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聖獣王伝説  作者: 超人カットマン
第一章
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第三話 夏祭混乱

 学校から帰宅後、昼食を食べてから源は家の中を掃除し、予め干しておいた洗濯物を取り込み、レンタルビデオ店で借りたDVDを返しに行った後、クローゼットの中を覗いていた。

「そういえば、浴衣とか持ってたっけ?」

 源はこう言いながら、クローゼットの中の物色をしている。

 すると、ドラグーンが聖装の中より声をかけた。

「しかし、なぜこの世界この国の人間は、祭りにパジャマを着ていくのだ?」

 恐らくドラグーンの中では、温泉旅館で着る浴衣と、彼の探す外に出る用の浴衣がごっちゃになってるのだろう。なので、源は適当に答えた。

「祭りに行った後、帰ってからすぐに寝るためだよ。」

「嘘か本当か分からないことを教えるな。」

 しかし、常識的なエレクトードに注意された。

「いいか、主が探すのは旅館で寝巻に使う浴衣じゃなくて、おしゃれのための浴衣だ。」

 エレクトードがこう言うと、源は思い出した。

「ああ、浴衣持ってないっけ。」

(だったらなんで探すんだよ?何を探したんだよ?)

 聖獣たちが揃ってこう疑問に思うと、

「幼稚園の時にお祭りで着たのは法被だ。」

 源は手を叩きながらこう言った。そして、クローゼットの奥から古い箱を取り出すと、中から小さな赤い法被を取り出した。

「しかし懐かしいな。と言っても、着れるわけも無いか。」

 その後、それを綺麗に畳んでしまうと、今度は源がドラグーンに訊いた。

「ところで、聖獣たちの間にもお祭りとかはあるの?」

「そんなことを聞いてどうする?」

 ドラグーンに訊き返されると、

「いや、聖獣たちはどんな祭りにどんな格好で行っているのか気になって。」

 源はこう言った。するとドラグーンは、少し考えると、こう言った。

「聖獣の世界に祭りは存在しないが、祭りについての知識はある。確か知識の上では、さまざまな階級の人間が揃うのが祭りであったな。服装は皆正装で、パジャマを着てくる者はいなかったはずだ。」

(いやいや、だから旅館の浴衣と祭りの浴衣は違うから)

 源とエレクトード、フェニックスは頭の中で呆れると、

「別に普通の服装で良いんじゃね?今は無礼講の現代の祭り、誰も文句は言わないよ。」

 フェニックスが面倒臭そうにこう言った。しかし、

「だめですよ、仮にも主の沽券に関わります。適当なんて認めません。」

 ドラグーンはこう言った。そこで源は、前から言おうと思っていたことを言った。

「ところでさ、その主って呼び方、止められない?」

 この言葉に、聖獣たちが疑問を浮かべると、

「主って呼ばれ方なんかしっくり来ないし。普通に呼んで欲しい。」

 と、源は言った。しかし聖獣たちは、

「と言うか、これが我らにとっての普通な呼び方なのだが?」

 と言った。だが、源も譲らない、

「それでも、ちょうどお前らが仲間の聖獣の名前を呼ぶような感じで。」

 と、聖獣たちに言った。なので聖獣たちは、

「分かりました、源。」

 源に言われた通り、よほどの場合を除き、基本は呼び捨てで呼ぶことにした。

 その後、時計を見て時間が迫っていることを知り、早速集合場所である、学校の正門に向かおうとした。

 お金の入った財布を持って、家を出て鍵を閉めると、家の前に腰あたりまで伸ばした黒髪が特徴の、スタイルの良い美女が現れた。彼女は源の姉の「綾小路優」である。今年女子大生になった。学内では、見た目が某アイドルに似ているという理由で「すーぱーやさ子」と呼ばれているらしい。恐らく、美人で人気のある彼女への、「優男」と引っかけた半ばあてつけ的なニックネームだろう。しかし、彼女は気にしている様子はない。

 ちなみにスリーサイズは上から・・・

「余計なことを言わないでくれる?」

「姉さん、誰と話しているの?」

 そっぽを向いて怖い笑顔を浮かべる姉に、弟の源は訊いた。それはともかく、

「源は出かけるの?こんな時間に?」

 優は源に訊いた、

「ああ、知り合いと祭りに。」

 源がこう答えると、

「となると、今日は夕ご飯無し?」

 と、優は訊いた。ちなみに、綾小路家では基本スキルとして、家人全員が家事スキルを持っている。優も源も料理が上手いが、経験の差により、源が少し上回っている。なので、基本食事を用意しているのは彼だったりする。

「姉さんで作れば良いじゃん。」

 源がこう言うと、

「いいよ、私もちょうど友達とそれに行くところだし。」

 優はこう言って、鍵を開けて家の中に入り、カバンを置いて出てきた。そして、源は改めて玄関のカギを閉めて、集合場所へ向かった。





 源が学校の正門の前に来ると、既に直樹と薫が居た。

「ああ、もう来ていたんだ。」

 源がこう声をかけると、

「今来たところだよ。」

 薫がこう言い、

「と言うか、お前も普通な服装なんだな。」

 と、直樹が言った。彼らの服装は、放課後に少しの間、家庭科室で会った時と、全く同じ服装である。

「集合時刻まで残り十分だけど、女子連中は?」

 源が訊くと、直樹は言った。

「もうすぐ来るだろう。」

 待つこと数分、女子連中こと、江美と彩妃がやって来た。

「みんなお待たせ。」

 二人はそれぞれ浴衣姿で、江美は青、彩妃は朱色の浴衣で決めている。

「どう、似合う?」

 彩妃が男子陣に訊いた。

「まあ、似合ってると思うよ。」

 別段どうとも思わない男子陣が揃ってこう言うと、

「と言うか、みんな普通だね。浴衣持って無いの?」

 と、江美が皆に訊いた。

「無い!!!」

 三人が一度にこう言うと、

「まあいいや、今日の活動の方針は、夏祭りで楽しみながら互いの事を知る。人間も聖獣もね。」

 江美は皆にこう言った。

「それじゃあ出発。」





 しばらく歩いてから、五名は夏祭りの会場へやって来た。そこには様々な服装、様々な持ち物を持った人で、溢れかえっている。

「んで、何をするの?」

 初めて神司部参加の源が、部長の江美に訊くと、

「そうだね、基本は自由だよ。何かをするなり、何を食べるなり好きにしなよ。」

 江美は源にこう説明し、

「それじゃあ、ジャンケンで組み合わせを決めましょう。この中を一人で行くのは大変だし。」

 と、皆に言った。

「最初はグー!!ジャンケンポン!!」

 なので、皆はジャンケンをした。結果、パーを出して勝った直樹と薫、チョキを出して負けた源と江美と彩妃の組に分かれることになった。

(なんでこんな組み合わせに?)

 源がこう考えていると、

「それじゃあ、両手に花で楽しんできてくれ。」

 直樹と薫は、焼き鳥を売っている屋台に並びに行ってしまった。

「ちょ、僕もこっちに!!」

 源がこう言うと、彩妃と江美が彼の両腕にしがみ付きながら言った。

「それじゃあ行きましょう。」

「私あれが食べたいな。」

 そのまま、源は二人に引っ張られて行った。





「うわぁ、太い、熱い。」

 彩妃はある物を眺めながら言った。

「凄いね。」

 江美もこう言うと、目の前にある太い物体に齧り付いた。

「はうう、美味しい~。」

 彩妃がこう言うと、

「あのさ、そういう表情でフランクフルトを食べないでくれません? 凄い気になるんですけど。」

 源がこう声をかけた。彼はマヨネーズを大量にかけた巨大なベーコンのサンドイッチに齧り付いている。

「それにしても、源って食欲すごいよね。さっきかき氷とアイスを食べてまだ食べられるの?」

 彩妃が源に訊くと、

「夕飯食べてないし、後は焼き鳥と焼きそばとたこ焼きと、後クレープと・・・」

 源はメモ帳に書かれたメモを見ながら呟いた。

「まだ食べるの?と言うか、普段どういう食生活してるの?」

 彩妃が訊くと、

「それよりさ、あれやらない?」

 江美がある夜店を指さして言った。そこはヨーヨー釣りの夜店であった。

「すいません、三回お願いします。」

 江美は彩妃と源を連れて夜店の前に行くと、お金を渡して釣竿を受け取った。

「まずは私が。」

 江美はこう言うと、釣竿を垂らして赤いヨーヨーを釣り上げた。

「次は彩妃、頑張れ。」

 そして、彩妃に釣竿を渡した。

「はいはい。」

 彩妃は釣竿を受け取ると、緑のヨーヨーを釣り上げた。この後釣竿が渡される相手は一人しかいない、

「最後は源だよ、ちゃんとヨーヨー釣ってね。」

「了解。」

 源は釣竿を受け取ると、両手で柄を持ちこう言った。

「釣りの神よ、我に力を!!」

 この時、彼の全身から何とも言えない波動を感じた彩妃と江美は訊いた。

「あのさ、釣りの神って居るの?」

「と言うか、たかがヨーヨー釣りだよ。」

 二人が源にこう言うと、

「ヨーヨーだろうが、カツオの一本釣りだろうが、釣りをなめないで!!」

 源はこう言って、力を込めて力説した。

「いいですか、たとえ獲物がヨーヨーでも、これは水と風によるヨーヨーの動き、および竿のしなりと糸の動きを予想して行う高度な遊び、たとえわずか一瞬でも気を抜くことを許されない男の勝負!!」

(男の勝負って、遊びと言ったのに?)

(と言うか、その男の遊びを、女なのに簡単にクリアした私たちは何?)

 江美と彩妃が呆れながらこう考えると、

「と言うわけで、全国推定百万人の釣り仙人! 力を与えたまえ!」

 再びこう言って、気合を溜め始めた。

「全国推定百万とか、釣り仙人どれだけ沢山居るの!?」

「と言うか、さっきまで釣りの神に祈ってなかった?なんでいきなり釣り仙人に変わるの?」

 江美と彩妃が突っ込むと同時に、源は見抜いた。今水の上に浮かんでいるヨーヨーを釣り上げる絶好のタイミングを、

「チェスト!!」

 源はこう叫ぶと、釣竿に付いた紐を投げつけた。

「うわ、すごい勢い!!」

「これは決まるか!!」

 様子を見ていた者たちがこう言うと、紐は目当てのヨーヨーの付近に落ちた。そして、源が釣り上げようとすると、

「あ、あれ?」

 逆に源が水の中に落ちてしまった。しゃがんだ態勢で変に力み、さらに変な場所に紐が引っ掛かったために、バランスを崩したのだ。

「ちょ、大丈夫か?!」

 夜店の人がこう訊くと、

「ったく、なんでこうなる。」

 源がびしょ濡れの状態で顔を上げた。

 結局、源はヨーヨーが手に入らなかった。どのみち、ヨーヨーは邪魔だから、と言う理由で気にしていないが。





 そして、しばらくしてから、源と江美と彩妃は、巡回中の自分たちのクラスの教師、御門京香にであった。

 京香は会うや否や、源がびしょ濡れなのを気にしたが、

「気にすることは無いですよ。いきなり釣り仙人に必勝を祈願したから、釣りの神様に怒られたんです。」

 彩妃にこう言われて、大体の事情を理解した京香は、呆れるようにため息をつくと、

「なるほど、問題は起こしてないわけか。」

 京香はこう言うと、

「言っておくけど、小学生がここに居られるのは午後九時までだからな。九時は丁度花火の終わる時間だから、それまでに帰るんだぞ。」

 と言い残し、その場を去って行った。





 その頃、吉岡直樹と増田薫は何をしていたかと言うと、

「はいお待ちどうさま。チョコクレープ。」

 クレープの夜店でクレープを購入していた。二人がクレープを受け取ると、

「それとはい。」

 店員から一枚の紙をもらった。

「何これ?」

 薫がこう言うと、

「これは福引券、あっちの夜店でできるから。」

 店員は向かいにある夜店を指さして言った。

 なので、二人はクレープを食べるとその店に行き、福引券を提示した。

「それじゃあ、どうぞ。」

 店員にガラポンを出された二人は、直樹、薫の順番で回すことにした。

 最初の直樹の時である、

「それでは、福引の神よ!! 我に力を!!」

 直樹は上空に手を掲げて叫んだ。

「福引の神って誰?!!」

 薫がつっこむと、

「福引を引く者に加護を与える神だ。」

 直樹はこう言うと、福引の景品を指さした。そこには、一等海外旅行と書かれていた。

「なるほど、海外旅行を?」

 薫がこう言うと、

「いいや。その二つ下のタダ券だ。」

 直樹はこう言った。直樹の言う二つ下には、博物館タダ券と書かれていた。

「ああ、成程ね。」

 古生物好きと言う、直樹の趣味を思い出した薫が呆れると、再び直樹は気合を溜め始めた。

「全世界数千万人の福引仙人!!俺に力を!!」

「待て待て、福引の神に祈っていたのに、なんでいきなり福引仙人に?しかも全世界数千万人とか多!!」

 薫がつっこむのも気にせず、直樹は猛烈な勢いでガラポンを回した。結果、物凄い勢いで玉がガラポンから飛び出し、何故か直樹の額に命中した。

「痛ぁ~。」

 直樹が額を抑えながら言うと、店員は出てきた玉を見ながら言った。

「これはハズレですね。残念ですが、ティッシュです。」

 店員に渡されたティッシュを見ながら、直樹は言った。

「なぜだ、なぜこの結果に。」

「福引の神の後に福引仙人に祈るから、福引の神が怒ったんだよ。」

 薫はこう言って、誰にも祈らず、普通にガラポンを回した。結果出てきたのは普通の玉、おみくじで言う末吉レベルの当たりだった。

「では、こちらをどうぞ。」

 結果渡されたのは、耳につけて使う緑のレンズが入った特殊なメガネだった。

「何このどっかで見たデザインの機械は?」

 薫が呆れながら言うと、

「それはス○ウターだよ。ドラゴ○○ールに出てきたじゃん。」

 直樹がどこから買ってきたのか、大きなフライドチキンを食べながら言った。ちょうど持つ部分に、ティッシュを使っている。





 その頃、源と江美と彩妃は、友人と行動する綾小路優に出会った。

「げ、姉さん。」

 源は優の存在を見つけるや否や、早々に隠れようとした。しかし、それよりも早く、優のほうが源を見つけてしまった。

「おーい、源!!」

 優は呼びかけると同時に、源のほうにやって来た。

「ああ、姉さん。」

 源がこう言うと、

「へえ、綾小路君のお姉さん、美人だね。」

 と、江美は源に言った。すると、

「それに源もやるね、両手に花、彼女二人でお祭りって。」

 と言って、源を冷やかそうとした。しかし源は、

「不本意ながら、と言うか彼女じゃ無い。」

 と言った。すると、江美と彩妃の二人は源に引っ付きながら言った。

「もしかして女子と回るのはいやでしたか?」

「まだ仲が良いわけではない男と回るよりは、良いと思いましたけど。」

「別にそういうわけでは。」

 源が困りながら答えると、優が友人たちに呼ばれた。

「それじゃあまたね。」

 優と別れてから、

「ったく、なんであんなのが姉なんだか。」

 と、源が言うと、

「そうなの?美人で優しそうで、いいお姉さんじゃん。」

 と、江美は訊いた。

「そりゃ確かに美人だけど、他は全部だめだし。頭悪いし家事は料理以外ほとんどダメも当然だし。」

 源がこう言うと、

「料理出来るだけで十分凄いと思うけど?」

 彩妃がこう訊いてきた、

「裁縫と掃除と洗濯はこっち任せ。」

 と、源が答えると、

「見た目からして大学生だよね。女性の年齢で行けば一番魅力的な世代じゃない。」

 江美はこう言った。恐らく洗濯と掃除と言われ、姉の部屋に入れる事、姉の身に着けていた物を洗濯できる事を言いたいのだろう。しかし、

「そりゃ確かにアンタの言うとおり、掃除を建前に部屋に入れるし、洗濯も自分でやってるけど、想像するより実際にやるほうが凄い嫌だぜ。」

 源はこう言った。掃除は彼の考えで行けば、やりたいときに自分でやるのが正しいのであって、自分が人の部屋まで掃除する義理は無い。その上、彼にとっては女性の衣服で興奮するような趣味は無い。洗濯は洗濯機がしてくれるが、干すのまでやらされると何かと嫌である。

「実際、部屋に入って姉の生活状況を見るだけで、姉の身に着ける下着を見るだけで色々呆れるよ。」

 源がこう言うと、

「なんだかんだでお姉さんが好きなんだね。」

 妙にニヤニヤした江美がこう言った。

「な、別にそういうわけじゃ!!」

 源がこう言うと、

「とか言って、嫌でもなんだかんだでお姉さんの世話を楽しんでるじゃん。」

 江美は源にこう言って、

「あっちの焼き鳥食べよう。」

 と言って、彩妃を連れて行ってしまった。

「人の話を聞け!!」

 源はこう叫んだが、二人は聞いていなかった。





「あうう、大きすぎるよぉ。」

 江美は何か大きな物体を加えながらこう言った。

「だから、特大のつくねを顔赤らめながら食べないでもらえない?さっきもフランクフルトの時にも言ったけど、はっきり言ってキモい。」

 源がネギまのネギを食べながらこう言うと、

「と言うか彩妃さん、頬にタレついてるし。」

 彩妃のほうを見て、彩妃の頬にタレが付いてるのを見ると、指を出して頬のタレを取った。そしてそれを、普段の癖で自分で舐めた。

「えっと、源?」

 彩妃が若干驚きながら言うと、

「服で拭くわけにはいかないでしょう。」

 源はつくねを食べながら言った。そして、近くにあった時計を見ると、

「そろそろ花火だし。人形焼を買ってこよう。」

 人形焼を売っている夜店に行って、人形焼を買おうとした。

「ええ、まだ食べられるんですか?!!」

 源の無限とも思える胃袋の要領に江美が驚いた瞬間である、周囲に居た数多くの祭りの関係者が驚いた。

 突然、近くの川の中から、全身が黒く首が十本ある竜のような姿の怪物が飛び出した。

「うわぁぁぁぁ!!」

「なんだぁ!!」

 一般人はもちろん、係の人間も慌てている。火事や事故、喧嘩であればマニュアルに対処法が書かれている。しかし、対外のマニュアルはそうだが、怪物の襲撃の際の対応は書かれていない。だが噂によると、ある国のある組織のマニュアルに、未確認飛行物体に出会った時の対処法が書かれているとか何とか。

 それはともかく、皆が慌てているのかでも、源と江美、彩妃は冷静だった。

「聖獣だ。」

「聖獣ですね。」

「聖獣だね。」

 源、江美、彩妃の順番でこう言うと、

「おーい、お前らー!!」

 直樹と薫も合流した。そのとき、江美は直樹の額に痣ができ、薫が何かを身に着けているのに驚いたが、

「ああ、俺は福引の時にぶつけて。」

 まずは直樹がこう言い、

「俺は福引で当てた。スカ○ターだよ。」

 続いて薫がこういうと、呆れた表情をした。

 それはともかく、

「とにかく、あれをどうにかしないといろいろ問題だな。」

 と、直樹が言って、皆は現れた怪物を見た。

「あの姿、形状からしてドラゴン族なのはわかるけど、いったいどこの聖獣だ?」

 薫がこう答えると、今の今まで黙っていた源の聖獣が、精神感応で源に言った。

(聖装を装具形態にする要領で、今度は鑑定形態と言ってみろ)

「ええと、鑑定形態。」

 言われた通り、源がボールペンを取り出してこう言うと、ボールペン事態に変化はないが、先端から光を発し、それが怪物にあたった。それが数秒続くと、光が消えると同時に、源の意識も消えた。

 意識の消えた源の体は、ボールペンを持って物凄い速さで空中に文字を書いた。

「えっと、ハイドラ、ヒュドラと同じような生態を持つドラゴン族の聖獣。特殊聖獣で、毒の技を使える。」

 それを皆が読むと、源の意識が戻った。

「あ、あれ?」

 源が気が付くと、

「意外と博識なんだ。」

 彩妃がこう言った。

「は、何が?」

 源はこう訊いたが、江美が、

「今はそれを気にしてる場合じゃ無い。」

 と言って、聖装を取り出した。それに合わせて皆も聖装を取り出したので、源も持っていたボールペンを装具形態に変化させた。

「みんな、行きましょう!!」

 江美がこういうと同時に、皆は聖獣を召喚した。

「召喚、アーケロンド!!」

 江美は自身の棍の溝にカードをスキャンさせて、赤い甲羅を持つ二足歩行のカメの姿の獣族聖獣「アーケロンド」を召喚した。

「行って、イスフィール!!」

 彩妃はギターのスロットにカードを差し込み、指で弦を弾いた。結果、ギターの音色と一緒に、青い服を身に着けた長い茶髪が特徴の美女が現れた。人間ではありえないレベルの美人であること、背が高く背中に翼が生えている所を見ると、聖獣的に言う「妖精族」だろう。

「頼むぜ、フレアノドン!!」

 直樹は取り出したカードを、スタンプのように用いたハンマーでたたいた。結果、カードが光を発して炎に包まれると、その炎が翼竜の形を作り上げた。見た目から考えて、恐竜族であろう。

「行って来い、ギュオンズ!!」

 薫は大きな剣にカードをスキャンし、全身が機械で構成された機械族聖獣を召喚した。足は短いが足の裏にバーニアが付いており、腹部は大きな砲台になっている。

 そして最後の源は、

(ところで、あいつもあの時のゴーレムやフランケンシュタインの仲間か?)

 精神感応で聖獣たちに訊いた。

(いや、少なくともあいつは関係ない。誰かの制御を離れたやんちゃ坊主だろう)

 聖獣たちはこう答えたので、昼間習った要領で、三枚のカードを取り出すと、剣の鍔のスロットに差し込んだ。

「ドラグーン、フェニックス、エレクトード、召喚!!」

 結果、鎧のような頑丈な鱗を身にまとうも、スマートな青いドラゴン族聖獣「ドラグーン」、赤い炎で包まれた鷹の姿の獣族聖獣「フェニックス」、黒い全身に、わき腹と背中に稲妻のマークを付けたカエルの姿の獣族聖獣「エレクトード」が現れた。

 そのあと、五人の力を解放し、

「決闘空間、展開!!」

 聖獣たちが戦うための異空間、決闘空間を展開した。これで、どれだけ沢山の聖獣がどれほど強力な技を繰り出しても何も問題が無い。

「みんな、行きましょう!!」

 準備が整ったを見ると、イスフィールはこう叫んだ。その瞬間、

「一番槍は頂くぜ!!」

 フレアノドンはいきなり突撃していった。火炎をまとい、ハイドラに体当たりした。

「ちょ、体格差のある敵に真っ向勝負なんて!!」

 イスフィールは止めようとしたが、フレアノドンは聞いていない。

「まったく。」

 頭を抱えながらこう言うと、源の聖獣三体の前に現れて、

「初めまして、お三方の主のご学友殿、一条彩妃に仕える聖獣、妖精族のイスフィールです。」

 昔話の中のお姫様のように、短いスカートの裾を上げて挨拶すると、右手に先端にト音記号のような飾りの付いた錫杖、左手に指揮棒のような形状の金属の杖を持って、彼らに言った。

「ご学友殿の所のお三方は、このメンバーで戦うのは初めてでしょう。今回はお好きに自分たちのメロディーをお奏でください。私がそれに合わせて見せましょう。」

 と、三体の聖獣に言った。

「好きに戦って良いの?」

 ドラグーンはこう訊くと、両手に装備した剣を三本ずつ装備して向かっていった。

「その長い首、弱点にならないと良いな!!」

 こう叫んで、剣を用いて首の一本を切り落とそうとするも、ハイドラは別の首で攻撃し、ドラグーンをけん制する。

「これじゃあキリがない!!」

 ドラグーンがこう叫ぶと、

「退いて退いて!!」

 フレアノドンがこう叫んで飛び込んできた。言われた通りドラグーンがその場を離れると、

「喰らえ!!フレアカッター!!」

 全身の炎を激しく燃やして一振りの剣のようになると、ハイドラの皮膚に切れ目を入れた。この一撃で、毒素の交じった赤黒い血が迸ると、

「いまだ!!」

 自分にハイドラの注意が引けたと判断すると、フレアノドンが叫んだ。

「了解、斬撃の舞!!」

 それに合わせて、源が自分の聖装のスロットの中に、鋼属性の聖獣が武器を大量に振り回す絵が描かれたカードを差し込んだ。

「属性技発動!!斬撃の舞!!」

 ドラグーンは霊力エネルギーを収束させると、両手の剣を十本すべて解放し、勢いよく振り回した。結果、不規則な形、動きが特徴の斬撃が複数出現し、ハイドラに襲い掛かった。

「グガァァァァァ!!」

 ドラグーンの一撃にハイドラが怯むと、

「参ります!!燃え尽きよ、アパッショナート!!」

 イスフィールが現れて、右手の錫杖、左手の杖を数回打ち鳴らし、そこから熱風を飛ばした。ちなみに、音楽の用語で、アパッショナートとは「熱情的に」と言う意味である。

 ハイドラは放たれた熱気に充てられるも、十本の首を掲げると、口から火炎のように見える、紫色の何かを吐き出した。

「逃げろ、イスフィール!!」

 フェニックスが叫んだが、その時すでに遅し、イスフィールは火炎のような何かに巻き込まれていた。

「何だあれ!!?」

 源がこう叫ぶと、

「あれは毒の煙。ドラゴン族は体内の毒素を燃やして炎を吐き出しますが、奴は毒の成分をそのまま吐き出せるようです。」

 と、ドラグーンが説明した。

 一方のイスフィールは、毒を受けた影響で落下した。その際、エレクトードが受け止めたので大事には至らなかったが、それでも毒でかなりのダメージを負っていた。

「まずいな、戦力が少し減った。この人数でまったく押せてないとなると、ここから厳しくなるぞ。」

 彩妃がイスフィールを聖装の中に戻す様子を見て、アーケロンドがこう言うと、

「奴を倒せば、霊気で構成された毒も無効になるはずだ。といっても、毒である以上、時間はかけずに速攻でかたをつける必要があるな。」

 ギュオンズが、聖装内のイスフィールの様子を見ながら言った。

「でもどうする?このままじゃ埒が明かないぞ。」

 直樹はこう言った。ハイドラは十本の首を持ち、首の一本一本で一体の聖獣を相手に出来る。状況は一対六、体の総数で勝っても、文字通りの頭の数で負けているのだ。

「一本一本に対処するんじゃなくて、一気に全部切っちゃうのは?」

 すると、江美がこう提案した。

「だってさ、ある程度キモの座った人間だとさ、腕や足の一本斬られても普通にしてるけど。さすがに一度に腕と脚をやられたら驚くでしょう。」

「お前の出す適切か不適切か不明な比喩はつっこまないとして、実行は出来るのか?」

 アーケロンドが江美に訊くと、

「当然。」

 江美はこう言うと、

「源、ドラグーンを借りるよ。」

 と源に言って、

「みんな集まって、まずは・・・、そしたら・・・、最後に・・・。」

 まだ戦えるメンバーを集めると、耳打ちで作戦を説明した。

「それじゃあ行くよ、タイミングが重要だからね。」

 江美がこう言うと、フェニックス、エレクトード、フレアノドン、ギュオンズは散って行った。

「よし、こっちも準備だ。」

 残った面々も、攻撃の準備を始めた。





「おらおら、こっちだ!」

 フレアノドンは低空飛行でハイドラの近くを飛び回り、口から火炎を吐き出しながらハイドラを攻撃している。この攻撃で、三本の首がフレアノドンの方に向かった。

「いいぞ!今度はこっちだ!」

 続けて、ギュオンズが両腕を銃器に変化させて、ハイドラの頭を二つ攻撃した。頭が迫ってくると、腕の銃器を鋏の形の重機に変化させて、首の動きを止めた。頭は苦し紛れに毒を浴びせたが、ギュオンズは機械族の聖獣なので、毒の効果は薄く済んでいる。

「二人ともやるな!」

 フェニックスも上空から様子を見てこう言うと、自分も攻撃を開始した。

「ウィンフレア!」

 大きな翼をはためかせて、自分の羽と一緒に炎を浴びせる。火の粉程度の大きさだが、ハイドラの三本の首の注意を惹くには十分だった。

「いいぞ!」

 エレクトードはこう言うと、長い舌を伸ばして首を一本捕まえた。すぐさま最後に残った一本の首が救出しようとしたが、エレクトードは華麗な舌捌きで捕まえた首をコントロールすると、その首を救出しに来た首に巻き付けて、動きを封じた。

「すべての首の動きを止めたぞ!」

 フレアノドンが控えているアーケロンドとドラグーンに言った。

「行くぞドラグーン!」

 アーケロンドは背中の甲羅の上に乗るドラグーンに言った。

「と言うか、行け!」

 ドラグーンがこう言うと、アーケロンドの主である江美が一枚のカードをスキャンした。

「フレアスピン!」

 結果、アーケロンドは今まで手足を出していた甲羅の穴から、物凄い勢いの火炎を吹きだして、回転を始めた。今回はそのままその場で回っているだけであるが、実際の攻撃で使えば、物凄い威力の体当たり攻撃になるだろう。

「行けドラグーン!斬撃の舞!」

 それに続いて、源も先ほどドラグーンに使ったカードを発動させた。

「ざ、ざ、斬撃の・・・舞・・・!」

 回転しているアーケロンドの上に乗っているので、ドラグーンは目を回して辛そうだが、それでも両手に装備した剣を振り回し、渾身の斬撃を放った。これによって放たれた大量の斬撃は、ドラグーン単体の時より早い速度、不規則な軌道でハイドラに向かって行き、ハイドラの全身に命中し、大量の傷を作り、特に首には甚大なダメージを与えた。当初の斬るという目的は達せなかったが、大量出血している様子から見て、かなりのダメージを与えられたはずである。ただし、唯一の問題は、

「あ、危なかった。」

 首を食い止めるために囮になり、首を止めていた聖獣たち、フェニックス、エレクトード、ギュオンズ、フレアノドンにもダメージが来ていた。元々不死鳥と呼ばれるフェニックスと、全身が金属製で防御の強いギュオンズは割と平気そうだが、皮膚が弱めのエレクトードとフレアノドンは、全身傷だらけであった。

「源と薫、決めて!今ならハイドラも隙だらけ!」

 そんな中でも、江美はこう叫んだ。それに合わせて、薫はギュオンズが腹部の砲台から太いレーザーを放つ絵が描かれたカードをスキャンさせた。

「ギュオンズ!タキオンレーザー!」

 薫がこう叫ぶと、ギュオンズは腹部から物凄い速さで敵に向かって行くレーザーを発射した。

「フェニックス、ウィンフレア!」

 それに合わせて源も、フェニックスの技カードをスロットに差し込んだ。これで、フェニックスは翼から炎を飛ばした。

「行けぇ!!!!!」

 皆が叫ぶと同時に、ギュオンズのタキオンレーザーとフェニックスの火炎は、ハイドラに命中した。着弾時の爆風が収まった時、そこにはハイドラの姿は無かった。

「逃げたのか?」

 薫がこう言うと、直樹はその場の様子を見て、

「いや、多分気が済んだか、正気に戻ったんだろう。神司の元に戻ったのさ。」

 と言った。

「と言うより、イスフィールは大丈夫か?」

 源が彩妃に訊くと、彩妃はこう答えた、

「大丈夫、毒は消えたから、もうすぐ回復すると思う。」

 すると、時計を見て江美が言った。

「すぐに戻ろう。このままじゃ花火が始まっちゃう!」

「いやいや、怪物出現の大騒ぎがあって、花火なんてするかな?」

 皆はこう思ったが、決闘空間から現実の世界に戻って、驚いた。そこでは、夜空に大きな花が沢山咲いていたのだから。結果はどうあれ、最後の花火はやることにしたらしい。

「どんだけ図太い神経しているんだよ。あんな騒ぎがあれば普通は周囲を警察とか自衛隊が囲って、立ち入り禁止になるのに。」

 直樹が空を見上げながら言った。一方俯いている薫に理由を聞くと、

「今朝寝違えたから、首が曲がらない。」

 と、答えた。

 一方の源と江美、そして彩妃はと言うと、

(そういえば、こうして誰かと花火を見るなんていつ以来だ?)

 源はこう考えた、すると、江美が訊いた。

「それで、今日は楽しかった?」

「まあ、それなりには。」

 なんて答えれば良いのか分からないので、とりあえずこう答えると、

「良かった。私たち基本こう言うテンションだから。」

 江美がこう言うと、

「嫌ならこのまま去っても良いよ。でも出来ればこれからも私たちに協力して欲しいな。」

 源が初めて彼女たちが「部室」と言い張っている家庭科室に来たときのように、江美は胸の前で手を組んで頼んだ。

「まあ、良いですけど。」

 源がこう答えると、

「ありがとう、部員ナンバー4、綾小路源君。」

 江美はこう言った。

 そしてその後、五人そろって花火を眺めた。


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