第十二話 逆転準備
前回までの粗筋
ついに始まった首魁オニキスとの戦い、しかし、源達と天音達は彼の圧倒的な力の前に手も足も出ずに敗北してしまう。
止めを差されそうな瞬間に、ウンディーネ、バロン・サムディ、ミステリアが駆けつけ、選手交代する。
オニキスを倒せる作戦を考える中、源が有る事を提案する。
話は綾小路源達と蓮宮天音達が出会い、九体の異形の竜と激しい戦いを繰り広げている頃に遡る。何を誤解したのか、突如「機械皇プトレマイオス」「植物女皇ラフレシア」に襲撃されたアリスティーナは、隙を付いて襲撃者二人を討ち取り、閉じ込めた存在「オニキス」の謎の術を受けた事で、痛みが無いにも関わらず、今にも死にそうな思いをしていた。
(ど、どうなっているの?)
アリスティーナが心の中でこう思うと、彼女の肉体と命を自身の力で持たせているエレメンタルスピリッツ達の一人が、こう言った。
「恐らく奴の能力の影響でしょう。あれには、対象の持つ因果を歪ませる効果があります。それゆえに、あの一瞬だけ貴女は不老不死のポテンシャルを失い、1000年と言う人間が生きるには余りにも長すぎる時を、一瞬の内に一身に負ってしまった。」
エレメンタルスピリッツも力をかなり失ってしまった為か、言葉に力を感じられない。アリスティーナがこれからどうしようかと考えていると、どこからか声が聞こえた。
「プトレマイオス様の救難信号はこの辺りから発せられています。内容によると、ラフレシア様が一緒で、現場に負傷者が一人居るそうです。」
「あ、あれが負傷者じゃない?!」
一人は誰かに何かを説明し、もう一人はアリスティーナの姿を見たのだろう、こう言った。声の高低や響き方に微妙な違いが感じ取れるが、両者とも少女の声と思われる。
やがて、アリスティーナの傍に薄い色合いの緑髪と、顔立ちと体躯には幼さが感じられるが、出る所は出ている少女が現れ、その後ろから背中まで伸ばした黒髪と、青いと言っても過言では無い白い肌が特徴の背の高い少女が現れた。
「アインさん、どうですか?」
アリスティーナの傍に居る緑髪の少女がこう訊くと、黒髪の少女はアリスティーナをじっと見ながら言った。
「外傷は見受けられません。が、相当量の霊力と精神力、体力を消耗しています。」
「そっか、重傷負っていたり、滅茶苦茶な呪いでも受けて居たら、どうしようかと思った。」
少女の言葉に、緑髪の少女がこう言うと、
「では、彼女の手当てはお任せします。私はプトレマイオス様とラフレシア様の救出に行きます。」
黒髪の少女はこう言って、アリスティーナの目の前にある氷の監獄に近寄ると、右手をバーナーに変化させ、そこから炎を発して氷の壁を熱し始めた。その際、氷がもろくなると同時に、左手をハンマーに変形させて何度も殴っているので、すぐに氷は砕けるだろう。
一方、緑髪の少女は、
「それじゃあ、ヒールツリー!!」
どこからか木の苗を取り出すと、雪をかき分けて露出させた地面に植えた。普通ならこの環境の中に木を植えても、全く育たないのだが、レイラの力を受けている事で苗はすぐに大きくなり、やがてアリスティーナを包んだ状態になった。
「ヒールツリー、大地の持つ生命力を吸い上げて他者に還元する木。この中にしばらく居れば、それなりの回復は出来るはず。」
その様子を見ながら少女はこう思い、自分も木にエネルギーを送り込み始めた。ヒールツリーの回復力を、少しでも高くする為である。
その後、オニキスと冒険部、神司部の面々が戦う戦場にウンディーネ、竜皇バロン・サムディ、妖精女皇ミステリアが現れると、三者は消耗しきった両者に変わり戦い始めて、冒険部と神司部の面々はオニキスを倒す方法を模索し始めた。
「ただ一つだけど、可能性はあるよ! 白蓮とメタルドラグーンを融合させれば………」
そんな中、源は皆にこう言った。
「融合させる?どういう事?」
皆を代表して千歳がこう訊くと、源は説明した。
「見た感じ、アーティファクト・ギアって言うのは一人に付き一つだけど、蓮宮さんは例外何ですよね。自分が考えるに、この場合は汎用性が高くなる一方、個々の出力は下がるはずなんです。流石の鳳凰とはいえ、たった一体では限界があるはずですし。」
「成程、ギアの数をそのままに、聖獣の出力を高くした状態にすれば、今以上の出力がでる。」
源の説明に、修がこう言うと、源は更に説明を続けた。
「でも、これには一つ問題があります。」
「問題?」
皆が疑問符を浮かべると、源は聖装を大剣からボールペンの状態にすると、それで白蓮を差しながら言った。
「見て分かる人は分かると思うけど、この状態では聖獣の情報を調べる事が出来ます。」
「それが?」
分からない面子が揃ってこう言うと、源はこう返した。
「それなのに、鳳凰程の著名な聖獣を前にして、こいつは全く反応しません。理由として考えられるのは主に二つ、一つはこいつが鳳凰と認識されていない事、もう一つは、規格が違うために認識出来ない。」
分からない人には、彼が何を言いたいか理解できない。しかし、江美達は理解したようで、納得の意を込めて一回頷くと、
「つまり、規格が合わない機械同士が波長を合わせられないのと同じように、規格が違う聖獣を無理矢理融合何てさせた暁には、ドラグーン達や源、蓮宮さんや白蓮にどんな影響が出るか分からないって事か。」
皆を代表して薫が、こう言った。
「そうなんだよ。でも、奴を倒すには有り得ない事をする以外に手は無いように思うんだよ。それが、聖獣同士のコラボレーション、と言う訳で、どうですか蓮宮さん?」
そして、源がこう言って、天音の方を見た。対する天音は、複雑な思いを抱いていた。源の言う通り、今彼が言った方法が最も有効で、先ほどのゴールデンドラゴン戦のゲンを担ぐのであれば、彼の言う通りにすれば道は開けるだろう。だが、源が言った通り何が起こるか分かった物では無い。白蓮が普通に成長した状態であれば、自身と合体した聖獣達の力を適度に抑えながら解放し、短い時間だけ戦闘する事は出来るだろう。だが、白蓮は雛から育てており、諸々の事情が有り通常の鳳凰としての育ち方をしていない。これ以上変な負担を掛けて、白蓮に異常を付け足す訳には行かない。
天音がいろいろ考えて、考えが煮え切らない中、以外な存在がこの案に賛成を唱えた。
「ゲン、それで行こう!!」
それは、天音の懸念の対象である白蓮だった。白蓮は迷いの無い声で、源にこう言った。
「良いの?何が起こるか分からないよ。」
源がこう訊くと、白蓮は相変わらずの迷いの無い声で、良い、と答えた。
その様子を見ながら、恭弥は天音に言った。
「お前はどうするんだ?白蓮自身は良いってさ。」
「そうだな………」
恭弥に訊かれた天音は考え込んだ。確かに危険性は沢山あるが、これからどれ程厳しい戦いになるか分からない。そんな中で、違う聖獣同士で力を合わせられるのは願っても居ない事であり、その結果どんな事が起こるか分からない以上、誰かが体を張って証明しなければ行けないのもまた事実。そして、白蓮はやろうと意気込んでいるので。
「ああ、分かった。その策に乗る!」
と、天音は源に言った。
そして、源と天音がその準備を行おうとした瞬間である。そうは行かないと言わんばかりに、どこからか大量の水による砲撃がさく裂した。
「な、何?」
皆がその方向を見ると、そこには先ほど倒した筈の異形の竜、アーク・ヤンカシュがライフルを構えて立っていた。自身が回復する過程で、同時にライフル事態も修復されたのだろう。
アーク・ヤンカシュが構えを解くと、彼の登場に呼応するようにして、先ほど倒した筈の異形の竜達が次々と集結し、彼らの居る場は戦いが始まった時と同じ様相となった。
「まずい、ここまで早く戻ってくるとは……」
天音が周りを見てこう言った時である。源と天音、彼らの聖獣を除いたメンバーは、前に出てこう言った。
「奴らは私たちで止める!!」
「だから、後はお願いします。」
江美、雫がこう言って、皆がそれぞれの武器を構えた瞬間である。突如地面が激しい振動を始めた。皆が新手の襲来かと思わず身構えると、
「そんな必要は無いですよ!!」
少女の物と思われる声が響くと同時に、地面から巨大な木のような物が生え、それに乗って薄い色合いの緑髪と、顔立ちと体躯には幼さが感じられるが、出る所は出ている少女が現れ、腕に装着した五本の爪を持つ大きな武器で、先ほどの戦いで恭弥と江美のコンビと戦った蠍を模した姿のドラゴン「ムシュフシュ」に切りかかった。
「あの子は?」
博明、修、冒険部のメンバーが揃って現れた少女が何者かと考えると、彼女の事を知っている残りのメンバーは、思わず叫んだ。
「レイラ?!!」
現れた少女の名は「レイラ」と言い、植物女皇直属の弟子とされているクマツヅラの花を司る妖精型の聖獣である。以前の戦いで神司部のメンバー、そして祐介達と出会い、一度共闘した事がある。
皆が思わぬ援軍に驚いていると、
「ご、ゴメン、遅く……なって……」
背中まで伸ばした黒髪と、青いと言っても過言では無い白い肌が特徴の背の高い少女に肩を貸された状態で、冒険部の顧問である「アリスティーナ・D・クレイプスコロ」が現れた。
「アリス先生?!今までどこに行ってたんですか?」
冒険部の面々が、揃って彼女の事を心配している中、神司部のメンバーは一様にこう思った。
(誰?)
と、だが、詮索はしなかった。後で問いただせばいいと考えて、
「でも良かったわ。一大事になる前にみんなと合流出来て。知らない面々も何人か居るけど、今は気にしないで置きましょう。まずは、彼らを……」
アリスティーナはまだ体の調子が戻らないのか、息を切らしながらこう言って、目の前に居る異形の竜達を見た。レイラが戦いに参加したが、一体だけでは心許ないだろう。
「ちょっと、折角レイラさんの能力を半分以上も使わせて回復させたのに、また消耗されては困ります。」
すると、アリスティーナが戦いに行こうとしていると考えたのか、彼女を連れてきた黒髪の少女はこう言って、
「顧問何ですから、彼らを見て居て下さい。奴らは……」
自分の頭上を見た。その瞬間、一瞬だけ黒い影が頭上をかすめると、異形の竜の内、羊を模した姿だが、片方の角が折られ胸元に大きな傷もあるドラゴン「ゴールデンドラゴン」と、牛を模した四足歩行の赤いドラゴン「ミノス・ドラゴニス」に襲い掛かった。
「な、何者だ!?」
ゴールデンドラゴンが、襲撃者を大剣で受け止めながら訊くと、
「生憎、名乗る時間も勿体ないのでな!!」
彼に襲い掛かった、青々と茂る植物を思わせる緑の長髪と、至る所に植物を思わせる模様の付いた和服を身に着けた美しい女性が、腰に差した刀を一閃してゴールデンドラゴンを攻撃しながらこう言い、
「覚悟してもらおうか!」
騎士の甲冑を思わせる無骨な見た目の大柄なロボットが、ミノス・ドラゴニスの角を掴みながら言った。
「ラフレシア様、プトレマイオス様、復生の効果とレイラさんの治療が有るとはいえ、五分しか持ちませんよ。」
「それ、言わないで!!」
少女の発した、今の両者に弱点になりそうな一言に、ラフレシアとプトレマイオスはこう言って、先ほどのレイラと同様に相手にしている聖獣を、遠くへと押し出して行った。
「なあ、アイン。プトレマイオス様とラフレシア様って、どっか行っていたんじゃ無かったの?」
皆を代表し、両者の事を祐介が代表して、黒髪の少女「アイン」に訊くと、
「ええ、それを私たちで見つけたんです。」
アインは手の関節を回しながら、皆にこう言った。
「少なくとも四体は私たちでどうにかしますから。」
そして、一番最初に攻撃を行ったアーク・ヤンカシュに飛びかかると、脚をバーニアに変形させた状態で飛翔し、彼を遠くへ攫って行った。
こうして、異形の竜は五体まで間引かれた。
「こんな所で思わぬ援軍が来るとはな。だが、まだこちらは五体、対するそちらは全者消耗している。」
そんな中でも、皆のリーダーと言っても過言では無い実力を持つ、胸元に天秤座のシンボルを持つ人型のドラゴン「マスター・カンヘル」はこう言って、武器の天秤を構えた。この動きに合わせて、まだこの場に残っているドラゴン達も戦闘態勢を取ると、
「天音、源、さっきも言ったけど後はお願い。それと、アリス先生は二人の手伝いを……」
千歳はこう言って、皆と共に戦闘態勢を取った。
「悪いが、先ほどのように甘くは無いぞ。一連の攻防で、お前たちの戦法は見抜いた!!」
マスター・カンヘルはこう言うと、一撃で地面を瓦解させる威力がある天秤を構えて、皆に飛びかかった。そのまま、天秤を振り下ろして皆を木端微塵に砕くつもりなのだろう。
皆が防御の態勢を取った瞬間である。
「驚くべき援軍は、あれで終わりでは無いわ!!」
どこからかこう言う声が響き、誰かがマスター・カンヘルの攻撃を柄の両側に穂を持つ槍で受け止めた。
「な、何者だ!?」
マスター・カンヘルがこう言うと、槍で攻撃を受け止めた存在は、彼から少し離れてこう名乗った。
「ポラリス、人が作った聖獣よ!!」
「ぽ、ポラリス?!何でここに?!」
突如現れた援軍「ポラリス」に驚き、神司部の面々は一様に大声を上げた。彼らにとってポラリスとは、しばらく前に激闘を繰り広げた相手であり、事実上の宿敵である。驚く両者に、ポラリスはこう言った。
「この世界は私自身の手で征服しようと考えているの。でも、オニキスに征服されたら、私が征服する場所が無くなるでしょう。」
声高らかに自身の野望を語るポラリスを見ながら、冒険部はともかく神司部の面々は呆れてしまった。彼女が動いた理由、つまりは自分の行く道の延長線上にいた邪魔者を倒したいと言う事である。
だが、味方になってくれるならこれ以上に頼もしい相手も居ないのもまた事実なので、彼女と直接刃を交えた源はこう言った。
「じゃあ、そいつを任せる。」
「物分りがよろしい。」
自身の参戦を認める源の発言に、ポラリスは笑顔でこう返すと、源の頭を撫でている。
「こら、止めなさい!!」
それを止めさせようとする、源の様子を見ながら冒険部の面々は思った。彼らは意外と仲が良いのでは無いか、と。
その後、源の頭を撫でて満足したのか、ポラリスはマスター・カンヘルに向かい合うと、真剣な表情になって言った。
「場所を変えましょう!!」
言葉が終わるや否や、お尻から太くて長いドラゴンの尾を解放すると、それを大きく一振りしてマスター・カンヘルを吹っ飛ばすと、大声でこう叫んだ。
「フギン!ムギン!」
すると、空の高い場所からこの世界に来たばかりの天音達が見た、オッドアイが特徴の巨大なカラスが現れ、白と黒のバランスの良い配色と、背中の四枚の翼が特徴のドラゴン「ジェミナ・ドライグ」を攫って行った。
その後、カラスが白い服を着た幼い姿の少女を取る妖精「フギン&ムギン」の姿になり、ジェミナ・ドライグと戦闘を開始した所を見届けると、ポラリスは源達にこう言った。
「援軍は皇と配下、そして私たちだけじゃないわ。」
「?」
皆が疑問に思う中、ポラリスは言葉の意味を説明しないで、背中の翼で飛翔してマスター・カンヘルを追って行った。
「どうするんだ?奴の言葉によると、まだ援軍は居るようだぞ。」
残った三体の竜の内、サメを模した姿のドラゴン「シャーク・ドラン」がこう言うと、その隣の獅子を思わせる見た目の飛龍「ジェットワイバーン・レオ」はこう言った。
「出まかせに決まってるだろ!大体、援軍ってどこから来るんだよ!!」
自身の速度に自身があるジェットワイバーン・レオは、援軍が来るより前に敵を倒せばよいと考えているのだろう。その事を悟ったシャーク・ドランは、こう言った。
「分かった!!じゃあ、行くぞ!!」
そして、シャーク・ドランは手をサメの頭部を思わせる形状に変化させ、ジェットワイバーン・レオは爪を立てて源や天音達に襲い掛かった。
「援軍に来たぞ!!」
しかし、ジェットワイバーン・レオの考えは間違っていた。援軍は来た上に、飛びかかろうとした両者を掴んで、そのまま去って行ってしまった。その余りの速度に姿は見えなかったが、一瞬だけ馬のような下半身を持つドラゴンが来たことが、源達と天音達、残っているヴォルキャドンの目に残っていた。
「な、何だったんだ?」
ヴォルキャドンはジェットワイバーン・レオ、シャーク・ドランの連れて行かれた方角を見ながらこう言った。だが、自身が今とても危機的に状況に居ると言う事を思い出すと、刀を構えた。
「こうなった以上逃げも隠れもしない!どこからでも掛かって………」
ヴォルキャドンが勇んで、戦闘態勢を取っている神司部、冒険部のメンバーにこう言った瞬間である。彼は光に包まれて、何処かへと消えてしまった。
「?」
「?」
この一連の出来事に、神司部、冒険部のメンバーは一様に言葉を失った。最初に謎のドラゴンが竜を二体攫って行くと、最後に残った竜は消えてしまったのだ。消えた事に関して、アリスティーナに確認したが、
「知らない。」
と、彼女は言った。彼女は何もしていないらしい。
「それより、これからどうするの?」
アリスティーナにこう訊かれたメンバーは、源が考えだし、天音が実行を決意した作戦を、短くアリスティーナに説明した。千年を生きる魔女であれば、この作戦を実行して何が起こるか、成功はするのかを聞くことも出来るだろう。
ちなみに、ジェットワイバーン・レオとシャーク・ドランをさらった謎の竜。その正体と目的はと言うと、
「こら、放せ!!」
空を飛ぶ謎のドラゴンに、シャーク・ドランがこう言った。すると、謎のドラゴンは両者を掴む手を離し、彼らを地上に向けて落下させた。
「うわぁぁぁぁ!!!!」
突然の事で、飛翔や受け身の態勢を取れなかった両者は、そのまま地面に激突した。
「てめぇ、放せとは言ったが、落とせとは言ってないぞ!!」
ジェットワイバーン・レオがこう言うと、シャーク・ドランも含めた両者の前に、二人の少年少女が現れた。一人は、割と背の高い長いブロンドの髪が特徴の少女で、肌や瞳の色から欧米人と思われる。もう一人は緑色の服を着た、銀色の短い髪が特徴の、少女のような可憐さの漂う顔立ちの少年である。こちらは少女と違い、欧州人であると思われる。
「Sagittariusdragon tired with labor.」
金髪の少女が、自身の隣に降り立った馬のような下半身を持つドラゴンにこう言うと、その隣の銀髪の少年はこう言った。
「Sie sind das was und die Arbeit, die in Anbetracht der Transzendenz leicht zu sein scheint, drückt gut.
Ein Feind wird nur geschlagen.」
「Well, let's do our best.
It seems that many prizes can be got.」
少年の言葉に、少女はこう言うと、どこから先端に円形で周囲に棘のような刃の付いた、長物の武器を取り出した。
「Ist es auch damit und tut er sein Bestes.」
少年もこう言うと、どこからか大きいが、斬馬刀ほど刃は大きく無く、槍とも互角に当たり合えるほどの長さがある刀を取り出すと、刃に付いたスロットに一枚のカードを差し込んだ。
「Raijū vorladung!!」
少年がこう叫ぶと、突如空から降り注いだ雷と共に、虎を中心としながら、蛇などの様々な動物の特徴を持った、異形の獣が現れた。
「Mr. Ashe who needs to begin!!」
少年の準備が整ったと判断すると、少女は彼にこう言い、
「Allison, der verstand!!」
少年は少女にこう返した。
「来るか?と言うか、何て言ってるかさっぱり分からん!!」
対するジェットワイバーン・レオ、シャーク・ドランは一様にこう思っていた。
一方、突如として源や天音たちの目の前より消えたヴォルキャドンは、どうなったのかと言うと、
「あ、あれ?」
気が付くとヴォルキャドンは、学校の校庭と思われる場所に居た。だがそこは、歪みによる異常気象が発生し、雪が降っている清水の町では無く、違う街のようである。
ヴォルキャドンが周りを見回していると、誰かの声が聞こえた。
「えっと、チャレンジモードにしたんだけど、対戦相手あれかな?」
チャレンジモードに対戦相手、完全にゲーム感覚のそのノリを発するのは、短めの茶髪が特徴の少女であり、物珍しげにヴォルキャドンの姿を見ていた。
「まあ、お前が敵と言うなら、斬るだけだ。」
ヴォルキャドンが刀を抜いて少女にこう言うと、
「良し、始めよう!!」
少女はこう言って、五枚のカードを取り出しそれを空中に放り投げた。その結果、カードは全身に武者甲冑を纏った黒いドラゴン、頭は蛇だが足が蛸のようになった生物、全身に炎を纏った鳥と、雷を纏った鳥、肩の上と本来なら羽のある部分に水瓶を乗せた蟷螂型の聖獣が現れた。
「今日はこれで行こう、ブシドラゴンもよろしくね!」
聖獣が現れてから、少女はこのように声を掛けた。
こうして、再び戦場へとやって来た異形の竜達が、それぞれ違う相手と戦いを繰り広げる中、手短にではあるが、源が作戦の説明を終えた。
「成程、違う世界同士の聖獣を融合させる事で一体分の出力を上昇させる。確かに、今一番有効そうな手ね。」
アリスティーナは、源の説明を一回で理解したのか、こう言った。
「それでどうです?聖獣同士を融合させると言うのは?」
源がこう訊くと、アリスティーナは答えた。
「別にむずかしくは無いわ。キマイラって言うのは勿論知ってるわよね、様々な生き物の特徴を併せ持つ動物。他にも、鶏と蛇でバジリスク、虎と猿と蛇で鵺と、合体させる事には問題は無いわ。でも、私自身も違う世界同士で合体させるか、と言う事までは分からないわ。全ては、中心となる天音と白蓮次第ね。」
「やっぱりね。」
源はこう言うと、聖装から六枚のカードを取り出した。ドラグーン、フェニックス、エレクトード、ジェットシャーク、ステゴサウルス・Jack、ヘルニアのイラストが描かれている。
「六体全員で行くの?念のために何体か残した方が……」
源の様子を見て、天音が源にこう言うと、
「いいや、むしろこれでまだ足りないくらいかもしれない。」
源はこう返した。先ほど戦いに向かったミステリアは、相手の戦闘力レベルは軽く8000を超えていると言っていたので、それを警戒しているのだろう。
「ところで、戦闘力レベル8000って、どれくらい凄いんだ?」
疑問に思った天音が訊くと、源はこう言った。
「実際に不老不死ですら耐え切れないダメージを与えられる。」
「まじか……」
天音は源の言葉に信じられないと思ったが、アリスティーナに相当な消耗を強いる事が出来た以上、それくらいの力はあるのだろうと考え、更に自分で勝てるのかと疑問に思った。
「ちちうえ、だいじょうぶ。ぼくがいるし、ゲンやドラグーンたちだって……」
そんな様子を察したのか、白蓮は天音にこう言った。その事に、天音が礼を述べると、源はこう言った。
「それじゃあ。始めるよ。技カードの要領で、こいつらの霊力を送り込む!」
「私が魔法陣で手助けするわ。少しでも成功率を上げないとね。」
すると、アリスティーナはこう言って、指を一回ならした。その結果、天音と源の足元に魔法陣が刻まれ、魔力の奔流が発生した。
「行くぞ、ドラグーン、フェニックス、エレクトード!!」
その中で源は、一枚ずつカードをスロットに差し込んで行った。カードが差し込まれると、彼の中からその聖獣を司る色の霊力が迸り、白蓮の中へと送り込まれていった。源が普通に使う融合と違い、白蓮の姿事態は全く変化しないが、霊力を得た事で翼の羽の輝きがどんどん増して行っている。
「ジェットシャーク………ステゴ…サウルス・Jack!!」
四枚目、五枚目のカードを送り込んだ時、源の周囲に稲妻のようなエネルギーが迸り始めた。
(まさか、あまりにエネルギーが激しすぎて奔流が?)
源はカードを差し込む手を止めてこう思った。白蓮の翼の輝きは今まで以上の物となっているが、大量の霊力が流し込まれるのはかなりの苦痛であるはずである。だが、白蓮はぐっとこらえている。
「大丈夫か?白蓮?」
天音が訊くと、白蓮はこう答えた。
「もんだいないよ。」
一方、エネルギーの奔流を感じている源は、最後のカードを手に取り、スロットに差し込んだ。
「ラスト一枚、ヘルニア、これで全部!!」
源がこう叫ぶと、待機していた天音は予め打ち合わせして置いた通り、こう叫んだ。
「契約執行!!」
その瞬間、辺りは光に包まれた。
辺りを包む光が晴れた時、そこには今まで見た事も無い存在が立っていた。身長や体格から天音であると考えられるが、その姿は今までの鳳凰之羽衣を身に纏い、腕に鳳凰剛柔甲を装備した姿では無く、全身にフルフェイスの鎧を纏った姿となっていた。頭部をすっぽりと覆う兜は、竜を思わせる形状だが頭の上に鳥を思わせる装飾が存在する。右肩にはサメ、左肩にはカエルを模した形状の肩当てが装着され、背中には翼が折り畳まれ、踊り子のような優雅な衣装は、全体的に全身にフィットする形状になり、構成する物質も金属を模した物となっている。そして、両手には鳳凰剣零式、鳳凰剣百式を装備している。
その姿を一言で表すと、今までの神子剣士、絶世の男の娘と言うより、日曜日の朝に見る事が出来る、子供に大人気の孤高のヒーローだろう。
中に居るだろう天音は、虹色の輝きを放つ背中の翼を展開し、双翼鳳凰剣を構えると、こう言った。
「さあ、Show Time Againだ!!」
「そうだね……でも、これ以上裏方仕事はもう勘弁。アンコール無しのクライマックスでね。」
彼の後ろで、エネルギーの奔流を受けた事で消耗しきっている源は、息を切らしながらこう言った。
これより、神司部と冒険部による反撃が始まる。
終盤で出てきた謎のキャラ三人の内、二人は未来に出すキャラのゲスト参戦。もう一人は、分かる人には分かりますよね。




