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聖獣王伝説  作者: 超人カットマン
聖獣王伝説×アーティファクト・ギア クロスオーバー第一弾 未来襲来編
32/55

第六話 天秤双子

 紆余曲折を経て、共同戦線を張る事になった新司部と冒険部の面々は、異形の竜達と交戦することになった。

 まず、彼らの中でもリーダー格に居ると思われる、人型の体に天秤座の「あすとろロジカルシンボル」を持つドラゴン「マスターカンヘル」と戦うことになった、増田薫と神影麗奈のコンビはと言うと、

「どれほど出来るかは分かりませんが、よろしくお願いしますね。」

 まず麗奈が薫に言うと、薫も同様によろしくと返し、互いのパートナーを召喚した。

「忍獣、召喚!!」

 麗奈は自分が普段から持ち歩く忍獣石を用いて、自身の忍獣(彼女達神影流忍者が持つ聖獣の呼称)を呼び出した。

「あいよ、姐さん!!」

 すると、煙の中から忍者が現れるようにして、大きな蛙の姿をした忍獣、所謂「大蝦蟇」の幸助が現れた。全身に様々な武器が装備された鎧を身に着けている。

 一方の薫は、どこからか取り出した下敷きを自身の聖装である「ブレード」を変化させると、刀身に付いたスキャナーに一枚のカードを読み込ませた。

「白亜の竜の対抗者、組み上がって具現せよ!今こそ、出陣の時!」

「ギュオンズ、機動!!」

 その結果、周囲から細かい金属の粒子が収束し、腕や足と言った箇所の一部のパーツをオミットすることで、体積とエネルギー消費を極力抑えた、小さな白い恐竜のような姿のロボット型の聖獣「ギュオンズ」が現れた。

「生体部分は一か所も無し。これでも聖獣なんですか?それに、見た目の割には綺麗な声ですね。」

 ギュオンズの姿を見た麗奈は、思わずこう呟いた。自分たちの世界では、怪我をして体の一部を失った後、機械でそこを補っている聖獣の記録を見た事があるが、それこそすべてが機械で構成された状態で聖獣を名乗る存在を見るのは初めてである為である。

 一方、両者のパートナーが召喚されるのを大人しく待っていたマスター・カンヘルは、武器として使用する大きな天秤を取り出すと、それを片手で持ち、開いた片手で薫と麗奈を挑発した。

「先手は譲ってもらえるようだけど、どうしようか?」

 薫はマスター・カンヘルを一瞥すると、複数枚の技カードを取り出し、どの手を使うかを考えた。マスター・カンヘルが先手を譲ったという事は、相手はカウンターを狙っているという事である。

「よし、これだ!」

 自分の手を決定した薫が、聖装にカードを読み込ませようとした時である。その事を悟ったのか、それとも別な理由があるのか、麗奈がその場を飛び出した。

「火遁・竜炎弾の術!!」

 指で印を結んだあと、気力と精神力を高めて息を大きく吸い、勢いよく吐き出した。その結果、麗奈の口からは巨大な火炎弾が吐き出され、火炎弾はマスター・カンヘルを包み込んだ。

(反撃してこない?どういう意図があるのかは分からないけど、攻撃のチャンス?)

 その様子を見て薫はこう考えると、今まで持っていた「カウンター」のカードを一旦仕舞い、機械族の聖獣が全身からミサイルを放ち、敵を爆撃している様子を描いた技カードを取り出し、聖装に読み込ませた。その後すぐに、

「麗奈さん、離れて!!」

 と、大声で叫んだ。

「?!」

 麗奈が薫の声に気が付いた時、すでにギュオンズは全身に仕込んだミサイルを発射する他に、全身の発射口を開いている。点火させれば、ミサイルは物凄い勢いで飛んで行ける状態である。

「姐さん、早く!!」

 幸助もこう叫んだが、その時すでにすべてのミサイルの点火が完了し、ギュオンズの体から放たれていた。飛翔するミサイルは、途中で空中分解すると更に小さなミサイルを大量にまき散らし、威力が低いが逃げ場を作らない爆撃の体制が整ってしまった。

「?!」

 麗奈はその状況に気が付くや否や、すぐに対策を取った。

「忍法・心身強化の術!」

 指で印を結ぶと、気力と精神力を編みこんだ忍力を身にまとって身体能力を強化すると、スレスレで危なっかしいが軽やかな動きで降り注ぐミサイルを回避し、安全地帯である薫たちの傍へと戻ってきた。

「か、薫さん。爆撃するなら事前に言ってください。」

 凶器は凶器でも、ミサイルの中を駆け抜けると言う、一生かけても絶対に味わえない。と言うか味わいたくない状況を味わった麗奈が、息を切らしながら薫に言うと、

「しょうがないでしょう。最初はカウンターで相手の出方を伺おうとしたんだけど、其れより前に麗奈さんが攻撃して、相手は何も返してこなかったんだから。それで急遽路線を変えたんだから。」

 と、薫は言った。そして、

「一応は忠告したんですから。」

 と、麗奈に告げた。

「そういう問題ではないです。」

 麗奈が息を整えながらこう言うと、幸助はミサイルが降り注いで炎と煙に包まれる現場を見ながら言った。

「しかし、すごい攻撃だな。出方を伺う前に、これで勝負はついたんじゃ無いか?」

 彼の言うとおり、現実に存在する普通の軍隊であれば、今の攻撃一つで壊滅させるのは容易であろう。だが相手は、そんな軍隊の数十倍も強い存在である。そう簡単にはいかない、薫とギュオンズがこう考えていると、突如突風が吹きすさび、現場を包む熱風を吹き飛ばした。

「麗奈さん、なにかしました?」

「私じゃ無い!!」

 突風と熱風に耐えながら薫、麗奈がこう言うと、ギュオンズは黙ったまま身構え、幸助はある方向を指さして言った。

「姐さん、小僧、あれを見ろ!!」

 幸助が指さす方向には、大量のミサイルに包まれながら、膝をつくどころか傷一つ付いていないマスター・カンヘルが立っていた。

「な、そんな。」

 麗奈が驚きを隠せずにこう言う中、薫は、

「うわぁ、確かに牽制も兼ねた攻撃だったとは言え、無傷とか流石に自身を無くすわ。」

 と言いながら、次のカードを選別していた。ミサイルによって齎された爆発、つまりは炎属性の技が訊かないとなると、次に試すべき技は対極を行く性質を持つ氷属性の技である。

「麗奈さん、氷って出せますか?」

 残念ながら、ギュオンズは氷属性の技を使えないので、麗奈にその事を聞いた。

「いえ、水遁はありますが、氷遁はありません。」

 麗奈がこう答えると、今まで大人しくしていたマスター・カンヘルは、彼らにこう言った。

「さてと、ボチボチ反撃させてもらおうか。」

(来る!)

 薫、麗奈、ギュオンズ、幸助がこう考えると同時に、マスター・カンヘルは持っている天秤を頭上で大きく回転させ、一方に付いている皿を地面にたたきつけた。その結果、皿がたたきつけられた場所から、とてつもない衝撃波がはなたれ、二人と二体はそろって大きく吹っ飛ばされた。その際、ギュオンズと幸助は持ち前の運動能力で地面に着地し、薫は麗奈に受け止められて無事に着地できたが、相手は軽い一撃であれほどの威力を出せると言う事を思い知らされ、内心では焦っていた。

「なんて重い一撃、一発だけでも致命傷になりかねませんね。」

 麗奈がこう言うと、考え込んでいた薫はこう言った。

「やはりここは、力押しで言った方が良いかな?」

「力押し?」

 薫の言葉に、麗奈は疑問を唱えた。先ほど自分たちと相手の力の差は見せつけられたばかりで、その上でなお力押しを推すのは何故なのか、と。

「今見せつけられたのは筋力による攻撃、だったら筋力に依らない攻撃で相手を追い込めばいいだけの事。」

 薫がこう説明すると、麗奈は心の中で思った。

(確かに、私は元々遁術の方が得意ですし、彼の契約聖獣も殴ったりするより撃つ方が得意なのはわかります。でも…奴もそれだけでは無い気が…)

 懸念はあるが、相手の特徴を一つでも多く掴み、尚且つ攻撃できるときに攻撃を行わないと、勝てる勝負も勝てなくなる。麗奈はそう考えると、薫にこう言った。

「それなら、私に策があります。良いですか………な、技はありますか?」

「これがあるけど。」

「完璧です。それを…したら、……して下さいね。」

 耳打ちで簡単な作戦会議を終えたところで、薫はギュオンズと一旦後ろへ下がり、逆に麗奈と幸助が前に出た。

「幸助、連携遁術行きますよ!!」

「任せてくれ、姐さん!!」

 麗奈の一言に、幸助が一つ返事で了解すると、麗奈は忍刀、幸助は鎧に装備された刀を構えて、二人で空を切り裂いた。

「風遁・風刃剣!二重の舞!!」

 結果、麗奈と幸助が刀を振るった場所からは真空の刃が放たれ、幾つもの鎌鼬となってマスター・カンヘルに迫っていった。

「舐めるな!!」

 対するマスター・カンヘルは、再び武器の天秤を大きく振るうと、今度は突風を起こして見せた。先ほどミサイルの爆発によって発生した熱波を吹き飛ばした突風も、こうやって起こされた物なのである。

 マスター・カンヘルの巻き起こした突風は、飛翔した鎌鼬と激突するや否や、すべての刃を別々の方向へと飛ばした為、一つとしてマスター・カンヘルには命中しなかった。軌道を逸らされた鎌鼬は、少し離れた場所に生えていた木に命中した。その木の幹には巨大な切り傷が刻まれており、斬撃の鋭さを物語っていた。

 自分たちのできる忍術の一つを攻略された直後ではあるが、麗奈と幸助は怯まない。すぐさま次の忍術に移った。

「幸助、油です!!」

「はいよ!!」

 麗奈の指示を受けると、幸助は口のなかより茶色く濁った液体を大量に吐き出し、マスター・カンヘルへと浴びせた。

「な、汚い!!」

 マスター・カンヘルは思わずこう叫んで、体に付いた液体を落とそうと体を大きく振るった。ちなみに、幸助が吐き出したのは傷の治療に効果があると言われる「ガマの油」であり、決して嘔吐物では無い。

「火遁・竜炎弾の術!!」

 次に麗奈が、先ほど牽制のために放った忍術を放った。しかし、その忍術が効かない事は既に分かっている事である。

「さっきので分からなかったのか?俺に炎は効かないと!!」

 マスター・カンヘルがこう言うと、幸助はこう言った。

「分かってないな。」

「?!」

 幸助の言葉で、マスター・カンヘルは今自分に付いている液体が何なのかを理解し、その後何が起こるのかも理解したが、すでに手遅れだった。麗奈の吐き出した火炎がマスター・カンヘルに命中するや否や、事前に掛けられたガマの油に引火し、激しく燃え上がった。

「ギャァァァ!!燃えるぅ~!!火だるまになって焼け死ぬぅ!!」

 マスター・カンヘルが全身の熱さにのたうちまわる中、麗奈は手を後ろで組み、ある形にして後ろで待機する薫たちに合図を送った。

(よし、今だ!)

 合図を見た薫とギュオンズは一様にこう思うと、ギュオンズは足と背中に装備されたバーニアで飛び出し、薫は聖装で一枚のカードを読み込んだ。

「レーザーソード!!」

 結果、ギュオンズの右手がフォークを思わせる形状になり、そこから光の粒子で構成された剣が現れた。

 麗奈が考えた作戦とは、まず自分と幸助の連携遁術でマスター・カンヘルの気を引き、其れと同時に彼の眼を封じた後、薫のギュオンズのレーザーソードで一撃必殺を狙うと言うものだったのである。マスター・カンヘルの頑丈な皮膚は、衝撃や熱にはそれ相応の耐性を発揮するだろうが、鋭い剣による一撃であればそれを貫ける可能性がある。

「これで終わりだ!!」

 薫がこう叫び、ギュオンズが力の限りレーザーソードを付きだそうとした瞬間である。

「さっきも言ったよな。舐めるなと。」

 今までのたうちまわっていたマスター・カンヘルは、突然起き上がってこういうと、全身を包む炎をすべて天秤の皿の上に集まってしまった。

「量はともかく、熱量は十分!!」

 そして、炎の載った皿を頭上で大きく振り回し始めた。

「な、何だ?!」

 麗奈と共に後ろに下がった幸助がこう言う間にも、炎は熱量をどんどん増していき、m遠く離れた場所からもその熱量を感じられるようになってきた。

(まさか?)

 薫はマスター・カンヘルの動きを見ながら、ある仮説を立てた。そして、飛び出したギュオンズ、後ろに下がった麗奈と幸助に、こう叫んだ。

「今すぐ伏せて!!」

「?!」

 三者が薫の言葉に反応し、どういう事なのかを考えたその瞬間である。

「リブラ・カウンター!!」

 マスター・カンヘルは振り回していた天秤を一回だけ自分の前で大振りし、皿の上の炎を薫たちにめがけて投げつけた。その際、放たれた炎は振り回された際に熱量を高められていたため、威力も量も比べものにならない規模となっていた。

「くぅ!間に合わない!!」

 マスター・カンヘルの反撃を見て、ギュオンズはこう言いながらも防御の体制を取り。

「危ない!!」

 麗奈と幸助は、自分たちより前に出ている薫の前に急いで飛び出すと、

「土遁、二重土岩壁の術!!」

 自分たちの前に、土と岩でできた頑丈な壁を念のため二つ出現させ、防御の体制を取った。

 しかし、彼らの必死の対策は功を成さず、二人と二体は大きく吹っ飛ばされた。





「だ、大丈夫?」

 マスター・カンヘルによって、数倍返しで放たれた火炎の熱が収まりを見せてから、地面に倒れる麗奈は、薫たちに訊いた。吹っ飛ばされて地面に激突した折、麗奈は薫に激突してしまった為、その事を気にしていたが、打ち所が良かったのか見た目以上に頑丈なのか、薫はある程度は平気そうであった。

 だが、幸助は大柄で合った為吹っ飛ばされた時の衝撃は人間とは比べものにならず、死なないまでも動けない程になっており、ギュオンズに至っては黒焦げになっていた。

「ど、どうします?」

 麗奈は組み合わせを決めるとき、薫が誰でも良いと言った事を良いことに、大見得を切ってマスター・カンヘルに挑むと言ってしまったのだ。それでありながら、早速ピンチと言える状況になっている。その事に責任を感じているのか、麗奈の言葉にはどこか気が落ちたような印象があった。

 対する薫は、何とか体を起こすと、麗奈にこう言った。

「たった一つですけど、勝ち目はあります。」

「え?!」

 薫の一言に麗奈が驚くと、薫はどこからか一枚のカードを取り出した。それは聖獣カードでも技カードでもないカードで、球体の絵が描かれており、Xプログラムと名称が振られている。

「ギュオンズ、もうひと頑張りだ!!」

 薫はこう言うと、そのカードを聖装で読み込んだ。その結果、

「X program install!!」

 ギュオンズの中より電子音が響き、黒焦げになっていた全身に変化が訪れた。元の外殻がはじけ飛ぶと、その下より再び白い外殻が現れ、一部パーツがオミットされた手足は、ドラゴンを思わせる形状に変形強化を遂げ、長い首や尾が何倍も巨大化した体から現れると、今まで開かなかった竜を模した顔の口が開くようになり、紅の瞳が現れた。

 戦闘力レベル7000近い強さを持つ聖獣を倒し、挙句の果てには海皇ウンディーネですら不意を突いた時だけ圧倒することも出来る強さを誇る、不完全覚醒ギュオンズとなったのである。

「へ、変形した?」

 麗奈が驚くと、ギュオンズは背中から翼を模した飛翔ユニットを出現させ、目にも止まらない速度で飛翔し、マスター・カンヘルを正面から殴り飛ばした。

「凄い、近づく事さえ出来なかったマスター・カンヘルを殴り飛ばした。」

 幸助がギュオンズの強さに感嘆の声を上げる中、麗奈はと言うと、

「と言うか、何でこんな切り札を今まで隠していたんですか!?」

 と、薫に迫った。

「だって、切り札は温存すべきって言うじゃないですか。」

 対して薫はこう言った後、今までそれを出さなかった理由を説明した。

「確かにあの形態になれば、ギュオンズは対外の相手になら無敵になれます。でも、適合しない聖獣が受けると暴走する程の、あまりに強いエネルギーを受けているが故に、制御不能状態に陥ってしまうんです。」

「?」

 言葉をうまく理解できない麗奈が疑問符を浮かべると、薫は上空を指さして言った。

「まあ、見ていれば分かります。」

 言われた麗奈が上空を見ると、ギュオンズはマスター・カンヘルに対し一方的な攻めの展開となっていた。しかし、攻撃はほとんど命中しておらず、マスター・カンヘルが飛翔する方向を変えると、ギュオンズは一々大回りをして方向転換をしている。これでは、力を振るっていると言うより、力に振るわれていると言った方がしっくりくるだろう。

「私にも、なにかできないでしょうか?」

 麗奈は上空を見上げながら、こう考えた。援護するにしても、高い場所で戦っていては手も足も出ない上に、そもそも自分だけでは足手まといになるだけだろう。

「制御不能……制御?!」

 薫の言葉を復唱した瞬間、麗奈は一つ自分に出来ることを思いついた。だが、それをするには、少なくともギュオンズが降りてくる必要がある。

 すると、麗奈の考えをギュオンズが離れた場所で理解したのか、それとも違う理由があるのかは分からないが、ギュオンズが地上に向けて急降下し、それをマスター・カンヘルが追ってきた。ギュオンズが一足早く地上に降り立つと、麗奈は指で印を作り、ある忍術を発動した。

「忍法・傀儡の術!!」

 彼女の発動した忍術は、対象者と自身を見せない程細い線でつなぎ、対象の行動を意のままに操ると言う物で、主に諜報活動で使われることが多い術である。麗奈はギュオンズにそれを使い、自分が操縦できるようにならないかと考えたのだが、現実は甘くなかった。ギュオンズの中に迸る凄まじすぎるエネルギーが、麗奈の出した細い線を伝って麗奈に伝わってきたのだ。あくまで少しではあるが、内部から身を焼かれるような痛みが全身を駆け巡っている。

「な、何てことを?!」

 薫が驚くと、麗奈は苦しみながらこう言った。

「わ、私は…少しだけなら大丈…夫……それ…より、早…く。」

 こう言われた薫は、ギュオンズの方を見た。麗奈の傀儡の術、正確には、エネルギーを少しだけ麗奈が肩代わりしている事で、ある程度は制御が効くようになっている。

「ギュオンズ、出来るだけ速攻で決めろ!!」

 薫がギュオンズにこう言うと、ギュオンズは背中の翼を銃器の形状にして、マスター・カンヘルに向けて放った。

「ぎゃぁぁぁ!!!」

 光で構成された何十発もの弾丸を受けた為、流石のマスター・カンヘルも思わず怯んだ。その隙に、ギュオンズは再び高速で接近すると、

「レーザーソード!!」

 右手から巨大な光を迸らせ、それを大剣の形状に固めると、勢いよく振り下ろしてマスター・カンヘルを切り裂いた。

 この一撃で、ついにマスター・カンヘルは膝をつき、倒れた。

「や、やった…」

 麗奈は様子を見ながらこう言うと、傀儡の術を解いた。ほんの数秒間ではあるが、強いエネルギーの奔流を肩代わりしていた負担は大きいようで、思わず地面に倒れこんだ。

「だ、大丈夫ですか…」

「こ、ここまで苦しい思いをしたのは…拷問に耐える訓練以来かも。」

 駆け寄る薫に、麗奈がこう言うと、幸助は言った。

「でもまあ、勝ちは勝ちだ。」

「そうですね。結局ロクな事は出来なかったけど…」

「そんなことは無いですよ、勝てたのは麗奈さんのおかげです。」

 幸助の言葉に思わず自虐的な事を言ってしまった麗奈に、薫がこう言って励ました時である。突如、驚くべきことが起こった。たった今倒したはずのマスター・カンヘルが起き上がり、飛びかかってきたのだ。その時ギュオンズは、薫たちの元に向かうためゆっくり歩いている最中で、相手に対し背中を向けている。

「あ、危ない!!」

 麗奈がこう叫び、幸助と薫がそれに反応した瞬間である。ギュオンズはため息をつくような動きをすると、マスター・カンヘルに向けて尾を突き出した。突き出された尾は裂けるように二つに分かれ、そこからは巨大なミサイルが顔を覗かせていた。

「武道で退場する者への攻撃はダメだろ。」

 ギュオンズは一言こういうと、尾に仕込んだ巨大なミサイルを放った。ミサイルはマスター・カンヘルの腹部に命中すると、彼を連れて上空へと飛んでいき、花火のような光を放って大爆発した。

 この時、薫、麗奈、幸助は、心から思っていたわけではないが、思わずこう思った。

(うわぁ、汚い花火だ。)





 一方、ジェミナ・ドライグと戦う事になった吉岡直樹、鳴神雷花はと言うと、

「……契約執行!!」

「応!!」

 まずは雷花がピコピコハンマーとガーディアンカードを構えて、こう宣言した。その結果、雷花の服装は天聖学園の夏服からメイド服のようなゴスロリに変化し、ピコピコハンマーは契約聖獣である「雷神トール」と融合する事で、トールの持つ槌と同じような能力を持つアーティファクト・ギア「ライトニング・トールハンマー」となった。

「うわぁ、凝ってるな。」

 その隣で、聖装の偽装形態状態でポケットに入っていたスタンプを取り出すと、装具形態であるハンマーに変化させた直樹は、思わずこう呟いた。変身と言うのは、日曜日に見る事が出来るが、実際に目の当りにすると驚きが隠せない。

 そして、対戦相手であるジェミナ・ドライグは、背中の四枚の翼を大きく広げ、こう言った。

「悪いけど、一気に決めさせて!!」

 その直後、翼を大きくはためかせる事で、高い場所まで飛び上がった。ブレスにせよ打撃にせよ、上空から攻撃を仕掛けるようである。

 それに対し、直樹は聖装とカードを構えると、

「戦いは爆発の勢いだ!フレアノドン、燃え上がれ!!」

「フレアノドン、行く!」

 決め台詞を叫び、召喚する自身のパートナー「フレアノドン」のカードを放り投げると、ハンマーで殴って上空へと飛ばした。それにより、上空へと飛ばされたカードは炎に包まれ、赤い体を持つ翼竜の姿を取る恐竜族聖獣フレアノドンに変化した。フレアノドンは直樹のハンマーで飛ばされた勢いで更に上空めがけて飛んでいき、ジェミナ・ドライグを追い抜いた。

「今だ、イカロス・サンシャイン!!」

 地上で見ている直樹は、一枚のカードを取り出すと先ほどカードを殴り飛ばしたハンマーの面に翳した。彼のハンマーのある面には、カードを読み込むためのセンサーが付いているのだ。本来彼は、地面に置いたカードをハンマーで殴るという、豪快な動作でカードを発動させているが、今回は無駄を省くという理由もあるので、シンプルな動作でカードを発動させた。

 発動させた「イカロス・サンシャイン」と言うのは、上空に上がった炎属性の聖獣が、全身より炎を迸らせて光を放つ技である。ただそれだけと言うわけでは無く、その際形はどうあれ「飛んでいる者」を強制的に落下させる効果もある。その効果は、ドラゴンも鳥も、恐竜も妖精も昆虫も、挙句の果てには機械に対しても適応される。

 そのため、自分より高い場所にいるフレアノドンの光を浴びたジェミナ・ドライグは、翼に直接炎を灯されたかのような熱を感じ、気が付いた時には翼の自由を奪われ、地上へと落下し地面に激突し、激しい砂煙が巻き起こった。

「……チャンス!」

 その様子を見た雷花は、ライトニング・トールハンマーに電流を纏わせて飛び上がり、ジェミナ・ドライグの居ると思われる場所に振り下ろした。結果、ハンマーが振り下ろされると同時に激しい衝撃が迸り、周囲の砂煙を吹き飛ばした。

「どうだ?」

 少し離れた場所に待機する直樹が、様子を見ながらこう言った瞬間である。直樹は思わず目を疑う光景を目にした。雷花が振り下ろしたハンマーは地面に大きくめり込んでおり、攻撃を食らったはずのジェミナ・ドライグは、地面に倒れた状態で左右半分ずつ体を分離させ、攻撃を回避していた。確かに地球上には、体を分離する事で増える生き物は存在し、体の一部を切り離せる生き物も確かに存在している。但し、前者は無脊椎動物が主であり、後者の場合は対外の場合尻尾である。地球上にはこれまで様々な生き物が存在していたが、脊椎動物が尻尾以外の部分を自ら分離させられる例など、全く存在していない。

「……またこの能力?!」

 雷花がこう言ってハンマーを地面から引っこ抜くと、ジェミナ・ドライグは、

「文句は勘弁してよ。自分の唯一の取り柄なんだから。」

 と言って、分かれている半身の付いていた場所で霊力を迸らせると、体を戻し始めた。このまま扉を閉じるようにして、挟み込もうと言う算段のようである。

「危な!!」

 直樹はこう言うと、自身の聖装のセンサー部分の反対側に付いているバーニアを点火させ、その噴射の勢いに乗って走り出した。アンバランスな加速故に走る体制は変になっているが、それでも常人では出せない速度で接近すると、雷花にこう叫んだ。

「頭を下げて!!」

「?!」

 直樹の声に気が付いた雷花は、すぐさま姿勢を低くすると、頭を出来る限り低くした。その雷花の頭の上を、

「うぉりゃあ!!」

 バーニアで加速した直樹のハンマーが横一文字に振られ、雷花を挟もうとしていたジェミナ・ドライグの左手にダメージを与え、彼の半身を遠くに吹っ飛ばした。この時もう一方の方は、上空から迫ったフレアノドンの吐き出した火球でダメージを負っていた。

 攻撃後、雷花を連れて直樹たちがその場を離れてから、妨害はあれど元に戻ったジェミナ・ドライグは、

「まさか、元に戻るのを阻まれるとは…」

 直樹に殴られた左手、フレアノドンの火球を受けた右手を振りながらこう言うと、再び二つに分かれた。その時、分かれた半身から霊力が迸ると同時に、右半身は白いドラゴン、左半身は黒いドラゴンになった。

「やはり、ここはこれを使うべきか。」

 分離、と言うより分裂したジェミナ・ドライグはこう言うと、二体揃ってブレスを吐き出した。狙うはもちろん、雷花と直樹、フレアノドンである。

「くっ!!」

 三者が揃って回避すると、ジェミナ・ドライグは雷花と直樹に襲い掛かり、素早い動きと鋭い格闘技で彼らを追い込み始めた。

「うわっと!!」

「……くぅ!!」

 直樹とフレアノドンも、雷花も近接格闘技はあまり経験がない為、容赦のないラッシュにより徐々に押されていくのを感じた。

(どうする?このままじゃ手も足も出ない)

 元々格闘技が出来る体質では無い為、防御が出来ずに困っているフレアノドンは、攻撃を受けながら思った。

「こうなったらヤケクソ!!」

 すると、フレアノドンの考えを悟ったわけでは無いが、ちょうど良いタイミングで直樹が飛び出し、フレアノドンに攻撃をしていたジェミナ・ドライグの半身を弾き飛ばした。

「ぐわぁぁぁ!!」

 その時、直樹の殴った半身は勿論、雷花の攻撃していた半身の方も同じように吹っ飛び、合体してジェミナ・ドライグに戻った。

「え?」

 これには、殴った直樹は勿論、フレアノドンや雷花も驚いた。

「……元に戻った?」

「どうなっているんだ?」

 雷花、直樹がこう言うと、フレアノドンはこう分析した。

「恐らく、感覚は分離させているがダメージは共有しているんだろう。そのせいで、一方が大きなダメージを受けると、平気な半身さえもダメージを受け、ああして元に戻る。比喩としてはどうかと思うが、まるでコルシカの兄弟だな。」

「と、言う事は………」

 フレアノドンの比喩を聞いた雷花、直樹は、この時同じ考えに行きついた。つまりは、分離している状態で半身に同時にダメージを与えた場合、ダメージの量は大体二倍になるのでは無いか、と。

「何を考えているかは大体理解できるが、やる気なら今すぐやった方が良いと思うぞ。チャンスは一度きりだ。」

 フレアノドンも、両者の考えを理解しこう言ったので、半身に同時にダメージを与える方向性で動くことになった。





「行くぞ!!」

 直樹と雷花は再びジェミナ・ドライグと向かい合い、再び攻撃を開始した。手始めに攻撃の準備とするのか、直樹はフレアノドンをカードに戻し、そのカードを雷花に渡した。

「? 神司にとって契約聖獣のカードは命と同じくらい大事な物だろ。ついさっき会ったばかりの他人に渡しても良いのか?」

 ジェミナ・ドライグは直樹の行動に疑問を覚え、一体何のための行動なのかを図る目的で、直樹にこう訊いた。

 これに対し、直樹はこう言った。

「良いんだよ。この人は信頼できるから。」

 そして、聖装のハンマーを大振りできるように構えると、突如ジェミナ・ドライグに背を向けて走り出した。

「逃げた?」

 ジェミナ・ドライグがこう言うと、

「誰が逃げたって?」

 直樹はこう言い返して方向を変えると、今度は雷花めがけて走って行った。対する雷花は、ライトニング・トールハンマーを構えた。但し、雷花とジェミナ・ドライグの距離は結構離れており、彼女のハンマーでは攻撃を充てることはできない。

「この距離で何をするつもりだ?」

 ジェミナ・ドライグは雷花にこう言うと、口から激しいブレスを吐き出そうと身構えた。その瞬間、雷花はハンマーを構えた状態でこう叫んだ。

「……こうするつもり!!」

 この時、雷花まで残り数十センチの距離まで走ってきていた直樹は大きくジャンプし、雷花の構えるハンマーの上に乗った状態になった。一方の雷花は、力いっぱいハンマーを振り上げ、直樹もその上から力いっぱい飛ぶことで、直樹の体は高い場所まで飛んで行った。

「な、なにぃ!?」

 予想の斜め上を行く両者の行動に、思わずジェミナ・ドライグが驚くと、

「……こっちを見なさい!!」

 雷花はこう言って、腕を大きく一振りし、腕にまとわせた電流をジェミナ・ドライグに放った。

「そういう事か!!」

 ジェミナ・ドライグは、自身に迫る電流を見てこう言うと、口から激しいブレスを吐き出して、雷花の放った電流を掻き消して見せた。

「この程度の小細工が効くはずは…」

 ジェミナ・ドライグがこう言おうとすると、雷花はこう言った。

「……私たちの攻撃は、まだ終わってない!!」

「その通り!!」

 雷花の言葉に続いて直樹がこう言うと、今まで宙を飛んでいた直樹は、ハンマーのバーニアを点火させて自身を加速させ、威力が何倍にも膨れ上がったハンマーを思い切りジェミナ・ドライグめがけて振り下ろした。

 速度、威力、どれを見ても申し分ない一撃であったが、ジェミナ・ドライグは自身の能力でそれを回避して見せた。そのため、直樹のハンマーは地面に勢いよくめり込んだ。

「筋は良いけど、まだまだ!!」

 攻撃を躱したジェミナ・ドライグはこう言うと、自身の体を元通りにする過程で直樹を挟みつぶそうと考えた。

「閉扉クラッシュ!!」

 最初の戦いでは、雷花との戦いに勝利を呼び込むきっかけになった技であるが、直樹は慌てなかった。すぐさまハンマーを地面から引き抜くと、一枚のカードを読み込ませた。

「イカロス・サンシャイン!!」

 先ほど、上空から攻撃を仕掛けようとしたジェミナ・ドライグを地上へと落とした技であるが、それを使ったフレアノドンは既にカードに戻されており、上空を見ても聖獣の姿は確認できない。そもそも、イカロス・サンシャインは飛翔している聖獣を落とすための技であり、飛翔している存在が居ない状態で発動させる理由も分からなかった。

「何のつもりかは知らないが、すべては無駄だ!!」

 ジェミナ・ドライグはこう言って、直樹にとどめを刺そうとしたが、対する直樹はこう言い返した。

「分離した状態では目が四つあると言うのに、肝心なところは何も見ていないな。」

「?」

 直樹の言葉にジェミナ・ドライグが疑問を覚えた瞬間である、彼はある違和感を感じ取った。自分の体が全く元に戻らないのだ。これは以上などでは無く、なにかが戻るのを阻んでいるような印象がある。

 そして、ジェミナ・ドライグが戻るのを阻んでいる物体は、突如とてつもない高熱を発し始めた。

「熱ちちちちち!!!!」

 驚いたジェミナ・ドライグは、まるで同じ極同士を近づけた磁石のように、勢いよく吹っ飛んで行った。その時、彼は見た。自分が居た場所に、イカロス・サンシャインを発動したフレアノドンが居るのである。ジェミナ・ドライグが元に戻るのを阻み、尚且つとてつもない熱を発した張本人である。

(な、何でフレアノドンが?奴はカードに)

 吹っ飛ぶ中、ジェミナ・ドライグは疑問に思った。なぜ戻したはずのフレアノドンが、自分たちの分離した場所から改めて現れたのか、と。その時、彼は直樹の言葉と、雷花の行動を思い出した。

「肝心なところは何も見ていないな。」

 直樹は確かにこう発言し、それより前には雷花が、腕を使って電流を放ってきた。

(どういう事だ、あの娘の場合ハンマーを用いた方が、より強い電流を……)

 ジェミナ・ドライグは、こう考えた瞬間に理解した。雷花の行動の意味を。

 彼女は、あえて槌では無く自分の手で電流を放った。威力はともかく、腕を用いる必要がある行動を取りたかったが為である。電流が放たれた瞬間、彼女は電流と一緒に預かったフレアノドンのカードを投げ、それをジェミナ・ドライグの足の下に置いた。その後、直樹がハンマーを振り下ろすと同時にカードが読み込まれてフレアノドンが現れ、直樹が更にイカロス・サンシャインのカードを読み込ませた事で、フレアノドンはイカロス・サンシャインを発動して高熱を発し始めたのだ。

「まったく、してやられた!!」

 ジェミナ・ドライグはまんまと策に嵌った事に腹を立てながらも、彼らの作戦の完成度に感嘆の意を示しながら、分離した状態で地面に着地した。

「だけど、次はそうは……」

 次はそうは行かない、ジェミナ・ドライグがこう言おうとした瞬間である。

「雷花よ、これで良いのか?」

「……ええ、でも殺さないでね。」

 背後から、豪快な中年男性を思わせる低い声と、雷花の声が響いてきた。

「?」

 ジェミナ・ドライグが同時に振り返ると、いつの間に背後に立ったのか、雷花と彼女の契約聖獣「トール」が立っていた。両者はジェミナ・ドライグの半身の翼を両手で捕まえると、

「はぁぁぁ!!」

「うぉぉぉ!!」

 同じタイミングで全身から放電し、ジェミナ・ドライグの全身を痺れさせ、身動きを取れなくした。

「さっきの熱でお前たちの一体化は封じた。」

「……そして、今の私たちの電流で痺れている今。」

「何でもし放題という事か。」

 直樹、雷花、トールの順番でこう言うと、雷花はトールと再び契約を執行しライトニング・トールハンマーを構え、直樹の聖装の中にはフレアノドンが入り込んだ。聖装にはアーティファクト・ギアのような威力や能力は存在しないが、聖獣の力で様々な付加価値を生み出すことはできる。

 直樹と雷花は、武器のハンマーを野球選手のように構えると、

「炎雷翼神槌!!」

 同時に技名を叫び、動けなくなっているジェミナ・ドライグの半身を同時に殴り飛ばした。その結果、ジェミナ・ドライグは通常より二倍近い威力の一撃を受けた事で、ホームランボール宜しく飛んでいき、やがて空のかなたに消えた。

「やった!俺たちの勝ちだ!」

「…やったね!」

 直樹、雷花は同時にこう言うと、互いにハイタッチをした。しかし、その瞬間、

「熱!!」

 雷花は直樹の発する熱に驚き、

「ギャァァァ!!」

 直樹は雷花が体内に秘めている電流に感電し、その場に倒れこんだ。

「…ど、どうしたの?」

 雷花は思わず、倒れた直樹に触れたが、

「ぎゃぁぁぁ!触れるな!!」

 そういう事をすれば、直樹が再び感電するのは必然で、再び彼の悲鳴が上がった。


 この時、二人によって大きく吹っ飛ばされたジェミナ・ドライグが、元に戻った状態で落下し、地面に激突したが、彼の事は誰も一瞥もしなかった。


六組目

夢野亜衣

「はい、始まりました。クロスオーバーM1グランプリ、司会は私。アーティファクト・ギアより出番は一話だけの一発屋、夢野亜衣と。」


御門京香

「聖獣王伝説より、第三話以降一度も出番が無い、存在感がこれ以上薄くならないように必死な、御門京香です。」


夢野亜衣

「今回も後書きのスペースを用いて漫才?を披露してもらいます。」


京香

「では行きましょう。今回出演するのは、令嬢の恐怖です。どうぞ!」





???&???

「初めまして、令嬢の恐怖です。」


???

「雨月雫と。」


???

「名取修の契約聖獣ナンバー3、クラーケンでお送りします。」


「ところで、クラーケンに質問があるんですか?」


クラーケン

「何か?」


「何で人の船を沈めるんですか?」


クラーケン

「俺だって、好きで人の船を沈めている訳じゃないんだよ。海賊とか密猟者とか、そういった人の船ばかりを沈めていると言うのに……誰も反省しないんだよ全く!!」


「多分、いきなり沈める方向で行くものだから、貴方の事を凶暴と誤解しているのよ。その事、そういう人に言ったの?」


クラーケン

「言ったには言ったけど、怒るってどうすれば良いのか分からないモンだから。試に怒った時は、ただ癇癪を起して暴れているだけと認識された。」


「じゃあ、怒る練習をしましょう。私も胸を貸します。」





「お、良い壁発見!!」(どこからか黒ペンキを取り出し、数式を書き始める)


クラーケン

「おい!何をしている!!」


「…………」(一瞥した後、再び書き始める)


クラーケン

「一回見て無視するな!!」


「うるさい!!」


クラーケン

「ぎゃぁぁぁ!!ペンキが!?」


「と言うか、ストライプのイカちゃん誰?」


クラーケン

「誰が白黒の縞々にしたんだよ。お前が落書きした壁の持ち主のイカちゃんだよ!!」


「しまった、見つかった、逃げろ!!」


クラーケン

「逃がすか!と言うか、話してる間に逃げるチャンスあっただろ!!」


「誰か助けて!拘束されて連れ込まれて、辱められてその様子をネットに流される可能性があります!!」


クラーケン

「誰が流すか!!まあ、今回の事も水に流すつもりは無いけどな。」


「上手いね!」


クラーケン

「どうも。と言うか、いくら白いからってなんで家の壁をノートに使うかな?!さっさと消せ!!」


「やだ。」


クラーケン

「なんでだよ!?」


「たとえこの落書きを消しても、私の心の落書きは消えないからよ!!」


クラーケン

「誰が上手いことを言えと?!と言うかお前はどこのどいつだ!」


「雨月。」


クラーケン

「雨月、医者で有名な家庭か?じゃあ、下の名前は?」


壜睦斎(びんぼくさい)


クラーケン

「絶対違うだろ!仮に本当だったとしても、壜睦斎なんて名前、親はどんな思いを込めて付けるんだよ!名前漢字で書けないだろ!!」


「ちゃんとした名前は雫。」


クラーケン

「………お前、ネタ飛ばしただろ。」


「え?」


クラーケン

「だってそこは……って言った後、……する所………」


「ああ、そうだった。よく覚えていたわね。」


クラーケン

「ついさっき入念にリハーサルしたばかりだろ。」


「大丈夫だから、再開しましょう!!」


クラーケン

「分かったよ。と言うか、この壁どうしてくれるんだよ、昨日一生懸命白くなるように磨いたんだぞ!!」


「貴方の持っている黒いペンキで塗りつぶせば良いじゃないですか。」


クラーケン

「ペンキ言うな!イカスミだ!今度お前の持つ白い装飾品すべて黒で染め上げてやろうか!!」


「たとえ何を黒く染められても、私の心まで染められると思わないで!!」


クラーケン

「やっぱネタ思い出してないだろ!!一体何のネタだそれは?!もういい、お前は閻魔の元へ連れて行く。」


「はっ、閻魔が怖くて悪さできるわけないじゃない。」


クラーケン

「ならイ○ペ○ダウンに連れて行く。」


「ごめんなさい!!何でもしますから!!」


クラーケン

「ダメだ、海軍本部に連れて行く。」


「本当に何でもしますから!体だって売ります、マグロ漁船にも乗ります!!」


クラーケン

「(この娘、サラッと凄い事言いやがった)だったら、ここから本部に向けて告白するがいい、みずからの罪を。」


「はい…………このイカちゃんが私を拘束して連れ込み、散々辱めた後全身に変な液体をかけて、その一部始終を集録して全国ネットで流したんです!!」


クラーケン

「沈めるぞお前!いい加減にしろ!!」


「どうもありがとうございます。」





愛衣

「何と言うか、途中から変になりましたが、何とかやり遂げてましたね。」


京香

「と言うか、彼女普段とはキャラが違う気がするのだけど。」


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