表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
聖獣王伝説  作者: 超人カットマン
第三章
17/55

第十六話 神弓怪虫

 龍皇バロン・サムディを襲撃し、綾小路源に濡れ衣を着せるような真似をした黒幕を探し、訳有のヴァルキリーの協力も受けた事もあり、綾小路源とその仲間たちは、東京へと足を運び、そこで「BABEL」と名乗る謎の聖獣の集まりの罠に嵌り、それぞれバラバラになって聖獣たちの相手をする事になった。

「はっ!!」

 大きな弓を用いて、大きいうえに鋭い矢を大量に飛ばしてくる巨人族聖獣「オリオン」を相手にする彩妃と小雪は、それぞれ違う方向に全速力で逃げている。そして、オリオンの左右真横を二人で取ると、聖装の「ギター」と「斬馬刀」から、パートナーである聖獣を呼び出した。

「その音色で魅了せよ、天唱霊イスフィール!!」

 彩妃がこう言って聖装のスロットにカードを差し込むと、五線譜と音符の演出と共にイスフィールが現れ、

「天に響く鎮魂の歌、天唱霊イスフィール、貴方の心へ奏参!!」

 現れたイスフィールは、こう言った。

 その様子を見た小雪は、

「私もやってみよう!」

 と言うと、

「その心体、心凍冷却、冷たき息吹と未知なる力、我が朋ビッグフットをここに。」

 と言って、聖装に付いたセンサーにカードを接触させた。その結果、周囲から集まった冷気が氷を形作ると同時に、その氷が砕けて中からビッグフットが現れた。

「戦士ビッグフット、小雪の言う事は良く分からないけど、とにかく参上だ!!」

 ビッグフットがこう言って、先に現れたイスフィールと同様に構えを取ると、挟み撃ちにされかねない状態になったオリオンは、弓を下しながら言った。

「俺は狩人だ。狩りにおける常識は本来、獲物は無駄に傷つけずに一撃で落とす事。本来戦う事は専門外だが、今回は相手にしてやる。かかって来い。」

「弓遣いが弓を下した状態で誰かを相手にしようだなんて。いくらヴァルキリーの中でも、特に力の無い物が宛がわれる鎮魂歌担当を相手にしているからって、舐めすぎじゃない?」

 そのオリオンにイスフィールはこう言うと、武器として持つ錫杖と指揮棒を構えて突撃した。

ヴァルキリーと言われる妖精族の聖獣は、それぞれ怨霊と化した魂と戦う戦闘担当、戦場で散った魂を死者の世界に連れて行き、そこでの世話を司る送迎担当、戦場で散った魂を沈め、戦場となった土地を今までのように再生させる鎮魂歌及び後始末担当の三つに分けられ、戦闘担当から順番に強い物が宛がわれていく仕組みがある。そのため、戦場で散った魂たちの為に鎮魂歌を唄う役を担っているイスフィールは、ヴァルキリーとしては若干弱い分類に入る。だが、通常の聖獣の基準で言えば、十分に強い存在ではあるが。

「はぁぁぁぁぁ!!」

 イスフィールが、手にした錫杖でオリオンに殴り掛かると、オリオンは少しも慌てずに弓で錫杖を受け止めた。

「これくらい、クマの腕力に比べれば十分受けられる。」

 オリオンがこう言った瞬間である。

「今です、ビッグフット!!」

 イスフィールがこう叫ぶや否や、立ち位置的にオリオンの背後に居たビッグフットが飛びかかった。

「アイシクルスピアー!!」

 ビッグフットの手には、針を思わせる鋭さを持った氷柱があり、それをオリオンに突き刺そうとした。しかし、オリオンは、

「この程度、狼の群れに出くわしたときに比べれば!」

 と言うと、今までイスフィールの錫杖を受け止めた弓を大きく横に振り、イスフィールとビッグフットを遠ざけた。

 その後、ビッグフットは小雪の元に、イスフィールは彩妃の元にそれぞれ着地した。その際、ビッグフットは何事も無く再び構えを取ったが、イスフィールは一度指揮棒をどこかに仕舞うと、空いた左手で腹を押さえている。

「ちょ、イスフィール、ただ弓で一閃しただけでしょう、何で逃げるの?」

 彩妃がこう訊くと、イスフィールは、

「これ、見て下さい。」

 と言うと、今まで押えていた腹を彩妃に見せた。着ている服の布が綺麗に斬られており、服が切られた為で軽くすんだのだろう、その下の皮膚に軽い切り傷が出来ていた。

「奴の弓には刃が仕込まれています。恐らくあれは、狩猟用の弓と、護身用の剣を兼ねた複合武器なのでしょう。下手な距離で戦いを挑めば、弓か刃のどちらかで仕留められます。」

 イスフィールが説明すると、彩妃はオリオンの持つ弓の先端に、イスフィールを斬った時に付いたのだろう、赤い血が付いて居るのを見た。

「遠距離、近距離、どちらで挑んでも苦戦は同じか…」

 同じことを分析したのだろう、小雪がこう呟くと、彩妃はオリオンにこう言った。

「そういう事なら、遠慮なくイスフィールの服を斬っちゃって下さい!」

「何でだよ?」

 彩妃の発言に、オリオンが思わずツッコみを入れると、

「彩妃、こう言う真面目なところでふざけるのは止めて下さい!!」

 イスフィールは彩妃の顔の頬を左右に引っ張りながら、こう言った。

「ひゃ、ひゃい、ひゅいまひぇん。(は、はい、すいません)」

 彩妃がこう言うと、オリオンはこう言った。

「戦いに戻っても良いか?」

「良いだよ。」

 ビッグフットがこう言うと、オリオンは持っている弓の形状を大きく変化させた。半分に折り曲げて一本の剣のような形状にすると、持ち手の部分を変形させて柄とすると、彼の弓は一振りの剣となった。

「行くぜ!!」

 オリオンはこう叫ぶと、高く跳躍してビッグフットに飛びかかった。剣を大きく振り上げ、一刀両断しようと構える。一方のビッグフットは、先ほども使用した技「アイシクルスピア―」を用いて剣を受け止めると、そのまま剣劇を繰り広げた。





 一方、ビッグフットの剣劇を遠巻きに眺めながら、小雪は彩妃とイスフィールに連絡を送った。その内容は、作戦の協力要請である。

「私に一つ作戦があるから、それの準備が済むまでオリオンの相手をして欲しい。なお、準備が整うまで、私たちに注意が全く来ないのが望ましい。」

 小雪がこう伝えると、彩妃は訊いた。

「自信はあるの?」

 これに対し、小雪はこう答えた。

「初めてだから、分からない。」

 作戦を決行するに当たっては、何よりも不安になる要素「初めての決行」を孕んだ作戦ではあるが、自分たちの情報がどれほど割られているか分からない以上、使える作戦は全て使っておこうと考え、彩妃はそれを了解した。

 小雪は、彩妃の了解を得るや否や、

「ビッグフット、戻って!!」

 と、ビッグフットに指示を出した。

「了解しただ!!」

 ビッグフットがこう言って、小雪の元へ戻ると、

「逃がすか!!」

 オリオンは追撃しようとした。しかし、それに合わせるかのようにして、イスフィールがオリオンの前に現れた。

「先ほどは一矢報いられましたが、今回はそうは行きません!!」

 イスフィールはこう言うと、再び錫杖を振り下ろしてオリオンを攻撃した。指揮棒はしまった状態で、両手で持った錫杖を何度もオリオンに叩きつける。一方のオリオンは、それらを剣で受け止めながら反撃のチャンスを窺っている。

「慣れない力技は、余計に状況を悪くするだけだが?」

 攻撃を受け止めながらオリオンがこう言うと、イスフィールは再び錫杖を振り下ろしながら言った。

「甘く見ないでもらえますか?非力でも一応はヴァルキリー、筋力はそれなりにあるんですよ!!」

 事実、イスフィールの振り下ろす錫杖の打撃は、かなりの重さを孕んでいるようで、オリオン自身、弓を変形させた剣では受けきるのは難しいと考えている。

 その頃、オリオンの見ていない所でビッグフットと小雪は、氷属性の力を用いて冷気を集めると、大きな氷柱を作り上げていた。

「小雪、準備できただ。」

 ビッグフットがこう言う中、小雪は狙いを定めていた。その標的は、言うまでも無くオリオンである。

「後右半歩。」

 小雪がこう呟くと、彼女の要求を満たそうとしたのか、オリオンはイスフィールの一撃にたじろぎ、右半歩動いた。

「今です!!」

 小雪がこう叫ぶと、その叫びを聞いたイスフィールは、錫杖を下から振り上げてオリオンをけん制すると、安全な距離まで飛んで離れた。

 その様子を見届けた小雪は、斬馬刀を構えると、

「我流斬馬刀奥義、大大ブツ切り!!」

 背後で構えるビッグフットに投げ上げてもらう事で高く飛び上がり、二人で作った氷柱を次々と横に切り裂いた。これにより、氷柱はだるま落としのような状態になった。

「喰らうだ、氷塊だるま落とし!!」

 そして、下で控えるビッグフットがそれを次々と殴り、氷塊は次々と不規則な回転を伴ってオリオンに襲い掛かった。

「成程、これが狙いか?!」

 オリオンはこう言って剣を構えると、それを次々と振り下ろして迫る氷塊を破壊した。その後、剣を弓矢に変形させると、降りてきた小雪を受け止めたビッグフットに狙いを定めた。

「射程範囲内だ!」

 オリオンがこう言うと、小雪はこう言った。

「こちらもね。」

「何?」

 小雪の言葉にオリオンが疑問を覚えた瞬間、オリオンは自身の近くに物凄い熱が発生しているのに気が付いた。

「何だ?」

 オリオンがその方向を見ると、そこには太陽が降りて来たのではと勘違いするほどの熱量を発する炎が燃え滾っており、ほぼ零距離までオリオンに迫っていた。

「燃え尽きよ、アパッショナート!!」

 音楽の用語で「熱情的に」を表す彼女のこの技は、本来炎属性を持たない彼女が、攻撃対象に向けて炎属性の攻撃を放つ事が出来るのだ。

 オリオンが回避も防御もできず、イスフィールの放った炎に包まれる様子を見ながら、小雪は彩妃に言った。

「カバー、どうもありがとう。」

「どういたしまして。」

 小雪と彩妃は勝ったつもりでいるようで、ビッグフットとイスフィールを聖装に戻そうとした。

 しかし、両者は揃ってそれを拒否した。二人が理由を訊くと、

「まだ、勝負は付いて居ない。」

 と、両者は揃って言った。

「でも、あんな一撃を至近距離で受けて、ただで済んでる筈が…」

 小雪がこう言った瞬間である。炎を振り払う事で、オリオンが姿を現した。体中に軽い火傷があるので、お世辞にも無事とは言えない状況ではあるが、それでも彼の動きは全く力強さを損なおうとしていない。

「くっ、俺が一糸報いるどころか、一矢報いられるとはな。頭の良い捕食獣は全力を出さずに獲物を狩ると言うが、そんな真似をして狩れる相手ではないと言う事か。」

 オリオンは体を動かしながらこう言った。彼の言う事をストレートにすると、

「今までは手加減していたが、これから本気を出す。」

 と、言う事である。

「どうしよう?」

 様子を見ている彩妃がこう言うと、イスフィールはこう言った。

「こうなったら、あれしか無いですね。」

「? あれ?」

 あれ、とイスフィールが言う物が何なのか、知らない小雪とビッグフットが揃って呟くと、イスフィールは二人にある物を渡して言った。

「これは殆ど賭けです。これをしていないと、こちらに悪影響が来ます。」

「一体何をするの?」

 小雪はこう呟くと、ビッグフットと同じようにして渡された道具を使用した。

 その様子を見たイスフィールは、錫杖を笛として使用するのか、穴の開いた部分を口に付けると、彩妃に言った。

「お願いします。」

 そして、イスフィールは綺麗な笛の音を奏で始めた。力強さを音色に含みながらも、どこか癒される心地がする。

「? 士気を鼓舞するのか?」

 オリオンが様子を見ながらこう呟いた瞬間である。彩妃は大きく口を開き、イスフィールの奏でる笛の音に合わせて、歌を唄い始めた。歌の歌詞や声の大きさには問題は無い。ただ一つの問題は、その下手の度合いである。彼女の歌の下手さを一言で表すと、

「ボエ~!!」

 である。

 彩妃はギターの演奏に関しては誰よりも才能を発揮する。だが、歌を唄うと言う点になると話は一転、聞くもの全ての正気を失わせるほどの特殊な不快音波を広範囲にまき散らすのだ。

 そのためイスフィールは、先ほど小雪とビッグフットに耳栓を渡したのだ。

「な、何だこの怪音波は?感覚が……!!」

 一方、耳栓をしていないオリオンは、彩妃の歌がまき散らす音波によって正気を失いかけており、平衡感覚も失って苦しんでいる。

(何だかしっくりこない勝ち方になりそうだけど、今を置いてチャンスは無い!!)

 様子を見る小雪はこう考えると、聖装に一枚のカードを読み込ませた。

「パーフェクトブリザード!!」

 結果、ビッグフットは体を大の字に広げて、強烈な吹雪をオリオンに浴びせた。これにより、オリオンは全身を氷漬けにされて、身動きを取れなくなってしまった。

「これで、私たちの勝ちだね。」

 小雪がこう呟くと、彩妃は歌うのを止めてこう言った。

「何だろ、凄くしっくりこない。」





 一方、小雪や彩妃とは違う場所でスカラベと名乗る昆虫族聖獣「スカラベ」と戦う直葉はと言うと、

「喰らいやがれ!!」

 スカラベはどこからか巨大な岩を引っ張り出すと、それを直葉に目掛けて投げつけた。それを見た直葉は、聖装のナイフを取り出すと、それを大きく振るって飛んでくる岩を切り裂き、突きで砕いた。その後、どこからかカードを一枚取り出すと、それを柄の下に付いているセンサーに読み込ませた。

「来て、ヨルムンガンド!!」

 直葉がこう言って空中に切れ目を入れると、巨大な隙間が空間に現れ、そこから聖獣の中でも特に巨大な体を持つ蛇型の聖獣「ヨルムンガンド」が現れた。

「行けぇ!」

 直葉がこう叫ぶと、ヨルムンガンドは巨大な口を大きく開いて、スカラベに襲い掛かった。

「聖獣の中でも、特に巨大と言われる神蛇型の聖獣ヨルムンガンド、普通ならこいつの一呑みで勝負は決するが…」

 スカラベは迫るヨルムンガンドを見ながらこう言うと、まるで柔道のような構えを取り、

「俺はその程度で負ける程甘くは無い!!」

 と言うと同時に、自らを飲み込もうとしたヨルムンガンドを受け止め、思いっきり振り回すと、ヨルムンガンドの巨体を大きく投げ飛ばした。

「くっ!!」

 直葉は、投げ飛ばされたヨルムンガンドが落ちてくる衝撃に充てられたが、その中でももう一枚カードを取り出し、自らの持つもう一体の聖獣を呼びだした。

「来て、ラベンダードラゴン!!」

 結果、ヨルムンガンドと同じ要領で空色の鱗を持つドラゴンが現れ、直葉の隣に降り立った。モールドラゴンの特性を持った植物族の聖獣、ラベンダードラゴンは、相手の姿を見るや否や直葉に言った。

「植物族の聖獣に昆虫族の相手をさせるなんて。正気ですか?」

「仕方無いでしょう。ヨルムンは投げられちゃったし。」

 直葉はラベンダードラゴンにこう言い返した。因みに、ヨルムンと言うのは「ヨルムンガンド」の事である。

 ラベンダードラゴンは、直葉の背後で倒れて居るヨルムンガンドの姿を見るや否や、

「成程、何とかいつも通りの形に持っていくと言う事ですね。分かりました。」

 と言って、スカラベに向かって行った。いつも通りの形と言うのは、ラベンダードラゴンが動きを封じて、ヨルムンガンドが丸呑みにして止めを刺す、と言う戦法の事である。

「喰らいな!」

 ラベンダードラゴンは飛翔してスカラベに接近すると、鋭い肘打ちを繰り出した。一方のスカラベは回避する事無く正面から受け止めた。

「言っておくが、力に対抗するには相手を上回る力が不可欠だ。少なくとも、頂肘程度じゃ俺の防御は破らせない。」

 スカラベがこう言うと、

「別に、この程度で倒せるとはなから思っては居ない!!」

 ラベンダードラゴンはこう返して、スカラベと距離を取ると同時に、どこから種を複数取り出し、それをスカラベの足元へ投げつけた。

「茨の森!!」

 ラベンダードラゴンがこう言うと、地面に投げつけられた種は次々と目を出し、茨の枝を持つ植物に急速成長すると、スカラベの体を拘束した。

 普通なら、全身に棘が刺さって途轍もない苦しみを生み出す状況であるが、甲虫型であるために通常より高い防御力を持つスカラベは、こう言った。

「この程度、くすぐったいだけだぜ。」

 事実、棘は刺さっておらず、彼の皮膚には傷一つ付いていないので、効かないと言う宣言は本当なのだろう。

 しかし、ラベンダードラゴンはその事をしっかり把握した上で、攻撃を行っていた。

「まあ、良いけどな。その植物の目的は、お前に傷を付ける事では無く、お前の体に巻きつく事だから。」

 ラベンダードラゴンがこう言うと同時に、茨の枝は縮み始めた。このために、スカラベの体は後ろに倒れて行き、甲虫にとって硬い表皮に覆われていない部分があらわになった。

「くそ、こういう事か!!」

 スカラベがこう言うと、直葉は一枚のカードを読み込ませていった。

「貴方に植物族の攻撃が効かないのは百も承知。でも、攻撃以外の用途なら十分有効な筈。」

 それと同時に、今まで休んでいたヨルムンガンドが起き上がると、

「そして、身動きの取れない今の状態であれば、我々はお前にやりたい放題と言うわけだ。」

 初めて言葉を喋ると同時に、スカラベに襲い掛かった。

「また俺を食おうと言うつもりか?」

 スカラベがこう言うと、

「蛇に出来るのはそれだけだと思うなよ。」

 ヨルムンガンドはこう宣言し、大きく開いた目でスカラベを睨んだ。

「蛇眼ショック!!」

 その結果、先ほど直葉の使用したカードが効果を発揮し、ヨルムンガンドの目から放たれた電撃を思わせるエネルギーの波動がスカラベに襲い掛かり、スカラベを中心に爆発を起こした。

 蛇眼ショックとは、蛇型の聖獣のみが使用できる特殊な技であり、睨んだ相手を動けなくし、同時にダメージも与える技である。

 爆風に包まれスカラベを見ながら、ヨルムンガンドは、

「これで奴は倒されるか、爆風によって周りの様子を窺う事は出来ない。今のうちに、止めの準備を…」

 と、直葉に言って、直葉は一枚のカードを用意した。





 しかし、そうそう上手く行く訳では無いようである。スカラベの居る場所に発生した砂煙の中から、何か大きくて重い物が激突する音が響いてきた。

「な、何だ?」

 ラベンダードラゴンがこう言うと、衝撃が発生すると同時に徐々に砂煙が晴れて行き、スカラベが姿を現した。彼は拘束された状態であるのにも関わらず、床に自身の体を叩きつけている。

「な、何をしているの?」

 直葉がこう呟いた時、ラベンダードラゴンはスカラベの目的を理解したようで、

「思い切った事をする者だな。」

 と、言った。

 そして、スカラベの体は床を砕き、その中に埋まっていた茨の種を自身の体で粉々に砕いてしまった。その結果、発生元が無くなった為に、茨は消滅しスカラベの体から無くなった。

「アイツ、自身の頑丈さを良い事に、ランの埋めた種を床ごと砕いたのか。」

 スカラベの行動の目的、それを知ったヨルムンガンドはこう言った。因みに、ランと言うのはラベンダードラゴンの愛称である。名前が長いと言う事で、ヨルムンガンド同様に彼らの中では愛称で呼ばれている。

「どうしよう、あれで奴は再び自由に…」

 直葉がこう言うと、ラベンダードラゴンはこう言った。

「いいや、確かに自由だが、少し問題もあるようだ。」

 その後、直葉にスカラベを良く観察するようにと言った。直葉が言われた通りにすると、スカラベの棘も通さない頑丈な表皮に、罅が入っていた。早い話、硬い地面に何度も体を叩きつけた事で、頑丈な彼の表皮も耐え切れなくなってきていると言う事だ。

「成程、硬い物の弱点は同じく硬い物、と言う訳か。」

 ヨルムンガンドがこう呟いた瞬間、スカラベはこう言った。

「弱点が分かった所で、俺に勝てる理由にはならないのでは無いか!!」

 そして、どこからか途轍もなく巨大な岩を取り出すと、直葉たち目掛けて投げつけた。

「な、何あれ?!」

 直葉がこう言うと、ラベンダードラゴンはこう言った。

「あれほど巨大な岩塊。こいつを使うべきか?」

 この発言のすぐ後、彼が種のような物を取り出した瞬間である。突然ヨルムンガンドが大きく飛んで、岩に向かって行った。

「な、ヨルムン、何をするの?!」

 直葉がこう言うと、ヨルムンガンドはその巨体を大きく回転させ、その際に発した遠心力を付加した尾の打撃で、岩を粉々に砕いた。しかし、この一撃で霊力を使い果たしたのか、降り注ぐ岩の欠片の中墜落すると、直葉の聖装の中に戻って行った。

「ヨルムンの頑張りで、何とかなったか。」

「ありがとう、ヨルムン。」

 ラベンダードラゴン、直葉がこう言うと、自身の渾身の力を込めた一撃を阻止されたスカラベはこう言った。

「いくらサイズの違いはあるとはいえ、俺の投げた岩を砕く奴が居るだと。」

 驚きに包まれるスカラベの様子を見ている直葉は、ラベンダードラゴンに指示を出した。

「私が合図をするまで、奴を力で抑え込んで。」

「…分かった。だが、早めに頼むぞ。奴とこちらとじゃ、力は全く桁違いだからな。」

 ラベンダードラゴンがこう言うと、直葉はラベンダードラゴンの傍を離れた。

 一方のラベンダードラゴンは、スカラベの近くまで飛んでいくと、スカラベに掴みかかった。

「俺と力比べをするつもりか?」

 スカラベはこう言うと、腕に力を込めてラベンダードラゴンを押し返そうとした。

「こちらも、負けるつもりは無い!」

 ラベンダードラゴンも渾身の力で押し込もうとしたが、元々の力が違うのと、消費した霊力が多いために、どんどん押し返されている。

(まだか?)

 ラベンダードラゴンが何とか持ち直そうとこう思った時である、

「今よ!!」

 こう叫んで、スカラベの背後から直葉が飛び出した。手にはナイフが握られている、

「後ろか!」

 スカラベはこう言うと、ラベンダードラゴンから手を離して、直葉の振り下ろすナイフを腕で防いだ。彼の表皮は堅い為に、全く傷はつかなかった。

「不意打ちを狙ったようだが、少し惜しかったな。」

 スカラベはこう直葉に言ったが、直葉本人は、

「今よ、ラン!!」

 と、叫んだ。その瞬間、

「待ってました!!」

 ラベンダードラゴンは、スカラベの背中を掴むや否や、背中の翼で飛び上がり、スカラベを上空に連れ去った。そのまま、上空数十メートルまで飛び上がると、今度は高速で急降下を始め、

「喰らえ!」

 そのスピードのまま、スカラベを地面に叩きつけた。結果、スカラベは気絶したのか、動くことは無かった。

「やったね!」

「ああ。」

 ラベンダードラゴンが直葉の元に戻ると、二人はこう言いあってハイタッチを交わした。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ