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聖獣王伝説  作者: 超人カットマン
第三章
18/55

第十七話 神孔人機

 彩妃と小雪がオリオン、直葉がスカラベと交戦し、勝利していた頃の事である。彼女たちとは違う場所で、直樹と祐介はクジャラクと名乗る孔雀の姿の獣族聖獣と交戦していた。

「喰らいな!!」

 空を飛ぶクジャラクは、カラフルな羽毛と巨大な尾羽を展開し、直樹と祐介に向けて光の弾丸を雨のように降らせた。

「あ、危な!」

「くっ!!」

 直樹と祐介はそれを飛んで回避すると、聖獣を召喚しようと聖装を構えた。

「戦いは爆発の勢いだ!フレアノドン、燃え上がれ!!」

 直樹はこう言うと、聖装のハンマーで予め地面に置いておいたカードを叩いた。結果、地面が噴火するようにはじけ飛び、赤い体を持つプテラノドンを思わせる聖獣が現れた。彼のパートナーである「フレアノドン」である。

「フレアノドン、行く!」

 フレアノドンはこう言うと、高速でクジャラクに接近すると、口から火炎を吐き出して彼をけん制し、動きを封じた。

「祐介、今だ!!」

 直樹がこう言うと、祐介はカードを一枚取り出して、そのカードを開いた扇子の上に置くと、その扇子を閉じて、

「彼の焔、煉獄現す、十の首、敵は纏まり、あの世行也、我が相棒ハイドラ、顕現!!」

 彼が適当に考えた短歌を詠った。結果、祐介が扇子を振るうと同時に赤いオーラが炎となって展開され、それが固まると同時に、黒い全身と十本の首を持つ巨大なモールドラゴン「ハイドラ」となった。

「最初に宣言する、お前に勝ち目はない。なぜなら、頭数はこちらの方が多い!!」

 ハイドラがクジャラクにこう言うと、クジャラクはこう返した。

「どうかな?」

 そして、大きな翼を広げてハイドラに向けて飛翔した。一見すればただの体当たりであるが、彼の翼にはカラフルな光が集まっているので、体当たりと同時に爆発か、もしくは翼でハイドラを切り裂くつもりなのだと思われる。

「邪気眼砲!!」

 祐介はカードを開いた扇の上に置き、扇を閉じる事で聖装に読み込ませた。結果、ハイドラは首に隠されて見えない、隠された目を解放し、そこから威圧する衝撃波を放った。

「何?」

 威圧しきれていないのか、クジャラクは墜落こそしなかったが、それでも足を止める事には成功したようで、クジャラクは接近をやめて停止した。

「いまだ!!」

 祐介がこう叫ぶと、直樹は一枚のカードを聖装で叩いて読み込ませた。

「フレアカッター!!」

 それにより、飛翔しているフレアノドンは全身に炎を纏い、高熱で物質を焼き切る全身は、はまるで刃物のような切れ味を発揮するようになった。

「喰らえ!!」

 フレアノドンが高速で接近してくると、今まで動きを封じられていたクジャラクは、

「舐めるな!!」

 と言って、光を纏っている翼で、フレアノドンの突撃を受け止めた。





 様子を見る祐介は、直樹にこう言った。

「ここまで見ていて確信したが、奴は自身の領域である空を離れる事はまず無い。となると、俺のハイドラでは手も足も出ないし、空を飛べるフレアノドンなら何とか出来るとはいえ、たった一体では心許ない。」

「つまり、何が言いたい?」

 直樹がこう訊くと、

「何とか、奴を地上での戦いに持ち込めないか?と言う事だ。」

 と、祐介は言った。

 この一言に直樹は、

(自分のフレアノドンでは戦力不足か?)

 と、若干の不満を覚えたが、冷静に考えれば一体より二体で挑む方が、はるかに効率が良い上に、尚且つハイドラは空中での戦いを得意としない聖獣である事に気が付いた。

「まあ、一つだけ奴を地上に下ろす方法はある。」

 直樹がこう言うと、祐介は迷う事無く言った。

「それじゃあ、それをやってくれ!」

「良いんだな?」

 直樹は何かを含むような言葉を残すと、聖装で一枚のカードを叩いた。

「イカロス・サンシャイン!!」

 カードが読み込まれると、フレアノドンはクジャラクの飛翔する高さより高い場所まで高速で飛び上がり、全身に激しい業火を纏ってそこから光を発した。

「な、この技は?」

 クジャラクは驚くと同時に、墜落して地面に激突した。

「イカロスは翼を用いて空を飛ぶも、太陽に近づきすぎて翼を焼かれて墜ちた。」

 クジャラクの様子を見ながら、直樹はこう言った。彼の使用した「イカロス・サンシャイン」とは言う技は、炎属性の聖獣が使える技であり。直接的な攻撃とはならない代わりに、「聖獣である」「翼を持つ」「飛翔する」と言う要素を持つ聖獣を皆、強制的に墜落させ、飛び上がらせない効果を発揮する。

「これで当初の目的はなった。だけど、あれを発動させている間はフレアノドンが動けなくらるし、そもそもこれを保てるのは四分間だ。俺たちの霊力的に。」

 直樹が祐介に注意を促すと、祐介はこう言った。

「四分あれば十分だ!!奴を倒せる!!」

 そして、聖装の扇子の上に一枚のカードを置いて扇子を閉じると、待機していたハイドラは技を発動させた。

「ブレイキングラッシュ!!」

 十本ある首を交互に、かつ高速で打ち出す攻撃技、かつてはこの技でフレアノドンを倒した。しかし、クジャラクの場合はそうは行かないようで、

「舐めるなよ!クジャクの本領は地上でこそ発揮される!」

 と宣言すると、巨大な尾羽から光の弾丸を多数発射し、ハイドラの首の打撃を迎撃した。尾羽から弾丸で迎撃しているクジャラクは何ともないが、頭突きを打ち込んでいるハイドラは光の弾丸で徐々にダメージを受けている。様子を見た祐介は、こう言った。

「とにかく頑張れ!!どこかに逆転のチャンスがある!!」

 祐介はこう言ってはいるが、ハイドラとクジャラクの攻撃がぶつかり合うたびに、自身の中から大量の霊力が消費されていくのを直に感じており、このままではまずいと歯噛みしていた。

 一方の直樹は、フレアノドンとイカロス・サンシャインを保ちながら思った。

(この技の効果は本来飛翔する者を落とす事。その起源は翼を焼いた事だから、上手くやれば…)

 そして、両者は揃って決心すると、

「フレアノドン!!クジャラクへ接近しろ!!」

 直樹はフレアノドンに指示を出した。

 指示を受けたフレアノドンは、イカロス・サンシャインを発動させた状態で飛翔し、クジャラクへと突撃した。

「撃ち落す!!」

 一方のクジャラクはこう言うと、空いていた翼の羽を用いて光の弾丸を発射し、フレアノドンを撃ち落とそうとした。

 フレアノドンは光の弾丸を大量に直撃させてダメージを受けているが、それでも怯まずに接近し、やがては特攻するが如くクジャラクへ体当たりし、大爆発した。

「くっ!フレアノドン、戻れ!!」

 爆風に当てられる中、直樹は残った力でクジャラクの元のフレアノドンをカードに戻し、自分の聖装の中に戻した。

「やったか?」

 一度ハイドラにブレイキングラッシュをやめさせ、発生した煙の中を凝視するように見ながら、祐介はこう呟いた。あれほどの爆発を直に受ければ、倒せないまでも十分なダメージは与えられた筈である。ダウンは確実だろうと考えていた。

 しかし、クジャラクは翼を振り回して、煙を払いながら現れた。全身の羽毛は焼け焦げているが、筋肉自体には大したダメージは無いようで、何の問題も無く立っている。

「あ、アイツ、化け物じゃねえか。」

 クジャラクの姿を見た直樹がこう言った瞬間である。化け物と呼ばれたクジャラクは、こう返した。

「“誰の”せいだと思っている。」

(誰の?)

 祐介やハイドラは、クジャラクの発した一言に疑問を覚えたが、それでも今は奴を倒すのが先決と考えると、直樹にこう言った。

「今からある作戦で奴を倒そうと思う、協力してくれないか?」

「良いけど、何をすれば良い?」

 直樹がこう訊くと、祐介は耳打ちする事である事を指示した。

 その様子を見たクジャラクは、彼らに言った。

「どうした、最後の悪あがきの準備か?!」

「まあ、そんな物だ。」

 祐介はこう返すと、再びハイドラにブレイキングラッシュを放たせた。自身に迫る十本の首を見ながら、クジャラクはこう言った。

「さっきと同じ手が通用すると思っているのか!」

 そして、焼け焦げる事で輝きを失い、先ほどより威力は落ちているが光の弾丸を大量に撃ちこんだ。その様子を見ながら祐介は、

「ハイドラ、戻れ!!」

 ハイドラを一旦カードに戻すと、自身の後ろに下がっていた直樹の元へと走って行った。

(何をする気だ?)

 クジャラクがこう思うと、祐介は走りながら扇子を構え、直樹はそれを迎え撃つようにしてハンマーを構えた。だが、決して仲間割れでは無い。

「せぇーの!!」

 祐介がこう言ってジャンプすると、直樹の構えるハンマーの面の上に乗り、

「跳んでけ!!」

 直樹はハンマーを大きく振って、祐介を上空へと飛ばした。

「な、なにぃ!!」

 クジャラクが二人の行動に驚く中、上空へ飛んだ祐介は、クジャラクに言った。

「お前は常に誰よりも高い場所から敵を討ってきた。それゆえ、自分より高い場所の相手には手も足も出ない!!」

 そして、先ほど戻したハイドラを再び召喚した。使用したブレイキングラッシュをまだ発動しているが、距離的な問題でクジャラクには届いていない。

「ダークヒドラ!!」

 その状態のハイドラに、祐介はもう一つの技を指示した。ダークヒドラはハイドラの決め技とも言える技であり、口から業火を吐き出す技である。通常は十本の口が同時に火炎を吐き出すのだが、今回はブレイキングラッシュと併用している為、炎はまるで弾丸のように、首の動きと相まって不規則にクジャラクへと降り注いだ。

「か、躱しきれない!」

 クジャラクが上空を見てこう言った瞬間、彼の全身は上空から雨のように降り注ぐ業火を浴びる事になった。

「これで、もう立ち上がってはこないな。」

 クジャラクが炎に包まれる様子を見ながら、祐介、直樹は互いにこう呟いた。





 祐介と直樹がクジャラクと戦っている頃、別な場所では江美と薫が、人間の女性の姿を取る機械族聖獣「ドロシー」と交戦していた。

「喰らいなさい!!」

 ドロシーは手に持った拳銃を乱射し、江美と薫を撃ち抜こうとしている。一方の江美は華麗な動きで弾丸を回避し、薫はブレードで弾丸を受け止めると、それぞれの聖装にカードを読み込ませた。

「燃え上がれ私の相棒!!灼熱亀アーケロンド!!」

 江美がこう言うと、大地から炎が吹き出し、その中から、

「我の力は大地の鼓動、灼熱亀アーケロンド、出陣!!」

 ドスドスと怪獣が歩くようにして、アーケロンドが出現した。

 一方の薫も、自身のパートナーを召喚するが、以前のように普通に召喚する事はしなかった。

「白亜の竜の対抗者、組み上がって具現せよ!今こそ、出陣の時!」

 結果、周囲から粉塵が集まって様々な形状のパーツを形成すると、それらは一塊になって、腕と足の短い怪獣を思わせる形状のロボット。薫のパートナーである機械族聖獣「ギュオンズ」となった。

「ギュオンズ、機動!!」

 両者の聖獣が具現化し、自身の前に立つ様子を見ながら、ドロシーはこう言った。

「聖獣が二体。ワルサ―程度では心許ないか。」

 そして、持っていた拳銃をどこかへとしまうと、今まで拳銃を持っていた手を動かした。まるで準備運動をするように。

「じゃあ、行くか!!」

 ドロシーはこう言うと、二体の聖獣目掛けて飛びかかった。その際、手は一瞬の内に大剣へと変形した。

「変形した?!」

 江美、薫がそれぞれ驚く中、動体視力が高いアーケロンドは白羽取りで受け止め、受け止めた刃を口から吐き出す火球で押し返した。

「あ、危なかった。」

 アーケロンドがこう呟いた瞬間である。江美は薫がプルプル震えているのに気が付いた、

「ど、どうしたの?」

 江美が薫に訊くと、薫は、

「すげぇ!!見た今の?!変形したよ変形!!」

 と、江美に言った。

「…嬉しそうだね。」

 若干、異常の呆れを含み、江美が薫に言うと、

「だって変形だよ変形!!この世に人型で変形するロボットに興奮しない男子は居ないよ!!」

 薫は興奮の余りこう言った。

(薫、状況分かっているのか?)

 ギュオンズがこう考えた時である、ドロシーは彼らにこう言った。

「喜んでもらえるのならそれは光栄だが、生憎私はそういう類のロボットでは無いのでな!!」

 そして、今まで大剣だった手を今度はガトリングガンに変形し、大量の鋭い弾丸を浴びせた。

「シェルガード!!」

「状態変化・硬!!」

 それに合わせて、江美と薫はアーケロンドとギュオンズの後ろに下がり、それぞれの聖装でカードを読み込んだ。シェルガードを発動したアーケロンドは、手足と頭を甲羅に引っ込めて身を守り、状態変化・硬を発動させたギュオンズは、短時間だけであるが全身の金属の装甲の耐久力を極限まで高めて、弾丸を全て弾き飛ばした。

「だったら!!」

 攻撃が全て防がれたと確認したドロシーは、腕を再び変化させた。今度は、片手では無く両手で盾のような形状の火器を作り出した。

「な、何だあれ?」

 アーケロンドがこう言うと、ドロシーの両腕が変形した盾のような火器は、硬くて太くて鋭い棘のような物を一本飛ばした。

「危ない!!」

 皆が飛んで回避すると、今飛んできた棘の形状と、ドロシーの腕の形状をそれぞれ確認しながら、薫は言った。

「成程、パイルバンカーか。」

「ぱいるばんかー?」

 言葉の意味が分からない江美がこう言うと、薫は説明した。

「パイルバンカーってのは、杭とか槍を火薬や電磁波を用いて放つ近接戦専用の火器で、いうなれば杭打機って言えば分かる?」

「簡単に言えば、一発限りの必殺の一撃と言うわけだ。」

 薫の説明にギュオンズが補足をすると、ドロシーは、

「ご名答、でも、一発限りと言う訳では無いがな。」

 と言って、再び棘をパイルバンカーから発射した。薫と江美、アーケロンドとギュオンズはそれを飛んで回避すると、逃げ回りながら聖装同士を繋いだ精神感応で相談した。

「でもどうする?このままじゃ埒が明かないよ。」

 江美がこう訊くと、薫は言った。

「奴は機械族。となると、奴には何にも勝って効く物が一つありますが、それには何とか奴に近寄らないと。」

 薫の返答を訊くや否や、江美はこう言った。

「じゃあ、何とか隙を作るから、それをお願い!!」





 そして、ドロシーが棘を放ち、霊力を砲身の冷却に費やしている瞬間を狙い、江美は飛び出した。

「はぁぁぁ!!」

 聖装の棍棒を構えると、それを用いた華麗な格闘技でドロシーを攻め立てる。

中国拳法に置いて最も重要な事とは、美しく演武を行う事、やっている過程で健康になる事、何より実用性がある事である。それらの要素を全て含んだ江美の格闘術は、一言で言えばとても美しく、体外の相手であればその動きに魅了されている間に倒せるだろう。しかし、ドロシーは自身に付いているレーダーを用いて江美の動きを先読みしているので、攻撃は一発も当たっていない。

「惜しい、惜しい。」

 軽やか且つ余裕を感じさせる動きで攻撃を回避したドロシーは、江美にこう言った。一方の江美は、ドロシーにこう返した。

「別に、当てるつもりは無いもの。」

 江美のこの言葉、これは決して負け惜しみなどでは無い。彼女にはちゃんと作戦があった。

「貰った!!」

 江美の攻撃を回避するのに夢中になっていたドロシーは、それゆえに背後に迫ったアーケロンドに気が付けず、彼に腰を取られてしまった。

 ドロシーの持つレーダーの唯一の欠点、それは一人の相手に集中して使用している間は、他の存在を一切探知できない事である。

「喰らえ!!」

 腰を取ったアーケロンドはこう言うと、その状態で高くジャンプし、ドロシーの頭を地面に叩きつける態勢。所謂「バックドロップ」の動きでドロシーを攻撃しようとした。

「まずい。」

 ドロシーはこう言うと、今も自由なパイルバンカーを今まで通りの腕に戻すと、

「腕力強化!!」

 再び腕を変形させて、今度は銃火器や刃物では無く、以前より巨大な腕に変化させた。そして、地面に頭が激突する直前で、腕で自身の体とアーケロンドの落下を受け止めた。

「受け止めやがった。」

 アーケロンドが驚くと、ドロシーは反撃をしようと考えて拘束を解こうとした。

 しかしそれより前に、

「いまだ!!」

 薫とギュオンズがドロシーに急接近した。

「喰らえ!!」

 薫がこう言って、聖装に一枚のカードを読み込ませると、ギュオンズは全身からコードのような物を出して、それを用いてドロシーを拘束した。その際、コードは彼女の耳の中や、衣服状のパーツの中にまで侵入していたが、気にはしなかった。

「コードくらい。」

 ドロシーは拘束されながらも、何とか脱出しようと腕を変形させようとした。

 だが、

「な、何…これ…?」

 突如ドロシーは、全身に倦怠感や痺れを始めとする、この世に存在する全ての苦痛を感じ始めた。

「まさ…か…、ウィルス…を…」

 ドロシーはこう言うと、薫とギュオンズは肯定するように頷いた。

 ちなみに、ウィルスと言ってもそれは所謂「病原菌」の事では無く、コンピューターウィルスの事である。ドロシーは人のような見た目をしているが、根本は全て機械で出来ているので、ウィルスを送り込まれればフリーズやバグと言った不調が現れる。

 薫は特殊な技を使用する事で、ギュオンズの中でウィルスを作りだし、それをドロシーに与えたのだ。

「僕らの勝ちだ。いずれアンタは一歩も動けなくなる。」

 勝利を確信した薫は、ドロシーにこう言った。





 だが、ドロシーも簡単に勝利を譲る事はしなかった。

「はぁぁぁ!!」

 両腕を獣の頭を思わせる特殊な武器に変形すると、ギュオンズのコードを切り裂いて脱出して見せた。

「な、何だと?」

「なんて奴だ、本来なら動く事さえままならない程消耗してる筈なのに…。」

 薫、ギュオンズがそれぞれ驚くと、ドロシーはこう言った。

「強化変形の霊力を犠牲にしてワクチンを作ったが、予想以上の消耗になったな。コードだけじゃ…」

 彼女の獣の頭のような武器は、敵聖獣の体の一部を捕食し、それに含まれる霊力で回復を行う能力がある。機械族の聖獣が出すコードなどもその対象に含まれるが、機械族にとっては体毛に近い価値しかないので、含まれる霊力値自体はかなり少ない。そのため、大した回復は行えなかった。

「もうそろそろ、やめにしたらどうですか?勝ち目何て無いですよ。」

 江美がドロシーにこう言うと、ドロシーはこう返した。

「そうは行かない。体が動く限り任務は遂行し続ける、それが機械族の矜持と言うものだからな。」

 そして、腕を大砲に変形させると、アーケロンドとギュオンズを砲撃した。砲撃と言う事でかなりの威力のある砲弾が大量に飛んできたが、速度はかなり落ちており、簡単に躱すことが出来た。

「こうなったら、あれしか無いな。」

 アーケロンドがこう言うと、江美は彼の言う“あれ”が何のことか分かったようで、一回頷くと、薫にもある指示を送った。

「投げ返して。」

 と。

「?……分かった。」

 指示を出された薫は、当初は指示を理解できなかったが、少し考えてある事を思い出し、こう答えた。

「ギュオンズ、今から………」

 その後、直にギュオンズにある事を指示した。

 その間に、江美は一枚のカードを使用した。

「メテオインパクト!!」

 江美の使用した技「メテオインパクト」は、重量の重い聖獣が使用する程威力の上がる技で、全身に炎を纏って突進する炎属性の技である。

 ドロシーの砲撃を甲羅に入る事で防ぎながら突撃するアーケロンドは、自身の重量でドロシーを押し潰そうとした。だが、ドロシーにはレーダーで相手の動きを知る能力があるため、ぶつかるよりも前に簡単に回避されてしまった。

「惜しかったな。」

 ドロシーがアーケロンドにこう言った瞬間である。

「どうかな。」

 ドロシーの隣を通り過ぎたアーケロンドは、こう言った。

「何?」

 ドロシーがこう言うと、通り過ぎたアーケロンドの甲羅を、誰かが背後でつかんだ。そこに居るのはギュオンズで、アーケロンドに眼を取られていた間に、ドロシーの背後に回っていたのだ。

「まさか?!」

 その事にドロシー本人が気付いた時、既に手遅れだった。

「メテオインパクト・リバース!!」

 ギュオンズはアーケロンドの甲羅を持った状態で一回転すると、アーケロンドをドロシー目掛けて投げ返した。至近距離からの攻撃であった為、ドロシーは回避する事が出来ず、直撃すると同時にアーケロンドに押されて壁に激突した。その際、衝撃で体内の機関をいくつか損傷し、立ち上がるのはともかく戦闘は行えない状態に陥ってしまった。

「私の負けか。だがこれで良い。例え私を含めた他の四人が負けても、あの方さえ勝利出来ればそれで良い。」

 動けない状態になりながら、ドロシーはこう言った。

「それってどういう意味?」

 江美、薫は疑問に思って聞き返したが、ドロシーは答えなかった。





 ドロシーを始めとする四体の聖獣が、江美や祐介達によって倒された頃、ポラリスと立ち会っていた源とその聖獣たちはと言うと、ポラリス相手に苦戦していた。

「何だあいつ、強すぎる。」

 聖獣が口々にこう言う聖獣、ポラリスは傷一つも無い状態で、様々な武器を構えている。そして、源達の足元には様々な武器が転がっている。これまでの戦いで数多くの武器を攻略したが、相手は無尽蔵に近い量の武器を持っているのか、次々に武器を取り出している。

「どうする…?」

 綾小路源は本気で思っていた、これは本当に勝ち目があるか分からない、と。


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