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聖獣王伝説  作者: 超人カットマン
第四章
23/55

第二十二話 海王対決

 今回の話の始まり。それは、夏休みが始まり、海水浴に来ている横で釣りをしていた綾小路源が、ウンディーネを釣り上げた瞬間より後にある。

 綾小路源と別れたウンディーネは、自分の来た街に居ると言われる、自身の担い手になる人間を探して街中を歩き周っていた。勿論、聖獣としてのドレスと鎧の姿では一目を引きすぎてしまうので、今の彼女は普通の黒いスーツ姿となっている。だがしかし、彼女自身が長身でスタイルの良い美女であるが故、スーツによって引き締まった美しいボディラインが道を行く人の目を、男女を問わず惹いてしまい、結局目立たない行動は出来なかった。

「はあ、何で目立っているんですか?」

 ウンディーネは自身が目立っている理由が分からず、思わずため息を付いてしまった。

(それにしても、どの方が私の担い手なのでしょう。)

 そして、自身の本来の目的である、担い手は一体誰なんだと思いながら、周囲を見渡した。彼女自身、担い手に出会った事は何千年生きながらほぼ数回、まともに付き合ったのはその半数にも満たないので、誰が自分の担い手がどのような人物になるのか、皆目見当が付かない。分かっているのはただ一つ、担い手になる人物の霊力は自分の霊力と何の抵抗も無く混じり合う事ができる、と言う事である。

「これまで会った人間の中に、私の担い手になり得る人物は居ませんね。ただ、一人を除いて。」

 ウンディーネは路地裏に入って人々の目線を避けると、ため息を付きながらこう言った。その後、彼女の言う除かれた一人、もしかしたら担い手なのでは無いか、と思われる一人の人間の事を思い出した。

「綾小路、源、か。きっと将来は大物になりそうですね。」

 ウンディーネが気にしている相手は、しばらく前に出会った人間「綾小路源」の事である。彼は神司であり、聖獣王伝説を目指しているようだったが、勝ち目が無い勝負から堂々と下りると言う面を見せた。普通に見れば、勝ち目が無いので逃げる、と言う行動はどうかと思われるが、そもそも人間は勝負事から堂々と退く、と言う事自体が困難である。

「……と言うか、何であの子の事を考えているのよ!」

 しばらくすると、ウンディーネは顔を赤くしながらこう言って、自身の考えを振り払った。その時、かつて自分の同胞である「空皇シルフ」に言われた事を思い出した。

「八部族の皇はどうか分からないけど。少なくともボク達四始祖と、その担い手は互いに引き合う運命があるみたい。きっと不思議な縁があるんだろうね。」

「まさかね……」

 ウンディーネがこう呟いた時である。

「担い手をお探しですか?」

 誰かがウンディーネに話しかけた。

「この霊力の波長、巨人族の聖獣ね。」

 ウンディーネがこう言いながら、声のした方向を見た。そこには、綺麗な金髪を肩まで伸ばし、白い露出度の高い服装をしたスタイルの良い美女。これより後に綾小路源とその仲間達と簡単にであるが交戦する事になる聖獣、通称エリスが居た。

「初めましてですね、海皇様。突然ですが、担い手について少し情報を持ってきました。」

「何の目論見?」

 エリスの言葉を警戒しているのか、ウンディーネは腰の大剣「アナクルーズモス」に手を掛けながら言った。

「あの、言ってしまうのは憚られますが、私は貴女が恐いんです。そういう物騒な事は止めて貰えますか?」

 エリスはウンディーネに対してこう言うと、ウンディーネは若干であるが警戒心を抑えて訊いた。

「改めて聞くわ?何の目論見?」

 この問いに、エリスはこう言った。

「黙秘で勘弁してもらえませんか?一応一隊を率いているとはいえ、これでも下っ端の一人なのです。これの。」

 その後、指の動きで「仕事」と言う事を伝えると、ウンディーネは彼女に訊いた。

「参考までに訊かしてもらうけど、私の担い手たる人物は一体どなたなの?」

「こちらの写真の方です。住所の方も記載しておきましたから、後は頑張ってください。」

 エリスはこう言ってウンディーネに一枚の写真とメモを渡して、そそくさとその場を後にしていった。

「ふーん、この人か。」

 残ったウンディーネは、写真を見ながらこう呟いた。そこに映っていたのはメガネをかけた一人の男で、この男が後に大事件を巻き起こす事になるとは、ウンディーネ自身予想はしていたが、あまり深くは考えていなかった。





 時は流れて現在。時刻としては、綾小路源達が京都にて名取修とその聖獣、そして妖精女皇ミステリアと出会い、松井祐介達と吉岡直樹達が廃工場でドロシーと邂逅し、激闘を繰り広げている時の事である。

 清水の町で一番大きな病院、そこに一台の救急車が駆け込んできた。急患を乗せてやって来たのだ。救急隊員が大急ぎで急患を乗せた担架を下すと、病院の中へと駆け込んだ。その瞬間に、あちこちから看護師が集まると、その中でもベテランと思われる看護師は皆に指示を出した。

「早く先生を呼んで、それからバイタルの確認を急いで!」

「心拍数が低下しています、早く手術をしないと手遅れに!」

「駄目です、当直の医師は皆出払っています!」

 しかし、急患が来たと言う事態に置かれながら、時間が時間であるが為に多くの医師が出払い、医師が居ても専門外であると言う事態に置かれ、看護師は困り果ててしまった。自分たちは何をしてでも病人を救わねばならないと言うのに、出来る事が何も無いのだ。

 そんな時である、

「どうしたの?」

 一人の女性が看護師の一人に声を掛けた。白衣は来ておらず、荷物も持っているが、この状態に置かれた看護師に話しかけている所から考えて、仕事を終えて帰宅する医師だと思われる。

「あ、綾小路先生。」

 話しかけられた看護師は、話しかけた女性、本名「綾小路美里」に気が付くと、置かれた状況を説明した。患者はかなり危険な状態に置かれており、すぐにでも手術をしないと命に係わると言う事を。

 話が終わるや否や、美里はこう言った。

「私が執刀するわ。直に患者を手術室に、第四は空いているはず!」

「宜しいんですか?折角仕事が終わって久しぶりに帰れるのに?」

 看護師はこう訊いたが、彼女ははっきりした意志を持ってこう言った。

「患者の命が掛かっているの!すぐに準備して、私もすぐに行くから!」

「……分かりました。」

 看護師はこう言うと、他の看護師に指示を出して、患者を手術室に連れて行った。





 一方の美里は、直に自分のロッカーのある場所へと行くと、今までの帰り支度から一転し、手術室に入るための緑色の手術着を身に着けた。

 準備が整った美里が手術室に向かうと、一人の男が話しかけた。メガネを掛けて顔立ちも細いため頭が良さそうに見えるが、生意気そうな表情から、ずる賢そうな性質を思わせる見た目のこの男は、この病院の院長である「六輪芳彦」である。

「帰ろうとした途端に急患の手術かい?全く忙しいね。」

 彼は美里にこう声を掛けると、

「患者を救うために自分の都合を曲げる覚悟は認めるけど、働きすぎには気を付けてくれ。君を失ってはこの病院は態勢を大きく崩してしまう。そうすれば、困る患者が何人と出てくる。」

 と、美里に言った。

 一方の美里は、上辺だけで笑顔を浮かべると、

「気を使って下さり感謝します。ですが、私自身まだ問題は無いと思いますし、患者も待っていますし、これで失礼します。」

 と言って、その場を後にした。互いの背中だけが向かいあう距離になると同時に、美里は心の中で、

(白々しい)

 と、思った。

 この病院の院長である六輪芳彦は、外観だけは医療の発展や患者の救済に誰よりも必死になっている医師の鑑である。ただし、それは外観だけで、彼の本性は患者を食い物にして自分の利益だけを優先する最低な医師であり、金を使って手に入れた院長の立場を守るために、極道とも手を組んで自分にとって不利な要素を持つ者を始末しているとも専ら噂になっている。

 美里の心配をしているのも、この病院の金看板とも言える綾小路美里が居なくなる事で、ここを頼る患者が減る事を恐れての事であり、もし彼女を超える医師が現れれば、即刻彼女を切り捨てるであろう。

 例えるとすれば、太陽を喰らいながら大きくなり、一時的にであるが太陽を完全に覆ってしまう昼間の月、と言った所であろう。

 それはともかく、美里は患者と一緒に看護師や助手の待つ手術室に入ると、皆に言った。

「それじゃあ、術式を開始します。」





 手術室で手術が始まった頃、芳彦は院長室へと足を運んでいた。彼は部屋の中に入るや否や、誰も入って来ないように部屋の鍵を施錠すると、部屋の中に声を掛けた。

「居るか?」

「はい。」

 すると、打てば鳴る速さで、以前この町に自身の担い手を探しにやって来たウンディーネが現れた。エリスの言う担い手だと言う男は、この芳彦だったのである。あの後に早速彼の元を訪ねた彼女は、聖獣の事や担い手の事を事細かに説明し、貴方が今代の水の担い手なのだと話し、こうして傍に置いて貰っているのだ。

 それ以来、何かがあると呼び出されては仕事を押し付けられるのが日常になっている。書類の整理や掃除等であれば文句は言わないが、時と場合によっては暗殺等も頼まれてしまうため、若干であるが辟易している。

「今日はどうしました?」

 ウンディーネが芳彦にこう訊くと、芳彦は彼女にこう訊き返した。

「君には医学の心得は有るかね?」

「医学ですか?有りませんけど、治癒術の心得なら有りますよ。」

 芳彦の問いに、ウンディーネがこう返した。ウンディーネは命と癒しを司る「水」の始祖とされる聖獣であるため、全体の半分以上が水で構成される細胞で構成される生き物の病気などは、自然性で無い物を除けば、インフルエンザでも一瞬で治癒させる能力があるのだ。

 ウンディーネの答えに、芳彦にこう言った。

「それなら、これから人間として、この病院の医師になってくれないか?医師免許の類はこちらで用意する。」

「? 何でまた?医師なら優秀なのが沢山居るでしょう。」

 芳彦の言う事に疑問を覚えたウンディーネが思わず訊き返すと、芳彦はこう言った。

「最近になってだが、綾小路美里の行動がおかしいんだ。どうやら、色々と私にとって不都合な情報を集めているらしい。」

「用は、彼女を始末した後の新しい金看板を立てる為と?」

 ウンディーネの言葉を肯定すると、芳彦は彼女に言った。

「その後の準備は私がするから、君は手術が終了する隙を狙って彼女を始末するんだ。君のような存在は、担い手の為に働く者だろう。」

「……分かりました。」

 ウンディーネはこう言うと、液化して部屋を出て行った。





 その出来事よりしばらく後、清水の町より遠く離れた場所にある湖「浜名湖」の湖畔に、妖精女皇ミステリアの空断(エアブレイカー)で飛ばされてきた綾小路源達が現れた。

「うう、ここはどこ?」

 落下の際に思い切り尻を打った江美がこう言うと、博明は周りを見回しながら言った。

「浜名湖の湖畔だね。」

 博明の目線の先には、ウナギの養殖の看板や、この場所が浜松市である事を示す看板がある。

「取りあえず静岡県には来たけど、目的地の清水まではまだまだ遠いな。」

 修が傘を差しながら言うと、江美は源に言った。

「と言う訳だから、後で立て替えるから電車代お願い。」

「………分かったよ。」

 源は少し考えると、こう言った。本来必要だった四人分に一人分増えたとは言え、浜松から清水に行くのであれば、京都から清水まで行くのに比べればかなり安上がりだからである。

「言っておくけど、一つ貸しだからね。」

「分かっているよ。」

 源の一言に彩妃はこう言うと、五人で駅のある場所へ歩いて行った。





 その数時間後、夏である事で日の入りは遅いとは言え、太陽は完全に沈んで空には月と星と夜空が現れた。子供が家から出なくなるのは勿論、大人も家路を急ぐ時間帯であるにも関わらず、先ほど機械皇と邂逅し、Xプログラムを託されて来た薫と直樹、祐介達は帰宅せず、ある場所にやって来ていた。目の前には、街で一番大きいと言われる病院がそびえたっている。

 何故彼らがこの場所に居るのか、それは、薫のギュオンズの一言から始まった。

「薫、少し良いか?」

 廃工場から薫たちが帰ろうとした瞬間、ギュオンズが薫にこう言ったのだ。

「一か所寄って行きたい場所があるんだけど良いか?なんかその場所から、良からぬ霊力を感じる。」

「良からぬ霊力?何それ?」

 ギュオンズの一言に、薫は勿論、他の面子も興味を示すと、ギュオンズは感じている霊力の説明をした。

「霊力と言うのは、人間の感情や意志と言った物を司る力だと言う事は知っているよな。だからこそ、人が放出した霊力の中にはその人の欲望の成分が含まれることもあるんだ。」

 ギュオンズが言うには、自分の感じている霊力の中に、人間の穢れた欲望、そしてそれを隠してまだ余る程の巨大な欲望を感じるのだと言う。

「つまりそれは、どこかの聖獣が悪い事を考えていて、そのために人間を騙して利用していると言う事?」

 ギュオンズの説明を訊いて、小雪がこう言うと、

「ご名答。」

 と、ギュオンズは言った。

 なので、ほっとく訳には行かないと言う事になり、このまま帰宅しようと考えていた五人は予定を変更し、今居る場所へとやって来たのだ。

「この場所で何かが起こっているの?ギュオンズの言う通りにやって来たけど。」

「病院ね、電車や洋館並にサスペンスの舞台になる場所だ。」

 直葉、直樹がこう言うと、祐介は言った。

「とにかく油断はしない方が良いな。何が起こるか分からない。もしかしたら、本当に物凄い事が起こる事があるかもしれない。」

 明確にそうとは言わないが緊張しているのか、祐介は扇子を振り回している。その瞬間である、どこからか声が響いた。

「かもしれない、じゃなくて、もう起こっているの。」

「え?」

 突然の声に、五人が同時に周りを見ると、そこは現実世界では無く、決闘空間に変わっていた。

「決闘空間、いつの間に!?」

 直樹がこう言うと、彼らの前に青いドレスと鎧を身に着け、青い髪を長く伸ばした女性の姿を取る聖獣、ウンディーネが現れた。普段は腰に差している大剣、アナクルーズモスを抜き放っている。

「敵?」

 五人は一様にこう思うと、聖装を構えて聖獣を召喚した。





 その頃、清水駅では、

「や、やっと着いた。」

 到着した電車から降りた源が、伸びをしながら言った。

「何だかな、近所の山に虫取りに行ったと思えば、浜松から電車で帰る事になるなんて。」

 彩妃がその後に降りてくると、江美と博明、修が彼らに合流し、こう言った。

「さっき祐介君から連絡があったんだけど、滅茶苦茶強い聖獣と交戦しているんだって。」

「滅茶苦茶強い聖獣?」

 源と彩妃が同時にこう言うと、連絡を受けていた江美が交戦している聖獣の特徴を説明した。

「全身青色で、大剣を持った女性の巨人族聖獣だって。」

「え?」

 江美の説明に、彩妃はともかく源は驚いた。彼はその特徴を持つ聖獣について、一人心当たりがあるからだ。

「となると、早く応援に行った方が良いよ。そいつ、四始祖の一人だから。」

 源はこう言うと、皆を連れて現場へ向かって行った。





 一方、その現場での戦いはどうなっていたかと言うと、

「ラン!パワーフレグランス!!」

 ランことラベンダードラゴンが、ウンディーネと距離を取った事を確認した直葉は、聖装で一枚のカードを読み込んだ。その結果、ラベンダードラゴンは口から特殊な匂いを発する気体を吐き出した。

 ラベンダードラゴンの吐き出した気体「パワーフレグランス」には、嗅いだ味方の攻撃力を高める力がある。

「良し、ダークヒドラ!!」

「フレアショット!!」

 パワーフレグランスが効いて、攻撃力が高まった事を確認した祐介と直樹は、それぞれ技カードを聖装で読み込んだ。それにより、ハイドラは十本の首から大量の黒い炎を吐き出し、フレアノドンは口から火炎玉をショットガンのように吐き出した。

「渦巻け!」

 対するウンディーネは、何もする事無く持っている大剣を地面に突き立てた。その結果、剣を突いた場所から大量の水が吹き出し、ハイドラのダークヒドラ、フレアノドンのフレアショットを防いだ。

 ウンディーネの持つ大剣「アナクルーズモス」の銘には「激流」の意味があり、一回どこかに突き立てるとその場所から水が溢れ、二回突けば水に流れが伴い、三回突けば流れは渦となって、海で暮らす魚さえも溺れさせる事が出来る。今のは一回突き立てた事で、どこかの水脈の水がこの場に召喚されたのだ。

「防がれた?!」

 直樹、祐介、フレアノドン、ハイドラが同時にこう言うと、炎とぶつかり合った水は蒸発して蒸気となり、あたりを包み込んで周りが見えなくなった。

「今だ!!」

 だが、この蒸気で相手も周りを確認できないと判断した小雪、薫は、追撃の為に技カードを読み込ませた。

「ハイパーラッシュ!!」

 聖装の読み込んだ技カードの効果で、ビッグフットとギュオンズは同時に蒸気を振り払ってウンディーネに飛びかかると、物凄い勢いでパンチを連射してウンディーネを攻撃し始めた。

「くっ!!」

 一方のウンディーネは、地面に突き立てたアナクルーズモスを抜いて、盾として使用し防御した。

「行っけぇ!!」

 この時、薫と小雪は同時に叫んだ。それにより、ビッグフットとギュオンズは共に拳撃の速度を上げてウンディーネを攻撃した。

「このまま行ける?」

 直葉がこう言うと、その隣で様子を見ていた祐介はこう言った。

「いや、それは無理だよ。あれほどの威力の攻撃を受けているのに、吹っ飛ぶどころかのけぞる事すらしていない。」

 祐介の言葉を受けて、他の四名は改めてウンディーネの状態を見た。彼の言う通り、彼女は攻撃を受け止めた瞬間と同じ態勢を維持しており、涼しい表情を浮かべている。

 ビッグフットとギュオンズ、両者がそれぞれ70発パンチを放った所で、ウンディーネは動いた。

「皇技、強化(ハイパーブースト)。」

 攻撃を受ける中、ウンディーネがこう言った瞬間である。ウンディーネの腕の筋肉が一時的に膨張して肥大化すると、今まで以上の力で剣を振り、ビッグフットとギュオンズの両者を同時に吹っ飛ばしてしまった。

「ぐわぁぁ!!」

 両者が吹っ飛ぶや否や、ウンディーネの腕の筋肉は元に戻り、今度は突然見えなくなった。

「消えた?」

「透明化?」

 直樹、小雪がこう言った瞬間である。二人は背後に何かの気配を感じた。

「?!」

 聖装を構えて振り返ると、そこにはウンディーネが居て、アナクルーズモスで斬りかかろうと構えていた。直樹は聖装のハンマー、小雪は聖装の斬馬刀で攻撃を受け止める事ができたが、もし反応が一瞬でも遅れていれば、今の斬撃で真っ二つにされていたかもしれない。

「小雪?!」

「直樹!? 大丈夫?」

 他の三人が二人の状態に気が付くと、ウンディーネは再び高速移動を始め、その場を離れた。

「い、一体何なの?」

 直葉が訊くと、直樹は答えた。

「物凄い速度でここを走り周っているんだ。油断すると真っ二つに……」

 直樹がここまで言った瞬間である。

「ぐわぁぁ!!」

 突如フレアノドンが大きく吹っ飛んだ。その次の瞬間には、ハイドラが態勢を大きく崩し、ラベンダードラゴンがひっくり返った。

「三体一気にやられた?」

「今度はどこから?」

 直葉、小雪がこう言う中、薫は一つ考えを巡らせていた。

(Xプログラム、これを使えばあの速度とパワーには敵うだろうけど、ダウンロードまで待ってくれるかどうか?)

 薫はこう思うと、まだ残っている小雪に合図した。

(少し時間を稼いで欲しい)

 この合図に、小雪はこう返した。

「無理、速すぎて捉えられない。」

 先ほど小雪がウンディーネに反応出来たのは完全に直感によるもので在った為、聖獣を狙って走り周っている為に、自身への攻撃への意志が感じ取れない為に、行動を起こせないで居る。

「しょうがない。無茶だけど、力づくで。」

 薫はこう言うと、光る球体の描かれたカードを聖装で読み込んだ。これを使用する事で、ギュオンズの中に聖装で保管しているXプログラムをダウンロードするのである。

「Xプログラム、ダウンロード開始。ダウンロード終了まで、残り30秒。」

 ギュオンズはこう言うと、跪くような体制になって停止した。この状態でXプログラムをダウンロードし、全身をそれにあった形状に変形させるのである。

「ビッグフット、ギュオンズを護衛して。攻撃の瞬間なら相手も実体を現す筈、その瞬間に冷凍するよ!」

 小雪がこう言うと、ギュオンズの元にビッグフットは降り立ち、構えを取った。ウンディーネが切りかかって来た瞬間を狙い、彼女を冷凍して止めるつもりなのである。

「ダウンロード終了まで、残り15秒。」

 Xプログラムがダウンロードされるまで、残り半分となった瞬間である。今まで高速移動していたウンディーネが攻撃に転じた。

「虚像連速剣!!」

 どこからか声が響き、ビッグフットが攻撃を行おうとした瞬間、ギュオンズとビッグフットの周囲に大量のウンディーネが現れた。

「な、何だこれ?」

「水で分身を作ったのよ。」

 突然の事に薫が驚くと、小雪はウンディーネが何をしたのかを説明し、一枚のカードを聖装で読み込んだ。

「八方氷壁!」

 その瞬間にビッグフットは両手を地面に付けると、自身の周囲に大量の氷柱を発生させた。かつて大量のドラゴン族聖獣に神司部の面子が襲撃された際に、ラベンダードラゴンの「防火炉威戸」と合わせて使用した防御用の技である。

「10秒くらいは持ちこたえてよ。」

 氷柱の中でブルブル震えながら小雪がこう言った瞬間である。突如氷に罅が入り始めた。

「え?何で?」

 小雪が予想外の出来事に驚くと、外から氷を砕いて飛びかかって来たウンディーネは、こう言った。

「私は水の始祖なのだから。水が変質する事で構成される氷だって思い通りに出来る。」

 彼女の言いたい事をストレートに言うなら、氷ごときで自分を阻む事は出来ない、と言う事である。

(こうなったら、私が体を張って)

 飛びかかるウンディーネを見ながら、小雪がこう思った瞬間である。

「行けぇ!!」

 自分の知っている三人と、知らない二人の声が響いた。その瞬間、どこからか十本の触手と一本の尾が伸びてきて、ウンディーネを雁字搦めに拘束した。

「良し。」

「どうやら間に合ったようですね。」

 尾の正体はヘルニアで、触手の正体はクラーケンと融合したレギンレイヴである。浜松より電車で清水へ戻って来た源達が、ようやく駆けつけたのだ。

「って言うか、今までどこに行ってたのさ!?」

 神司部の面子である直樹、薫が源と江美、彩妃に訊くと、

「ちょっと京都までね。」

 皆を代表して江美がこう答え、彼女も聖装を構えると、

「取りあえず時間稼ぎなら、もう少しやっても罰は当たらないよね。」

 と言って、自身の聖獣であるアーケロンドを召喚した。江美の隣の彩妃も、同じようにイスフィールを召喚すると、召喚された二体の聖獣はウンディーネに飛びかかり、アーケロンドは前から、イスフィールは後ろからウンディーネを拘束した。ウンディーネは何とか脱出しようとしているが、拘束している四体の聖獣はとにかく力が強いので、悪戦苦闘している。

 その内に、

「Xプログラム、ダウンロード完了。」

 ギュオンズのXプログラムのダウンロードが完了し、ギュオンズは普段の姿から、全身が何倍にも大きくなり、腕も足も長くなり、首も現れた頭部は龍のような形状に変形した姿になった。

「………」

 変形したギュオンズが赤い瞳で拘束されたウンディーネを睨み付けると、四体の聖獣は拘束を解いてその場を離れた。

「あれはまさか?白龍?」

 拘束を解かれたウンディーネが、変形したギュオンズの姿を見ながらこう言った瞬間である。ギュオンズは突如その場から姿を消した。

「え?」

 Xプログラムを得た状態のギュオンズを見た事が無い面子が一様にこう言った瞬間である。ギュオンズはウンディーネの前に現れ、ウンディーネがそれに気が付くや否や、ウンディーネはギュオンズに殴り飛ばされ、大きく吹っ飛ばされた。その際、とてつもない勢いで飛んで行った為に、道路のアスファルトが深く抉られ吹き飛んでいる。

 吹っ飛んだウンディーネは最終的に団地の一つに激突し、瓦礫の下敷きとなった。アスファルトに団地一棟、現実世界で壊れれば被害総額は数千万円以上に及ぶが、彼らの居る場所は決闘空間なので、現実世界には何の問題も無い。

「痛た。」

 瓦礫の中からウンディーネが起き上がると、ウンディーネを殴った態勢で止まっていたギュオンズは再び飛び出し、ウンディーネに掴みかかった。ウンディーネはそれを手で受け止める事が出来たが、制御不能状態のギュオンズはその状態のまま飛んで行った。

「プログラムの欠損、ゆえに制御不能?!」

 ウンディーネは何とかギュオンズを止めようと持ちこたえながら言った。その際、彼女が立っている道路は彼女が押されていくと同時に深く抉られていった。

「だけど!!」

 押される事百数メートル地点にて、ウンディーネは強化を発動して脚力を強化し、ギュオンズを完全に停止させると、腕力を強化してギュオンズの頭を地面にめり込ませた。

「………」

 頭部を地面にめり込まされた事で大きなダメージを受け、ギュオンズが薫の聖装の中に戻ると、ウンディーネは強化した脚力高速移動し、十人の神司の前に現れた。

「く、どうする?」

 戦力の内、半数を倒された状態での戦闘になりそうな中、後から合流した五人の神司は戦闘態勢を取った。





 綾小路源達と、ウンディーネの戦いが再び始まろうとした瞬間である。

「ヴルムレーザー!!」

「レール・ガン!!」

「エアブレイカー!!」

 上空から二つの閃光と一本の斬撃が飛来し、ウンディーネを攻撃した。

「こ、この技は?」

 その場に居る源とその仲間達が、攻撃により発生した衝撃に耐えながら言うと、

「まったく、病み上がりに無茶な事を要求するモノだな。」

「まあ、暇なら良いでは無いか。」

「運動不足も解消しないとね。」

 空の上から、巨大な翼と爪を持った赤いドラゴン「龍皇バロン・サムディ」と、宇宙船を思わせる形状から、甲冑を着込んだ騎士を思わせる姿の機械族聖獣「機械皇プトレマイオス」、長い黒髪が特徴の幼い少女の姿を取る妖精族聖獣「妖精女皇ミステリア」が現れた。

「皇様が三人も?!」

「何でまた?」

 あまりにも豪華すぎる布陣に修が驚き、源がどうしてここに居るのかを訊こうとすると、

「私が呼んだんだ。」

 と、言って、地中から植物女皇ラフレシアが現れた。彼女はこのような事態になる事と、ウンディーネがおかしな事をしていると言う事実について本人に確かめるべく、こうして他の皇も呼んだ態勢を敷いたのだ。

「海皇様、これ以上この町で勝手をなされるのは認めません。もし続けると言うのなら、この布陣でお相手しますが?如何します?」

 戦闘力レベル7000の部族皇四人、普通ならどれほど自身過剰な神司であっても勝負を拒む状況である。皇四人はどうあれ、源達は、

(さすがのウンディーネも、勝負は拒むだろう)

 と、考えた。

 しかし、ウンディーネは笑みを浮かべると、四人に対してこう言った。

「水と氷を何にも勝る天敵とする機械族と、皇になって間もない三人の皇が何を言いだすのかと思ったけど。まあ良いわ、見せてあげる。子供が齧った程度の皇技では至らない、貴方たちが聖獣になるよりずっと前から積み重ね続けた、本物の皇技の真髄を。」

 ウンディーネの言葉に、源達は一様に驚いた。彼女の宣言を直球表現にするならば、四人の皇に対して堂々と喧嘩を売ったのである。

「そうですか、では致し方ありませんね。」

 一方のラフレシアはこう言って自身の刀「ノイバラ」を抜き放ち、ミステリアは細剣を構え、プトレマイオスは斧を取り出し、バロン・サムディは構えを取った。

 かくして、五人の皇による戦いが幕を開けた。


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