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聖獣王伝説  作者: 超人カットマン
第四章
25/55

第二十四話 担手覚醒

綾小路源とその仲間たちが、ウンディーネの手によって冷凍された後、彼らを冷凍したウンディーネは、そそくさとその場を離れて行った。

 その後少し経ってから、源達を冷凍している氷塊の前に、一体の聖獣が現れた。

「いやいや、これはまた派手に凍らせたな。」

 氷を見てこう言う彼は、赤い鱗で覆われた四足歩行の全身と、トカゲを思わせる形状の頭が特徴の、ドラゴンと恐竜の特徴を併せ持った生き物の姿をしている。凶悪な姿ではあるが、彼の姿はどこか「ウーパールーパー」を連想させる。だが、背中には巨大な翼、口元には髭が生えており、全身を甲冑のような物で包んでいる所は、ペットショップで見られる可愛らしい両生類とは、あまりにもかけ離れている。

「しかし、材質はただの氷。これなら少し強い熱を与えれば解凍可能だな。」

 突然現れた聖獣は、氷に触れながらこう言うと、手を添えた状態で軽く念じて見せた。すると、そこだけ強い熱を受けたのか、氷が溶け始め、その場所だけ罅が入った。

「後はお前達次第だ。精々頑張るんだな。」

 そして、聞こえているかは分からないが、氷の中の少年たちにこう声を掛けると、大きな翼をはためかせて、その場から飛び去って行った。





 所は変わって現実世界。現在の綾小路源達が居る決闘空間が模した場所の近くの病院では、人々の動きが収まり出した事で、静かなフロアは次々と消灯し、明かりがついている のは一部の病室だけになっている。

 そんな中、一つの部屋が今も煌々と明かりを灯していた。部屋の扉は閉じており、中を窺い知れないが、扉の近くですら途轍もない緊張感を発している。それもそのはずである、その部屋では今、危険な状態にある患者の手術を行っているのだから。

「………。」

 部屋の中では、執刀する綾小路美里が、この手術の中で最も重要な治療を実行していた。これが終われば手術は終了だが、失敗した暁には手術では無く、患者の命が終わってしまう。

 皆が息を呑み見守る中、美里は手術器具を巧みに操り、最後の重要な作業を終えて、手術器具を置いた。

「術式終わり。」

 美里はこう宣言すると、

「後の縫合は任せるわ。」

 今回の手術で助手を務めた医師にこう言って、彼女は部屋を出て行った。





 手術室を出て、更衣室で手術着から着替えた美里は、近くにあったイスに座りこんだ。最近彼女は殆ど家に帰っておらず、今日も帰る直前に急遽手術を執り行い、更にはその手術は、とてつもない難易度だったため、これまでの疲れがドッと来たのだ。

「はぁ。」

 美里がため息を付くと、部屋に一人の看護師がやって来た。手にはお盆が有り、その上にはお茶の入った湯呑が載っている。

「お疲れ様です、どうぞ。」

 看護師はこう言うと、美里にお茶を差し出した。彼女は美里の会った事の無い看護師であったが、疲れが溜まっている美里はその事を気にする事無く、彼女の持ってきたお茶の湯呑を受け取り、一息に飲み干した。

 その後、彼女が看護師に湯呑を返した瞬間、彼女は途轍もない眠気に襲われた。

「な、何を呑ませたの?」

 彼女が看護師にこう訊くも、途中で意識が途切れて、眠りについた。

「さてと、お出汁はこれで良し。後は、彼が来るのを待つだけね。」

 一方の看護師は、今まで身に着けていたナース服を脱ぎ捨てると、元の服装と姿に戻った。ドレスと鎧を組み合わせた服装に、長い青髪と頭部のティアラ、先ほど綾小路源達を冷凍して戻って来た、ウンディーネである。

 ウンディーネは眠っている美里を担ぎ上げると、どこかへと向かって行った。





 そしてその頃、同じ病院の違う部屋では、この病院の院長である「六輪芳彦(むつわよしひこ)」が、ある人物と会見していた。

「…と言う訳で、貴方にはウンディーネ様と歩調を合わせて貰い、彼らの始末をお願いしたいんです。」

 芳彦にこう言ったのは、ウンディーネが彼と接点を持つ切欠を作った謎の巨人族聖獣「エリス」である。何故彼女と彼が接点を持っているかを説明すると、それはウンディーネと彼が出会った数日後の事である。ウンディーネが留守にしている瞬間を狙って、彼女は彼と接触したのだ。それ以来、色々な情報を持ち合い、それを用いて様々なやり取りをしている。

「そうか。だが、君だってウンディーネには劣るとはいえ、一応は聖獣なのだろう。子供の五人や十人の始末、君だけでも出来るのでは無いか?」

 芳彦がこう訊くと、エリスはこう答えた。

「あの方のご意志ゆえに、私はまだ彼らと接点を持つ訳には行かないのです。それに、彼らは貴方にとってとても不利となる情報を持っている。始末するなら、念には念を入れて自分で行いたい物でしょう。成功した後の後始末は、私が致しますゆえ。」

 そして、彼に対して一礼すると、消えるように居なくなった。





 そして、短い間に事態が急激に動く中、決闘空間で氷漬けにされた綾小路源達はどうしていたかと言うと、未だに氷の中に閉じ込められていた。しかし、先ほど謎の聖獣に熱を加えて貰った事で、氷は少しずつ解けて、小さくなり始めている。

 やがて、ピシピシと言う音が響くと同時に氷に罅が入り、その罅が氷全体を覆うと、氷が砕けて綾小路源達が解放された。

「さ、寒かった。」

 夏であり皆薄着であるため、解放されるや否や震えながら皆でこう言うと、

「ど、どうなったの?」

 と、最初に小雪が口を開き、皆に訊いた。

「どうやら、ウンディーネは居なくなったみたいだよ。」

 まだ震えてはいるが、呂律は回るようになった直葉が周りを見回しながらこう言うと、

「た、助かった。」

 その場にいる面子は全員、揃って胸を撫で下ろし、こう言った。

 全員の緊張感が解けた所で、修が皆に訊いた。

「ところで、これからどうするんだ?」

「そうだね。もう遅いし、帰るべきだね。」

 修の言葉に、江美がこう返すと、皆はその場を後にして、家に帰ろうとした。しかし、源はただ一人そこに残ろうとしている。

「どうした?」

 祐介がこう訊くと、博明が源に言った。

「もしかして、ウンディーネに渡されたあの紙を気にしているのか?」

「紙?」

 博明の言葉に、他の面々が何の事だ、と思うと、博明は言った。

「気が付かなかったの?俺達が冷凍される直前に、源のズボンのポケットに、何かを仕込んで行った。」

「そうだったの?」

 博明の言葉に、皆が驚くと、源は紙を取り出した。そこには、簡単に地図が書かれており、メモ書き程度にこう書かれていた。

「ここに来てください。貴方の大切な物を預かっています。」

「大切な物?なんだそれ?」

 メモに書かれている言葉の意味が分からず、源がこう呟くと、突然彼の携帯がポケットの中で振動した。

「?」

 源が携帯を取り出すと、画面には「姉」と書かれていた。

「もしもし?」

 一体何事かと思うと、とりあえず電話に出てみた。源が一声発するや否や、

「良かった!やっと繋がった!」

 驚きと安心が合わさった姉こと「綾小路優」の声が響き、

「全く、夕ご飯までに帰って来いって言ったのに!」

 夜遅くまで帰らず、連絡を寄越さない事を怒られ、

「母さんもまだ帰ってこないんだから、源まで心配を掛けさせないで。」

 と、言われてしまった。姉の説教を聞きながら、ウンディーネのメモを見た源は、そこに書かれた地図を見て、ある最悪な考えを浮かべてしまった。

「あのさ、母さんが帰って来てないって?」

 思い過ごしであってほしい、そう願いながら源が優に訊くと、優はこう言った。

「実は、帰る直前に急患の手術を担当して、その手術は成功したんだけど、手術室を後にした後、誰も母さんの姿を見ていないんだって。その事を教えてくれた人は、もう帰ったと思っているみたいだけど。」

「携帯には繋いだの?」

 説明する優に、源がこう質問すると、

「さっきから何度も掛けているんだけど、一回も繋がらないの。」

 優は答えた。これにより、源はウンディーネのメモを見ながら、こう言った。

「分かった。ちょうど今職場の前に居るし、見てくるね。」

「良いけど、早く帰って来てよ。」

 源の言葉に、優はこう返して、電話を切った。

 電話が切れた後、目の前にそびえる病院を見ながら、源は自分の母の携帯に電話を掛けて見た。しばらく待つと、電話の向こうより無機質な声が聞こえてきた。

「お掛けになられた電話番号は、電波が届かない場所にあるか、電源が切られています。」

「まじかよ。」

 源がこう呟き、電話を切ると、江美は彼に訊いた。

「何かあった?」

 江美の問いに、源はこう答えた。

「僕の母さん、ウンディーネに捕まったみたい。」

「え?捕まった?」

 源の言葉に、その場にいる面子が揃って驚くと、源の事をあまり良く知らない修は、彼に訊いた。

「母さんって?」

 修の問いに、源は目の前の大きな病院を指差すと、こう言った。

「僕の母さん、あの病院で働いているんだけど、姉さんが言うにはまだ帰って来てないってさ。しかも、ウンディーネの残したメモ、見て。」

 修が源よりメモを受け取り、他の面子がそれを覗き込んだ瞬間、皆は一様に驚いた。

「ここに来てください。貴方の大切な物を預かっています。」

 このメモが指定している場所は、目の前にそびえる病院の屋上である。

「あそこに源のお母さんが。」

 江美がこう言うと、

「直に行こう!!」

 と、源と彩妃、博明と修に言った。

「え?俺達は?」

 同じく神司部のメンバーである、直樹、薫がこう訊くと、江美はこう言った。

「あっちを見ていて!」

 彼女の言うあっちとは、先ほど行われた戦いで負傷した四人の皇の事で、ラフレシアは全身が動かなくなっており、バロン・サムディとミステリアは気絶し、プトレマイオスは機能を失って動かなくなっている。

「確かにそうだね。君たちは霊力を消耗しすぎている。このまま戦えば、命に関わります。」

 妖精の担い手である影響なのか、人の霊力の消耗状態を把握する能力を持つ修が、自分と行動を共にしていた五人以外のメンバーに言った。

「まあ確かに、休んでいて良いなら、そうさせてもらうよ。」

 五人のメンバーを代表し、祐介は源と共にウンディーネの指定した場所に向かう面子に言った。

「言っておくけど、アイツは相当強いよ。神司として実力の高いお前達で挑んで、互角と言える状況に持っていけるかどうか?」

「……分かっている。」

 彼の言葉に、源はこう返すと、江美と彩妃、博明と修を連れて、非常階段を使って病院の屋上へと向かって行った。





 その頃、ウンディーネに捕まった綾小路美里はどうしていたかと言うと、

「は、放しなさいよ!!」

 全身に何やら重く硬い感触を感じるや否や、深い眠りから目覚め、傍に立っているウンディーネに言った。彼女は今、頑丈な鎖でグルグル巻きにされており、鎖は彼女の背後の柱にしっかり括りつき、単純な力では外せそうにない。

「それは無理です。」

 一方のウンディーネは、美里に対しこう言い放った。

「その理由は二つ。まず、私の目的が達成されるより前に、それを外す訳には行かない。もう一つは、私では外せないの。」

「どういう意味?これは貴女がやったのでしょう!!」

 美里がこう訊くと、ウンディーネはこう答えた。

「その鎖は、鍛冶を司る神であるヘトパイトス様が作り、大地の始祖である「ノーム」が鋼の魔法で呪いを掛けた物。聡明で頭の良い貴女なら、分かりますよね。」

 ウンディーネの答えを訊き、美里は考えを巡らせるとこう言った。

「女神を拘束した網、これにはそれと同じ効力が掛かっていると?」

「ご名答。そしてその能力は、ノームの与えた「指定した人は誰であっても絶対拘束せず、その人物でないと解除できない」と言う呪いで抑えられているけど、その対象は私では無いの。」

 美里の言葉に、ウンディーネがこう返すと、美里は訊き返した。

「どういう事よ?」

「簡単な話。これを私が解けてしまっては意味が無いと言う事。これを解ける人間は、この世でただ一人………そろそろ来るみたいね。」

 ウンディーネの言葉に、美里が耳を澄ますと、夜の静寂の中、少しずつであるがある音がこちらに近づきながら響いてきた。何か重い物が短時間だけ、金属の板を踏みつけるような音。早く言ってしまえば、誰かが非常階段を駆け足で登って来る音である。

(こんな遅い時間に一体誰が?)

 足音を聞きながら、美里は思った。病院は既に誰もが就寝し、宿直の医師や看護師も、暇を持て余している時間である。万が一患者に何かが有った時は、真っ先に対応しなければならない為、屋上に出てくるとは思えない。警備の人間かとも思ったが、彼らは今警備室でテレビを見ている頃だろう。

(それにしても、今日は早く帰れる筈だったのにこんなに遅くなって、あの子達心配しているかしら?)

 そして、家に居るはずの家族の事を考え、心の中でこう思った時である。足音がすぐ近くまで迫り、屋上に誰かが駆け込んできた。

「よっし、到着!!」

 屋上に躍り出た人物がこう言うと、後から、

「は、早すぎ。」

「もう少し遅いペースで。」

「だらしないな、お前ら。」

「す、すごく疲れた。」

 二人の少女、二人の少年の声が響いた。どうやら、五人の人間がほぼノンストップで非常階段を駆け上がり、この場所にやって来たようだ。

 やがて、月明かりが現れた人間五人を照らし、誰がその場に来ているのかを露わにした。その瞬間、拘束されている美里、やって来た人間の中で、一番乗りだった人間は、同時に驚いた。

「って?源?!」

「やっぱり母さんだ。」

 元からそのつもりでやって来た「綾小路源」はともかく、今頃家にいる筈の自身の息子と対面した美里が、誰よりも驚いた。その直後、

「ええ?!あれが源のお母さん?!」

 源の後に続いてやって来た、少女二人こと「孫江美」「一条彩妃」は、美里に負けず劣らず驚いていた。この二人に続いてやって来た「高城博明」は、源と長い付き合いであるために、最初から源の母親である美里と面識を持ち、最後にやって来た「名取修」は最初から興味が無いのか、無反応であるが。

(あれが源のお母さん?見た目の年齢だけ見れば、前に見た源のお姉さんと殆ど変らないじゃない)

 拘束された美里を見ながら、江美は思った。美里自身は医者であるために、人体と言う物には何者よりも詳しい。その為、的確な手入れを毎日行う事で、今でも見た目だけは二十代当然の若々しさと美貌を保っている。その為、大学生の姉を持つ源の母親であるとは、俄かには信じられなかった。

 だが一方、源は普段通りと言えば普段通りの口調で、母親である美里に訊いた。

「何しているの?」

「何って?捕まっているに決まっているでしょう!!」

 呑気な源に対し、美里はこう返すと、

「と言うか、何で貴方がここに居るの?家に帰ったんじゃ無かったの?!」

 と、源に訊いた。

彼女の問いには、源では無くウンディーネが答えた。

「私が呼びました。」

「はい、呼ばれました。」

 源はこう言うと、ポケットから偽装形態であるボールペンの状態になった聖装を取り出すと、芯を出すために押す部分を一回押して、空中に放り投げた。その結果、ボールペンは空中で光に包まれて、大剣の形状となって落ちてきて、源の手の中に納まった。

 その後、源はどこからか一枚のカードを取り出すと、大剣の鍔に付いているスロットに差し込んだ。それにより、彼の目の前に青い霊力の奔流が巻き起こり、それが一塊になると、鎧のような青い鱗に覆われた、両手に大きな手甲を装備したドラゴン「ドラグーン」が現れた。

 それに続くようにして、江美はシャープペンを棍に、彩妃はギター型のキーホルダーを本物のギターに、博明は補虫網をライフルに、修は和傘を槍に、それぞれの聖装の形状に変化させて、自らの聖獣を召喚した。江美の傍には赤いワニガメの姿を取る獣族聖獣「アーケロンド」が、彩妃の傍には藍色の装飾に身を包み、背中に一対の翼を生やした美女の姿の妖精族聖獣「イスフィール」が、博明の傍には名前の通り「ネプチューンオオカブト」の姿を取る昆虫族聖獣「ネプチューン」が、修の傍には軽めの鎧を装備した短い銀髪が特徴の美女の姿を取る妖精族聖獣「レギンレイヴ」が現れ、先に現れたドラグーンと同様に、ウンディーネに対し臨戦態勢を取った。

「では、始めましょう。」

 一方のウンディーネは、腰のアナクルーズモスを抜き放つと、現れた五体の聖獣に向けてこう言った。

 彼女の言葉を合図に、ウンディーネにとって本日三回目の戦いが始まった。





「アクアセイバー!!」

「はぁぁ!!」

 戦いの火ぶたを切ったのは、ネプチューンとウンディーネのほぼ同じタイミングでの突撃だった。ネプチューンは自身の大きな角に水属性の霊力を纏わせると、背中の翼で飛び上がって接近し、ウンディーネを斬りつけようとした。それに対しウンディーネは、アナクルーズモスで攻撃を受け止める事で、それに対応した。それにより、重量あるネプチューンの攻撃のエネルギーと、アナクルーズモスの持つ強大なエネルギーがぶつかり合った事で、辺りにはエネルギーの奔流が発生した。

 この奔流に耐えながら、彩妃は江美にある事を願い出た。

(私たちで気を引くから、源のお母さんを救出して、ここから離れて)

 アーケロンドは炎属性の聖獣であるため、水と氷を司るウンディーネとの相性は悪い。その為、彩妃はその事に気を使い、江美に源の母親を救出する役割を頼み込んだ。これには、ただ相性が悪いと言う理由だけでなく、もしもの時に危険が迫った時に江美の実力を持ってすれば護衛も出来ると言う理由も含まれる。

 この頼みに、江美は少し考えると、こう言った。

(分かったけど、無茶はしないで)

 そして、江美がアーケロンドと共にこっそり行動を開始すると、彩妃は戦いが行われている所を見た。

「よし、イスフィールも…。」

 イスフィール自身も戦闘に参加しようと試みる中、ウンディーネは他の聖獣と、激しい戦闘が行っていた。

「はぁぁ!!」

「はっ!!」

 ドラグーンが手甲の中の剣を全て解放して斬撃を放ち、それをウンディーネがアナクルーズモスで弾き返すと、次にレギンレイヴが槍を構えて飛び出し、目にも止まらない速度で槍を突き出した。

「速さと鋭さは有り。でも、筋力はまだまだ!!」

 レギンレイヴの攻撃を、ウンディーネはこう宣言すると同時に受け止めて見せた。

「と、止められた?けど!」

 一方のレギンレイヴは、攻撃を止められた事に驚きはしたが、

「今です!!」

 と、叫んだ。すると、

「応さ!!」

 彼女の背後から、黒い物体が飛び上がった。レギンレイヴと同様に、修と契約しているカラス型の獣族聖獣「オーディン」である。彼は全身が黒であるため、周囲の暗闇に紛れて目立たなかったのだ。

「私も参加しますね。」

 それに続き、イスフィールは床を蹴って飛び上がり、オーディンの傍に現れた。その際、彩妃は聖装に一枚のカードを読み込ませた。結果、イスフィールは自身の分身を生み出す「マイセパレート」を発動した状態で、オーディンと並んでいる。

「では、頼んだぞ。」

 一方のオーディンはこう言うと、黒い羽毛で覆われた全身に雷属性の霊力を纏わせ始めた。雷の属性を持つ大技を発動させるのである。

 カードを持つ修は、彩妃の準備が整ったと判断すると、そのカードを聖装に読み込ませた。

「ライトニングブラスター!!」

 聖装がカードを読み込むや否や、オーディンは全身に溜め込んだ雷属性の霊力を放出し、雷を具現化させてウンディーネに浴びせた。それと同時に、彩妃も聖装でカードを読み込んだ。

「フェアリーコンボ!!」

 結果、分身した複数のイスフィールは、それぞれが属性の違う魔法を発動させ、様々な方向からウンディーネを攻撃した。

「行けるかな?」

 二体の聖獣の渾身の攻撃がヒットし、激しい爆風が発生する中を見ながら、彩妃がこう言うと、

「逃げ場は有りません。倒すまで至らなくても、無傷何て事は…」

 修はこう言って、槍を構えなおした。





 一方、こっそり行動していた江美とアーケロンドは、

「皆凄いな。」

 呑気な事を言いながらも、鎖で拘束されている美里の傍へとやって来た。

「大丈夫ですか?」

 江美は美里にこう訊いたが、美里は目の前で行われる激しい戦いに呆気に取られ、返事をしない。江美は、外傷は無いので大丈夫と判断すると、彼女を拘束する鎖を解こうとした。

 しかし、

「あれ?」

 鎖を引いたり、ぶつけ合ったりと色々試したが、鎖は外れるどころか、動く気配も無い。

「何をしているんだ?」

 苦戦する江美に、アーケロンドはこう言うと、彼女に変わって鎖を外そうとした。

「あ、あれ?」

 だが、江美の何倍もの筋力を持つアーケロンドを持ってしても、江美と同様にどのように鎖を動かしても、鎖は外れる様子を見せない。この事実に、江美とアーケロンドが困惑すると、美里は二人に言った。

「この鎖は、指定された人で無いと決して外せないみたいなの。さっきあの人から聞いた話から考えると、これを外せるのは多分彼だけ。」

「彼?」

 美里の言葉を聞いて、江美とアーケロンドは彼女の目線の先を見た。そこには、手に複数枚のカードを持ち、次にどの指示をドラグーンに飛ばそうか考えている源の姿がある。

「確かに、ウンディーネは源に拘りを見せるような事をしているけど、一体何の目的があって?」

 源を見ながら、江美がこう言った時である。突然、この場に置いて不似合な音が響き渡った。





 聖獣たちが自身の技を用いて戦う戦場。その戦場に、銃声が響き渡ると、その場にいたメンバーは、揃って驚いた。驚きの余り、オーディンとイスフィールは一旦攻撃を中止し、彩妃と修の護衛に向かった。

ここに居る面子の中で、銃を使う存在は源の持つ聖獣「ジェットシャーク」と、聖装の形状がライフルである博明が居る。だが、博明は聖装を銃として使用した事は一回も無く、ジェットシャークに至っては外にさえ出てきていない。

「一体誰が?」

 彩妃が、周りを見回しながら思うと、どこからか声が響いてきた。

「ウンディーネ、その程度の雑魚数匹相手に、何を遊んでいる。」

 響く声の質から考えて、スピーカーのような物を用いて声を飛ばしているのではなく、声の主はその場にいるのだろう。

「誰?」

 源、江美、彩妃、博明、修と、その聖獣たちが一様にこう思う中、この声の正体を知る者の一人である美里は、鎖に縛られた状態であるが、こう叫んだ。

「この声、まさか六輪芳彦?!何でここに居るの?!」

「六輪芳彦?確か、この病院の院長だと言う人だよね。」

 美里の言葉に、源が記憶を整理しながらこう言うと、芳彦はどこからかこう言った。

「ウンディーネ、分かっているだろ。奴らは我らにとって不利な情報を持っている。お前が私に担われている聖獣なら、躊躇無く速攻で片づけろ!」

 彼の言葉に、彩妃は思わずこう返した。

「何その言い方?!聖獣の事を道具見たいに?!」

 すると、芳彦は彩妃に対し、こう言った。

「聖獣等、人にしてみれば所詮道具以外の何物でも無い。お前達だって、聖獣に仕事をさせるだけで、自分は後ろで見ているだけ。こちらに言わせれば、私もお前達も何も変わらない。」

「そ、それは…」

 彩妃が返答に困ると、修の傍に降り立ったレギンレイヴは、芳彦に対しこう言った。

「全然違います。彼らは私たちと同じ戦場に立ち、共に戦っている。なのにあなたは、戦場に自らの姿を晒す勇気も無い。その上、道具と見なしたウンディーネの行動を、欠片も信頼していない。だからこそ、銃を用いて神司を狙うような真似をしたのでしょう。暗くて誰にも当たりませんでしたが。」

「くっ!黙れ!!」

 レギンレイヴの冷静な指摘に、芳彦は逆上すると、

「ウンディーネ、役立たずで無いと言うなら、そんな奴らは速攻で片づけろ。」

 と、ウンディーネに命令した。

「畏まりました。」

 自らの担い手である芳彦の本心が明らかになりながらも、彼に従おうとするウンディーネに対し、博明を守るように立つネプチューンは、こう言った。

「そんな奴に真剣に従うなんて、ご苦労なこったな。」

 また、先ほど芳彦を糾弾したレギンレイヴも、修に言った。

「そろそろ本気が来そうです。私たちも!」

「分かった。」

 修が答えると、オーディンとクラーケンのカードを構えた。融合を使用するのである。

また、源の聖装の中に居るヘルニアが、源に対しこう訴えた。

「あの男は特別に気に入らない!ここからは私も戦おう!」

 すると、

「だったら俺が!」

 と、フェニックスが、

「ここは俺だろ!」

 と、エレクトードが、

「いいや、俺だ!」

 と、ジェットシャークが、

「俺にも出番を!」

 と、ステゴサウルス・Jackが、自分も戦うと訴え、聖装の外へ出すように要求した。それがほぼ同時のタイミングで在った為に、

「何でお前達が出ようとする!この中で一番戦闘力レベルが高いのは私だぞ!」

「そんなの関係無い!」

「相性は俺の方が良いだろ!」

「ここは俺の硬さと速度で!」

「と言うか、俺最近ロクな活躍してないんだよ!」

 聖装の中では、五体の聖獣による言い争いが発生してしまった。

「お、お前ら、そういう事をしている場合か!?」

 源が聖装の中に、こう注意した瞬間である。五体の聖獣は、

「お前ら邪魔!!!!!」

 と、自分以外の聖獣四体を対象に、同時にこう言った。

 その結果、驚くべきことが起こった。突如五体の聖獣は聖装の中からはじき出されると、元から出ていたドラグーンの中に入り込み、彼の全身を強化したのである。ドラグーンの全身が一回りも二回りも大きくなると、全身を鋼鉄の鎧で包み込み、両腕の手甲は銃器に変形し、背中には金属で出来た翼が現れ、尾にはステゴサウルス・Jackのスパイクと、ヘルニアの針が装備された状態になった。

 以前行われた「BABEL」との戦い、そこで初めて顕現した、ドラグーンを中心にした融合聖獣「メタルドラグーン」である。

「あ、あれ?!」

 源と、彼の持つ6体の聖獣が揃って驚くと、大人しく待っていたウンディーネは、彼らにこう言った。

「聖獣同士の相性が良く、また心が一つになる事で、本来の過程を踏み倒しての融合。流石ね。」

 本来聖獣の融合とは、軸となる聖獣の霊力を安定させ、そこに融合させる聖獣を一体ずつ慎重に送り込む事で行う。その為、最低でも一分は時間を要するのである。だが、ウンディーネの言った条件が揃うと、瞬きする間に聖獣を融合させる事が可能なのである。

「でも、貴方の本気はその程度では無いでしょう。」

 続けてウンディーネは源にこう言うと、アナクルーズモスを構えなおすと、メタルドラグーンに向けて飛び出した。メタルドラグーンは、両手の銃の銃身でそれを受け止めると、

「どういう意味だ?!」

 と、ウンディーネに訊いた。

「分からないの?他でも無い彼の聖獣である貴方たちが揃いも揃って。」

 ウンディーネはこう答えると、逆に彼らに訊いた。

「彼の身に何かが起きて、普段の何倍も霊力が高まった事があると思うけど、経験無い?」

「霊力が高まるだと?!」

 ウンディーネの問いに、聖獣たちは揃ってヘルニアと戦った時の事を思い出した。ヘルニアの毒による攻撃で窮地に陥るも、源は突然全身から高い霊力を迸らせ、今まで毒にやられていた聖獣たちを回復させるだけでなく、余ったエネルギーを用いて強力な斬撃を放ち、戦いを終わらせたのだ。

 彼らはあの時、霊力が暴走しているのだと考えたが、今になって考えると、あれは源が無意識のうちに全力を出していたのと分かった。

「私はね、あれを見て見たいの。」

 ウンディーネはメタルドラグーンにこう言うと、自身の持つ能力「強化(ハイパーブースト)」を発動させて、自身の筋力を強化してメタルドラグーンを吹っ飛ばした。

 吹っ飛ばされたメタルドラグーンは、背中の翼で飛翔して態勢を立て直すと、空中からウンディーネに狙いを定めて銃を乱射した。

「ハイドロウォール!!」

 ウンディーネが、自身の目の前に水の壁を作り上げ、メタルドラグーンの放った弾丸を阻む光景を見ながら、修も行動を開始した。

「聖獣融合!!」

 軸となるレギンレイヴの霊力が安定したと判断すると、修は二枚の聖獣カード「オーディン」「クラーケン」を聖装で読み込み、それにより発生した霊力をレギンレイヴに与えた。その結果、レギンレイヴの背中にはオーディンを思わせる黒い翼が現れ、身に着ける装備の袖にはクラーケンの触手を思わせる装飾が現れた。武器の槍は、鋭さが強化されると、黒い羽の装飾が現れた。

 レギンレイヴの融合した姿である。

「行きます!」

 槍を構えたレギンレイヴがこう叫ぶと、槍に付いた翼の装飾が広がり、槍全体が電流を帯び始めた。融合している、オーディンの力を行使したのだ。

「はぁぁぁ!!」

 電流を纏った槍を振りかぶるレギンレイヴは、床を蹴って飛び上がると、ウンディーネに攻撃を仕掛けた。槍を大きく払い、広範囲に攻撃を行っている。

「レギンレイヴか?」

 メタルドラグーンが空中からこう言うと、レギンレイヴはこう言った。

「いくら融合しても、一人で勝てる相手では有りません。助太刀します!!」

「ああ、頼む!!」

 レギンレイヴの言葉に、メタルドラグーンはこう返して、ステゴサウルス・Jackとヘルニアによって伸縮自在かつ鋭いスパイクを持った尾で攻撃を始めた。

(なるほど、聖獣六体と三体を一体分に圧縮しただけあって、凄い戦闘能力。だけど、まだまだかな)

 一方、攻撃を裁くウンディーネは、大剣を振り回しながら心の中でこう思っていた。そして、剣を用いた技で両者に反撃しようと考えたその瞬間である。再び、この戦場に不釣り合いな音が響き渡った。





 再び戦場に銃声が轟いた時、この時源達は勿論、ウンディーネ自身も驚いた。幸い銃弾による死者は出なかったが、暗闇によって誰にも当たらなかった先ほどと違い、今回飛んできた銃弾は、源の肩に掠っていた。

「あら?」

 彼の神経が図太いのか、それとも掠った事に今気が付いたのか、彼本人の反応は薄い物であった。

 一方、銃撃の張本人である芳彦は、現場である屋上に入るための階段がある場所の陰から出て、拳銃を構えて立っていた。彼は今までその場に隠れており、先ほどのレギンレイヴの指摘に激情した後、好機を待って飛び出し、銃弾を放って源の肩に掠らせたのである。

「掠っただけか。まあ良い、その弾丸は当たると呪いの力で被弾者の命を蝕むみたいだからな、そのまま死に至るが良い。」

 芳彦がこう言うと、ウンディーネは顔に表情を浮かべずに、こう言った。

「普段は言う事訊いている振りで、肝心な時に勝手な事をして、芳彦様?私の行動、間違っていますか?」

 ベクトルが向いているのは自分たちでは無い、そう分かっていても、無表情でこう告げるウンディーネには、何か近寄りがたい迫力があった。

 しかし、芳彦は、

「お前が愚図なだけだ。」

 と、ウンディーネの口調に何も感じる事が無いのか、あっさりとこう言い放った。

「アンタね!!それが自分の為に働く者への言葉なの?!」

 相も変わらず拘束状態にあり、江美とアーケロンドに守られている美里がこう言うと、芳彦はやれやれと言わんばかりにかたを竦めると、こう言った。

「この世には二通りの人間が居る。運命に、世界に祝福される者と、そう言った者の為に働く者。」

「呆れた、つまり貴方は前者で、私たちやウンディーネ様は、後者だと言うんですか?」

 ダメだこれは、心の中でこう思ったイスフィールがこう言うと、突然源の体から、物凄い量の霊力が迸った。

「ふざけるのも大概にしろよ。」

 口調自体は穏やかだが、その声にははっきりと怒りの感情が入っていた。芳彦の考えに怒りを覚え、その怒りに合わせて、彼の中の霊力が迸っているのだろう。だが、芳彦はこう言った。

「ふざけているのはどちらかな?子供で在りながら、大人と対等になったつもりか?」

 この言葉に、源はこう返した。

「最初から対等なんかじゃ無い。最初から、アンタがずっと格下だよ!」

 彼の言葉と同時に、彼の霊力はさらなる迸りを見せ、その影響はメタルドラグーンを含めた、その場の聖獣全員に及んだ。

「ここまでの霊力を感じるのは初めてだ。」

「飲み込まれそうなのに。」

「不思議と恐くない。」

「むしろ、全ての命の母である水に、全てを預ける安心を感じます。」

 源の全身から迸る霊力を感じ取り、アーケロンド、イスフィール、ネプチューン、レギンレイヴがこう言うと、メタルドラグーンの中の六体は、一度融合を解除し、聖装の中に戻ると、

「決めてやれ、格の違いを見せつける最高の演武を!」

 六体全員でこう言って、源の聖装である大剣に炎、水、雷、大地、鋼属性の霊力を送り込んだ。これにより、大剣は五つの輝きを刀身に宿し、脆い物質であれば近づけただけで圧壊するほどのエネルギーを周囲にまき散らし始めた。源が編み出した最強の技「五色斬完刀」を発動する準備が整ったのだ。ただし、今回はポラリスに使った時と違い、charge時間はほぼ0に抑えられたばかりか、かつての何倍ものエネルギーを纏っている。

「反省しろ!!」

 源はこう叫ぶと、芳彦目掛けて剣を振り下ろした。結果、五色斬完刀のエネルギーは大きな斬撃となり、芳彦に迫った。

 そして、そのまま芳彦の目の前に飛来し、霊力を爆発させて彼を驚かそうとした瞬間である。斬撃を、大剣を構えたウンディーネを阻んだ。

「な、何これ…?」

 斬撃を受け止めるウンディーネは、こう思った。

(これが、綾小路源の全力の霊力?想像していたレベルの、遥か上を行きすぎ!)

 斬撃を受け止める内に、発生している霊力の激しい奔流により、身に着けている鎧や服、その下の地肌に数多くの切れ目が入り始めた。また、強化を発動しているのにも関わらず、彼女は立っている場所から、どんどん押されている。彼女にとって、いつ力尽きて、今の斬撃で真っ二つにされるか分からない状態であるが、迸る源の霊力を感じながら、こう思った。

(この感じ、何だろう。懐かしいと言うか、愛おしいと言うか…)

 数百年前からずっと味わっていなかった、敗北するかもと言う緊張感。そして、自分の霊力が全く不快感を示さずに交わり合う。かつて感じた覚えのある感覚を覚えると、ウンディーネの全身は源の放った五色斬完刀に飲み込まれた。





 結果として、ウンディーネは倒れなかった。五色斬完刀をモロに受けた事で、全身には数多くの切り傷を作っているが、彼女は崩れなかった。

「これでも、ダメか?」

 源はこう言うと、思わず膝を付いた。先ほど掠った弾丸の呪いの影響で、力が抜けていくのである。このままでは、死に至るのは時間の問題と思われる。

「はぁ。」

 一方のウンディーネは一回ため息を付くと、その場より歩きだし、源に近づいた。

「まずい!」

 イスフィールは大慌てで、彩妃の元から飛び出し、

「彼には指一本触れさせません!!」

 レギンレイヴは、源の前に立って、ウンディーネを阻もうとしたが、

「強化。」

 ウンディーネは自身の能力で、自身の歩く速度を限界まで強化し、目にも止まらない速度で歩くと、源の傍へやって来た。

「しまった?!」

 レギンレイヴが背後を見てこう叫び、

「駄目だ、間に合わん!!」

 背中の羽で飛翔し、大急ぎで源の元に向かうネプチューンは、こう叫んだ。彼らは皆、ウンディーネが源に危害を加えると考えていたが、ウンディーネは驚くべきことをした。

「右肩ね、傷は浅いけど、呪いは結構全身に回っている。でも、この程度なら。」

 まるで診察をする医師のように彼の全身を調べてこう言うと、自身の唾液を指に付けると、それを銃弾の掠った源の右肩に塗りこんだ。

 その結果、肩の傷は塞がり、治癒した皮膚は以前以上のハリを保ち始めた。それと同時に、彼の体力なども回復し、再び立ち上がれるようになった。

「え?」

 彼女の行動に、源と彼の仲間たちが一様に驚くと、ウンディーネは源に言った。

「やっぱり、君が私の担い手みたい。」

「え?担い手?でも…?」

 この言葉に、源はウンディーネと芳彦の存在を見比べながら言った。先ほどまで、彼が担い手であると認識していた為である。

「そ、そうだ!一体どういう事だ!?」

 芳彦が訊くと、ウンディーネは彼にこう言った。

「貴方が私を利用していたように、私も貴方を利用していたんですよ。貴方を担い手と偽って、本当の担い手が誰かを見極め、その人物を覚醒させるための。」

「成程、気位の高い聖獣がこんな小物に従っている理由は腑に落ちなかったけど、そういう事ね。」

 既に担い手となっている修がこう言うと、芳彦は、

「う、うわぁぁぁ!!」

 その場から一目散に逃げ出して行った。その背を見た後、江美は何かを思い出したかのように、源に言った。

「源、こっち来て!これ、源じゃないと外せないみたい!」

「え、そうなの?」

 江美の言葉に、源はこう返すと、その場に向かって行った。





 源が鎖に触れた瞬間、江美やアーケロンドの力を持ってしても外せなかった、と言う事実が嘘のように、あっさりと鎖は外れて、今まで拘束されていた美里は解放された。

「あの、母さん、大丈夫?」

 源が、解放した自身の母親に訊くと、

「源、どういう事か教えて?」

 美里は、源に対しこう訊いた。

「え、えっと…」

 説明に困った源が、思わず顔を逸らすと、美里は彼の頬を両手で抑えて自分の顔に向けると、

「ちゃんと教えて。」

 と、言った。この一言で、源は意を決したのか、これまでの事を話す事にした。夏休みに入る少し前に聖獣と出会い、それ以来様々な出来事を経験してきたと言う事を、

「そう。」

 美里は、源の話を聞き終わると、一言こう言うと、

「例えどんな事に遭遇しても、最後には皆揃って笑顔で私の所に帰って来てくれるなら、私は何も言わないから。勿論、友達や聖獣たちもね。」

 と、源に言った。彼に対する愛情は勿論の事、絶対的な信頼感を感じさせる一言である。

 その後、源と一緒にやって来たメンバーを見渡すと、こう言った。

「博明以外は私と会うのは初めてよね。初めまして、源の母の美里です。いつも愚息がお世話になっています。」

「そんな、愚息だなんて。私たちもいつも源にはお世話になってます!」

 江美が皆を代表して、美里にこう言うと、美里は優しげ笑みを浮かべて皆に言った。

「それじゃあ、帰りましょうか。」

 彼女の一言で、その場にいるメンバーは皆は帰路に着こうとしたが、その場に留まるウンディーネを見て、源は彼女に訊いた。

「帰らないんですか?」

 彼の問いに、ウンディーネは答えた。

「少し仕返しがしたいので、貴方はお先にどうぞ。」

「? 仕返し?」

 ウンディーネの言葉に疑問を覚えたが、疲れが溜まっていたので、源は皆と家に帰る事にした。





 翌日の事である。

(まったく、あの女。あんなにあっさりと裏切りやがって!)

 昨日のウンディーネの、あっさりしすぎる鞍替えに苛立ちを感じている芳彦は、その気を丸出しにしながら病院へと出勤した。いつも通りの勤務となると思ったが、何故か今日は病院の入り口に、沢山のマスコミ関係の人間が屯っていた。

(? 何だ?)

 芳彦がこう思いながら入り口に近づくと、

「六輪芳彦さん!今朝の新聞は見ましたか?」

「あの記事について、一言お願いします!!」

 カメラやマイクなどを持ったマスコミたちが、芳彦に迫り、意見を求めてきた。彼自身新聞はちゃんと読むが、今朝は苛立ちを感じていたので、新聞には目を通していなかった。

「通してくれ、私は忙しい!」

 芳彦はマスコミにこう言うと、彼らを押し分けて病院の中に入った。

 病院の中に入った後も、芳彦への注目は治まらなかった。ある者はあからさまに目線を合わせるのを避け、ある者は彼を横目に見ながら、ひそひそと話しこんでいる。

(何なんだ、何で今日はこんなに腹立たしい事が朝から?)

 芳彦がこう思いながら院長室に行くと、部屋の机の上に今日の朝刊が置かれていた。そこには、一番目立つ欄に大きな字で、

「○○病院の院長の不祥事、汚職発覚。」

 と、書かれ。彼が今の立場に付き、その立場を守るためにやって来た、様々な事が事細かに書き記されていた。

「な、何なんだこれは?!」

 芳彦が机を叩きながらこう言うと、部屋に誰かが入って来た。黒いスーツを着た、二人の男である。両者は芳彦の前に来ると、スーツの胸ポケットからある物を取り出して芳彦に見せると、一人が懐から一枚の紙を出して芳彦に見せ、もう一人がこう言った。

「六輪芳彦、横領、収賄、殺人…(以下省略)…の容疑で逮捕する。詳しい話を聞きたい、署まで来てもらおうか。」

 そして、芳彦の手に手錠を掛けようとした瞬間、芳彦は彼らを突き飛ばして、その場から逃げ出した。





 逃げ出した芳彦は、昨日激しい戦いが行われた屋上へ来ると、こう思った。

(そうか、あの女の仕業か。前から信頼できないと思ってはいたが、所詮は女としてだけ役に立っただけの女だったと言う事か。)

「へえ、そういう風に思っていたんですか?」

 すると、芳彦の背後に、昨日彼に源達を始末するように依頼した張本人、エリスが現れた。

「な、何でここに?」

 芳彦がこう言うと、エリスは彼に告げた。

「実はあの後、あの方より新しい指令が降りたんです。貴方が成功したなら放置、もし失敗した場合は、情報漏えいを防ぐ為に、始末しろと。」

「な、何?」

 芳彦は、エリスの言う、失敗と始末と言う言葉に反応すると、彼女にこう言った。

「な、何が目的だ?金か?金ならいくらでも払う、だから!」

 しかし、彼の言葉に対し、エリスは表情一つ変えずに、こう言った。

「本当は気が乗らないのですが、貴方は個人的に気に入りません!」

 そして、目にも止まらない速さで彼の懐に入り込むと、勢いよく繰り出された回し蹴りで、彼を屋上から突き飛ばした。その後、下からドサリと言う音が響くと同時に、エリスはその場を後にした。





 一方その頃、源は家で熟睡していた。昨日の疲れが溜まっているのと、何故か布団の中が涼しいからである。

「う、うーん。」

 何でこんなに寝心地が良いんだ、源がこう思いながら眼を開くと、目の前には何故かウンディーネが居た。勿論、鎧は身に着けていない。

「ZZZ.」

 気持ちよさそうに寝息を立てるウンディーネを見ながら、源は有る事を決意した。彼はベッドから抜け出ると、窓まで歩いて行き窓を開くと、ウンディーネの来ている服を掴み、彼女を放り投げ、外に追い出した。

「キャァ!!」

 外から聞こえてきたウンディーネの悲鳴を聞きながら、源は伸びをしながら考えた。昨日の事件では、紆余曲折を経て自分が水の担い手であると判明したのだ。

 これにより、これからどのように運命が動いて行くのかは分からない。だが、一つだけ分かっている事はある。ただでさえ厄介ごとで溢れる彼の日常に、また新たな厄介ごとが増えると言う事である。


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