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聖獣王伝説  作者: 超人カットマン
第四章
20/55

第十九話 新生神司

 綾小路源の所属する神司部と、彼らの知り合いである「松井祐介」の結成した神司の団体が揃って東京に飛ばされ、BABELと名乗る謎の聖獣の集団と戦った後の事である。

 一時は帰る手段に困るも、何だかんだの内に彼らの暮らす静岡県清水市へと帰って来た彼らは、その後すぐに帰宅し今まで通りの生活に戻った。そして、今に至るまで、事件と言う事件は起こる事は無く、人間も聖獣もそれぞれの穏やかな日常を享受していた。

 この時の彼らは、夏休みも終盤に差し掛かろうとしたある日、大きな事件が幕を開けるとは微塵も考えていなかっただろう。





「源、問10番の答えは何?」

「問10?えーと、102,7だよ。」

「そう、ありがとう。」

 ある日の事、源の家では源、江美、彩妃が集まって宿題をやっていた。聡明な人なら想像は容易いだろう、彩妃が江美を伴い、源に宿題を見せるようにせがんで来たのだ。

 源は最初の内は断ったが、彩妃はともかく江美がとにかく真剣に頼み込むので、結局折れて一緒に宿題をする、と言う形で妥協し今に至るのだ。

「源、問11は?」

「問11?これは…」

 彩妃にこう訊かれた源は、思わず答えそうになったが、それより前に、

「彩妃、さっきから僕に聞いてばかりだよね。少しは自分でやってよ。」

 と、彩妃に言った。しかし彩妃は、

「良いじゃん。」

 と、返してきた。源が思わずため息を付くと、

「源、問12は?」

 今度は江美が訊いてきた。

「知らない。」

 いい加減にしろ、そう言いたげな表情で源がこう言うと、

「烏龍茶でもどうぞ。」

 自宅で暇を持て余していた源の姉、綾小路優が三人分の烏龍茶を持ってきた。実に久しぶりの登場である。何の話かは不明だが。

「あ、お構いなく。」

 江美が優にこう言った時である。突然、源が傍に置いていた携帯電話が震えた。誰かからの連絡が来たようだ。

「誰だ?」

 源がこう言いながら、電話に出ると、

「源、明日空いているか?!」

 電話の向こうから大きな声が響いてきた。良く聞けばその声の持ち主は、彼の数少ない友人の一人である高城博明その人であった。彼は源や祐介達とは違う学校に通っているのだが、何故か源と面識があり、時折一緒に遊んでいるのだ。

「明日?空いているには空いているけど。」

 源がこう答えると、電話の向こうの博明はこう言った。

「じゃあ、明日の午前十時に船越自然公園の前に来てくれ!」

「虫取りか?分かった。」

 いつものように元気な博明に、源がこう答えて電話を切った瞬間である。電話の一部始終を何らかの方法で訊いていたのか、源に対してこう言った。

「私たち、友達だよね。一緒に連れて行って!!」

「何で?」

 源が理由を訊くと、

「自由研究やってない!!」

 と、二人は言った。どうやら、博明の昆虫採集に乗じて、自分たちの自由研究もやってしまおうと言う目論見らしい。

「はぁ~、好きにしなよ。」

 源はこう答えるしか出来なかった。





 その後、時間は流れて翌日、船越自然公園にいかにも昆虫採集と言った服装と装備をした少年、高城博明がやって来た。集合時間に指定した午前十時までまだ三十分はあるので、源はまだ来ていない。

 そして、博明がやって来てから十八分後、綾小路源はやって来た。女子二人を引き連れられて、

「あれ、源、その二人はどうしたの?」

 博明が源に訊くと、源が答えるより前に、

「初めまして、彼の学友の孫江美です。」

「右に同じく、一条彩妃です。」

 と、江美と彩妃が博明に自己紹介した。

「ああ、どうもご丁寧に。俺は高城博明です。」

 二人の自己紹介に合わせて、自身も自己紹介をした後、博明は源に言った。

「と言うか、女子連れで来るなんてやるねぇ。」

「二人が来たいって言ったんだよ。」

 源がこう返すと、

「まあいいや、それじゃあ俺に付いて来て。」

 博明はこう言って、皆を引率しつつ山の中へと入って行った。





 その後一行は数十分歩き続け、山の奥深くへと足を踏み入れて行った。

「何だか雰囲気出て来たね。未開拓の土地の探検みたいで。」

 周りを見回す彩妃がこう言うと、博明はこう返した。

「実際、この辺りにはまだ余り来たことは無いから、詳しい事は分からない。十分注意してくれ。」

「大丈夫、救急セットも虫除けも持ってきたから。」

 博明の言葉にこう返す江美の様子を見ながら、源は思った。

(虫取りに虫除け持ってきてどうするんだよ。)

 彼自身、どこからともなく漂ってくる探検の雰囲気で、呑気な考えもする事は出来た。しかし、ある物を見た時、彼は思わずまずいと思った。

(あれは…確か…)

 源は、以前の事を思い出した。



 源が聖獣たちと共に、聖獣の森に迷い込んだ時の事である。(第七話 森林迷子、第八話 女機襲撃、参照) 彼らは聖獣の森を統括している「植物女皇ラフレシア」にこう言われたのだ。

「良いですか、基本的に皆さんが聖獣の森の中を歩き周る事は認めます。ですが、棘々した木の実がなった木が、扉木のようにして生えている場所より向こうには、絶対に行かないで下さいね。くれぐれも、よろしくお願いします。」

 ラフレシアいわく、その先には見てはいけない物がある訳では無く、聖獣の森の管理下に入りたがらない聖獣が数多く存在している為、とても危険だからだと言う。



 そして今、源の目にはその棘々した木の実がなっている木が、以前見た扉木のようにして生えている様子が写っている。

「これだよね、ラフレシア様が踏み越えるな、と言っていた木は?」

「そうだね。」

 源とその聖獣たちが、それぞれこう言った時である。そんな事を知るはずも無い博明は、ずんずんとその木の向こうへと歩いて行こうとした。

「あ、ちょっと!!」

 源は彼を呼び止めると、

「あの、帰れなくなるような場所に入るより前に引き返した方が良いんじゃ?」

 と、遠回しにその先が危険だと訴えようとした。しかし、博明では無く江美が源に言った。

「もしかして怖いの?」

「いや、怖いと言う訳では…」

 源がこう返すと、江美は彩妃と一緒に源の両腕を取ると、二人掛かりで源を連れて行った。その先頭を、博明が先導して行った。





 その後、あまり奥へ入らない事を条件に妥協した源を最後尾にして、博明、江美、彩妃は森の奥へと進んで行っている。森は徐々に薄暗くなっているが、余り気にはならない程度である。

 歩きながら、江美は博明に訊いた。

「その補虫網、随分ボロボロだけど、買い替えないの?百円ショップでいくらでも買えるのに。」

 江美のこの問いに、ボロボロとなって様々な形で修繕や補強がなされている補虫網を見ながら、博明はこう返した。

「これ? 何年か前に死んだ祖父さんが買ってくれた物なんだよ。」

「何年か前に死んだ?」

 博明の一言に、江美が何か思う所があるような反応を示した瞬間である。何かが羽ばたくような羽音が、四人の耳に入った。物凄い速度で飛翔し、彼らに近づいている。

「虫の羽音?にしては、大きすぎる?」

 源がこう思った瞬間である。聖装の中のヘルニアが、源に訴えた。

「伏せろ!人間!!」

 ヘルニアの言葉を聞いた源は、すぐさま彩妃と江美、博明を伏せさせると、自分も地面に伏せた。

「な、何いきなり?!」

 突然の事に驚く江美と彩妃に、源が静かにするように言った時である。彼らの頭の上を、巨大な甲虫が飛翔して行った。黒く輝く全身はむっくりとしており、頭からはとても長い角が生えている。人間界で言う所の「カブトムシ」に当たる甲虫であると考えられる。

 突如飛来したカブトムシは、伏せている四人の頭上を何回か周って飛ぶと、そのまま森の奥へと消えて行った。

 カブトムシが消えた後、起き上がった彩妃はこう言った。

「何あれ?ゴキブリの聖獣?」

「ゴキブリにあんな角は無い。」

 彩妃の言葉に、源がツッコみを入れると、

「おお!あれは間違えなくネプチューンオオカブト!!間違えない、奴が今まで追い求めていた、この森の主だ!!」

 博明は起き上がり、起き上がると同時にこう言った。

(ネプチューンって、それって紛れもない外来種だよね。何で日本の森の主になるの?)

 興奮する博明に、江美、彩妃、源が同じように心でツッコみを入れると、

「ここまで来た甲斐があった!絶対捕まえてやる!!」

 博明はこう言って、補虫網を構えて森の奥へ突撃して行った。

「あ、ちょっと待て!!」

 源がそれを追って行こうとした時である、江美に止められた。

「待って源、ここから先は危険だから、ヘルニアを出して行った方が…」

 彼女は源に、もしもの為にヘルニアを護衛に侍らせようと提案した。他の聖獣でも良いが、ヘルニアであれば昆虫にある程度詳しく、尚且ついざと言う時博明に姿を見られても、ある程度なら誤魔化しを効かせられるからである。

「ああ、そうか。」

 江美の言う事が最もだと気が付いた源は、ポケットからボールペンを取り出し、それを大剣の形状の聖装に変化させると、

「迫れ、一発必倒の針!天蝎乙女ヘルニア、召喚!!」

 聖装から取り出したカードを、大剣の鍔に付いたスロットに差し込んだ。結果、地面を突き破って剣のような形状の大きな針と、長い尾があらわになり、その下から長い黒髪と藍色の服装が特徴の美少女、ヘルニアが現れた。

「今日は何の用だ?人間?」

 ヘルニアは出てくるや否や、源にこう訊いた。

「何の用も何も、さっきの出来事で十分に予想できるでしょう。」

 源がこう答えると、ヘルニアは言った。

「心配するな人間、単なる冗談だ。」

 対してヘルニアは、こう源に返すと、博明の入って行った森の奥へ彼らを引率して行こうとした。

 その際、彩妃は彼女に言った。

「あの、私たちは構わないけど、せめて自分の主くらいは「人間」じゃなくて名前で呼んであげた方が…」

「知るか。」

 ヘルニアはこう言い放つと、彼女たちの前を歩いて先に進んで行った。なので、三人も彼女の後に付いて行った。





 一方の博明は、森の中を高速で駆け抜けていた。狙うのはただ一つ、先ほど姿を見た巨大な「ネプチューンオオカブト」と思われる虫である。

「待てぇ!!」

 補虫網を構える博明は、大きな木の根っこを飛び越え、スライディングを用いる事で、飛び越えられない高さの樹の根のわずかな隙間を通り過ぎて、飛んで逃げる獲物を森の奥へと追って行った。

「こんな狭い森の中をあんな速度で飛んで移動するなんて、これはかなりの大物だ!」

 博明がこう言って森の中を駆け抜けていくと、彼はやがて大きく開けた場所に現れた。

「何だ?ここ?」

 博明が周りを見回してこう言った。この場所に来てから、何故か先ほどの獲物を失ってしまい、そればかりか、先行し過ぎたせいで源達ともはぐれてしまっている。

「仕方ない、一旦戻ろうか。」

 博明はこう呟き、元来た道を引き返そうと考えた。しかしここで、ある不穏な物音が耳に入った。まるで、小いがとても危険な虫が羽ばたいているかのような、ブブブと言う音である。

「この羽音は…まさか…」

 博明が恐る恐る振り返ると、そこには黄色を基調とし所々に黒い模様の入った体に、尻辺りから生えている巨大な針が特徴の虫が、通常より巨大なサイズで多数存在していた。

「ギャァァァァ~!!」

 この瞬間、博明の絶叫が森中に響き渡った。





「ギャァァァァ~!!」

 博明の絶叫は、その後を追っていた源達の耳にもくっきりと届いていた。

「今の声って?」

 彩妃がこう言うと、

「多分、何か凄い物と出会ったんじゃない、化け物とか。」

 源はこう返して、

「ば、ば、ば、化け物?!変な事言わないでよ!!」

 江美はこう言った。

「と言うか、お前たちはその化け物と常に寝食を共にしているのでは無いか?」

 一番前を行くヘルニアは、三人に対してこう言うと、

「とにかくだ、今のを訊いてしまった以上、急がないわけには行かない。」

 と言って、真っ先に進んで行こうとした。その背を見た源は、

「へえ、お前が人の心配をするなんて、随分と丸くなったね。」

 と、ヘルニアに言った。

 すると、ヘルニアは、

「ば、ば、ば、バカじゃないの!これくらい、聖獣としてと、とうぜん、なんだから。」

 と、源に返した。その際表情を見る事は出来なかったが、若干頬が赤くなっている所が見えたので、誰の目にも照れているのは一目瞭然である。

(照れてる)

(ヘルニア、可愛い)

(結局、この人のキャラってどうなっているの?)

 源、江美、彩妃の順番にこう思ったが、その事を気にしていられる状態では無いので、皆で揃って現場へと向かって行った。





 源達が現場に向かい始めた頃、現場で事態に直面している博明はどうしていたかと言うと、

「うわぁ!!」

 博明は次々と襲撃してくる巨大なハチの針の攻撃を、何とか回避している。何とか逃げようと試みるも、違うハチが出口を塞いでしまっている為、この場を離れる事が出来ない。

「どうしよう?ここまで大きな虫を見つけられたのは嬉しいけど、この数をこの装備で…」

 博明はこう呟くと、ここに入る前に源が、ここは危険だと訴えていた事を思い出した。

「アイツの予想は的中と言う事か。何とか自分一人で逃げるとして、アイツらがここに来たら大変な事に…」

 博明が源の忠告を聞かなかった事を後悔した瞬間である、

「テールショット!!」

 どこからかこう叫ぶ声が響き、それと同時にミサイルを思わせる速度で大量の鋭い針が飛来し、周囲を飛んでいた巨大なハチを何匹も撃ち落した。

「な、何だ?」

 伏せて攻撃の衝撃に耐えた博明がこう言うと、入り口を塞いでいたハチ達を踏み越えて、源達が現れた。

「博明、大丈夫か?!」

 源が博明にこう訊くと、

「大丈夫も何も、ここは危険だぞ!!」

 博明はこう返した。先ほどの攻撃で巨大ハチは何匹も撃ち落されたが、この場にはまだ何匹ものハチが残っている。通常サイズのハチであれば、刺されても適切な対処を行えばまだ助かれるが、この場に居るハチに刺されては間違えなく即死だろう。

 博明はこの事を言いたかったのだろうが、江美と彩妃は彼の元に素早く近寄り、彼を源の居る場所まで連れて行くと、彼にこう言った。

「私たちが何とかするから、貴方は逃げて。」

「逃げるも何も、君たちだけじゃ…」

 博明がこう言うと、江美はシャープペンを棍棒に、彩妃はキーホルダーをギターへと変化させて、こう言った。

「大丈夫な理由があるの。」

 そして、一枚のカードを取り出すと、江美は棍棒に付いた溝にスキャンさせ、彩妃はギターに付いているスロットに差し込んだ。

「燃え上がれ私の相棒!!灼熱亀アーケロンド!!」

「我の力は大地の鼓動、灼熱亀アーケロンド、出陣!!」

 結果、江美の傍の地面が燃え上がり、その中を怪獣のようにドスドスと歩きながら、ワニガメを思わせる凶悪そうな見た目が特徴の獣族聖獣「アーケロンド」が現れ、

「その音色で魅了せよ、天唱霊イスフィール!!」

「天に響く鎮魂の歌、天唱霊イスフィール、貴方の心に奏参!!」

 彩妃の傍に音符や五線譜と言った物が多数集合し、それが人の形を作り上げると、その人型は青い服を身に着け、背中に純白の翼を持つヴァルキリーの一人である美女「イスフィール」へと変化した。

「これは……」

 博明が、目の前に現れた存在の力の大きさを感じ取り、こう呟くと、

「ね、大丈夫って言ったでしょう。」

 江美と彩妃は博明にこう声を掛け、アーケロンドとイスフィールはハチの大群に向かって行った。





 一方、源とヘルニアの元にやって来た博明は、源とその隣のヘルニアを見て言った。

「もしかして、この人も?」

「そうだよ、ヘルニアって言うんだ。」

 博明に問いに源が答えると、ヘルニアはこう言った。

「そもそも、人では無いがな。」

 その直後、ハチが襲い掛かって来たので、ヘルニアは解放した尾を振り回してハチを打ち落とした。

 その様子を見つつ、博明は周囲を見回しながら思った。

「何かがおかしい。」

「何が?」

 源が訊くと、博明はこう言った。

「ハチと言うのは、女王蜂を中心に一端の社会を形成してるんだ。外に出るのは働き蜂で、戦いを行うのは兵士のハチ。なのに、この周囲にはハチの巣も、ハチが蜜や花粉を集めるための花も存在していない。」

 彼が言いたいのは、蜜を集めているわけでも無く、巣に外敵が来た訳でも無い状態で、ハチが人に危害を加えるのはおかしいと言う事で、

「と言うか、ハチじゃないし。ハチの姿を取る聖獣だし。」

 源はこう返しながらも、疑問に思っていた。この蜂達は元々、何に対して攻撃を仕掛けているのか、と。

「おい主!!」

 すると、ヘルニアが源に声を掛けた。

「焼き鳥とフカヒレを出せ!私一人では対処出来ん!!」

 見ると、ヘルニアは大量の編隊を組んで襲い来るハチに苦戦していた。ハチは空を飛べるが、ヘルニアは地上でしか移動できないので、当然と言えば当然であるが。

 それだけならまだしも、アーケロンドとイスフィールも数に押され始めていたので、

「焼き鳥?フカヒレ?」

 ヘルニアの言った言葉を頭の中で冷静に変換させると、新たに二枚のカードを取り出し、聖装に差し込んだ。

「顕現せよ!フェニックス、ジェットシャーク、召喚!!」

 結果、源の頭上に大量の熱が集まって火球を形作ると、卵が割れるようにして火球が砕け、中から全身が赤い羽毛に覆われたタカ「フェニックス」が現れ、空の遥か彼方からサメを思わせる姿を取る飛行機「ジェットシャーク」が飛翔し、ロボットのような姿に変形して着地した。

 召喚されたフェニックスとジェットシャークは、現れるや否やヘルニアに、

「焼き鳥って何だよ、焼き鳥って!!」

「フカヒレ言うな!!俺はコラーゲンの塊じゃねえぞ!!」

 口々に文句を言った。しかしヘルニアは、

「文句を言うなら戦ったらどうだ?前回のポラリス戦では、全く出番が無かったでは無いか。」

 と、言った。この言葉に、フェニックスとジェットシャークは、

「分かったよ!!」

 と言って、飛翔するとハチ達に向かって行った。前回、全く出番が無かった事を気にしているらしい。

「オラオラ!!」

 フェニックスは大きな翼を羽ばたかせて飛翔すると、口から火球を吐き出してハチを次々と撃ち落とし、

「弾幕展開!!」

 ジェットシャークは飛行機の形態で空を飛ぶと、全身に仕込まれているミサイルを発射してハチを次々と撃墜していく。

「いい感じ。」

 イスフィールがこう言った瞬間、フェニックスの吐き出した火球がイスフィールとアーケロンドを囲んでいたハチを打ち落とした。

 フェニックスとアーケロンドの登場で劣勢になり始めたハチ達は、慄くようにして後ろに下がり始めた。すると、ハチの中でも特に大きな体を持つ個体が、何かを指差すかのようにして動いた瞬間、ハチ達はフェニックスやジェットシャーク、アーケロンドやイスフィールを無視して上空へと飛んで行った。

「な、何だ?」

 源が上空を見ながらこう言うと、彼の目に先ほど自分たちの頭上を飛翔して行ったネプチューンオオカブトが写った。

「あれは?」

 源が聖装の鑑定形態で調べると、

「ネプチューン、水 大地 鋼属性、昆虫族、戦闘力レベル 4000」

 カブトの方はこのように、

「キラー・ビーズ、風 鋼属性、昆虫族、戦闘力レベル 2000~3000」

 ハチの方はこのように表示された。

「キラー・ビーズ、一体だけ存在する女王を中心に、個体の力の無さを補うために組織だって活動する昆虫族聖獣ですね。」

 結果を見たイスフィールがこう言うと、ヘルニアは言った。

「どうやら、奴らのそもそもの目標は、最初からネプチューンだったわけだ。」





「くそ、とうとう見つけられたか!!」

 一方のネプチューンは、大量のキラー・ビーズが迫る所を見ると、大急ぎで離脱しようと飛翔した。しかし、体の大きさはともかく、飛翔速度でハチに敵う訳も無く、直に追いつかれてしまった。

「こうなれば、アクアセイバー!!」

 戦う決心をしたネプチューンは、大きな角に水属性の力を纏わせると、角を振り下ろすことで巨大な水の斬撃として放った。

 この一撃は派手な動きで放ったために多くのキラー・ビーズに回避されてしまったが、それでも何十匹ものキラー・ビーズを打ち落とすことが出来た。

 斬撃はどこまでも飛んでいくと、地上で様子を見ていた源とその仲間達に迫った。

「危ない!!」

 フェニックス、ジェットシャーク、アーケロンド、ヘルニアがその場に居た人間、源、江美、彩妃、博明を連れてその場を離れると、今まで彼らが居た場所には巨大な切れ目が入った。

「危ない所でしたね。今の攻撃を受ければ切れる程度では済みませんでしたね。」

 違う方向に回避し、地面に入った切れ目を見たイスフィールがこう言っている頃、ネプチューンはと言うと、

「すいません!!」

 聞こえていないが、地上に居る面子にこう言うと、再び飛翔してキラー・ビーズと交戦し始めた。

 大きな角と頑丈な体で多くのハチを撃退するも、ハチ達は数で攻め立て来るので、かなりの頻度で死角を付いた攻撃を放ってくる。その内に、数多くのハチが大量の毒針を飛ばし、それを受けたネプチューンは羽に傷を負って、地上に落下してしまった。

「ぐわぁぁぁ!!」

 ネプチューンが落下し地面に激突するや否や、キラー・ビーズ達はここぞとばかりに止めを刺そうと飛翔した。

 巨大な毒針がネプチューンの体に刺さろうとした瞬間である。誰かが彼の前に立ってキラー・ビーズの攻撃を阻んだ。

「え?」

「ちょ、嘘でしょう!!」

 その様子を見た源と江美は、同時に驚いた。ネプチューンの前でキラー・ビーズを阻んでいるのは博明で、それに用いているのは祖父の形見だと言う補虫網の柄である。

「もう少し、持ちこたえろ…!」

 博明は受け止めながらこう言ったが、キラー・ビーズの大きさを相手にしてはボロボロの補虫網が持つ訳も無く、やがて補虫網の柄は折れてしまい、キラー・ビーズの毒針が博明へと迫った。

「あ、危ない!!」

 フェニックスとイスフィールは、大急ぎで博明を救出しようと飛び出した。しかし、自分たちの居る場所から博明の居る場所に行くより、キラー・ビーズの針が博明に刺さるのが早いのは一目瞭然である。

「くそぉ!!」

 源は思わず、こう叫んだ。





「まったく、何でここに人が居るんだか?」

 結果として、博明は助かった。誰かの声が響くや否や、彼の目の前から巨大な植物が生えてキラー・ビーズを拘束したので、彼にキラー・ビーズの脅威が迫る事は無かった。

「た、助かった?」

 博明がこう言うと、彼の傍に緑の長い髪と、植物を思わせる装飾の付いた和服、そして「ノイバラ」の銘を持つ刀を持った女性、正確には女性の姿を取る聖獣「植物女皇ラフレシア」が現れた。

「あれ?あの人は?」

 彩妃がこう言うや否や、源はこう言った。

「植物族の女皇、ラフレシア様だよ。」

「え?ええ?あれが、植物族の皇様?と言うか、何で源が知っているの?」

 源の言葉に江美がこう言うと、ラフレシアは源の方を見て言った。

「と言うか源、ここには入るなとあれ程言ったが、何でここに居る?!」

「え、えっと…」

 ラフレシアの問いに、源が口ごもると、

「まあいい、ここを何とかしてやる。」

 ラフレシアはこう言って、構えを取った。と言っても、刀を抜き放ったわけでは無い。スムーズな手つきで着物の帯を解き、それを地面に落とすと………

「あ、アーケロンド、何あれ?」

「何?どれだ?」

「見ては行けません!!」

「ムガムガムガ(息が出来ない!!)」

「目つぶし!!」

「ギャァァ!!何でさぁ!!」

 いきなり服を脱ぎだすと言う植物女皇の暴挙に驚いた女性陣は、まず江美はそっぽを向いて空の向こうを指差してアーケロンドに訊くと、どこか単純な所があるアーケロンドはその方向を向いてくれた。

 博明の元に向かったイスフィールは、その豊満な胸に博明の顔を押し付けた。博明はその際に、息が出来ないと訴えたが、イスフィールは理解できなかった為に聞き入れなかった。因みに彼の傍のネプチューンは、頭を踏みつける事で気絶させた。

 そして源は彩妃、フェニックスとジェットシャークはヘルニアに目つぶしをされてしまい、視界を封じられてしまった。

 そんな中、ラフレシアは身に着けている物を全て脱ぎ捨てると、その状態で地面にもぐりこんだ。

「な、何をするのでしょう?」

 イスフィールが博明の顔を自身の胸に押さえつけながらこう言うと、ラフレシアの潜った地面から、赤い花弁を持つ巨大な花が咲き誇った。

「あれは確かラフレシア、図鑑で見た事あるけど。」

 眼をおさえて痛がる源を傍目に、彩妃がこう言った瞬間である。咲き誇るラフレシアは、花弁の形を大きく変えると、巨大な龍を思わせる姿となった。そして、その状態で口を大きく開くと、飛んでいるキラー・ビーズの大群へと向かって行った。

 キラー・ビーズ達は、逃げるなり立ち向かうなりそれぞれのやり方で対応したが、ラフレシアの変化した花弁の中に取り込まれ、次々と消滅して行った。結果、ラフレシアの登場からわずか数十秒で、何十匹と存在していたキラー・ビーズは一匹も残らずに駆逐される事となった。





 そして、今までキラー・ビーズの羽音が喧しい程に響いていた広場に静寂が訪れると、元の姿に戻って着物を身に着けたラフレシアは、その場に居た面子、の代表として源に訊いた。

「それで?何で貴方がここに居る?私は以前、絶対このエリアに入るなとは言ったはずだが?」

「えっと、深い訳があるような、無いような。」

 源が返答に困ると、擁護するようにして博明が言った。

「俺が勝手に入ったから付いて来たんだよ。だから彼には咎められる部分は無い。」

「そうなのか?」

 博明の言葉にラフレシアが、江美や彩妃を見てこう訊くと、二人は無言で返した。

「分かった。」

 二人の反応から何を考えているのかを悟ったのか、ラフレシアはこう言うと、源にこう言った。

「まあ、今回は私が間に合ったから良かったが、今後は気を付けて欲しい。」

「分かりました。」

 源がこう答えると、彼が気にしている事を一つ訊いた。

「ところで、BABELって言う組織の事は知っていますか?」

「BABEL?私がこれまでの独自調査で得た情報からは、組織の名は「RAGNAROK」と訊いているが?」

 ラフレシアはこう言うと、龍皇襲撃の犯人と思われて襲撃を受けた後、レイラと別れて独自に調べた事を彼らに伝えた。

「奴らはどうやら、数多くの聖獣を統合し「聖獣が世界を作ったのだから、世界は聖獣によって統制されるべきだ」と言う思想を振りまいて彼方此方で騒ぎを巻き起こしているらしい。RAGNAROKと言う名前にも、支配者、つまりは人間社会の黄昏と言う意味を与えているみたいだ。」

「良き終わりを?みたいな感じ?人間社会が始まって、まだ品川にも来ていないのに。」

 ラフレシアの話を聞いた彩妃は、こう言った。因みに彼女の出した比喩は「地球の誕生から今に至るまでを、新幹線で表現したら」と言う物で、人間社会の歴史は地球から見て、東京駅を出てわずか数メートル程と言われている。

「あの?何の話ですか?」

 話に付いてこれない博明は、源や江美、彩妃に声を掛けたが、彼らはラフレシアとの会話に夢中になって訊いていない。なので彼は、今だに気絶しているネプチューンの所に行って、彼に声を掛けた。

「おーい、大丈夫か―?」

 すると、

「痛ててて、あの女、かなり力入れて踏みつけやがって。」

 ネプチューンは頭を振りながら目を覚まして、こう言った。その瞬間、

「しゃ、喋った?!」

 博明は当然の如く驚いた。この世界、何を間違えても虫が喋る事は無い。ただ一つの例外、昆虫族聖獣を除けば。

「当然だろう。」

 ネプチューンはこう言うと、彼に訊いた。

「でも良かったのか?大事な物なんだろ?補虫網。」

「ああ、これ?良いんだよ。」

 博明は、手元にある折れた補虫網を見ながら言った。確かにこれは、今は亡き祖父の形見の一つでもある。だが、これを用いる事でわずかな時間だが誰かを守る事が出来たと言う事を考えると、博明は何も後悔していなかった。

 そんな事を言う彼の心境を知ってか知らずでか、ネプチューンはこう言った。

「形はどうあれ、復活させる事は出来るかもしれないぞ。」

「は?」

 ネプチューンの言葉に博明が疑問符をあげた瞬間である、ネプチューンは光る球体、簡単に言えば魂の状態になると、折れた補虫網の中に入った。その結果、補虫網は光に包まれると同時に大きく形状を変化させて、スコープの付いた一本の銃身と銃口が特徴の大きなライフルの形状を取る聖装となった。なぜか、補虫網の形状は全く受け継いでいない。

「あれ?どうなってるんだ?」

 その事に付いて、ネプチューンが聖装の中で疑問を唱えると、博明は言った。

「もしかしたら、じいちゃんが影響しているのかもしれない。じいちゃん、凄腕の猟師だったし。」

 彼が言うには、生前の彼の祖父は山一番の猟師と謳われる程の男だったらしく、博明も彼の自宅にある猟銃に触れようとして、散々叱られたらしい。

「これはこれで良いと思うな。」

 博明はこう言うと、試しにライフルを撃ってみた。その結果、大きな弾ける音が響き渡った。





 突如、何かが弾ける音が響き渡り、源や江美、彩妃やラフレシアは驚いた。

「まだ人間が居るのか?」

 ラフレシアがこう言って音の響いた方向を見ると、そこには博明がライフルを持って立っていた。

「博明、お前まさか?」

 源はこう言うと、博明に近寄り、ライフルを見せて貰った。銃身にはパネルが存在し、銃身を二つに折る事で現れる弾丸を装填する部分には、カードを差し込むスロットがある。見ただけで分かった。これは聖装であると。

「これ、どうしたの?」

 源が訊くと、

「俺がこいつを聖装に変えたんだ。」

 と、誰かの声が響いた。見ると、聖装のパネルにネプチューンの顔が写っていた。

「やっぱり神司が居ると言うのは良いな。」

 ネプチューンがこう言うと、博明は彼に訊いた。

「と言うか、何でキラー・ビーズに襲われていたんだ?」

「ああ、最近水の始祖の行動がおかしいから、俺なりに調査をしようとしたんだけど、その途中でアイツらの巣にぶつかって…」

 それに対して、ネプチューンはこう答えた。博明は、ある意味気の毒だ、と思っていたが、源と江美、そして彩妃は違う部分に疑問を覚えた。

「水の始祖の行動がおかしい?」

 江美と彩妃自身も、水の始祖と言う言葉に心当たりはあり、源に至っては、その水の始祖と一度だけであるが出会っている。(第六話、海王登場 参照)

 ネプチューンの言った、水の始祖の行動がおかしい、と言う発言には、ラフレシアも興味を示したようで、彼女は言った。

「確かに、私もRAGNAROKを調査する過程でその話を聞いていた。話によると、担い手を見つけたとか何とか。」

 その後、源達を見ながら言った。

「興味は無いか?」

 彼女のこの問いに、訊かれた面子がそれを肯定すると、

「分かった。なら今からお前達を京都に送る。」

「京都?」

 言葉を聞いた面子、特に源は驚いた。以前彼女に会ったとき、彼女は担い手は清水に居ると言っていたのだ。それなのに、何故京都に行くのか、と。

「噂だが、妖精の担い手が京都に居る。妖精族の皇なら、何かを詳しく知っているはずだ。」

 その疑問にラフレシアはこう答えると、その場に居る四人の足元にある植物の種を植えた。

「芽吹け、空洞茎!!」

 ラフレシアがこう言うと、植えられた種はぐんぐん成長し、やがて源達の足元に巨大な空洞を作り上げた。

「京都までつながっているはずだ。多分…」

「多分って何ですか―!!」

 ラフレシアの信用できない言葉に源は文句を言ったが、彼らの身はすでに空洞の中に落下しており、その声はすぐにかき消されてしまった。


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