。

「なんじゃそりゃ?!」

 皆が一斉にツッコみを入れると、

「江美、昨日の変形ロボ映画を見ながら、適当に考えたでしょう?」

 冷めた目線、先ほどイスフィールの悪戯を知った時のような目線で、彩妃が江美を見て言った。

「私が考えるから。」

 そして、江美の書いたメモを取り上げると、皆を集めて言った、

「陣形は本来、地の利や兵士の特技や数を考慮するものなの。だからここは、攻撃的な陣を例に考えよう。」

 彩妃の考えた陣形は、前衛にドラグーン、フェニックス、エレクトード、中堅にイスフィール、アーケロンド、後衛にフレアノドンとギュオンズを置いている。

「源とその聖獣が前衛?大丈夫なのですか?」

 イスフィールが訊くと、

「大丈夫だよ、見た感じ戦闘慣れしてるし。それに三体とも前衛に置いて戦うタイプじゃない。」

と、彩妃は言った。そして、フレアノドンとギュオンズの文句には、

「織田信長の鉄砲の陣を習いました。前が疲れたら下がって、その後ろが出る、そこが疲れたらまた後ろが出る。そう方法を使えば、効率よく回復と攻撃と防御と援護ができます。」

と、説明した。

「さすが彩妃、学校一の天才。」

 江美がこう言うと、

「僕に宿題を見せてもらおうとしなければ、完璧なんだけど。」

と、源は言った。

「どういう事だ?」

 直樹が訊くと、

「いやな、この野郎頭良いくせに宿題をやらないんだよ。それで毎日僕に見せろと言ってくる。」

と、源は説明した。

「ちょ、女の子に野郎なんて言わないでよ。」

 彩妃が抗議すると、

「彩妃、もう少し私生活を改めてください。」

と、イスフィールに注意された。

(と言うか、こいつはいつも何をしてるんだ?)

 聖獣も含め、皆もこう考えると、部長として江美が言った。

「はいはい、話がさらにややこしくなり始めた。いったんみんなで深呼吸しよう。」

 と言うわけで、皆で深呼吸をすることにした。手を挙げると同時に、鼻で大きく息を吸い、手を下げると同時に鼻で息を吐き出す。これを三回ほど繰り返し、

「それでは、次は聖獣同士の個人技を高めましょう、と言っても、必然的に一組が残りますね。」

と、皆に言った。

「じゃあ、くじ引きで組み合わせを決めましょう、残った人は立会人をするように。」

「ちょっと待て、立会人?まさかの命がけ疑惑?」

 源がこう言うと、江美はこう言った、

「審判より、立会人と言った方がかっこいいじゃん。」

 それはともかく、組み合わせが決まった。それぞれ、最初に源の組対彩妃の組、次に直樹の組対薫の組となった。結果的に、立会人は江美となった。





「それじゃあ、試合開始!」

 江美がこう言うと同時に、源と彩妃の聖獣は戦いを始めた。ちなみに、源はドラグーン、彩妃はイスフィールである。

「先手は貰った!」

 ドラグーンはこう叫ぶと、手甲の中の剣を一本取り出して、イスフィールに振り下ろした。

「なるほど、ドラゴン族と言うのは力強いのですね。」

 イスフィールが関心したように言うと、

「ドラグーン、胸を狙えば勝てるよ。」

何故か、イスフィールの主である彩妃が、ドラグーンにヒントを与えた。

「何のゲームですか、相手の衣服をはぎ取れば勝てる勝負じゃ無いんですよ。」

 彩妃の狙いが分かったのか、イスフィールがこう言うと、

「へえ~。」

 彩妃は何か面白い事を思いついたのか、こう言った。

「今度全裸で戦ってよ。」

「ふざけないで!どこのゲームのバグですか!今度ぶっ飛ばしますよ!」

 イスフィールは良く分からないことを言うと、巴投げの要領でドラグーンを投げ飛ばした。その様子を見ていた彩妃は、

「うわぁ、動くごとにおっぱいが揺れて、いいわぁ。」

 デレデレした表情で、イスフィールの動きを見ながら言った。

「なんだか、お前は主の趣向に苦労してる性質か?」

 投げられた後、受け身を取ったドラグーンが、若干同情を含んだ口調で言うと、

「まあ、そんな感じです、そちらはどうですか?」

 イスフィールが訊き返した。

「さあな、まだ左程、主の事は知らないゆえに。」

 ドラグーンはこう言うと、両手の剣を四本ずつ出すと、

「そろそろ行くか!」

 こう言うと、イスフィールの懐に飛び込んで、剣を振ってそのまま吹っ飛ばした。そして、

「ドラグーンハイドロレーザー!」

 源は、ドラグーンの必殺技のカードをスロットに差し込んだ。結果、ドラグーンは全身の霊気と周囲の水分を収束させて、口の前に水の塊を生成した。

 そして、次の瞬間、

「発射!」

 物凄い勢いで水を発射した、イスフィールに命中した。その様子は、さながら消防車がホースで放水するようだった。ただし今回は、消火では無く攻撃用なので、それの数倍の威力があるだろう。

「いきなりドラグーン選手の必殺技がさく裂!これで決まりか?」

 技が命中後、江美が様子を見てこう叫んだ。しかし、

「っっっっ、まさかあの状態で攻撃してくるとは。」

 ドラグーンは何らかの攻撃を受けてダメージを負ったようで、頭を振っている。

「なるほど、水は空気よりはるかに振動を伝える。あの水の中に、大声をぶち込んだのか。」

 源のもとで様子を見ているエレクトードは、納得したように顎を摩りながら言った。

「つまり、その大声のショックでドラグーンがふらふらなの?」

 源は思わず訊き返した。戦いの喧騒の中であったが、彼は断言できる。自分はイスフィールが叫ぶ瞬間の絶叫を聞いていない。と言うかむしろ、しゃべったとも思えない。

 すると、フェニックスが言った。

「まあ、そう思うのも無理はないな。奴の発した大声は人間の耳では聞こえない。超音波だからな。」

 一方のイスフィールは、全身に水を被っているが、それでもダメージは少なくすませたらしい。

「それでは、こちらの攻撃と行きましょう。」

 そして、イスフィールは左手の指揮棒を右手で持つと、

「この戦い、私がコンダクトさせてもらいます。」

 こう言って、高速移動でドラグーンに近づいて、持っている指揮棒で軽くたたいた。

「?」

 ドラグーンは思わず疑問に思った。普通の場合、あの場面では思いっきり殴るのが戦闘と言うものである。自慢ではないが自分の皮膚は頑丈である、指揮棒レベルの太さの物であれば、簡単に折る自信があるが、それがわかっていたとしても、イスフィールの軽く叩くというのはあまり理解できない。

「それでは、パッション。」

 イスフィールはこう言うと、手を一回叩いた。普通なら何も起こらないが、次の瞬間、源と彼の聖獣たちは一様に驚いた。突然、ドラグーンが爆風に包まれたのだ。

「パッションと言うと、激情とか情熱を表す言葉、まさか。」

 様子を見ていた源は、驚くと同時に思い出した。昨日の戦いで、イスフィールは音楽の用語を技の名前に使っており、技の名前の意味が、そのまま技の効果になっている事を。

「なるほど、奴の力の源は言霊だよ。」

 源がこう呟くと、

「となると、音には俺の出番だな。俺の輪唱につられずに奴は歌うことが出来るかね?」

 エレクトードがこう言って、戦闘に参加しようとした。すると、どこからか大量の霊力が集まり、人の姿を取った。赤い長髪に、露出度の高い服装。江美たち古参の神司部のメンバーはともかく、源には見覚えのある人物だった。

「アンタは、あの時の?」

「覚えていてくれたか、自己紹介をしていなかったが、知恵と戦術を司る女神アテネだ。今後ともよろしくな。」

現れた少女、アテネはこう言うと、皆に訊いた。

「捗っているか?」

 一方の他の面々は、何とも言えない反応を示した。

「あの、女神と言う事は、崇拝とかした方が良い感じですか?」

 四人を代表して、江美がアテネに訊くと、

「友人同士の態度でかまわない。私が許可する。」

 アテネはこう言って、皆にこの場所に来た理由を説明した。

「実はお前達に追加戦力をと思ってな、一体の聖獣の斡旋に来たんだ。」

(就活ですか?)

 アテネの言葉に、皆は思わずこう思った。





 しばらくすると、飛行機が飛ぶような轟音が鳴り響き、公園の中央に銀色の飛行機のような姿の何かが降り立った。

 先端の部分が口のように開いており、翼の形状と伸びる方向もおかしく、尾翼の形もおかしいが、この場に居る面々には一目でわかった。アテネの言う聖獣だと、

「と言うわけで、ジェットシャーク、ここに見参。」

 やって来た飛行機はこう言うと、文字通り変形した。尾翼と胴体の後ろ半分は足になり、胴体の前半分から腕が生え、翼は腕に剣のように装備され、鮫の頭部のような形状の機首は胸部に装備され、頭部に当たる部分から丸い人型の頭が出てきた。

「って!変形した!?」

 皆がこう叫ぶと、やって来た機械族の聖獣「ジェットシャーク」はこう訊いた。

「子供が主候補か、小さく見られたモノだな?」

「悪い?」

 江美がこう訊き返すと、アテネはこう言った。

「確かに子供だが、きっと将来大物になる子供たちだ。」

「子供じゃ悪い?」

 彩妃がジェットシャークに訊くと、

「別に。だが実力の伴わない相手には、俺は従うつもりはないので、よろしく。」

 ジェットシャークは腕の翼が変化した剣を向けて言った。

「そういうわけでも、キャプチャさせてもらうぜ。」

「出来るのならな。」

 猪の一番にエレクトードが飛び出すと、ジェットシャークもそれを迎え撃つために飛び上がった。

「さて、彼はあ奴にどれだけ渡り合えるか。」

 アテネは、様子を見ながら言った。

「ウィングブレード!」

ジェットシャークが翼の変化した剣を振り下ろすと、エレクトードは手のひらから電流を発して、剣を受け止めた。

「エレキシュート!」

 そのままの態勢で、エレクトードは口から電流の弾を吐き出した。

「おーい、エレクトード、江美たちが援護は要るかって?」

 様子を見ていた源は、江美に訊かれたことをエレクトードに訊いた。

「必要ない!」

 エレクトードはこう言うと、感電して痺れているジェットシャークを投げ飛ばすと、

「帯電張手!」

 振り上げた右手に電流を収束させて、思いっきり振り下ろした。エレクトードの手のひらは巨大で、高いところから振り下ろされる。普通ならこれで決着がつけられるが、ジェットシャークは、

「砲門展開!」

 足や胴体、腕に付けられたハッチを開いた。そこには、ミサイルや機銃と言った、数多くの飛び道具が搭載されている。

「ファイア!」

 シャークジェットは、それらを大量に放った。

「何ぃ?」

 エレクトードは思わぬ攻撃に驚いたが、ここで思わぬ援軍がやって来た。

「掴まれ!」

 やって来たのは、薫の所有する機械族聖獣「ギュオンズ」である。彼はエレクトードを掴まえると、背中と脚のバーニアで飛翔し、攻撃を回避した。

「無駄だ!大概の戦闘機のミサイルは追尾性を持つ!」

 ジェットシャークはこう言っている。その通りで、ミサイルはギュオンズとエレクトードを追ってきている。そのうちに、ジェットシャークもロボットの姿から、飛行機の姿になって、追ってきた。ロボットの時のように格闘は出来ないが、搭載された機銃で攻撃を行っている。

「な、くそ!」

 ギュオンズは何とか回避しているが、エレクトードが一緒なので、少しずつ動きが鈍ってきている。一方で、様子を見ているエレクトードは、良い考えを思いついたようで、ギュオンズにこう言った。

「ミサイルは回避しないで、追われた状態でジェットシャークに向かって行け。」

 エレクトードの考えを理解したのか、ギュオンズは周りを見回して言った。

「分かった。」

 なのでギュオンズは、ミサイルに追われた状態でジェットシャークめがけて飛んで行った。

「な、何のつもりだ!?」

 ジェットシャークは驚いて、攻撃を忘れてしまった。

(ますます上等だ)

 エレクトードはこう考えると、ギュオンズの手がシャークジェットに触れそうな距離まで近づくと、

「行くぞ!」

 こう叫んで、全身で電流を発した。結果、即席の磁石のようになったギュオンズは、物凄い勢いで落下していった。その様子は、強力な磁石に引き寄せられる金属のようだ。実際エレクトードは、電流を発して地球の磁力に引き寄せられているのだ。

 だが、これがエレクトードの狙いだった。

「な、何ぃ!」

 ジェットシャークは驚いた。いきなりギュオンズとエレクトードが消えて、その後ろから自分が放ったミサイルが飛んできたのだから。

「グワァァァァ!!」

 ジェットシャークが、自身の放ったミサイルを受けると、

「ほう、考えたな。」

「なるほど、そういう事か。」

 アテネと源は、様子を見ながら納得した。エレクトードはジェットシャークとミサイルを相打ちにさせるため、あえてミサイルに追われた状態で、ジェットシャークへ突っ込んで行ったのだ。

「とぉ!」

「ぐぇ!」

 エレクトード、ギュオンズ順で着地した。エレクトードは見事に着地できたが、ギュオンズは勢いに負けて、地面に激突したのだ。

 一方のジェットシャークも、自身が放ったミサイルの直撃でダメージを負ったようで、フラフラと落下してきた。

「止めだ!」

 エレクトードは口から舌を伸ばすと、ジェットシャークの尾翼を捕えた。そのまま、舌を投縄のように振り回し、ジェットシャークに勢いを付けて、そのまま地面に叩きつけた。

 結果、ジェットシャークの体から、青白い球体のようなものが現れた。

「ほお、ダメージを負った状態とはいえ、一撃で倒すとは中々やるな。」

アテネがこう言うと同時に、エレクトードは、

「いまだ!源!」

と叫んだ。

 一方の源は、持っている聖装の大剣を構えると、思いっきり振り上げて、青白い球体を一閃した。

「あ、あれ?」

 源が素っ頓狂な声を上げると同時に、斬られた青白い球体は源の持つ聖装に引き込まれて、それと同時にジェットシャークの体も消えてしまった。

「凄いな、お前あんな技が使えたんだ。」

 今まで様子を見ていた直樹は、関心しながら源に言った。しかし、源は、

「え?僕が何かしたの?」

 きょとんとしながら、逆に直樹に訊いた。直樹が、彼が何をしたか説明すると、

「へえ、僕って案外凄いんだ。」

 自分のことなのに、源は他人事のように納得して言った。

「まあ悪いと思ったが、前の鑑定形態の時のように、お前の精神に介入して行った作業なんだよ。」

 すると、フェニックスがこう言った。

「なら最初にそう言ってよ。」

 源が黙って精神に介入したことについて文句を述べると、

「悪い悪い、説明する時間が無かった。」

 悪びれる様子もなく、フェニックスは言った。しかし、もう二度とやらないと、約束はした。

「それはともかく、今のって何なの。」

 すると、彩妃が皆に訊いた。彼女の問いには、イスフィールが答えた。

「聖獣のキャプチャです。人間たちから少しずつ吸い上げた霊力で実体化した聖獣は、今のやり方で自分の懐に入れられるのですよ。と言っても、相手に仲間になる意志が無いと無理ですけど。」

「要するに、ジェットシャークには仲間になる意志があると言う事か。」

 薫がこう言うと、キーンコーンと言う音が聞こえてきた。

「やば、もうこんな時間?」

 彩妃は時計を見ながらこう言った。

「私はもう帰るね、見たいテレビがあるし。」

「五時と言うと、あれ?」

 江美はこう言うと、

「それじゃあ、今日は解散。次は学校でね。」

 と皆に言って、集まりを解散にした。





 その後、残った源と、源の聖獣たちは、アテネの話を聞いていた。

「今より数年前の話だ。この場所に一人の女神が降り立ち、そのまま行方不明になったのだ。その女神の名前はガイア。」

「ガイア?ウル○ラマンの名前?」

「主、それは違います。ギリシャ神話に伝わる、大地の女神の事です。」

 源のかましたボケに、ドラグーンが訂正を入れると、アテネは話を続けた。

「言っておくが、今から言うのは私の独り言だ。訊くなり無視して帰るなり、自由にすると良い。」

 アテネが言うには、この場所に現れた女神ガイアは、聖獣王を呼び出そうと試みたらしい。しかし、聖獣王の召喚には失敗し、そのままガイアは行方不明になったと言う。なぜ自分がその事を知っているかと言うと、ガイアはとっさにメッセージを残していたからだと言う。

「あれ?聖獣王って、特別な聖獣に力を示して倒さないと会えないんじゃ?」

 源が聖獣たちに訊くと、

「俺たちみたいな並クラスの聖獣や、人間が聖獣王に会う場合はな。だが、今言った特別な聖獣の場合は、許可が出るかは分からないが、自身の都合で聖獣王に謁見を申し込めるし、神様なんかになると、自身の都合で召喚も可能になるらしい。」

と、聖獣たちを代表して、聖装の中で絶賛回復中のジェットシャークが、解説も含めて答えた。

「最後に、これはお前に対してだが。綾小路源。」

 これで話を切り上げるのか、アテネは源にこう言った。

「もしお前がこのまま勝ち上がり続け、前人未到の聖獣王の域にたどり着いた時、恐らくだが、人間や聖獣は勿論、神にも手に負えない事態が起こるやもしれない。その事を覚えていてくれ。」

 そしてアテネは、源を残して姿を消した。


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