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聖獣王伝説  作者: 超人カットマン
第三章
14/55

第十三話 竜皇推参

 松井祐介が結成した神司の集まりの活動に参加し、今まで人間不信だった昆虫族の聖獣「ヘルニア」を味方に付けた綾小路源は、流石にかなりの疲れが溜まったので、家でゆっくり寝ていた。

 家人一同が眠りに付いて居る事で、穏やかで静かな空気が流れる彼の家に、一人の少女が近づいて来た。まだ日も昇らず、鳥も囀らない早朝であるため、彼女の姿に気が付いている者はいない。薄い色合いの緑髪と、幼い見た目ながら出るところは出ているスタイルが特徴の彼女の名は「レイラ」クマツヅラと言う花を司る植物族の聖獣である。彼女は以前、源が聖獣の森と呼ばれる場所に迷い込んだ時に出会い、彼に救われた経験がある。(詳しくは、第七話 森林迷子、第八話 女機襲撃、参照)

「ふふ、誰も私に気が付いてない。」

 レイラは周りを見回してこう言うと、源の家の塀を飛び越えて敷地の中に飛び込むと、華麗な動きで家の壁をよじ登り、源の部屋の窓の傍へとやって来た。彼女は窓が開いている事を幸いに、窓を開けると、

「失礼しまーす。」

 誰にも聞えないように、静かな声でこう言って、部屋の中に入った。部屋の隅に置かれたベッドでは、大きく布団を被って誰かが寝ている。あまりに深すぎて、一体誰が居るのか分からない。

 レイラはそんな状況であるにも関わらず、警戒せずに近寄ると、その布団の上に馬乗りになると、

「おはようございまーす!!起きてください!!」

 まるでテレビのドッキリ企画のようなテンションの声でこう言って、深く掛かっている布団をめくり上げた。そして、そこに居たのは穏やかに眠る源では無く、昨日仲間になった昆虫族聖獣「ヘルニア」だった。彼女は昆虫族ではあるが、見た目を始め半分以上は人間と同じ生体をしているので、尾と脚と鋏を隠せば町を歩いても全く違和感が無い容姿をしている。

「え?」

 誰この人?と言いたげな表情を浮かべるレイラは、思わず彼女に源の元へ向かうように指示した自分の師「植物女皇ラフレシア」の渡したメモを確認した。そこには住所を表す文が綴られており、レイラが考える限りここで合っている筈である。

「え、えっと。」

 レイラがこう呟いた時である、

「重い、退いてくれないか?」

 下から声が響いた。見ると、ヘルニアが目覚めて冷たい目でレイラを見ていた。

「え?あの?」

 レイラが驚くと、ヘルニアは肩から鋏、わき腹から足をそれぞれ出して、威嚇しているのかそれを動かしながら言った。

「と言うか、お前は何者だ?」

「わ、私は…」

 レイラは、ヘルニアの発する覇気に気おされて、思わず口ごもってしまった。対するヘルニアは、まったく態度を変えることなく彼女に言った。

「お前は植物族の聖獣か?私の主に危害を加えるつもりできたなら…」

 ここで一旦区切ると、彼女はレイラに言い放った。

「食い殺すぞ。」

 植物族と言うのは、自らに悪影響を与える存在の象徴とも言える「昆虫族」を何よりも嫌っている訳では無いが、多くは彼らを天敵と扱っている。それはレイラも同じことで、

「わ、私は食べても拙いです!!」

 こう言ってヘルニアの元を離れると、臨戦態勢を取った。ヘルニアも同じように、いつでも鋏と脚を使えるように構えた瞬間である。

「あー、良く寝た。」

 まるで、机の上を鉛筆が転がるかのようにして、ベッドの下のスペースから寝袋が転がってきた。

「なにこれ?」

 レイラが再び驚くと、寝袋の中から綾小路源が登場した。

「え?源…さん?何でそんなところに。」

 レイラがこう呟くと、寝袋から出てきた源はこう言った。

「寝袋の中に入り、堅い床で寝るとよく眠れるんだよ。」

 その後、レイラの姿を見るや否や、こう言った。

「えっと、聖獣の森の時に会った。今日はどうしたの?」

「知り合いか?」

 今まで自分と一触即発の様子を見せていたレイラを知っているように接しているので、どういう事かとヘルニアは訊いた。

「ヘルニアが仲間になる前に聖獣の森と言うところに行って、その時に会った植物族の聖獣だよ。」

 源が説明すると、レイラは彼に言った。

「実は、ラフレシア様から言伝を預かっているんです。手伝って欲しい事があるので、すぐに聖獣の森に来てほしいと。」

「疲れてるんで、パスして良いですか?」

 レイラの話を聞くや否や、源はこう言って再び寝袋に入ろうとした。

「まったく。」

 その後ろで、ヘルニアはこう言うと腰から尾を出して、先端の針を源に突き刺した。

「な、何をしてるんですか?!」

 レイラが驚くと、ヘルニアは言った。

「単なる養分の注射だ。」

 それと同時に彼女が針を抜くや否や、

「よっしゃ!やるぞ!」

 源は元気いっぱいの状態で起き上がった。その様子を見たレイラは、彼に訊いた。

「ところで、何でこの虫さんはベッドで寝ていたんですか?」

 この問いには、源では無くヘルニアが答えた。

「此奴が、ベッドより床で寝た方が疲れが取れると言って、ベッドの下に潜り込むものだからな、勿体ないから私がベッドの上を占領させてもらった。」

 ヘルニアの言葉に、レイラは何も言えなかった。





 その後、朝食を済ませて着替えた源は仲間の聖獣と共に、聖獣の森へとやって来た。数日前に来た時と殆ど変らないが、今日は多くの聖獣があちこちを回り、なにかの作業をしていた。

「手が空いたらこっちに来て!!」

「よし、あとはこれを運べば…」

 部族、属性の垣根を越えて、皆で手を取り合う聖獣の様子を見ながら、源は訊いた。

「引っ越しでもするんですか?」

 彼の問いに、レイラは言った。

「実は、私にも良く分からないんです。ラフレシア様はただ一言、とにかく綾小路源を呼んで来いと言っていたので、当人に会えば詳しい説明はして下さるかと。」

 その後、レイラの引率に従って、依然もラフレシアに出会った部屋へと赴いた。葉脈のような模様で埋め尽くされた部屋の中には、ラフレシアが刀を持った状態で彼らを待っていた。

「まずはようこそ。」

 ラフレシアは穏やかな笑みで源を迎えた。戦うつもりでは無いらしい、

「それで、何でまた僕らを呼んだんですか?」

 源がこう訊くと、ラフレシアは、

「良く訊いてくれました。」

 と言うと、事態の説明をした。

「レイラは知っていると思うけど、今日はもうすぐ大天災が来るから、皆避難している。今回は彼と共に、ここで万が一に備えて待機してほしい。」

「ここに?」

 ラフレシアの言葉を聞いたレイラは、彼女に訊いた。

「と言うか、その大天災って、いったい何なんですか?」

「それはすぐに分かる。それと源。」

「何ですか?」

 レイラの言葉に曖昧な答えを返したラフレシアは、源に言った。

「今回の事、上手くいけば美味しい利益が得られるかもしれないから、頑張ってくれ。」





 やがて、非戦闘員聖獣や無関係者の非難が終了し、聖獣の森の中心にある樹の中には、ラフレシアとレイラ、源とその仲間の聖獣だけになった。

「しかし、大天災と言う事態に当たり、皆を非難させたのは良いが、何でここの最重要人物が堂々と残っているんだ?」

 堂々と部屋の壁の前に立つラフレシアの背を見ながら、聖装の中から実体化したエレクトードは呟いた。

「それに、大天災が起こるとは聞きいたけど、具体的にどんな事が起こるの?」

 それに続き、源がレイラに訊いた。彼自身は、天災と言う事で竜巻や暴風雨を予想していたのだが、レイラの出した答えは意外な物だった。

「それが、避難して帰ってみると色々な物が壊れているのですが、そこで何があったかは誰も知らないんです。唯一知っているラフレシア様も、適当にはぐらかすだけですし…」

 そんな答えであったが、源が納得すると、ヘルニアは言った。

「しかし、今まで誰一人残さずに避難させる中、今回はレイラを残した上に、外から私の神司を呼び込んだ。となると…」

「となると…?」

 ヘルニアの言葉が気になったステゴサウルス・Jackが、ヘルニアに訊くと、

「つまりそこで起こっているのは、災害は災害でも、人災かもしれないと言う事だ。」

 と、皆に言った。

「それじゃあラフレシア様がそこに残っているのは、それに対処するためと言う事ですか?」

 レイラがこう言うと、

「いいや、案外ここが一番安全なだけかも知れないぞ。」

 と、ヘルニアは言った。

 このまま、彼らの間で話の花が咲こうとした瞬間である。突然、物凄い衝撃が走った。

「地震か?!」

 ジェットシャークがこう言うと、源は衝撃とそれによる揺れを分析しながら言った。

「いや、今のは地震じゃない。前と同じで、何かの攻撃だ!!」

「誰かの攻撃?まさかドロシーが?!」

 かつてこの地に攻めてきた、謎の機械族聖獣を思い出したレイラがこう言った瞬間である。ラフレシアは腰の刀を抜き放つと、壁の前で高速で振り回した。その結果、壁には何十もの太刀傷が刻まれ、それに沿って壁はガラガラと崩れ落ちた。

「な、何だ?」

 ヘルニアがラフレシアの行動に疑問を覚えた瞬間である。壁の瓦礫を突き破って、巨大な竜を思わせる何者かが飛び込んできた。その者は口を大きく開いており、ラフレシアを捕食しようとしている。

 それに対しラフレシアは、右手を刀の鞘にやって居合の構えを取りながら相手を迎え、強力な一閃と同時に竜の体に大量の傷を付けた。

「凄い、あの一瞬であそこまで。」

 源が関心する中、ラフレシアは左手で刀を戻した。

「あれ?右手で抜いた刀を左手で?」

 フェニックスがラフレシアの行動に驚くと、ラフレシアの姿を見て更に驚いた。彼女の右腕が、肩からごっそり無くなっていた。そして、彼女の腕だった物は竜の口にあり、彼はそれを飲み込んだ。

「私の腕は美味いか?龍皇?」

 ラフレシアは背中を向けたまま、龍皇と呼んだ竜に言った。一方の彼女は、腕の無くなった部分を軽く揉みこんで刺激している。その結果、腕の無かった部分から新しい腕が生えた。

 一方、ラフレシアの腕を飲み込んだ龍皇の傷は、みるみる内に治癒して行った。

「反吐が出る程に不味いに決まってるだろう。」

 それに対し、竜はラフレシアにこう言った。

「ラフレシア様の強大すぎる生命力の一端を得て傷を治したんですね。ですが、あの傷を殆ど消耗せずに治癒させるラフレシア様も流石です。」

 安全地帯に避難したレイラが、ラフレシアに対し関心の念を送る中、聖獣たちは驚きに包まれていた。

「え?さっき、龍皇って?」

 ドラグーンがこう言うと、エレクトードは龍皇と呼ばれている竜に訊いた。

「まさか貴方は、龍皇バロン・サムディか?」

「ああ、確かに俺はバロン・サムディだ。」

 エレクトードの問いに答えたドラゴン族の聖獣「龍皇バロン・サムディ」を見た源は、その威容を見ながら言った。

「何か強そうな名前。」

 日常と乖離した出来事に慣れ過ぎた為か、普段通り呑気な反応を示す源に、ヘルニアが説明した。

「強そうじゃなくて、実際に強いんだ。奴は八部族の一角であるドラゴン族最強の聖獣であり、八部族の皇達の中でも、その戦闘力は最強と称されている。最も、戦闘力レベルは他の七体とまるで違わないが。」

 その中、レイラは今までの関心を振り払い、ラフレシアに訊いた。

「まさか、今までの大災害と言うのは、この結果生じた余波による破壊の事ですか!?」

「ああ、そうだが。」

 ラフレシアは、悪びれる事も無く答えると、再び刀を抜き放ちバロン・サムディに言った。

「私とお前の決闘の歴史にもそろそろ終止符を打たないとな。」

 そして、先ほど開いた穴から下へ向けて飛び降りて行った。一方のバロン・サムディは、

「それは、俺の完全勝利と言う結果なんだろうな?」

 と言って、ラフレシアを追って行った。

 一連のやり取りを見ていた源と聖獣たちは、ただ呆れるくらいしか出来なかった。





 一方、先に部屋を飛び出したラフレシアは、どこからか種を一つ取り出すと、それを地面に向けて投げつけた。

「育って、マッタンポポ。」

 彼女の投げた種はマッタンポポと言う、マットを思わせる形状のタンポポの花の種であり、地面に付くや否や、黄色い花弁を周囲に広げてマットのようになると、ラフレシアを受け止めた。

 その後、ラフレシアはその上からすぐに起き上がり、地面に次々と種を植えて行った。

「敵に背を向けていて良いのか?」

 バロン・サムディは、スカイドラゴンを思わせる巨大な翼で飛び立つと、旋回飛行をしながらラフレシアに接近し、こう言った。バロン・サムディは全てのドラゴン族聖獣の頂点に立つ聖獣であり、ファイヤードラゴンを素体にスカイドラゴンを思わせる巨大な翼、モールドラゴンの逞しさと巨大な爪と牙を持っている。残念ながら、彼自身が泳げないので、マリンドラゴンの特徴は持ち合わせていないが。

「勿論、私の種たちが相手をしてくれますから。」

 ラフレシアが背中越しにバロン・サムディに言うと、彼女が埋めた種が次々と目をだし、花の蕾に当たる部分を竜の口のように変化させ、バロン・サムディに襲い掛かった。

「ドレイクの花だ。養分として捕食されないようにな。」

 ラフレシアがこう言う中、バロン・サムディはと言うと、

「面白い!!食えるなら食ってみな!!」

 と宣言し、向かってくるドレイクの花の中に飛び込んで行った。彼はまるで昆虫のように繊細な飛行を高速で行い、全てのドレイクの花の噛みつきを回避し、やがて全ての花が背後から一度に襲い来る状態になってから、彼はそれを宙返りで再び回避した。

 その後、ドレイクの花が方向転換をするより前に態勢を整えると、

「ブレス・ワイバーン!!」

 スカイドラゴンの使用する火炎放射技である、ブレス・ワイバーンを放った。この技は、炎の量と熱は他に劣るが、高速飛行の中から繰り出される射出から命中までのスピードが自慢の技である。

 バロン・サムディの口から放たれ、やがて飛龍の形状を取った炎は、迫って来ようとしたドレイクの花を焼き尽くすばかりか、下で様子を見ているラフレシアをも包み込んだ。

「やはり、耐熱の低い植物では…」

 迫る炎を見ながらラフレシアはこう言うと、腰の刀を抜き放ち、高速で振り回す事で発生した衝撃で炎を散らし、攻撃を防いだ。

「やるじゃねえか、今までは避けていたと言うのに、いつの間に防げるようになったんだ?」

 バロン・サムディが空中からこう言うと、

「聖獣だって、日々成長している者だ。」

 ラフレシアは地上からこう返し、大きな苗を地面に植えた。

「成程、いよいよ主力の投入と言う事か、なら本気を出さないとな。」

 ラフレシアの行動を見たバロン・サムディはこう言うと、大きな翼を大きくはためかせ、今以上にラフレシアから距離を取り始めた。

 一方、ラフレシアの植えた苗は、植えられた瞬間にぐんぐん成長し、わずか数秒で大樹と言える大きさに成長した。この木は「要塞樹」と言われる、木と同じ成分でありながら燃えない樹脂で構成される樹で、身を守る生態の一つとして、爆発性のある木の実を茂らせ、外敵が迫るとそれを射出して迎撃すると言う、文字通り要塞のような特徴がある。この植物も、以前は現実世界にも生息していたが、進化の過程で絶滅した植物の一種である。

「ファイア!!」

 ラフレシアは樹の傍で、向かってくるバロン・サムディの姿を見ると、木の幹を軽く叩いて叫んだ。結果、要塞樹はまるでラフレシアの指示を受け入れたかのように、爆発する木の実をバロン・サムディに向けて放ち始めた。

「木の実の弾幕か?今まで何度も見てきたが、やはり厄介だな!!」

 バロン・サムディは飛んでくる木の実を見ると、こう言って更に飛翔するスピードを速めた。怯む事無く弾幕の中を掻い潜って行く。その様子は、要塞に特攻する戦闘機のようだが、バロン・サムディに無謀な考えは無い。一定の距離まで近寄ると、

「ヴルムレーザー!!」

 口に物凄い熱量を誇るエネルギーを収束させると、至近距離から放った。ただ普通の火炎放射であるが、飛翔の速度と彼自身の首と喉の筋力によって、名前の通り「レーザー」のような勢いで要塞樹に迫り命中、燃えない樹脂で構成されている筈の要塞樹を、粉々に吹き飛ばした。

「くっ!!」

 ラフレシアはバロン・サムディの攻撃に一瞬だけ怯むと、要塞樹の欠片を用いて飛び上がり、バロン・サムディの近くまで迫ると、腰の刀を高速で抜き放ち彼を斬りつけた。一方のバロン・サムディはそれを両腕の鋭く頑丈な爪で受け止め、爪と刀を用いた接近戦を始めた。





 その後、バロン・サムディが落とし穴に落ち、そこをラフレシアがチャンスと狙う瞬間を見ながら源は、

「うわぁ、街が滅茶苦茶。こんなので大丈夫なの?」

 と、レイラに訊いた。

「多分、大丈夫。今まで何となくで復興したから。と言っても、事実を知ってしまった以上、何か…」

 レイラが、呆れを始めとする様々な感情の籠った口調で答えると、その隣でヘルニアは一人で納得していた。

「ああ、そうか。美味しい利益と言うのは、これの事か。」

「???????」

 話が分かっていない源と、ドラグーン達他の聖獣、レイラがそれぞれ疑問符を浮かべると、ヘルニアは言った。

「つまりは、消耗した隙を狙って二人とも殺ってしまえ、と言う事だ。」

 今バロン・サムディとラフレシアは激しい戦闘を繰り広げている。そこを漁夫の利と言わんばかりに襲撃すれば、最強と謳われるドラゴン族の皇と、驚異的な再生能力を持つ植物族の女皇を簡単に下し、聖獣王への道しるべである「ドラゴンのシンボル」「植物のシンボル」を一気に獲得することが出来る。

 一見すればただの卑怯なやり方であるが、形はどうあれ戦闘で勝利された場合、皇の名を持つ聖獣は一様に自らのシンボルを渡さなければならないと言うルールがあるので、ある意味では問題は無い。

「でも、あの中に飛び込めば逆に…」

 だがその中で、源はこう考えた。


 例としてドラグーンを送り込んだとする、

「うぉぉぉぉぉ!!」

「はぁぁぁぁぁ!!」

 拳で殴りかかろうとするバロン・サムディ、刀の柄の先端で殴ろうとするラフレシアは、互いに迫って行った。その中に、ドラグーンが乱入し、

「ぐわぁぁぁぁぁぁ!!」

 両者の打撃を左右からモロに受けた為に、ドラグーンは遠くの空へと飛んでいき、キラリと星になり、やがて消えた。


「って、事になりかねないぞ。」

「確かに……」

 源の回想が終わると同時に、ドラグーンとヘルニア以外の聖獣は、納得しこう言った。

「あの、俺ってそこまで弱かったか?」

 ドラグーンは、そっぽを向きながらこう言っている。そんな彼に源は、

「別に弱くは無いよ。自己評価だけど、僕と出会ったばかりの時よりずいぶん強くなっているよ。今の予想は、強さでは無くフラグで発生する物だから。」

 フォローのつもりなのか、こう言った。

 すると、ここで余計な一言を言う者が一人、

「自分の主の予想に不満があるなら、実際に行って証明してはどうだ?その予想は外れだと。」

 この一言を言ったのは、他でもないヘルニアである。彼女は何か面白い物が見れると思っているのか、悪い笑みを浮かべている。

 しかし、この一言で闘争心に火が付いたのか、彼女の笑みを気にする様子を見せずに、ドラグーンはこう宣言した。

「良し、行くぜ!!」

 そして、ラフレシアとバロン・サムディを討ち取ろうと向かって行った。





 一方、バロン・サムディとラフレシアの戦場では、

「うぉぉぉぉ!!」

 バロン・サムディは自身の拳で殴ろうと飛び出し、

「はぁぁぁぁ!!」

 ラフレシアは、自身の刀の柄の先端で殴ろうと飛び出した。

 そうして、互いの打撃が効果的に放てる距離に迫った瞬間である。

「ブッ!!」

 両者の打撃はヒットした。と言っても、自身が当てようと思っていた相手にでは無い。先ほど飛び出したドラグーンにである。

「グワァァァァ!!」

 結果、ドラグーンは左右から受けた打撃の衝撃で飛んでいくと、空の彼方で星のように光り、やがて消えた。

「…………」

 様子を見ていた面子は、ただただ言葉を失い、ひたすら空を眺めていた。気持ち良い程に源の予想通りだったからだ。むしろ、予想通り過ぎて逆にがっかりしても居る。

「ドラグーン、いつになったら帰って来るかな?」

 その静寂を突き破り、源がこう言うと、フェニックスは言った。

「多分、すぐに帰ってくると思うよ。」

 そんな中、言いだした張本人であるヘルニアはと言うと、自身の武器である鋏や足、そして尾を出して戦闘態勢を整えていた。

「まさか、お前も行くつもりか?」

 エレクトードが訊くと、ヘルニアは当然と言わんばかりに頷いた。その様子を見ていたジェットシャークは、試しにと言わんばかりに源に訊いた、

「それじゃあ源、アイツの場合はどうなると思う?」

「…そうだね……」

 源はこう呟くと、回想を始めた。


 ヘルニアは、部屋を飛び出すと瓦礫や茂みに隠れて標的に接近して行った。その様子は、獲物を狙う蠍のようである。

 そして、獲物の一人であるバロン・サムディの近くに接近すると、静かだが素早く尾を伸ばし、先端の針をバロン・サムディの体に突き刺した。

「何?」

 バロン・サムディが反応を示すや否や、ヘルニアは隠れていた場所から飛び出し、針を深く突き刺し、そこから毒を注入した。

「ぐぅぅぅ。」

 バロン・サムディが倒れると、ヘルニアはその上から飛び上がり、地面に着地した。しかし、踏んだ場所が悪すぎた。彼女の足元にはラフレシアが予め仕掛けていた罠の種があり、ヘルニアの足の圧力を受けるや否や芽を出し、頑丈なロープのような蔦に変化すると、ヘルニアを近くの木に括り付けてしまった。鋏や足、尾も別々に括られているので、脱出は叶わない。


「みたいな感じ。」

 源がこう言うと、

「確かに、ヘルニアならやりかねないな。」

 と、ステゴサウルス・Jackは言った。

「な、お前たちは私の事を良く知らないだろう!!」

 ステゴサウルス・Jackの言葉が気に入らなかったのか、ヘルニアはこう言うと、

「なら、今度は私が行く!!」

 と言って、彼女は飛び出して言った。

「止めなくて良いのか?」

 エレクトードは源に訊いた。それに対し彼は、

「大丈夫でしょう。」

 と、答えた。





 一方のラフレシアとバロン・サムディの戦闘が行われている場所では、今も相変わらず両者は剣劇を繰り広げていた。ラフレシアの刀が一閃すると、バロン・サムディは爪で防御し、反撃を繰り出している。

 そんな中へと、ヘルニアはこっそり隠れながら迫っていた。さながら、落ち葉の陰などに隠れて獲物に迫る虫のように。

「良し良し、ばれてない。」

 ヘルニアはこっそり呟くと、バロン・サムディの近くへと迫って行った。幸いにもバロン・サムディは、ラフレシアの剣劇を止めようと必死になっているので、ヘルニアに気が付いて居る様子は無い。

「しめしめ。」

 ヘルニアはこう呟くと、静かだが素早く尾を伸ばして、バロン・サムディに針を突き刺した。

「何?」

 バロン・サムディが背後から接近していたヘルニアに気が付くや否や、ヘルニアは大きく飛んでバロン・サムディの背中に飛び乗ると、尾を通してバロン・サムディの体内に毒素を送り込んだ。

「ぐぅぅぅ。」

 結果、体内の毒素により気分が朦朧とし始めたバロン・サムディは、その場で倒れこんだ。ヘルニアが彼の背中から飛び降りた瞬間である、

「そこ踏んじゃダメ!!」

 ラフレシアはこう叫んだが、手遅れだった。ヘルニアの足元には罠の種が植えられており、ヘルニアの足の圧力を受けるや否や、爆発するかの勢いで放射状に芽を出した。現れた芽は長い蔦のようになると、ヘルニアの体を近くに生えていた木に縛りつけ、身動きを取れないようにしてしまった。その際、彼女の鋏や脚、尾も別々に括りつけられてしまったので、脱出は叶いそうにない。

「嘘でしょ、まさか私まで予想通り?」

 ヘルニアが拘束、と言うより緊縛されながら言うと、ラフレシアはヘルニアを食い入るように見つめ、やがて、

「それ。」

 彼女の体を軽く突いた。

「ひゃ!!」

 ラフレシアの行動にヘルニアが驚くと、ラフレシアは自身の中で何かが目覚めるのを感じ取った。

「えい、えい、えい。」

 まるで子供がスイッチを押して遊ぶように、ヘルニアの体のあちこちを突いている。

「ひぃ!ひゃ!」

 ヘルニアはラフレシアのやる事に一々反応しながら、彼女に言った。

「あの…ひゃ!ご、ごめん…ひぃ!なさい…ひゃ!」

「あら、何を謝っているの?普通は怒る所よ。」

 それに対し、ラフレシアは恐ろしい程の笑顔で彼女に言った。

「そういう可愛い反応、むしろもっと弄って下さいと言っているようなものよ。」

 そして、ヘルニアが緊縛されているのを良い事に、彼女の体のあちこちを触り始めた。

 一方、遠くで様子を見ている源と他の聖獣たちは、ただ呆れていた。

「何あれ?どんなプレイ?」

 フェニックスが誰にこう訊くや否や、レイラは源を部屋の奥へと引き込み、耳と目を上手く塞いで言った。

「あれは源さんの教育に非常によろしくありません!!」

「な、何が?」

 源は本心でこう言ったが、レイラは彼を解放する事は無かった。





「本当、虫なのに敏感なのね、それに凄く柔らかい。」

「い、言わないでぇ。」

 一方、ラフレシアとヘルニアとの間で、エロエロなやり取りが行われている現場では、

「ここの辺りはどうかな?」

「そ、そこはダメェ!!」

 ラフレシアはすごく楽しそうに手をヘルニアの体に這わせており、ヘルニアはそれに完全に翻弄されて、正気を失いかけている。

 やがて、ラフレシアの手がある部分に伸びようとした瞬間である。

「ああああああああああ!!」

 頭上から何かの叫び声が響いてきた。

「?」

 ラフレシアとヘルニアが同時に疑問を思うと、突如ラフレシアの頭を物凄い衝撃が襲い、ゴチンと言う鈍い音が辺りに響き渡った。

「な、何?」

 ヘルニアが一体何なのかと思うと、ラフレシアの頭に眼を回したドラグーンが激突していた。先ほど吹っ飛ばされたあと、落ちて来たらしい。

「きゅ~。」

 ドラグーンの激突で頭に巨大なタンコブを作ったラフレシアは、その場で倒れ、

「ハラホロヒレハレ。」

 ドラグーンは相変わらず目を回していた。





 その後、あの場に居たバロン・サムディ、ヘルニア、ドラグーン、ラフレシアが回復した後、バロン・サムディとラフレシアの戦いで壊れた街の復興を手伝わされた。因みに、ラフレシアの言う美味しい利益とは、聖獣の森産の果物と食用昆虫を好きなだけ持って行って良いと言う事で、二人の皇を強襲して倒すと言う事では無かったらしい。

 そのため、一連の作業が終了した後、源達はまだまだ日が高いうちから、疲労困憊の状態で聖獣の森を出てきた。謝礼に貰った果物と食用昆虫は、聖装の中に保存されているので、手ぶらで済んでいる。

「何だろう。凄く疲れた。」

 源がこう呟くと、聖装の中に戻った聖獣たちは、一様にこう言った。

「同感。」

 聖獣たちの声が響いた瞬間である。突如聖装が光りだし、中から何かが飛び出した。

「な、何だ?」

 源が驚くと、飛び出した二つの光はコインの形になり、彼の手に収まった。コインにはそれぞれ、竜と花を思わせる紋章が描かれている。

「これって、シンボル?」

 源がその二つを見ながらこう叫ぶと、これまでの事を思い返したエレクトードは、こう言った。

「龍皇と植物女皇がこっそりくれたんだろう。龍皇はヘルニアの毒、植物女皇はドラグーンの頭突きで倒したんだ。シンボルを獲得する条件は満たされている。」

 エレクトードの言葉に、思わず源はツッコんだ。

「え?あれってただの不意打ちと事故だよね。あんなんでシンボルをあげちゃって良いの?」

「まあ、良いんじゃ無いか?折角くれたんだから。」

 ジェットシャークはこう言ったが、源はこう返した。

「いいや、今度返しに行く。そんでもって、堂々と獲得する。」

「律儀だなぁ。」

 源の宣言に、聖獣たちは一様にこうつぶやいた。





 一方聖獣の森では、残りの作業を続けながら、ラフレシアがバロン・サムディに言った。

「それにしても、他の気を取られていたとはいえ、貴方が不意打ちを許すなんてな。そろそろ引退時では無いか?」

「抜かせ、あんな状況でああいうマネをする奴だとは思わなかったよ。」

 バロン・サムディがこう返すと、ラフレシアは言った。

「ここからは私だけで何とかできる。貴方はそろそろ帰ったらどうだ。」

「手伝うだけ手伝わせて、俺への報酬は一切なしか。」

 バロン・サムディは不満そうなので、ラフレシアは倉庫から果物や食用昆虫を取り出し、彼に与えた。

「これだけ貰えれば良いでしょう。」

「ほいほい、どうも。」

 ラフレシアの差し出した報酬をしっかりと包んだバロン・サムディは、それを手に飛び立っていった。





 大量のお土産を持ったバロン・サムディが、自らが拠点としている場所に帰ろうと空を飛んでいた時である。彼の前に一人の少女が立ちふさがっていた。白と青を基調とした和服に、後ろで纏められた長い黒髪が特徴の文字通りの「タタミゼ・ジュンヌ(大和撫子の事)」である。美しい顔立ちには、可愛さと言うより凛々しさが感じ取れる。

 最も、普通の人間が龍皇の飛翔する高さに居るはずも無いので、必然的に彼女は聖獣と判断できる。近くで良く見ると、背中には大きな翼、腰から尾が生えていた。

(あれはドラゴン族?でもあんな奴は居たか?)

 バロン・サムディはこう思うと、彼女に声を掛けた。

「よっ、こんな所で何をしているんだ?」

 余り相手に気を使わせないように、街中で友人と出会ったレベルの気軽さで話しかけたのだが、相手の少女は何も言わずに手を差し出した。当然ではあるが、握手では無い。

 手を差し出した少女の周囲には、どこからか次々と剣が現れて、バロン・サムディ目掛けて次々と射出された。

「何?」

 バロン・サムディは反応こそできたが、大量の荷物によって動きが鈍り、攻撃を受けて撃墜された。

「………他愛も無い。」

 表情一つ変えずに様子を見ていた少女は、こう呟いた。

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