第九話 空飛ぶ獅竜と巨蟹武竜
それぞれの戦場で、それぞれの戦士が激闘を繰り広げ、勝利を勝ち取ろうとしている時、ジェットワイバーン・レオと向かい合う雨月雫、名取修はと言うと、
「前回は見事に避けられましたけど、今度はそうは行きませんよ。」
雫はこう宣言すると同時に、パートナーである聖獣のユニコーン「ソフィー」と契約を執行し、自身のアーティファクト・ギア「ユニコーン・ザ・グングニール」を生み出した。その様子を見て居た修は、今まで畳んだ和傘の状態になっていた自身の聖装を、装具形態である槍の形に変えて、槍の柄と穂先の間にある円系のパーツの中に、一枚のカードを差し込んだ。
「レギンレイヴ!!」
修がこう叫ぶと、空間に切れ目が現れ、その中から短く揃えた銀髪と、全身に着込んだ頑丈だが軽めの鎧、背中に生えた一対の大きな翼が特徴の女性の姿を取る妖精族の聖獣が現れた。手には大きな槍を装備している。
「レギンレイヴ? 私のアーティファクト・ギアのモチーフとなった槍を持つ神、その私兵の一人ですわね。これは心強いですわ。」
「お手柔らかにお願いします。」
現れた女性の姿をまじまじと観察し、修の呼称を頭の中で反復した雫は彼女にこう言い、その言葉にレギンレイヴが返すと、
「始めるぞ!!」
ジェットワイバーン・レオはこう宣言すると同時に、背中の翼を大きく広げて空へと飛び立った。余りにも早い飛翔速度故に、全く姿が視認できない。
「スカイドラゴンの中で、最も飛翔速度があるワイバーンなだけはありますね。」
レギンレイヴがこう言うと、雫はそれに背中合わせになり、こう言った。
「でも、居場所が分からない程では無いわ。」
彼女のこの一言のすぐ後である、背後に大量の霊力が収束していくのを感じ取り、レギンレイヴは修を連れて、雫は飛んでその場を離れた。その直後、今まで飛翔していたジェットワイバーン・レオが現れ、鋭い爪の生えた前足を地面に叩きつけた。
「レーザークロー!!」
ジェットワイバーン・レオは、翼を大きく広げて一回羽ばたくと、態勢を立て直して再び爪を大きく振るった。その結果、当たる事は無かったが風圧を受けて大きく吹っ飛ばされた。
「ただ速いだけでなくあのパワー、ここは……」
槍を構えながらレギンレイヴはこう呟くと、目配せで修に何かを伝えて、自分はジェットワイバーン・レオに向かって行った。
「はあぁぁ!!」
レギンレイヴが勢いよく槍を突き出すと、ジェットワイバーン・レオは目にも止まらない速度で態勢を入れ替え、槍の穂先を口で加える事で攻撃を受け止めた。
「筋は良いが、まだまだ!!」
ジェットワイバーン・レオがこう言うと、レギンレイヴはどんな考えがあるのか不明だが、槍を空に掲げた。それにより、ジェットワイバーン・レオの体は宙に浮いた状態になったが、彼はそんな事を気にはしなかった。
「こちらにとっては攻撃のチャンスだ!!」
こう言って、鋭い爪で攻撃を仕掛けようとした。
一方の雫は、槍をいつでも投げられる態勢を取りながら、考えていた。
(まだです。折角レギンレイヴさんが体を張って作ってくれた隙。絶対に逃せない。ここぞと言うタイミングで。)
彼女はジェットワイバーン・レオが攻撃を始めるタイミングを見計らい、神速で飛翔する槍を投げつけようと考えている。しかし、それを感じ取ったのか、修は手振りでこう言った。
「槍を下げて、そして動かないで。」
「?」
修の合図に、雫が疑問を覚えた瞬間である。突然遠くから、巨大な岩が転がるような鈍い音が響くと、今度はガラスが割れるような鋭い音が響き、レギンレイヴの槍の先に閃光が迸った。
「?!」
ジェットワイバーン・レオは突然の事に判断できずに、閃光に包まれて姿が見えなくなった。
「これは雷?でもどうして?この天気で雷は……」
閃光の正体を一発で見破った雫は、空を見上げながらこう思った。空は灰色の雲で覆われ、一か所だけ少し黒い雲があるが、雪雲から雷が落ちると言う前例は聞いた事が無い。黒い雲をよく眼を凝らして見た時、雷の発生源が明らかになった。
「修、そしてレギンレイヴよ。言われた通りにしたが、これで良かったのか?」
雫が黒い雲だと思っていたのは、飛行機と同じくらいの大きさが有る翼を持つ、巨大なカラスだったのだ。大きさ以外の見た目は普通のカラスだが、何故か隻眼で片目しか開いていなかった。
「良くやった!オーディン!!」
「ありがとうございます。」
降りてきたカラス型の聖獣に、修、レギンレイヴは順番にこう言った。カラス型の聖獣の名前は「オーディン」と言うが、北欧神話の「オーディン」と同一人物では無く、オーディンが力を与えた自身の現身。簡単に言えば、動いて喋る御神体と言えば分かりやすいだろう。
「そんで持って、クラーケン!!」
オーディンが戻ってから、修は槍に付いているスロットに、もう一枚のカードを差し込んだ。その結果、空間に大きな切れ目が現れると、その中から巨大なヤリイカ「クラーケン」がノソノソと現れた。
修の元には、レギンレイヴ、オーディン、クラーケンと、自身の持つ戦力全てが集結した。
「それにしても、凄い布陣ですね。」
少し離れた場所で様子を見て居る雫は、現れた修の聖獣を見ながらこう言った。そして、そろそろ自分も動こうと、行動を開始した。
「神槍一閃、ユニコーン・シェイバー!!」
まずは、自身の持っている槍を、ジェットワイバーン・レオ目掛けて勢いよく投げつけた。ユニコーンの幻影を纏った槍は、高速回転を伴って目標に迫ったが、目標であるジェットワイバーン・レオは全く慌てなかった。翼を羽ばたかせると、勢いよく飛び立って姿が見えなくなった。
「高速飛翔?でも、逃がしません!!」
雫がこう言った瞬間である。彼女が投げた槍は勢いよく方向を変えると、飛び立ったジェットワイバーン・レオを追撃し始めた。
「………追撃だと?!」
ジェットワイバーン・レオがそれに気が付いた時、既に槍は目前まで迫っており、次の瞬間翼を掠めて飛び去って行った。
「な、なにぃ?!」
これにより、バランスを崩したジェットワイバーン・レオは、地面に向けて真っ逆さまに落下して行った。
「今です!!」
雫がこう叫ぶと、すぐさま反応した修は、クラーケンにこう言った。
「触手で捕えろ!!」
「よっしゃあ!!」
クラーケンは落下するジェットワイバーン・レオの姿を捉えるや否や、十本ある職種の内数本を伸ばして、ジェットワイバーン・レオの胴体と翼を縛り上げ、動きを止めた。
「追撃、行きます!!」
間髪入れずに、レギンレイヴがこう宣言して、槍を持って飛び出した。なので、修は一枚の技カードを取り出し、槍に付いているスロットに差し込んだ。
「飛穿一迅!!」
レギンレイヴは槍を構えてジェットワイバーン・レオに突撃し、貫くとまでは行かなかったが槍で体を掠め、大きな傷を付けて見せた。
「外れた?まさか……」
様子を見ており、レギンレイヴの攻撃があと一歩の所で完全に決まらなかった原因に心当たりがある修は、こう言ってすぐにクラーケンを見た。
「………」
触手でジェットワイバーン・レオを拘束するクラーケンは、表情こそ変化していないが、触手の方はジェットワイバーン・レオの力に耐えきれなくなったのか、ブルブルと震えている。
「まずい!!」
修はこう考えると、槍のスロットの中からレギンレイヴとクラーケンのカードを取り出すと、二枚を重ねて差し込んだ。
「聖獣融合!!」
その結果、触手でジェットワイバーン・レオを拘束していたクラーケンは、一度霊力の塊となって分解された。その直後、レギンレイヴの体内に霊力として入り込むと、彼女の姿を変化させた。持っている槍の穂先は巨大化してイカを模した形状となり、両手には左右に五本ずつ、イカの触手を模した装飾が施された姿になった。
融合が済んだレギンレイヴは、拘束が解けた事を良い事に逃げようとしていたジェットワイバーン・レオを見つめると、
「逃がしません!!」
こう叫んで、片手に付いている装飾を変化させて触手にすると、それを伸ばしてジェットワイバーン・レオを拘束しようとした。だが、ジェットワイバーン・レオは一足早くその場を離れた為、触手は上空に向けて伸びるだけで終わった。
その後、逃げたジェットワイバーン・レオを追って、レギンレイヴが飛んでいくと、
「すいませんが、オーディンを借ります!!」
雫は修にこう言って、オーディンの背に飛び乗って飛んで行った。
「あ、ちょっと!!」
修は飛んで行った面子に呼びかけたが、その声は届かなかった。
融合レギンレイヴとオーディンに乗った雫は、空を飛んで逃げて行くジェットワイバーン・レオを追って、峠道のような場所を飛翔していた。
「普通に飛んでも、追いつけませんし!!」
レギンレイヴは飛翔する中、遠くに生えている樹の頑丈そうな枝に袖の装飾を伸ばした触手を巻きつけ、それを縮める事で飛翔速度を上昇させていた。
一方、雫を背に乗せて飛翔するオーディンは、雫にこう言った。
「少し加速すために荒い飛翔する。だからしばらく、脚を固定する!!」
この言葉と同時に、雫の脚はオーディンの背にくっ付いたまま、動かなくなった。
「な、何をしたんですか?」
雫がこう訊くと、オーディンは説明した。
「背中とお前さんの履いている靴に磁力を発生させて、それを用いてくっつけている。」
その後、彼はある物を見て、背中の雫にこう言った。
「気を付けろ、来るぞ!!」
彼が翼を大きくはためかせ、一気に自分の居る高度を上げると、その下からジェットワイバーン・レオが爪を突き出して突進してきた。
「いつの間に後ろを?」
雫が槍を構えて迎撃の態勢を取った。しかし、それより前にオーディンは更に翼をはためかせ、高度を上げた。
「キャアァァ!!」
雫が槍をギュッと掴んで悲鳴を上げると、オーディンはこう言った。
「トンネルだ。」
見ると、彼の下にはトンネルが確かにあった。入り口付近に降り積もった雪の上に足跡が有るので、ジェットワイバーン・レオは地面を走ってトンネルに入ったのだろう。
「では、私たちは先回りしましょう!」
「心得た!」
雫の言葉に、オーディンはこう言うと、大きく翼をはためかせてトンネルの出口のある場所へと向かって行った。
一方、トンネルの中に入ったジェットワイバーン・レオと、それを追って行ったレギンレイヴはと言うと、
「待ちなさい!!」
トンネルの中を駆け抜けるジェットワイバーン・レオにこう言った。しかし、待てと言って待つ逃走車が居るのなら、誰も苦労しない。その事を理解しているレギンレイヴは、再び腕の触手を伸ばして、今度は相手の翼を捕まえた。彼女はその触手を手繰り寄せると、ジェットワイバーン・レオの背中に乗った。
「これで、もう逃がしません!!」
レギンレイヴはこう言うと、ジェットワイバーン・レオの首筋に槍を突き立てようとしたが、
「レギンレイヴ、前、前!!」
クラーケンにこう言われると同時に、前を見た。トンネルの出口が見えており、出口はトンネル内部より若干高さが低くなっていた。
「やば!!」
レギンレイヴはすぐさま頭を下げようとしたが、突き立てようとした槍が間に合わず、トンネルの天井と出口の高低差で出来たスペースに引っかかり、レギンレイヴはジェットワイバーン・レオの上から落ちてしまった。
「ギャン!!」
レギンレイヴが地面に激突している頃、空から先回りしてトンネルの出口へと来ていたオーディン、雫はと言うと、
「来たぞ!!」
出口を見張っていたオーディンがこう叫ぶや否や、雫は持っていた槍を投げつけた。
「はぁぁぁ!!」
力強い動作で投げつけられた槍は、トンネルより走って飛び出したジェットワイバーン・レオの目と鼻の先にと落下し、地面に突き刺さった。当たらなかったとはいえ、一瞬ではあるが彼の動きは止まった。
「今です!!」
そんな中、ジェットワイバーン・レオの背中から落下したレギンレイヴは倒れた態勢のまま、片手の触手を伸ばした。結果、触手は五本とも纏まる事で一筋の太い線となり、ジェットワイバーン・レオの首に巻き付いた後、少し離れた場所に生えている太い樹に巻き付いた。その後、反対の手の触手も同じように伸ばすと、手近な太い樹に巻きつけて自分の体が動かないように固定した。
「この程度なら、すぐに脱出を……」
ジェットワイバーン・レオは、自分の高速飛翔によって発生する運動エネルギーで、首の触手を振り払おうとしたが、いざ飛び立とうとした瞬間、触手が首に強く巻き付き苦しくなり、動きが封じられてしまった。
「ネメアライオンの討伐。武器が効かないなら、絞め殺せばいいだけの事。」
レギンレイヴがこう言うと、槍を回収した雫は、オーディンの背中の上でこう言った。
「止めは任せて下さい!!」
そして、自身と契約聖獣「ユニコーン」のソフィーの力を同調させると、自身の必殺技を発動させた。
「ギアーズ・オーバー・ドライブ!!」
ギアーズ・オーバー・ドライブとは、契約者と契約している聖獣が心を一つにする事で放つ事の出来る、アーティファクト・ギアの最強必殺技である。
「作り出すは無限の幻影、幻影は虚空、掴むことのない夢と幻、されど、我は望む、幻影の意志と虚空の想い、我が神槍の力を今ここに顕現させる、アンリミテッド・グングニール・ファンタジア!!」
雫が言葉を紡ぐと、ジェットワイバーン・レオの周囲には大量の槍が現れた。上にも右にも左にも前にも後ろにも、全く隙が無いように配置されている。以前の戦いではその速度で回避されたが、今回はレギンレイヴに拘束されているので、その心配はない。
「これで終わりです!!」
雫がこう宣言すると、配置された大量の槍はジェットワイバーン・レオを貫かんとして、一斉に射出された。
「これは、究極の持久戦か?」
ジェットワイバーン・レオはこう呟くと、自身の得意技にして周囲に影響を与える大技を放った。
「ライオン・ビート!!」
口から咆哮をあげると同時に、周囲に強烈な熱波がまき散らされ、その激しい熱は地面や周囲の樹を焦げさせると同時に、飛んで来ていた槍を全て押しとどめてしまった。
「な、これほどの力が……」
雫は、技を出しながらこう呟いた。以前の彼女は、今の技を一回使っただけで、次の戦闘が行えない程の重傷を負っていた。その後、自分なりに積んできた特訓によって、そう言った代償は無くなったが、一部の例外を除き回避も相殺もされた事も無い技を技によって止められ、内心では焦っていた。
その内に、両腕に激痛が走り始めた。外傷自体は無いが、激しい力の消費により今にも腕を裂かれそうな痛みを感じながら、雫は思った。
(これは、究極の持久戦となりそうですわね。)
自分の槍が全て弾かれた時、その時は自分たちの負けが決まってしまうので、雫はより一層の力を込めた。
結果、槍は熱波の壁を徐々に破ってジェットワイバーン・レオに迫り、ついに彼の力も底を尽いたのか、熱波の壁が消えて、全ての槍がジェットワイバーン・レオに命中し、彼は動かなくなった。
「や、やった。」
今度こそ勝利を確信した雫は、オーディンの背中の上で息を付きながらこう言った。そんな中、レギンレイヴは触手を縮めながら、こう思った。
「あれ、何かを忘れているような?」
この瞬間、この場に居る面々は思い出した。
「修! 忘れてた!!」
そして、その修はと言うと、
「………遅い!!」
聖装の槍を、偽装形態の和傘形態に戻し、それで降っている雪を避けながら、こう言った。
また違う所で、三藤直葉と組んだ月影刹那は、蟹を思わせる甲冑に身を包んだ緑色のドラゴン「ヴォルキャドン」と向かい合っていた。
「さてと、相手はいかにも強そうな見た目のドラゴン、対してこちらは……」
ヴォルキャドンの姿を見る直葉は、自身の隣に居る刹那の姿を見ながら言った。刹那の身長は、年齢15歳にして小学生程しかないため、彼女と背丈は余り変わらないと言っても過言では無い。
これに対し、刹那はこう言った。
「戦闘は見た目ではないで御座るよ。」
最もな一言であるが、刹那と契約する忍獣の銀狼こと「月姫」は、彼にこう言った。
「いえ、奴の戦闘力は見た目以上ですよ。まともに戦ってはこちらの勝ち目はほぼ無いでしょう。」
「そうなので御座るか?」
刹那が月姫に訊き返す中、
「カニ……?」
直葉はこう言った。
「?……どうしたで御座る?」
刹那がこう訊くと、
「何かあの鎧、カニっぽくない。」
と、直葉は言った。
「カニって、あのカニで御座るか?」
刹那は、魚屋や水族館、川や海など、様々な場所で見る事の出来る甲殻類の生物を想像し、直葉に訊いた。
「そうそう、フワフワの卵で包んで、甘い餡かけを……」
直葉がこう言った瞬間である。両者の中にある、とあるストッパーが意味を成さなくなってしまった。
「蟹玉で御座るか?拙者としては、トロトロのクリームと一緒に揚げたカニクリームコロッケが……」
「でも、一番はやっぱり普通に食べるのよね。適度に茹でた脚をへし折って、中に詰まった身を………」
「たまらないで御座るよ。あれは………」
「それじゃあ、後でカニ食べに行く?お父さんの知り合いにカニ料理専門の料理人がいて、近所で料亭開いているのよ。」
カニと言う要素を目の前にし、食欲のストッパーが外れてしまった両者は、楽しそうにカニ料理の話をしている。
そんな中、真面目に刀を構えていたヴォルキャドンは、半ばあきれながらこう言った。
「お昼ご飯もおやつも、戦いが終わればいくらでも食えるだろ。まあ、俺に勝てれば話だけど。」
この一言に、刹那と直葉はこう言った。
「良し、すぐに倒そう!!」
(張り切りやがった。)
ヴォルキャドンがこう思う中、刹那と直葉は戦闘準備を開始した。
「契約執行!!」
刹那が忍刀「無月」を構えると、月姫は光の粒子となってその中に入り込み、三日月を思わせる形状の剣「銀狼月牙」となった。更に、刹那自身は銀狼の毛皮で作られたマントを纏った姿になった。
「森の竜ラベンダードラゴンを召喚!闘争のフレグランス、しかと体に刻み込め!」
「お呼びとあれば即参上!!」
一方の直葉は、前髪に付けていた髪留めを外して大きなナイフの形状にすると、柄の先端に付いているセンサーで、一枚のカードを読み込んだ。その結果、全身が光り輝く空色の鱗で覆われた、体の大きなドラゴン「ラベンダードラゴン」が現れた。
両者の準備が整ったと判断したヴォルキャドンは、こう言った。
「いざ、尋常に……勝負!!」
そして、持っている刀を構えて突撃し、ラベンダードラゴンに切りかかった。
「はっ!!」
対するラベンダードラゴンは、長く太い尾を大きく一振りする事で、ヴォルキャドンの体を吹っ飛ばす事で刀の攻撃を防いだ。その直後、刹那は銀狼月牙を構えて飛び出し、ヴォルキャドンに斬りかかった。彼の一撃は鎧に命中したが、相当頑丈なのか傷一つ付かなかった。
「おらぁ!!」
ヴォルキャドンが刹那を押し出し、押し出されて吹っ飛んだ刹那をラベンダードラゴンが受け止めると、直葉は技カードを取り出し、ナイフに付いたセンサーで読み込んだ。
「奴の戦法はほぼスカラベと同じと考えてよさそうね。となると……」
直葉がこう言うと、刹那を受け止めたラベンダードラゴンは、口に大量の炎を収束させて吐き出した。
「楽炎咆哮!!」
ラベンダードラゴンの吐き出した火炎が迫る中、ヴォルキャドンは手にしていた刀を一旦捨てると、
「ハイドロレーザー!!」
両手で周囲の水分を収束させ、巨大な水流に変えて放った。結果、ぶつかり合った火炎と水流は、互いに互いをかき消しあい大量の水蒸気を発生させた。
「目晦まし?か?」
ヴォルキャドンが周囲の気配を探りながらこう言うと、背後から大量の手裏剣が飛んできた。
「忍法・手裏剣大百花の術!!!!!」
背後には五人に分身した刹那が居り、五人の刹那は変則的に大量の手裏剣を投げつけた。
(お、あれは良いや。)
その様子を見た直葉は、こう思うと一枚の技カードを読み込ませた。その結果、ラベンダードラゴンは何処からか複数個の種を取り出し、それをヴォルキャドンの足元に投げつけた。その種はすぐに成長して芽を出して大きくなり、赤い花を咲かせたが、全く違う方向を見て居るヴォルキャドンは気が付かない。
そのヴォルキャドンは、一旦手放した刀を再び手にすると、鎧の肩からカニの鋏を思わせる腕を解放すると、それらを用いて手裏剣を落とし始めた。刀や鋏が手裏剣とぶつかり合う事で、大量の火花が発生したが、これが失策となる事となった。突如火花が何かに点火すると、周囲に激しい爆発が発生した。
「な、何で御座るか?!」
突然の爆発に、刹那は思わず驚き、その勢いで思わず吹っ飛ばされてしまった。その後、何とか直葉の元に戻ってから、爆発に付いて訊いた。
「い、一体何が起こったで御座るか?」
刹那の問いに、直葉は一枚のカードを見せながらこう言った。
「スパイシーフラワー、とても可燃性の高い花粉を散布する花。その種を召喚する技なの。」
「……ああ、そういう事で御座ったか。」
周囲に可燃性の高い花粉が漂い、その中で手裏剣と刀、鋏がぶつかり合う事で大量の火花がまき散らされ、それが点火して爆発した。その事を理解出来た刹那は、少し黙った後納得したのかこう言った。
一方、爆発の中心に居たと言っても過言では無いヴォルキャドンはどうだったかと言うと、
「お、驚かしてくれるよ。」
こう言いながら、無事とは言い切れないが傷の少ない状態で耐えていた。ヴォルキャドンは防御力が高いため、元々持っている水属性の力と相まって、ダメージを最小限まで押える事が出来たのである。
それを見ながら、刹那はこう言った。
「でもどうするか? 拙者が得意とするのは主に体術。遁術の類は麗奈の専売特許で御座る。」
一連の攻防で、筋力による打撃よりも熱などによるダメージの方が有効であると言う事が明らかになったのは良いが、火炎と打撃を使いこなせるラベンダードラゴンを持つ直葉はともかく、刹那はそう言った要素を使いこなす忍術である「遁術」を使いこなす事が出来ないため、出来る事が見つからないのだ。
そんな彼に対し、直葉はこう訊いた。
「私がいつも決め技に使っている連携が有るのだけれど、少し間だけ奴の気を引くことは出来ます?」
「? 出来るで御座るが?」
直葉の問いに、刹那がこう答えると、
「じゃあ、お願い!!」
と、直葉は言った。
「常闇之三日月」
ヴォルキャドンは何時でも迎撃が出来るように構えていたが、刹那は何処からともなく気配も出さずに現れた。まるで、闇の中から出現するように。
刹那は自身の使いこなせる闇の力を解放すると、周囲の様子が見えないようにして目標に接近し、銀狼月牙を振り下ろした。結果、攻撃自体は防がれたが打ち所が良かったようで、刹那は少ない筋力で押せている所を、ヴォルキャドンは強い力を込めて必死に耐えていた。
「貴様、どうやって闇の力を? 人間如きに使いこなせる技では無い上に、よしんば使えても、闇の展開と同時に自身も周囲の様子が分からなくなるはずだ。」
耐えているヴォルキャドンがこう言うと、隠す必要が無いので刹那はこう答えた。
「気が付いたら自由自在に使えるようになっていたで御座る。」
「化け物かよ、おい。」
刹那の答えに、ヴォルキャドンはこう言い残して、一旦距離を取った。刹那の方は、いかにも化け物と言う見た目の存在に、化け物と呼ばれて不満もあったが、彼の言う事もある意味正しいかもしれないので、あえてその事は黙っていた。
すると、今まで直葉の傍で待機していたラベンダードラゴンも動き出した。背中の翼で飛翔すると、口から火炎弾を吐き出してヴォルキャドンを攻撃した。
「援護してくれるで御座るか?」
刹那がラベンダードラゴンにこう訊くと、彼は静かにうなずいた。なので、
「行くで御座るよ、忍法・心身強化の術!」
刹那は指で印を結ぶと、自身の気力と精神力で身体能力を強化すると、ラベンダードラゴンの吐き出す火炎弾を回避しながら、ヴォルキャドンに銀狼月牙を振り下ろした。
その後も、ヴォルキャドンは刹那の斬撃と、ラベンダードラゴンの火炎を上手く受け止め、回避していたが、どんどん押されていった。両者の攻撃は打ち合わせが無いためにとても変則的で、交互に攻撃が来るときもあれば、どちらか一方の攻撃だけが一方的に繰り出される事もあるので、一瞬でも判断を誤らせると致命傷を受けてしまうためである。
「こうなったら!!」
ヴォルキャドンは、刹那の刀を弾き、ラベンダードラゴンの攻撃を回避するや否や、手にしていた刀を放り捨てた。しかし、これは決して負けを認めた訳では無く、目線をそこに集めるための行動である。
狙い通り、そこに目線が集まるや否や、ヴォルキャドンは口に大量の火炎を集めると、刹那とラベンダードラゴン目掛けて広範囲に吐き出した。
「やばい!!」
この一撃に気が付いたラベンダードラゴンは、翼を大きくはためかせて距離を取り、攻撃を回避した。
一方、至近距離とも言える距離を保っていた刹那はと言うと、
「忍法・変わり身の術!」
忍術を用いて、自身の体とどこかに落ちていた丸太を入れ替えて、攻撃を回避した。攻撃が終了してから、ヴォルキャドンは自分が放り投げた刀を取りに行こうとしたが、それより早く直葉が、行動を開始した。ナイフの柄に付いているセンサーで、一枚のカードを読み込んだのだ。カードと言っても、技カードでは無い。
「?」
「な、何で御座るか?」
直葉がカードを読み込ませた直後、ヴォルキャドンと刹那は地面から違和感を覚えた。地震と言う訳では無いが、地面が揺れているのだ。
「いっけぇぇ!!」
直葉がこう叫んだ瞬間である。突如ヴォルキャドンの立っている地面が瓦解すると、そこから途轍もなく巨大な蛇の姿をした聖獣が現れた。その聖獣は、大きな口を開けて現れると、ヴォルキャドンを一口で飲み込み、そのまま遠くへと吐き出してしまった。
「な、何で御座るこいつは?長の覇邪より巨大で御座る。」
かつて自分が所属していた「神影流」そこの長であった「神影十蔵」の忍獣である「大蛇」の「覇邪」も巨大だったが、今目の前に居る蛇は、その数倍は長い体を持っているだろう。刹那が彼を呼んだと思われる直葉に訊くと、直葉はこう言った。
「彼の名前はヨルムンガンドのヨルムン。私の心強い味方よ。」
ちなみに、ヨルムンガンドに吐き出されたヴォルキャドンはどうなったかと言うと、彼は勢いよく空を吹っ飛んでいたが、その内に違う所で直樹&雷花のコンビに吹っ飛ばされたジェミナ・ドライグと合流すると同時に、彼と激突した。
それにより、力のベクトルが反転し、両者は吹っ飛ばされた方向へと戻って行った。
七組目
夢野亜衣
「はい、始まりました。クロスオーバーM1グランプリ、司会は私。アーティファクト・ギアより出番は一話だけの一発屋、夢野亜衣と。」
御門京香
「聖獣王伝説より、第三話以降一度も出番が無い、存在感がこれ以上薄くならないように必死な、御門京香です。」
夢野亜衣
「今回も後書きのスペースを用いて漫才?を披露してもらいます。」
京香
「では行きましょう。今回出演するのは、サウザント・originalです。どうぞ!」
???&???
「どうも、サウザント・originalでーす!!」
天堂千歳
「天堂千歳と。」
綾小路源
「どうもすいません。再び綾小路源です。何で僕が三回も……」
千歳
「何でも何も、私は怒っているんです!だから貴方をここに呼びだしたの!!」
源
「何ですか? その生徒指導みたいなノリは?」
千歳
「だって、貴方の所には明確なメインヒロインが居ないって話じゃ無い。そのままどっちつかずで居られたら、私だって胸糞悪いし、貴方だって困るでしょう!?」
源
「別に困らないよ!!」
千歳
「思い出しなさい、ヒロインが二人は居るせいで、グッドやノーマルより、バッドなエンドが多いあの作品を。」
源
「学校生活か? 確かにうちの学校の神司部が主な出来事の発生源になっているけど、これはリアルファンタジー(基本設定は現実的だが、ある部分だけファンタジーになる)だからね。身体能力以外は小学生らしく振る舞うから。」
千歳
「ややこしいわね。リアルなのかファンタジーなのか、どちらか一つにして。恐竜人間並みにコンセプトが分かりにくい。」
源
「何のネタだよ!と言うか、さっきから聞いてれば文句ばかりだな!余り文句言ってると、作者にヒロインの座から降ろされるぞ。」
千歳
「大丈夫だもん。私愛されてますから。」
源
「前例がない訳じゃ無いぞ。ミ○エ○何て…………」
千歳
「それ全部言ったら、作者が怒られて作品が続かなくなる。」
源
「と言うか、話がそれてますね。」
千歳
「誰が逸らしたのよ。まあ良いか、私は貴方のヒロイン探しを手伝ってやろうと思ったのよ。天堂千歳人間関係相談女として!」
源
「………意味が分からない。」
千歳
「良いから、私の所に来なさい。」
源
「すいませーん。」
千歳
「はい、こちら天堂千歳人間関係相談所です。」
源
「さっきと字が違う?まあ良いか。実は、こちらの小説のヒロインの相談に……」
千歳
「そうですか。それでは、お客様が望む条件を述べて下さい。」
源
「結婚相談所みたいな感じかな? じゃあ、可愛い人で。」
千歳
「それはデフォルトです。」
源
「じゃあ、優しい人。」
千歳
「それもデフォルトです。」
源
「頭の良い人。」
千歳
「それもデフォルトです。」
源
「器量の良い人。」
千歳
「それもデフォルトです。」
源
「デフォルトばっかりだな!?」
千歳
「可愛くて優しくて頭が良くて器量が良い。世界中の人間全てがヒロインに求める、ヒロインの基本的な条件では無いですか。」
源
「ヒロインになるって大変なんですね。」
千歳
「条件の例としてはですね。ツンデレや天然、内気と言った性格的な物や、年上か年下か、と言う物ですね。もしくは、既存の設定をより深く追求した条件を提示してくれれば。」
源
「そうですか、じゃあ物静かで裁縫技術のある人を、出来ればミシンを壊さず使えるような人が……」
千歳
「では、検索しますね…一人見つかりました。」
源
「早!? と言うか一人、そこまで厳しい条件だったかな?」
千歳
「完璧ですよ、物静かで裁縫技術が合ってミシンも使える。自分の衣装を自分で作っちゃうくらいです。」
源
「完璧!!」
千歳
「この人何ですけどね。」
源
「えっと、鳴神雷花? 却下!!」
千歳
「え? 今完璧と言ったばかりじゃないですか?」
源
「作品違うし、交友関係的に交わりたくても交わらんぞ!」
千歳
「そうですか、それじゃあ、違う条件を提示して下さい。」
源
「違う条件?それじゃあ、日本人で年上、武闘派のお嬢様、さすがに引っかからないだろ。」
千歳
「………一件引っかかりました。」
源
「そうでしょう………え?一人居るの………落ちが見えた気がする。」
千歳
「この人何ですけどね。」
源
「雨月雫………だと思った!!」
千歳
「いかがでしょう?」
源
「いかがも何も、悪いに決まってるでしょう!」
千歳
「でも、貴方が提示した条件に引っかかったヒロインですよ。」
源
「と言うか、さっきから見てれば。アンタ自分の小説の女子キャラを排除しようとしてない?」
千歳
「ギクッ! な、何の事でしょう?」
源
「ギクッて言ったぞ!」
千歳
「次こそは条件に見合ったヒロイン紹介するから、条件言って!後一回だけで良いから。」
源
「分かったよ。じゃあ年上で外国人、男勝りな性格で喧嘩をすれば男性より強くて、だけどそれでも女性らしさを性格や見た目に損なわず、孤児と思われていたら実は一国の王女様でした、って人は? さすがに居ないよね。」
千歳
「居ますよ。丁度手余りが一人…」
源
「居るのかよ!?」
千歳
「この人イギリス人何です、英語は出来ますか?」
源
「まあ良いか。その人の名前は?」
千歳
「ごにょごにょ。」
源
「予想通りだなおい、いい加減にしろ!」
千歳
「どうも、ありがとうございました。」




