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聖獣王伝説  作者: 超人カットマン
第四章
21/55

第二十話 京都来訪

 源達が聖獣の森の危険エリアに入り込んでしまった頃、京都では一人の少年が赤い和紙で全体を覆われた和傘を差して、街中を歩いていた。彼の肌は日焼けとは無縁な白さを誇っており、日差しと言うものをとても気にしているのだろう。

「今日も穏やかな日和で、良かったですね。」

 すると、その場には誰も居ないが、誰かが彼に声を掛けた。しかし彼は、太陽の照りつける空を見ながら、その相手にこう言った。

「いいや、これから嵐が起こりそうだ。東の方から良くない風が吹いている。」





 そして数時間後の事である、京都の清水寺、境内の下の森の中に突如空洞が現れると、その中から源、江美、彩妃、博明の四人が放り出された。

「み、皆、無事?」

 江美がこう訊くと、

「多分。」

「何とかね。」

 源と彩妃はこう返し、無言だが博明も肯定すると、彼らは立ち上がって周りを見回した。

「それより、ここどこ?」

 江美がこう言うと、源はある物を見てこう言った。

「京都じゃない?ラフレシア様は京都に飛ばすって言っていたし、それにあれ、どう考えても清水寺の境内だよ。」

 彼らの頭上には、まるで大きなベランダのようなスペースがある。そこには数多くの人が集まって、カメラや携帯で写真を撮っている。この境内は、一度でも外観を見た事があれば、誰も見間違える事は無いだろう。

「京都と言えば修学旅行で行くイメージがあるけど。」

 江美がこう言うと、源は皆に言った。

「とにかく、こんな場所に留まらないで、今は人里に出て行きませんか?」

「そうだな、どんな悪い虫が居るか分かったもんじゃ無い。もしもの事が起こる前に、ここを出た方が良いな。」

 博明もこう言ったので、四人は一旦その場を後にした。





 その後、古風なつくりの建物に設けられた土産物屋が軒を連ね、地元の人間から観光に来た人間まで、様々な人が行きかう道を歩きながら、江美は源に訊いた。

「それで、いざ人里に出てどうするの?」

「それを僕に訊きますか?普通それは江美が決める事ですよ。」

 江美に源がこう返すと、皆に言った。

「あの森を離れる前に、ラフレシア様はこう言ってました。妖精の担い手がこの町に居ると。」

「つまり、目下最大の目標はその担い手を探すと言う事か。」

 源の言葉を聞いた博明は、彼にこう言った。因みに、彼の聖装となっているライフルは、偽装形態である補虫網になっている。ただし、以前までのボロボロの補虫網では無く、新品当然の状態になっている。更には、今までの補虫網になかった、折り畳んで小さくする機能まで付いている。

 すると、源の聖装の中からヘルニアが口を挟んできた、

「でも、担い手を探すと言うのは苦労するぞ。私自身は会った事が無いから分からないが、担い手と言うのはふさわしい人間が、神司であろうと非神司であろうと容赦なく選ばれる。この町の人間全員を候補に挙げれば、一日は愚か、お前たちの夏休みを全て費やしても間に合わないぞ。」

「そういう物なの?」

 ヘルニアの言葉に、源がこう返すと、彩妃がある事に気が付いた、

「やっぱりここは、妖精族の聖獣に訊いてみましょう。」

「妖精族?ああ、そうか。」

 彩妃の言葉に江美が納得すると、四人は揃ってその場を離れ、人気のない場所へと向かった。

 彩妃はその場でイスフィールを具現化させると、彼女に訊いた。

「妖精族の皇様を探してるんだけど、何か知らない?」

「妖精族の皇、ですか?」

 呼びだされたイスフィールは、少し考えた後にこう言った。

「申し訳ありませんが、私はこれでもオーディン様にお仕えするヴァルキリーですので、妖精族の皇に付いての知識は余り有りません。ましてや誰が担い手か等と言う事は…」

 ヴァルキリーと言うのは確かに妖精族に属する聖獣であるが、彼女たちに与えられている任務は主に、戦争のあった土地で散った戦士の魂を「ヴァルハラ」と呼ばれる場所に連れて行き、そこでの彼らの暮らしを支える事、オーディンの身に何かがあった時、彼の護衛を行う事、戦争のあった土地の復興を行い、その地が再び様々な植物で覆われた豊かな土地に戻す事である。その為、彼女たちは常にヴァルハラに常駐しており、イスフィールのように神司を持つ特例も居るとはいえ、基本的に他部族や他の妖精の種族と関わりを持つ事は少ない。それゆえに、妖精族で在りながら、自分たちの部族の皇については余り知らないようである。

「ああ、ですが、皇様に付いての知識は有りますよ。」

 その後すぐに、イスフィールはこう説明を付け足した。

「妖精皇マナナーン・マックリール、水属性の妖精族聖獣で、その実力は水の始祖ウンディーネ様にも匹敵すると言われています。私は直接会った事は有りませんが、とても人格者であり、他の部族の皇にも高い評価を得ていると言います。」

 イスフィールの説明を聞いた四人は考え込み始めた。同じように植物族の皇であるラフレシアの場合は、船越自然公園の中にある森の一角を異空間にする事で、自分の拠点を作り上げていた。この法則に則って考えれば、水属性を持つ妖精族の皇は、水に関わりのある土地に拠点を設けているはずである。

 とりあえず、どこかで地図を見つけ、そこで探す場所を特定しようと考えたが、それより前に、四人のお腹が同時に鳴り響いた。時計を見ると、丁度お昼時である。

「まずは、ご飯にしましょう。」

 江美の提案を誰も否定しなかったので、彼らは適当な食事処を見つけて、そこで昼食をとる事にした。





 場所は変わり、清水寺のある場所から少し離れた場所に、一人の少年がやって来た。日傘として、赤い和紙で覆われた和傘を差している。

 彼は自分の足元を調べながら呟いた。

「これは、ここで高い霊力の反応が起こっている。」

「どうしたのですか?修?」

 すると、どこからか誰かが「修」と呼んだ少年に訊いた。

 彼の本名は「名取修(なとりしゅう)」京都に住んでいる小学六年生の少年である。ちなみに、彼も神司であり、先ほどの声の正体は、彼と契約している聖獣だ。

「誰かがここで転送の為の技を使った。もしくは、誰かが転送の技でここにやって来た。」

 修はこう呟くと、自身の聖獣に訊いた。

「技の種類は分からない?」

「そうですね。この場所は緑で覆われています。恐らく、植物族の空洞茎だと思われます。」

 聖獣がこう答えると、修は思った。

「こうなった以上、僕らでも何かを調べてみるべきか?東から漂う異様な空気も気になるし。」

 そして、東の方向を睨み付けた。まるでその方向に、敵が待ち受けているかのように。





 その頃、源達は何をしていたかと言うと、

「それじゃあ、いただきまーす。」

 源達四人は適当な食事処を見つけると、そこで定食を食べていた。資金を出した源は、コンビニで済ませれば良い、と考えていたのだが、他の三人が、

「折角の京都なのだから、京都らしいものが食べたい。」

 と、揃って訴えたのだ。源は、土産に生八つ橋を買っていく事を提案したが、誰もそれとこれは話が違う、と言って受け入れてくれなかった。

 なので結局、一人1500円までと言う条件付きで源が折れて、今に至るのだ。

 彼らの前に出ている料理は、素朴ながらも品の良さが漂っている。源を除く三人は、早速口に料理を運んだが、運んだ瞬間にある違和感を覚えた。

「…あれ?」

 いつも自分たちが食べている者に比べて、極端に味が薄いのだ。

「まさか、知らずに食べたいって言ったの?」

 一方の源は、彼らに説明してあげる事にした。

「京料理って言うのは、元々精進料理や宮廷料理が庶民にも楽しめるようにした物が主流で、主な材料は野菜や豆腐で、肉や魚はあまり使わないから、素材の風味を楽しむために薄味なの。」

「へえ。着飾らないでそのまま、これが贅沢な味と言う訳ね。」

 江美が納得しながら料理を口に運ぶと、彩妃は源に訊いた。

「と言うか、何でそんなことを知ってるの?」

「母さんの教育方針でね。料理に付いては必要以上に教え込まれた。」

 源がこう答えながらお茶をすすると、博明がこう訊いた。

「と言うか、予算は大丈夫なの?」

 大人が一緒ならまだしも、子供だけで京都で食事をすると言うのは色々と不安がある。だがしかし、彼らの居るのは本格的な料亭では無く、誰でも入れる食堂なので、特に問題は無い。予算に関しては、

「大丈夫、いざと言う時に時蕎麦するから。」

 と、源は言った。

「時蕎麦?落語?」

 彩妃は源の言葉に、思わず呆れてしまった。

 時蕎麦と言うのは落語の一つで、蕎麦を食べた後にお代の十六文を出す時に、一文を一つずつ出していき、八つ数えた所で、

「今何時?」

 と、時刻を訊く。

「九つ。」

 と、相手が答えた為に、十から再び数え始め、最終的に一文お代を誤魔化す。その後、違う者がそれを真似した時は、時間を間違えた為に普通より多くのお代を払う事になった、と言う物である。

「今どき通用するの?」

 同じように呆れた江美はこう言ったが、源は笑顔で冗談だ、と返すと、

「最初に1500円までって指定しただろ。大丈夫、だと思う。」

 と、言った。





 何はどうあれ、持ち合わせたお金の範囲内で食事を終えた四人は、外に出て考えた。

「さてと、これからどこをどう探そうか?」

 彼らの前には、何だかんだの内に手に入れた地図があり、碁盤のように綺麗に整った街の図が描かれている。

「それ以前に、どうやって帰るの?」

 すると、源が皆に訊いた。彼自身、自宅の家事全般を請け負っているので、出来るだけ早く帰りたいのだろう。この問いに、江美はこう言った。

「お願いね。」

 彼女の言うお願いと言うのは、綾小路源が帰りの電車代を出してくれ、と言う事である。先だって東京に飛ばされた時は、源が家の預金を少しだけ下ろして、神司部の四人と祐介達三人の電車代を立て替えたのだ。

 その為、最近の綾小路家の食卓から、おかずが二つ減る事になった。

「やだ、と言ったら?」

 源が江美に訊き返すと、江美は言った。

「じゃあ、源に良い考えはあるの?」

「別に、僕が言いたいのは、僕のお財布に頼るのを止めろって話。このままだと家でおかずが出せなくなるんだよ。」

 江美の言葉に源がこう答えると、博明は呟いた。

「減るんじゃなくて、無くなるんだ。」

「源の家って、お金持ちなのか、貧乏なのか?」

 博明の言葉に、彩妃も同様に呆れた呟きを発すると、突如遠くから巨大な霊力の反応を感じた。その方向は、先ほどまで源達が居た、清水寺の方角である。

「な、何だ?」

 四人は同時に驚くと互いに顔を見合わせて頷き、その方向へ走って行った。





 ここで少し時を遡る、源達が食堂で昼食をとっていた時の話である。

「よいしょっと、これOK。」

「エリス様、これって一体何の意味があるんですか?」

 緑色の両生類と爬虫類を合わせたような姿をしている妖精族の聖獣「グレムリン」が、清水寺の境内を支えている柱に何かを大量に括りつけながら言った。

 グレムリン達の問いに、エリスと呼ばれた、肩までの長さの金髪と抜群のスタイル、それらを強調する白い服装が特徴の女性は、こう言った。

「知らないわよ。あの方がそうしろと言っているのだから。」

 彼女はBABELとは違う、聖獣で構成された組織の構成員の一人で、今回はそこの指揮官に、

「清水寺の境内を支える柱に大量の爆発物を仕掛け、そのまま誰か(特に神司が望ましい)に見つかるまで待機、見つかり次第すぐに撤収。その際、爆発物はそのまま放置。」

 と言う指令を受け、こうして柱に爆発物を部下と一緒に仕掛け、今に至ると言う訳である。十二個目の爆発物を設置した所で、再びグレムリンはエリスと呼んだ女性に訊いた。

「所で、この作戦に意味はあるんですか?」

「何が訊きたいの?これはあの方の意志なのだから。」

 エリスがこう答えると、グレムリンはそういう意味では無いと答えると、

「エリス様自身、こういう事して楽しいとか、嬉しいとは思うのか、と言う事です。」

 と、グレムリンは訊き返した。この問いにエリスは、

「嬉しいとも面白いとも思った事は無いわ。今回のこれだって、国の重要文化財を見す見す破壊するような行いよ。貴方たちも何かが起こる前に境内の上に行って見なさい。下手すると一生あの景色が見れなくなるわよ。」

 と言った。彼女自身、自分が「あの方」と呼ぶ者の命令と言う訳で今回の作戦を実行したが、内心では余り快く思っては居ない訳である。

その後エリスは、少し考えるとグレムリンに訊き返した。

「ところで、何でそんな事を聞くの?」

「なんとなくです。」

 グレムリンがこう言って、再び爆発物を仕掛け始めた時の事である。

「何をやっている?!」

 彼らの居る場所に、赤い和傘を持った少年、名取修がやって来た。彼は異様な霊力の正体を探るために周囲の探索をしていたのだが、その過程で彼女たちと鉢合わせたのだ。

「げ!もう見つかった!」

 グレムリン達が次々にこう叫ぶと、エリスは皆に言った。

「直に撤収よ!急いで!!」

 エリスの言葉を受けたグレムリン達が、大急ぎでその場を離れようとしたその時である。修は持っている和傘を、大きな槍へと変化させた。穂と柄の間には、カードを差し込むスロットが付いているので、分かる人には分かるだろう。この槍が、神司である彼の聖装なのである。

「開け、決闘空間!!」

 修が聖装を持った状態で叫ぶと、エリスとグレムリン、彼らの居る場所は一瞬の内に、元居た場所を模した世界「討伐の為の決闘空間」となった。この状態であれば、万が一柱に付いた爆発物が爆発しても、現実世界の清水寺に影響は出ないが、爆発させても柱に爆発物が付いていると言う状態は変化しないので、すぐに爆弾が解除できるように、直に決着を付けないといけない事には変わりは無い。

「レギンレイヴ!!」

 修はどこからか一枚のカードを取り出すと、聖装の槍に付いたスロットにカードを差し込んだ。その結果、修が槍で一閃した空間に切れ目が現れ、その中から短く揃えた銀髪と、全身に着込んだ頑丈だが軽めの鎧、背中に生えた一対の大きな翼が特徴の女性の姿を取る妖精族の聖獣が現れた。

「ヴァルキリー、レギンレイヴ、参る!!」

 レギンレイヴは名乗りを上げて飛翔すると、手に槍を持ってエリスとグレムリン達に向かって行った。

「エリス様、どうします?」

 グレムリンがエリスに訊くと、エリスはどこからかリボルバー式の拳銃を取り出すと、こう言った。

「仕方ない、迎撃しつつ撤退する!!」

 そして、手慣れた動作で引き金を引いた。その結果、銃口から鋭い弾丸が射出され、レギンレイヴへと迫った。

「! 魔法使いか?!」

 レギンレイヴはこう言うと、体を捻って飛翔の軌道を変えて弾丸を回避した。

 ここで解説しておくが、個体によっては自ら炎を起こせる能力を持つ聖獣の世界に、火薬やそれに準ずる何かは存在していない。そのため、機械族以外の聖獣が銃器を使用するには、銃身の中で小規模の激しい爆発を発生させる炎の魔法と、その衝撃を全て前に飛ぶようにコントロールする風の魔法を扱える必要がある。

「その通り。」

 エリスはこう言うと、片手に銃を持った状態で、今度はどこからか大剣を取り出した。刀身の幅は広くないが、全長が彼女の身長に届くくらいに長く、どのような金属で構成され、どのような装飾を施したのか、柄も刀身も真っ白に染まっている。

 それに対し、レギンレイヴはどこからか槍を取り出した。契約している神司に影響されているのか、彼の聖装に似た形状を取っている。

「行きます!!」

 レギンレイヴがこう宣言して飛びかかると同時に、彼女たちの戦いは始まった。





「な、何これ?」

 一方その頃、大きな霊力を感じ取り現場へとやって来た源達四人は、その場の光景に眼を疑った。清水寺の境内を支える柱に、大量の爆発物が設置してあるのだ。

「誰がこんな事を?」

 彩妃がこう言うと、江美が皆に言った。

「大方、誰かがこれをやって、それを見つけた神司が決闘空間に誘い込んだのよ。決闘空間を展開した形跡が残ってるし。」

 その後、自分たちも様子を見に行ってみよう、と皆に言うと、

「彩妃、貴女はここに残って。」

 と、彩妃に言った。

「? 何で?」

 彩妃が訊き返すと、江美は説明した。

「万が一と言う事もあるでしょう。貴女はここに残ってこれを外しておいて。イスフィールは妖精族で魔法も使えるんだから、こう言うのに適した技もあると思うし。」

「ヴァルキリーだよ。殆ど脳筋に近いと思うけど。」

 すると、源は空気を読まずにこう言った。

「源、そういう事を言ってはいけません。」

 江美がそれを注意すると、彼女はどこからシャープペンを取り出して、それを自身の聖装の棍棒に変化させると、源と博明に言った。

「じゃあ、行くよ。」

 その後、決闘空間と現実世界の境界に当たるのだろう、空間に裂け目を入れると、三人でその中に入って行った。

 そして、その場に残った彩妃は、自身の持つギター型のキーホルダーを、聖装であるギターの形状に変化させると、

「その音色で魅了せよ、天唱霊イスフィール!!」

 こう言って、ギターに付いているスロットにカードを差し込んだ。結果、どこからか音符や五線譜が集まり、背中に大きな翼を持つ人の姿を形成した。

「天に響く鎮魂の歌、天唱霊イスフィール、貴方の心へ奏参!!誰も居ないけど。」

 現れた彩妃の聖獣、イスフィールがこう言って決めると、彩妃は彼女に訊いた。

「早速何だけど、これ外せない?」

 これと言うのは、清水寺の境内を支える柱に付いた爆発物の事である。イスフィールはそれをじっと見つめると、こう言った。

「出来ますけど、少し時間が掛かりますね。」

 そして、彼女は爆発物に近寄ると、細いが太さ以上のバカ力を秘めたその腕で、爆発物に手を掛けた。

「ちょ、何をしてるの!?」

 彩妃が思わずこう訊くと、イスフィールは、

「これを外すのでしょう。」

 と、答えた。彼女の返答に思わず呆れてしまった彩妃は、彼女に言った。

「私が言いたいのは、力づくでは無く、魔術的な方法で、と言う事。」

「そうなんですか?」

 イスフィールはこう言うと、少し考え込むと、彩妃にこう言った。

「耳を塞いでいてください。」

「?」

 イスフィールの言葉の意味が分からなかったが、彩妃はとりあえず耳を塞いだ。すると、イスフィールは大きく息を吸うと、

「アルミ缶の上に有るミカン。」

 と、言った。簡単に言う所の、ダジャレと言う物である。

 すると、薄着で在った為か、彩妃は周囲の温度が少し低下した気がした。

「船長は何もせんちょう、布団が吹っ飛んだ、コンドルがめりこんどる、赤巻紙・青巻紙・黄巻紙・カルーセルマキ・天照大御神。」

 そんな彩妃の状態を知ってか知らずでか、イスフィールはダジャレを次々と連発した。結果、ダジャレが一つ彼女の口から出てくると同時に、その場の気温はどんどん低下して行った。

「ロシアの殺し屋恐ろしあ、電話にでんわ、チーターが落っこちーた。怪獣王に尋ねました、今何時?五時ら。」

 イスフィールがここまでダジャレを言った瞬間である。柱に付いた爆発物は、一つ残らず凍結してしまった。

「イスフィール、まさかこれって?」

 耳を塞ぐのを止めた彩妃が、真冬並みに低下した気温の中、ブルブルと震えながらイスフィールに訊くと、イスフィールはこう言った。

「私流、声の凍結魔法です。こうしてしまえば、爆発はしません。」

 イスフィールの能力に、彼女が口にした事象の持つ特性をその場で具現化させる、と言う物がある。今回のこれは、ダジャレ=寒い、と言う事象を具現化させて、爆発物を凍結させたのだ。

 そして、改めて爆発物に手を掛けると、それらを次々と外して行った。





 その頃、決闘空間の中へと侵入した源、江美、博明の三人は、レギンレイヴとエリスの戦う場へとやって来た。

「はぁぁぁ!!」

 レギンレイヴは槍を、エリスは大剣をそれぞれ交えて、激しい剣劇を繰り広げている。見たところ、エリスは一人だが、レギンレイヴの元には神司なのだろう少年、名取修が居るのを目にした。

「どうやら、彼が奴らを決闘空間に追い込んだのね。」

 江美が戦いの光景を見てこう言った時である、彼女は背後から何者かの殺気が迫るのを感じ取った。

「跳んで!!」

 彼女がこう言ってその場を離れ、彼女の言葉を受けた源と博明が、同じようにしてその場を離れると、その場には小刀を持った緑色の妖精族聖獣「グレムリン」が大量に現れた。

「何だこいつ?」

 博明が驚くと、グレムリンは彼らにこう言った。

「何だこいつ?それはこちらのセリフだ!!」

 そして、グレムリン達は再び小刀を構えると、一斉に飛びかかった。理由はどうあれ、源達に敵意を持っているのは明確である。

 なので、三人は聖装を構えると、それぞれの聖獣を召喚した。

「湧き上がれ、変幻自在怒涛の剣!!水龍騎ドラグーン、召喚!!」

「流切怒涛の剣勢、水龍騎ドラグーン、推して参る!!」

 源が聖装の大剣の鍔のスロットにカードを差し込むと、どこからか大量の水が集まり、両手に十本の剣が仕込まれた手甲を持ち、全身が鎧のような骨格で覆われたマリンドラゴンの聖獣「ドラグーン」の姿を構成した。

「燃え上がれ私の相棒!!灼熱亀アーケロンド!!」

「我の力は大地の鼓動、灼熱亀アーケロンド、出陣!!」

 江美が聖装の棍棒に付いたスキャナーにカードをスキャンさせると、地面から炎が吹き上がり、その中をドスドスと怪獣が歩くようにしてワニガメの姿を取る聖獣「アーケロンド」が現れた。

「来い、ネプチューン!!」

 一方の博明は、決め台詞が思いつかなかったので、普通に大きな角を持つカブトムシを思わせる聖獣「ネプチューン」を呼びだした。その際、偽装形態である補虫網からライフルに変化した聖装を二つに折ると、弾を装填する部分にあるスロットにカードを差し込んだ。その結果、聖装の銃口から大量の水が飛び出し、その水はネプチューンの姿を形作った。

「見た感じ雑魚だし、一気に決めよう!」

 江美は三人にこう言うと、一枚のカードをスキャンした。それに合わせて、源も一枚のカードをスロットに差し込んだが、博明は初心者であるため、どうすべきか悩んでいる。それを見かねた源は、

「それあげる、召喚の要領で装填して!!」

 と言って、自分の使ったカードを博明に渡した。彼が渡したカードには、水属性を持つ聖獣が闘気を周囲にまき散らす絵が描かれている。それを博明がスロットに差し込んだ瞬間である。

「炎気解放!!」

「水気解放!!」

 アーケロンドは全身から炎属性の闘気、ドラグーンとネプチューンは水属性の闘気を迸らせ、周囲のグレムリンを一度に吹っ飛ばした。ただ今使用した技「○気解放」と言うのは、その聖獣の持つ属性の霊力を闘気の形で周囲にまき散らし、自分たちよりレベルの低い相手を遠ざけ、気を当てられた相手を威圧するための技である。今使用した物の他に、他の六属性にも同じ物が存在している。

 この一撃により、周囲のグレムリン達は一気に吹っ飛ばされ、近くの樹に激突して気絶した。

 一方、槍と大剣を交えて戦っているレギンレイヴとエリスはと言うと、

「はぁぁ!!」

 レギンレイヴが突き出した槍をエリスの大剣が弾いた所で、両者は一旦距離を取った。

「強い。さすがは巨人族と言った所か。」

 レギンレイヴがエリスを見ながらこう言うと、

「ヴァルキリーに褒めて貰えるなら光栄ね。」

 エリスはこう言って、片手に装備した銃を乱射し始めた。レギンレイヴはそれを飛翔して回避すると、自身の神司である修に言った。

「修、あれを使って一気に決めるべきです!!」

「あれを?この状況じゃ使う前に仕留められるぞ!」

 レギンレイヴの言葉に、修がこう返すと、エリスはその事を聞いていたのか、

「そう、ならこのまま続けていれば勝てるのね!!」

 と言って、レギンレイヴに接近し、大剣の斬撃と銃の銃撃によるコンボ攻撃でレギンレイヴを追い込もうとした。近距離では大剣攻撃の合間に銃撃が発生し、距離をとっても銃撃による牽制を受けて、すぐさま接近戦に追い込まれる戦法により、レギンレイヴは徐々に追い込まれていった。

(このままじゃ…)

 レギンレイヴ、修が同時にこう思ったときである。近くにある藪の中から、先ほどグレムリンを倒したドラグーン、アーケロンド、ネプチューンが飛び出して、エリスに襲い掛かった。

「はぁぁぁ!!」

 ドラグーンは片手の手甲の中の四本の剣で切りかかり、アーケロンドは炎を纏った拳を振り下ろし、ネプチューンは大きな角を振り下ろして攻撃し、エリスはそれを両手で持った大剣で受け止めた。

「な、何なのあんた達!?」

 エリスがこう言うと、

「なんだかんだと訊かれたら!」

 最初にドラグーンがこう言って、

「答えてあげるが世の情け!」

 次にネプチューンがこう言って、

「以・下・省略!!」

 最後にアーケロンドがこう言って、エリスを蹴り飛ばした。

 一方、修とレギンレイヴの元には、源と江美、博明がやって来た。

「あの聖獣たちは、君たちの?」

 修が三人にこう訊くと、三人はそれぞれ肯定して、こう言った。

「今は、奴を倒そう!!」

 そして、自分たちの聖獣に指示を出そうと、戦闘の行われている方向を見た三人に、修はこう言った。

「一分で良いから時間を稼いで、その間に決め手を用意する。」





「斬撃の舞!!」

 戦場では、ドラグーンがエリスに向けて大量の斬撃を両手の剣から飛ばして攻撃をした。エリスがそれを大剣で斬り消すと、今度はアーケロンドがネプチューンと共に迫った。

「ヘビーボンバー!!」

 人間以上の大きさを持つその体格故に、アーケロンドもネプチューンもかなりの重量を有している。その為、エリス自身には回避されたが、彼らの着地した場所には、物凄く大きなクレーターが出来上がった。普通の世界では、これで清水寺に大きな被害が出たが、決闘空間の中なのでまったく問題は無い。

「な、何なのこいつら?」

 エリスは戦いながらこう思った。彼らは変則的に様々な攻撃を放ってくるが、一つだけ共通している不自然な点が一つだけあった。それは、全ての攻撃に殺気が込められていない事である。まるで、自分をここに引き留めるためのちょっかいを出すが如く、

「まさか、私の気を引くのが目的?これだから、美人だと困るな。」

 エリスはこう呟いて再び三体の聖獣の相手をしたが、心の中では一抹の不安も抱えていた。

 その頃、レギンレイヴと修達は何をしていたかと言うと、

「こいつと、こいつ。」

 修は聖装の中から、二枚のカードを取り出した。一枚には片目が塞がった大きなカラス、もう一枚には大きなヤリイカの絵が描かれている。それらのカードをレギンレイヴのカードが挿入されているスロットに差し込むと、

「聖獣融合!!」

 と、修は叫んだ。その結果、小型飛行機並の翼長を持つと思われる片目のカラスの姿を取る獣族聖獣「オーディン」と、一端のビルと同じくらいの大きさを持つと思われるヤリイカ型の獣族聖獣「クラーケン」が姿を現し、姿を現すや否や、レギンレイヴの中へと吸い込まれていった。

 結果、レギンレイヴの背中からは新たにオーディンの物を思わせる黒い翼が現れ、槍の柄と穂のつなぎ目にも同じように黒い羽の装飾が現れ、槍の穂先はクラーケンの頭部を思わせる形状に変化し、レギンレイヴの来ている服の袖の淵には、両手それぞれに五本ずつ、クラーケンの触手を思わせる装飾が現れた。

「融合成功です。行きます!」

 レギンレイヴはこう言うと、先ほどの二倍以上ある速度で飛び出し、エリスへと接近した。そして、エリスと戦う三体の聖獣に対し、

「下がって下さい!!」

 と言うと、左腕をエリスに向けて突き出した。その結果、左腕に付いているクラーケンの触手を思わせる装飾が伸びて、エリスを拘束した。

「な、何?!」

 エリスは驚くと同時に脱出を試みたが、かなり頑丈に巻きついているのか外れる気配はない。

「大型船も締め潰すクラーケンの力を舐めないで下さい。こうして拘束してしまえば、私の攻撃は躱せないでしょう!」

 レギンレイヴはエリスにこう宣言すると、頭上に自身の武器である槍を構えた。すると、晴れていた空には暗雲が立ち込め、その中から雷がレギンレイヴに目掛けて降り注いだ。

「危ない!」

 源、江美、博明は思わずこう叫んだが、レギンレイヴと修は驚くことも、動くことも無かった。これが自分たちの使う技の一環であると分かっているからである。

 雷はレギンレイヴの持つ槍に振り注ぎ、彼女の持つ槍に雷属性の力を与えた。レギンレイヴは右手で槍を投げる態勢になると、空いている左手で拘束したエリスをこちらへと引き寄せた。

「グングニル!!」

 そして、雷を纏った槍をエリスに向けて投げつけた。投げられた槍は雷を纏っている影響で、投げられると同時にどんどん加速して行き、エリスに迫るころには視認できない程の速度となっていた。

 一方のエリスは拘束されているがゆえに回避も敵わず、槍が命中するや否や大爆発を起こした。

「な、何て威力なの?!」

「これが、完成された融合の力?!」

 江美、源がそれぞれ発生した爆風に驚きながら言うと、聖獣たちは同じように衝撃から身を守りながらも、爆風の発生した場所を見ながら言った。

「確かに、凄いな…」

 そして、発生した爆風が晴れると、そこには何も無かった。

「まさか、消滅した?」

 江美がその場を見ながらこう言うと、修はこう返した。

「あれは槍であって砲撃じゃない。それに、あの速度で貫かれれば、爆発物でも反応出来ないから爆発で消滅なんて有り得ない。まあ、爆発したのは確かだけど。」

「と言うと?」

 博明が訊くと、レギンレイヴは説明した。

「グングニルが命中する直前に、あの女は自らの体内の炎、風、雷属性の霊力を暴走させ、大爆発を起こしたのです。自らの肉体に命中しないようにすると同時に、雷と爆風で槍の軌道まで逸らされました。」

「自爆って事、そんな事をして大丈夫なの?」

 源がレギンレイヴに訊き返すと、彼女に変わりドラグーンが答えた。

「源、前に教えただろう。聖獣と言うのは精神を無限に持つ存在の事で、今ここに存在している肉体は、神司から頂いた霊力で形作る仮の物だって。」

「え、でもさ…」

 ドラグーンの言葉に、源は以前に会ったウンディーネ、ラフレシア、バロン・サムディ、そしてレイラの名前を挙げた。彼らは、神司も無しに実体化していたはずだ、と。

「部族の皇や始祖と呼ばれる聖獣の場合、どうやっているかは不明だが、神司が居なくとも実体化出来るんだ。そして、そう言った聖獣の庇護をうける聖獣もまた然り。」

 すると、エレクトードが聖装の中から源に説明した。聖獣に付いての質疑応答が始まると、修は質疑応答をする三人と三体に言った。

「あの、とりあえず外へ出ませんか?」





 その後、彩妃が寒さで震えながら待っている場所に、源達は修と共に戻って来た。その場にて、彩妃も含めた四人が自己紹介をすると、

「俺は名取修。君たちと同じ神司でこの町に住んでいる。それで、こっちに居るのが俺の聖獣、レギンレイヴにオーディン、クラーケンだ。」

「以後、お見知りおきを。」

 修の紹介を受け、短い銀髪と甲冑姿が特徴の美女「レギンレイヴ」と、大きな片目のカラス「オーディン」、大きなヤリイカである「クラーケン」は同時に挨拶をした。

「どうも、ご丁寧に。」

 源達がこう返すと、修は驚くべき事を言った。

「何と言うか、妖精の担い手らしいですよ。」

「妖精の…担い手?」

 修の発言に、その場に居た四人は唖然とした。内心ではとても驚いているのだが、声が出ないのだ。自分たちが苦戦すると思っていた捜索対象である、担い手がここまであっさりと出会えたのだ。

 その様子を見ながら、彼らの目的を察した修は、彼らに言った。

「君たち、妖精族の皇様に用があって来たの?」

「まあ、一応。」

 四人を代表して江美がこう言うと、修は少し考えてこう言った。

「何度か会った事ありますけど、何と言うか奔放で自分勝手で我儘で、多分役に立たないと思いますよ。」

 どれだけ酷評されてるんだ、四人が同時にこう思った時である。

「へえ、そういう風に思ってたんだ。」

 修の背後から、まるで怨霊が迫るが如く気配と声が発生し、背後に一人の少女がやって来た。見た目から年齢は源達と同じくらいで、白い服を身に着け、腰には細い剣を装備し、夜空のように黒い髪を腰あたりまで伸ばしている。一番特徴的なのは尖った耳と、背中に生えた虫を思わせる薄い羽である。これらの特徴から、源と江美、彩妃は一瞬で判断した。妖精族の聖獣だと。

「げ、居たんですか?!」

 修が驚くと同時に、四人を代表して博明が彼女に訊いた。

「あの、所で貴女はどなたですか?」

 彼の問いに、少女は全く嫌な顔をせずにこう言った。

「知らざぁ言って聞かせましょう。私は妖精女皇ミステリア、です♡」

 その際腰の細剣を抜き放ってポーズを決め、最後にはウィンクも忘れない。彼女「妖精女皇ミステリア」の名乗りはともかく、名前を訊いた四人は驚いた。

「ミステリア?マナナーン・マックリールじゃないの?」

 源達は妖精族の皇は「マナナーン・マックリール」と言う名前と訊いていたので、その事をミステリアに伝えると、ミステリアはこう答えた。

「つい最近ですけど、私がマナナーン・マックリール様の後をついで皇になったんです。確か、35年前の事だったはずです。」

 その後、源達がここに来た理由も分かっているのか、彼らに言った。

「最近になって、ウンディーネ様の様子がおかしくなっているのはちゃんと聞き及んでいるよ。あの方は確か清水に来ているんだよね。とんでも無い事になりそうだから、直に戻った方が良いよ。」

「とんでもない事?」

 四人は疑問に思ったが、警戒する事に越した事は無いと考えて、直に戻ろうと言う事になった。しかし、問題は残っている。どうやって京都から清水へ帰るか、である。

「それなら、私の空断で送ってあげるよ。」

 すると、ミステリアがこう言った。

「修、貴方も行って。」

「へ?」

 修が驚くや否や、ミステリアはテキパキと源達を一か所へ集めると、自身は細剣を構えた。

「さあ行くよ、空断エア・ブレイカ―!!」

 そして、こう叫ぶと同時に、細剣を空間で一閃した。その結果、源達には一切切れ目が入っていないにも関わらず、彼らの背後に空間の切れ目が入った。

「な、何これ!?」

 彩妃が驚いて声を上げると、ミステリアは言った。

「これが私達妖精族の皇が空皇シルフ様に頂いた力、空間を超越する能力。これを使えば…」

 しかし、ミステリアの力説は最後まで聞けなかった。源達は発生した切れ目に吸い込まれていったからだ。

「清水に着くんですよね!!」

 源が死にもの狂いにミステリアに訊くと、ミステリアは笑顔で、

「多分ね!!」

 と言っていたので、彼女の行動は全く信頼出来なかった。


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