第十八話 合体問題
謎のヴァルキリーの導きで東京に出てきた源とその仲間達。彼らは謎の組織「BABEL」の罠に嵌り、バラバラに状態で敵に当たる事になった。
彩妃、小雪、直葉、直樹、祐介、江美、薫は苦戦もあったが、目の前に現れた聖獣を撃破する事に成功した。しかし、その頃の源はと言うと…、
「貴方たちを倒せば、私の存在を世界に認めさせられる。だから、倒れて。」
と言って、トライデントを構えて突撃するポラリスを見た源は、聖装の大剣を大きく振るうと、突撃するポラリスを弾き飛ばし、自らも距離を取った。
「轟け、轟振高跳の雷撃、電撃蛙エレクトード、召喚!!」
その直後、聖装の中から一枚のカードを取り出すと、決め台詞を決めてカードをスロットに差し込んだ。その結果、周囲から雷撃が集まって蛙の姿を形成すると、全身は黒いが、わき腹と背中に稲妻のマークが付いた蛙になった。
「轟砕即降の雷!電撃蛙エレクトード、見参!!」
エレクトードは、源と同じように決め台詞を言うと、ポラリスに向けて飛びかかった。
「竜皇への攻撃、そして、源がその犯人と適当な事をドラゴン族の聖獣たちに抜かしたのは、お前の仕業か?!」
エレクトードは、所謂「八卦掌」の要領でポラリスに攻撃を繰り出すと同時に、彼女にこう訊いた。一方のポラリスは、それを武器で受け止めると、こう言った。
「だと、言ったら?」
そして、エレクトードを吹っ飛ばすと、彼が着地する所を見ながらこう言った。
「何だと言うの?」
「仮にも人の主に責任を押し付けてくれやがったんだ。落とし前はしっかりと付けて貰うぜ。」
エレクトードがこう返すと、源は一枚のカードを取り出し、スロットに差し込んだ。
「エレキシュート!!」
カードが読み込まれるや否や、エレクトードは口の中で巨大な電気の球を作りだし、それをポラリスに向けて吐き出した。
「…そのくらい…」
攻撃を見たポラリスはこう呟くと、持っていたトライデントを地面に突き立て、右手を前に突き出した。
その結果、ポラリスの周囲の空間が歪むと同時に、歪みの中から複数の武器が現れた。剣であったり斧であったり、槍であったり、挙句の果てには玩具であったりと、武器屋さんかと思える程により取り見取りである。
「な、何だ?」
源、エレクトードが同時にこう言うと、歪みの中から現れた武器は、まるで大砲から射出したかの如き速度で、源やエレクトード目掛けて飛んできた。その際、飛んでくる電球は武器がいくつも激突する事で、粉々に砕かれてしまった。
「まずい!エレクトード、戻れ!!」
源は慌ててエレクトードを戻すと、すぐさま違うカードを取り出し、スロットに差し込んだ。
「穿て、縦転鋭針の鎧!古代戦士ステゴサウルス・Jack、召喚!!」
結果、地面が大きく盛り上がる事で、源の前に防御壁を形成して、飛んでくる武器から源を守った。その後、その盛り上がった地面が砕けると、
「一に粉砕、二に粉砕、三四も含めて五も粉砕、古代戦士ステゴサウルス・Jack、登場だ!!」
頭は小さく尾は長く、全体的に山なりになった全身と、背中の三角の刃、尾の先の四本の棘が特徴の、名前の通り「ステゴサウルス」の姿を持つ「ステゴサウルス・Jack」が現れた。
対戦相手が変わった事に対しては、ポラリスは何も言わずに再び腕を前に突き出した。その結果、先ほどと同様に空間が歪み、そこから大量の武器が射出された。
「グランスピン!!」
源はその攻撃に対し、今度は少しも慌てずにカードを取り出すと、それを聖装に差し込んだ。その瞬間、ステゴサウルス・Jackはジャンプして丸くなると、物凄い速度で縦に回転し、ポラリスに向けて突撃した。その際、大量の武器がステゴサウルス・Jackに迫ったが、彼の回転の前に全て弾かれて、地面に落下した。
「良し、これで行ける!!」
源がこう思うと、回転するステゴサウルス・Jackはポラリスの眼前まで迫り、激しい回転の遠心力で高い破壊力を発揮する尾を叩きつけようとした。
しかし、対策があったのはポラリスも一緒だった。彼女は左腕に身に着けた籠手からバリアーを発して、ステゴサウルス・Jackの攻撃を受け止めた。
「受け止めた!?」
源、ステゴサウルス・Jackが同時に驚くと、ポラリスはこう言った。
「それだけじゃない。」
そして、攻撃を受け止めたバリアーを籠手の中に吸収するや否や、左手から強力な光弾として放ち、ステゴサウルス・Jackに命中させた。
「ぐわぁぁぁ!!」
ステゴサウルス・Jackが吹っ飛ばされる様子を見ながら、源はポラリスが行った事を分析した。
「ダメージを受けた後、残りのエネルギーで反撃するバリアーか?だが、ステゴサウルス・Jackの一撃を受けて、まだあれだけのエネルギーが残っているとは考えにくい。可能性は低いけど、受けたダメージを反射するバリアーと言う事か。」
その後、ステゴサウルス・Jackを聖装に戻すと、別のカードをスロットに差し込んだ。
「迫れ、一発必倒の針!天蝎乙女ヘルニア、召喚!!」
源がこう言うと、地面を突き破って剣のような形状の大きな針と、長い尾があらわになり、長い黒髪と藍色の服装が特徴の美少女が現れた。
「スコルピ・メイデン、ヘルニア!倒れなさい、私の為に。」
ヘルニアは空気を読んでこう言うと、源にこう言った。
「人間、決め台詞を言うのは本当に必要なのか?思わずにガラでも無い事を言ってしまったのだが。」
「気にするな!」
源は彼女にこう返すと、ポラリスを見るように言った。
「アイツの右手は武器を自由自在に取り出し、左手は攻撃を反射するシールドを作り出す。」
「それでどうしろと…?」
ヘルニアは源の分かりきっている事への説明に、思わずこう言ってしまったが、源が何を求めているのかを理解したのか、こう言った。
「そういう事か。」
そして、源にこう言った。
「では、何か武器をこちらに回してくれないか?このままでは丸腰なのでな。あ、出来れば4つ。」
彼女の要求に、源はこう言った。
「4つも?所謂四刀流?」
彼はこう言いつつも、ヘルニアの仲間入りの際に見つけ、そしてレイラから餞別として貰ったカードを用いて、剣とハンドアックスをそれぞれ二振り召喚し、ヘルニアに装備させた。右手は剣、左手はハンドアックスを装備し、残った武器は肩から登場した鋏が掴んだ。
「では、行くぞ!!」
ヘルニアはその状態で飛び上がると、ポラリスに接近し切りかかった。ポラリスはそれを左手のバリアーで受け止めた。
その後、すぐさま反撃をしようと試みたが、ヘルニアは次々に武器を振り下ろしてくるために、バリアーを維持し続けなければならず、中々反撃のチャンスは訪れない。
「良いのか?このままではいつか規格外の反撃を受ける事に!!」
ポラリスは攻撃を受けながらもこう言ったが、ヘルニアは、
「関係ないな。攻撃できなければ意味は無い!!」
と言うと、より激しく武器を振り下ろし始めた。その様子を見ながら、ポラリスは敵の分析を行った。
(この力は妖精族でも無ければ、巨人族でも無い。召喚された時の、スコルピ・メイデン、蠍、乙女?)
ここまで考えた時、彼女は自分が相手にしている存在が何なのかをようやく理解した。ヘルニアはその見た目から、巨人族や妖精族と良く勘違いされると本人は言っており、当人もそれを武器にする事が多々存在する。それゆえ、彼女にとって最強と言える武器の存在に気付くことなく倒される聖獣と言うのは数多く存在しており、かつて源と彼女が出会った時、彼に付いて来ていた小雪、祐介、直葉も同じようにして最強の武器を受け、倒されたのだ。
「喰らいなさい!!」
ヘルニアはこう言って、ポラリスの背後の地面から自身の尾を出して、彼女の背中を貫こうとした。剣のような切っ先には既に猛毒が発生しており、少し肌に触れただけで簡単に相当な消耗を相手に与える事が出来るはずである。
しかし、ヘルニアの見事な不意打ちは、ポラリスが今まで隠していた尾によって阻まれた。彼女の尾はヘルニアの尾に捲きついた状態で止めると、その状態のまま回転する事で、所謂ジャイアントスイングの要領でヘルニアを投げ飛ばした。
「くっ!」
ヘルニアは大きく吹っ飛ばされながらも、何とか源の傍で受け身を取る事が出来た。
「何だあいつ、強すぎる。」
ポラリスの強さを身を持って感じた聖獣たちが口々にこう言う中、源は思った。
(どうする?このままじゃ勝ち目は無い)
この源の考えを悟ったのか、ヘルニアは再び前に出ると、源に言った。
「私が時間を稼ぐ、その間に作戦を考えろ。」
そして、今度は尾を剣のように持って、ポラリスに飛びかかって行った。
ポラリスとヘルニアが戦う様子を見ながら、源は思った。
(あの時使ったあれ、あれなら…)
あれとは、ヘルニアを仲間にした戦いの際、最後に使った渾身の斬撃の事である。(第十二話、天蝎少女参照)
五体の聖獣の霊力を聖装に集中させて、瞬間的な霊力の爆発を起こさせる技であるが、今の状態でやった場合は、霊力の集中に少し時間が掛かると思われる。
「ドラグーン、フェニックス、エレクトード、ジェットシャーク、ステゴサウルス・Jack、あれをやるけど行ける?」
源が聖獣たちに訊くと、
「出来なくはないが、チャージに時間が掛かる。」
聖獣たちは口を揃えて源に言った。なので、ヘルニアと打ち合うポラリスにばれないようにこっそりと、物陰に隠れた。
一方、ポラリスと打ち合うヘルニアはと言うと、純粋な武器の打ち合いと言う状況になっていたので、若干有利になったかと思われたが、ポラリスの予想外の筋力に苦戦していた。
「ここまで筋力、本当に妖精族か?」
ヘルニアはポラリスの事を、ヴァルキリー系の聖獣の一体と考えているので、彼女にこう言うと、
「妖精族?残念だけど、私にはドラゴンと巨人の力もある!」
ポラリスはこう言って、武器を大きく振ってヘルニアを遠ざけると、右手を前に突き出して大量の武器を射出した。
「こうなったら!!」
その様子を見たヘルニアは、腰の尾や肩の鋏は勿論の事、わき腹の脚も解放して防御の態勢を取った。尾と鋏で武器を討ち落とし、脚を防御の鎧として撃ち落しそこなった武器を受け流す。しかし、後付けした鎧では無く自身の体の一部なので、衝撃によるダメージはしっかり受けるのと、余り多くの刃物を受けては切れ目が入ってしまう為に、その防御は長く続かなかった。三十本目の武器を弾く過程で吹っ飛ばされてしまった。その際ヘルニアが倒れると同時に、肩の鋏や尾の針は剣が複雑に交差して地面に突き刺さる事で、動かせなくなってしまった。
「しまった!」
ヘルニアがこう言って、何とか脱出しようともがく中、ポラリスはこう言った。
「それじゃあ、倒れて。」
そして、ヘルニアを持っている剣で貫こうとした瞬間である。
「こっちだ!!」
今まで隠れていた物陰から源が飛び出し、聖装である大剣でポラリスを両断しようと剣を振り上げた。刀身にはそれぞれ、青、赤、黄色、灰色、茶色の霊力が纏われており、脆い物質はその気に当てられただけで圧壊するほどのエネルギーを放っている。
「五色斬完刀!!」
源が即席で考えた技の名前を叫び、剣を振り下ろすと、ポラリスはそれを左手のバリアーで受け止めた。
「つ~ら~ぬ~けぇぇぇ!!」
源は勿論、霊力を与える聖獣たちも同時にこう叫ぶと、剣の霊力は一時的に更に上の破壊力を発揮し、ポラリスの左手のバリアーを粉みじんに破壊し、その切っ先はポラリスの体を切り裂いた。ただし、来ている着物とその下の皮膚を少し斬っただけのようで、傷は薄くすんでいる。
「え?」
ポラリスは軽傷で済んだため叫び声をあげる事は無かったが、それ以前に左手のバリアーが破壊された事に驚いた。
「私の、バリアーが?」
しかし、今は戦闘中である事を思い出し、すぐさま腕を大きく振るうと、源の体を大きく吹っ飛ばした。
「ぐわぁぁぁ!!」
大きく吹っ飛んだ源は、地面に激しく激突した。その際頭を強く打ったのか、頭から血を流していた。
ポラリスは、そんな状態の源に近寄ると、剣を振り上げながら言った。
「これで、全て終わりです!!」
「な、やめろ!!」
ヘルニアは何とか助けようと動こうとしたが、地面に突き刺さった剣に拘束されている為に、思うように動けない。
「主、逃げろ!!」
ヘルニアは源にこう言ったが、源は腕と脚も怪我している為にか、その場から動こうとしない。
「まずい、このままでは!!」
聖装の中の聖獣たちが一様にこう言った瞬間である。ポラリスは源に向けて剣を振り下ろした。
「止めろぉ!!!!!」
次の瞬間、聖装の中の聖獣が揃ってこう叫ぶと同時に、聖装の中から一体の聖獣が現れて、ポラリスの剣を受け止めた。その際、銃器の銃身を使用している。
「ジェットシャークか?」
様子を見ているヘルニアはこう言ったが、次の瞬間驚くべき姿を目にした。そこにいたのは、紛れも無くドラグーンなのだ。
正確に言うと、見た目こそドラグーンであるが、今まで見たドラグーンよりも体は二周り近く大きくなっており、全身に金属製の鎧を纏っている。背中にはバーニアの付いた大きな金属製の翼があり、尾の先の斧のような鰭は、ステゴサウルス・Jackの尾の棘のようになっている。何より、ドラグーンの一番の特徴であった手甲が無くなり、その手には二丁の銃が装備されている。
「人間、こんな切り札を隠し持っていたのか?」
ヘルニアは源にこう訊いた。しかし源は、
「いや、こんな聖獣知らない。」
と、答えた。
一方、突如現れたドラグーンっぽい謎の聖獣は、剣を受け止めていない方の銃を発射してポラリスを引き離すと、源に言った。
「いや、俺は正真正銘のドラグーンだ。お前を守らねばならない、この思いを持った瞬間に、この姿になって現れる事が出来た。」
ドラグーンだと名乗る聖獣がこう言うと、
「それ、俺もだ。」
「俺も。」
「言わずもがな。」
「って言うか、何だよこれ。」
フェニックス、エレクトード、ジェットシャーク、ステゴサウルス・Jackは精神感応の中ではあるが、口を揃えてこう言った。
そんな中、源は聖装を用いてドラグーンに何があったのかを調べようとしたが、
「データ無し。」
と、開示された。
「データ無し?じゃあ、名前はメタルドラグーンで行こう。」
源が「メタルドラグーン?」にこう言うと、
「まあ、名前は何でも良いですよ。今は奴を倒すのが先決だ!」
メタルドラグーンはこう言って、先ほど距離を取ったポラリスに銃を向けた。
「私は、負けるわけには行かないの!!」
一方のポラリスはこう言うと、右手を突き出して大量の武器を射出した。これを見たメタルドラグーンは、立った一発、銃から弾丸を放つだけで終わった。
「い、一発?」
源は思った。折角なんだから、もっと撃っても大丈夫だろう、と。しかし、すぐに理解することが出来た。これは、一発しか撃てないのでは無く、一発撃つだけで十分なのだと。
メタルドラグーンの放った弾丸は、最初に飛んできた剣に当たると、それを打ち落とす過程で方向を変えて、違う武器へと命中した。その後、最初に弾丸が当たった武器は、落ちる過程で違う武器を落とした。弾丸が当たって落ち、落ちた武器が武器を落とす、この過程を繰り返すことで、武器は一発もメタルドラグーンに迫る事無く落とされた。
「今度は、こちらから行くぞ!!」
メタルドラグーンはこう言うと、バーニアの付いた翼で飛び上がり、ポラリスに迫った。同じようにポラリスも飛翔すると、メタルドラグーンは両手の銃を次々と放ちながら、ポラリスを攻撃した。
ポラリスはそれらを左手のバリアーで防ぎ、防ぎきると同時にエネルギー弾で反撃したが、メタルドラグーンはそれを上回る速度で飛翔している為に、攻撃は一発も当たっていない。
「ドラグーンハイドロレーザー!!」
地上で様子を見ている源が、試しにドラグーンの得意技である「ドラグーンハイドロレーザー」のカードをスロットに差し込むと、メタルドラグーンはドラグーン時の二倍以上の威力はあるだろう水流を吐き出して、ポラリスを攻撃した。
「うわぁぁぁ!!!」
防御が叶わずほぼ直撃出会ったが為、ポラリスは大きく吹っ飛ばされて壁に激突した。
「今だ!!」
メタルドラグーンはこう言うと、両手の銃を乱射して、ポラリスを攻撃した。
その後、メタルドラグーンが銃撃をやめると、ポラリスは息も絶え絶えになりながらも耐えていた。左手でバリアーを張ると、それを用いて攻撃を逸らしていた。
「ここまでの攻撃でまだ耐えるか。」
メタルドラグーンがこう言うと、ポラリスは立ち上がりながら言った。
「本気は出していないとはいえ、私がここまでやられるなんて、これ以上の戦闘は私も皆も危険ですね。」
彼女には、他で戦っていた聖獣の容態が分かるのか、こう言うと同時に、目の前の源とその聖獣たちに言った。
「一応忠告して置きます。これから起こるだろう件には関わらないで下さいね。少なくとも、私が奴らを叩きのめすまでは…」
そして、彼女は空間をゆがめると、その中に入って行き、この場から居なくなった。
「行ったか。」
様子を見るメタルドラグーンはこう言うと、源の聖装の中に戻って行った。彼が改めて聖装の中を確認すると、そこにはドラグーンを始めとする五体の聖獣が居た。ただし、力を使いすぎて消耗しているのか、何も言わない。
「はあ、何とかなった。」
源がこう言うと同時に、
「おーい!!」
他の場所で戦っていた江美達と、祐介達が走ってやって来た。
「無事だった?!」
源の元に現れるや否や、江美がこう訊くと、
「何とかね。」
と、源は答えた。
「けど、奴らは何だったんだ?」
味方全員の無事の確認は出来たが、一つだけ問題は残った。BABELと名乗る聖獣たちの集まり、彼らは一体何者なのか。祐介のこの呟きに、源は言った。
「分からないけど、何かを知っている感じはあるよ。これから何かが起こる、的な事を仄めかしていたし。」
「そうね、奴らが何なのか考えるのは後で出来る。今一番の問題は…」
源の言葉を聞いた江美がこう言って話を締めると、新たな話を切り出した。
「どうやって帰ろうか?」
一方その頃、神々の住まう世界では、
「アイツ、“融合”まで使いこなすようになるなんて。」
彼らの戦いを見ていたアテネがこう言った。その後、
「どうやら、BABELとか言う集団も“奴ら”と何等かの繋がりがあるようだな。ガイア様の事もあるし、もうしばらく様子を見るべきか。」
と、呟くと、背後に控える一体の聖獣に言った。
「ところで、彼らが“奴ら”と邂逅したのは、お前の差し金か?」
その聖獣は、源達がBABELと邂逅する切欠を作ったヴァルキリーで、彼女はこう答えた。
「いいえ、私は彼らを伴って“奴ら”に接触するつもりでした。しかし、目を離したすきに彼らが誘われた後、何とか私も入ろうとした瞬間に、こうして呼ばれた次第です。」
「そうか、だが、くれぐれも勝手すぎる行動は控えて貰うぞ。以前のように、大事故なんて引き起こされてはたまらないからな。“ブリュンヒルデ”。」
「ブリュンヒルデ」と呼称した聖獣に、アテネはこう言った。
戦いの後の事である、拠点としている場所へと帰ったポラリスは、一旦皆に解散命令を出すと、自分は一人街に出ていた。活動資金を稼ぐ為に、バイトを行っている為である。
「うう、まだ痛い。」
先ほどの戦いの中で、源によって切り裂かれた部分を抑えながら、ポラリスは思った。
(あの時の鳳凰、アイツが初めて左手のバリアーを破壊するほどの攻撃をしてきたけど。まさか、あの一瞬だけ霊力が鳳凰を上回っていたと言うの)
彼女がある組織で懲罰を担当していた時、足抜けを試みたと言う事で懲罰を任された鳳凰が居り、彼はポラリスを倒すために渾身の霊力を込めた一撃を放ってきた。結果的に、彼女の持つ左手のバリアーがそれを受け止め、その反射を受けて鳳凰は倒されたが。
彼女は過去を思い出しこう思ったが、これを考える時間は幾らでもあると改めて考え、バイト先へと向かう事にした。
そんな彼女の隣を、ある人物が通り過ぎた。その人物は顔にしわも増え、白髪も増えた初老の男で、脚が不自由なのか車いすに座って移動しており、その車いすを介護士の人間が押している。
「ん?」
「どうかしました?」
ポラリスに気が付いた初老の男に、介護士がこう訊くと、
「いや、昔の職場で一緒に居た奴の事を思い出してな。」
と、男は言った。
「確か、その職場での事故で足が不自由になったと聞いていますが。」
介護士がこう訊くと、男は言った。
「アイツは今どこで何をしているのか?どこに行ったかと言うのは全く訊かないが、悪い事をしてしまった事もある、もう一度出会えるのなら、詫びの一つでも入れたい物だ。」
男の言う“アイツ”の事は、かつての事故で男を除く関係者は全て死んでしまったので、その呼称で個人を特定できる人はもう居ないだろう。ただ一人を除けば……




