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聖獣王伝説  作者: 超人カットマン
第二章
13/55

第十二話 天蝎少女

 松井祐介が、同じ学校に通っている神司「三藤直葉」「名倉小雪」を誘って、神司が集まって活動する組織を結成した翌日。彼らは同じく神司だが、違う学校に通う「綾小路源」を連れて、とある山の中にやって来た。

 事の発端は、活動場所になると考えて、祐介達三人が小雪の家であるお寺に来た際に、源と出会った事で、その時小雪は、

「度胸試しに協力してくれない?」

 と、その場にいる面々に頼んだ。源はともかく、祐介や直葉のやる気を煽るため、小雪はこう条件づけた。

「もし協力してくれたら、私の家を活動拠点にして良いよ。」

 この結果、

「良し、やろう!!」

 祐介はすぐさまやる気をだし、直葉も何となくで参加する事になった。

 この時源は、

「何なら、神司部の面子を連れてく?」

 と、小雪に訊いたが、小雪は断った。なぜなら、

「これ以上来ると車を出してもらえない。」

 移動手段は彼女の父の車であり、その車が最大五人乗りであるためである。





「と言う訳で、度胸試しを始めましょう。」

 目的地にやって来た小雪は楽しそうだが、祐介、直葉、そして源はそうでも無いようで、小雪に訊いた。

「ところで、度胸試しは良いけど、一体何をするの?」

「肝試しをするような時間でも無いよな。」

 直葉、祐介が順にこう言うと、小雪は皆に訊いた。

「この山に伝わる、怪物の話知ってる?」

 この話を聞いて、直葉と祐介は知らないと言った。しかし源は、こう言った。

「ああ、この山に古い和風の屋敷があって、そこに巨大な針を持つ怪物が居て、時々人々を襲っているって奴?」

「そうそう。」

 小雪が源の言葉を肯定すると、皆にこう言った。

「巨大な針を持つ怪物、これは間違えなく昆虫族の聖獣の事だと思うの。仲間になってもらいに行きましょう。」

(簡単に言うなぁ)

 三人が一応にこう思うと、小雪は彼らの前に四本の割り箸を差し出した。

「? お昼ご飯?」

 直葉が小雪に訊くと、小雪は、

「籤よ籤!!順番を決めるの!!」

 と、言った。

「肝試し?」

 三人はこう思ったが、拒否する理由も無いのでそれぞれ籤を引いた。結果、一番が小雪、二番が直葉、三番は祐介、四番が源と言う事になった。





「じゃあ、いってきま~す。」

 一番手の小雪は、目的地の屋敷に向かって行った。その様子はまるで遠足に行く子供のようである。

「あんなんで大丈夫かな?」

 その後ろ姿を見ながら、源は二人に訊いたが、

「まあ、目的地まで余り距離は無いし、明るいし、聖獣も居るし大丈夫じゃない。」

 直葉はこう言った。

 しかし、小雪は暫く経ってても帰ってこなかった。戦闘も行われていないようで、激しい霊力の消費や、戦いの衝撃も感じられなかった。

「小雪、どうしたんだ?」

 祐介がこう呟くと、直葉はこう言った。

「私が様子を見てくる。」

 と言って、小雪の進んで行った道を駆け足で進んで行き、彼女の行方を捜しに行った。その直葉も、いつまでも帰ってこない上に、何等かの連絡も寄越してこないので、今度は祐介が様子を見に行き、その祐介も同じように戻ってこなかった。

「そして、僕は一人になった。」

 山道でポツンと取り残された源がこう呟くと、聖装の中でのんびりしていた彼の聖獣「ステゴサウルス・Jack」が言った。

「何かがおかしい。俺達も様子を見に行った方が良いだろう。」

「そうだね。」

 源はこう返すと、三人が進んで行った道を自分も進んで行った。





 道を進む事十分が経過した。源の目の前に、大きな和風の屋敷が立っている。屋根も壁も、何もかもが古くなって欠けており、長い間人の営みが行われていないのは明白である。

「ここが、話の屋敷か?」

 源はこう呟き、中に入ろうと屋敷の中に足を踏み入れた瞬間である。突然、誰かが彼の足を掴んだ。

「うわぁぁ!!怪物か?!!」

 源が叫ぶと、足を掴んだ張本人は、

「私よ、直葉…」

 と言った。そこに居たのは確かに直葉であるが、顔色が悪い上に息遣いも荒く、まるで何かの病気に掛かっているみたいである。

「何があったの?」

 源が訊くと、直葉は答えた。

「分から…ない。だけど、何者かによって…毒を…入れられたのは…事実。」

 彼女曰く、ラベンダードラゴンの回復能力で毒の周りを遅らせているが、いつまでも持たない事を伝えると、

「小雪と祐介はこの近くに居る。私と同じ要領で毒の周りを抑えているけど、時間の問題。」

 と、源に言った。

その瞬間である、どこからか何かが飛んできて、源の頭のあった場所に突き刺さった。源は自身の家の家事全般を請け負っている影響で、買い物等での安売りや特価と言う言葉に弱い性質を持っている。そのため、タイムセールの主婦の中にも平気で飛び込む度胸を持っている。それを続けている内に相手と体格で負ける彼は、それこそ獣の本能のような感覚で適切な動きを出来るようになった。今の攻撃の回避は、彼が割り込んだ際に後ろから伸びた手を回避する要領で回避したのだ。

「これは?尾か?」

 壁に突き刺さる針を見ながら、源は呟いた。その針はまるで剣のような形状をしており、柄に当たる部分の先端には線のような物が付いて居る。

「いうなれば、毒剣針って事か?この特徴を持つのは…」

 源の聖獣の中でも物知りで通っているエレクトードは、針とそれが付いて居る尾の特徴を見ながら言った。一方の源は、あろうことかその尾を掴んだ。

「な、何を?」

 直葉が訊くと、源は言った。

「これに捕まれば、この尾の主に会える!!」

 そして、尾の主が尾を引っ込めた事で、彼は屋敷の奥へと飛んで行った。

「き、気を付けて…」

 直葉はその場から動けないので、なけなしの体力を用いて源に応援を送った。





 尾に掴まった源は、屋敷の奥へとやって来た。

「私の一撃を軽く躱すとは、人間、お前は何者だ?」

 尾の主だろう、低めだが女性らしさを感じられる声が、源に訊いた。

「僕は…」

 尾を放した源は名乗ろうと口を開いたが、思わず驚きで言葉を失ってしまった。彼は尾の主が、巨大な虫型の怪物であると考えていたのだが、そこに居たのは長い黒髪が特徴の美少女だったのだ。青いワンピースを身に着けており、部屋の奥にある机に座り、伸びている長い脚を優雅に組んでいる。だが、彼女の顔はその優雅さとはかけ離れ、感情の感じられない冷たい表情を源に向けている。

「どうした人間?私の言葉が理解できないわけではあるまい。」

 少女がこう訊くと、源はこう言った。

「ああ、僕は綾小路源。清水区在住の十一歳。後神司です。」

 少女は源の言葉を表情一つ変えずに聞いていたが、最後の神司と言う言葉を聞いた瞬間、その表情を更にしかめた。

「そうか、お前も私を…」

「お前も?」

 少女の言葉に疑問も覚えつつも、源は自身の聖装の鑑定形態を用いて、少女が一体何者かを調べようとした。偽装形態であるボールペンの状態でレーザーポインタを出した聖装は、そこから少女の情報を読み取り、源に開示した。

「ヘルニア 、 水、大地、鋼属性 、 昆虫族 、 戦闘力レベル、5000」

 結果、聖装は上記の結果と、今目の前にいる少女の方から巨大だが鋭い鋏、わき腹から六本の細い脚、腰から先ほどの針が付いた尾を伸ばした姿を開示した。

「やっぱり昆虫族、でも、ヘルニアって何者だ?」

 結果を見た源が呟くと、聖装の中のドラグーンが言った。

「ギリシャ神話に登場するアラクネは知ってるな?アテネと機織り勝負をした結果、蜘蛛の姿に変えられた人間の少女。本人は愚かな事をしたと後悔してるみたいだけど、こちらから言わせればアテネの逆切れだよ、あれは。」

「まあ、ドラグーンの後半の話はどうあれ、あのヘルニアって言うのは、言わばアラクネのサソリ版と言うわけだ。」

 ドラグーンの言葉に、フェニックスが補足を入れた時である。目の前の聖獣、ヘルニアはこう言った。

「もう百年くらい前になるな。誰も居なくなったこの屋敷に住みついた私を狙い、沢山の神司がここにやって来た。どいつもこいつも自分勝手な奴だったから、私がすべて始末してやった。」

(あの噂は、神司が流した物なんだ)

 ヘルニアの言葉を聞いた源がこう思うと、ヘルニアはこう言った。

「さっきも私を狙う神司が三人来ていたが、お前も私を狙うなら、殺すぞ。」

 ヘルニアの言葉は、静かに響いただけだったが、最後の言葉は刃物のように、迫力となって源に突き刺さった。

 源は、若干気おされながらも、ヘルニアに言った。

「僕はここに来た知り合いを探しに来ただけ何です。その三人の神司は今、貴方の毒で苦しんでます。ちゃんと解毒してくれるなら、三人に首輪をしてでも帰りますよ。」

 彼は事を構える気が無い事を説明したが、ヘルニアは冷たい笑みを浮かべて行った。

「人間、私に要求が出来る立場だと思ってるのか?」

 次の瞬間、背後から先ほどの尾が伸びてきて、先端の針で源を貫こうとした。本能で反応した源が、飛んで何とか回避すると、ヘルニアは方から鋏、わき腹から六本の足を出し、元からある二本の足で立つ事で、開示された情報と同じ姿になった。

「あくまでここに近寄った者は始末すると言う事か?」

 源が大勢を整えながらこう言うと、ヘルニアは言った。

「私はここで静かに暮らしていたいだけ。」

 すると、今まで黙っていたジェットシャークが、聖装の中から叫んだ。

「だったら人々を襲って騒ぎを起こさなければ良いだろ!!」

 この言葉に、ヘルニアはこう返した。

「だが、人間はそれを望まない!!」

 こう言うや否や、ヘルニアは尾を伸ばして源に攻撃しようとした。源はそれを装具形態にした聖装で弾き飛ばすと、

「来い!!ドラグーン!!」

 彼の仲間である五体の聖獣の中でも、主力とも言えるドラグーンを召喚した。ドラグーンが構えを取る様子を見ながら、ヘルニアは言った。

「私と戦うつもりか?」

 そして、こう言うや否や、目にも止まらない速度でドラグーンに近寄り、肩から出ている鋏でドラグーンを斬りつけようとした。

「跳んで!!」

 源の指示を聞くや否やドラグーンは高くジャンプして、装着した手甲の中に仕込まれた剣、その右側五本をすべて解放し、ヘルニアを斬りつけようと振り下ろした。

「昆虫の防御力を舐めるな。」

 ヘルニアはこう言って、尾の先の剣のような形状の針で剣を受け止めると、ドラグーンを弾き飛ばした。

「だったら、ドラグーンハイドロレーザー!!」

 源はドラグーンが吹っ飛ばされるや否や、聖装にカードを一枚読み込ませた。結果、ドラグーンは着地すると同時に、口から強烈な水流を吐き出す技「ドラグーンハイドラレーザー」を放った。

 ドラグーンの最大の技が迫る様子を見たヘルニアは、わき腹から生えている足を巨大化させると、それで自身の体を包み防御した。

 ドラグーンの技は破られたが、源は少しも慌てない。

「支援を頼む、ジェットシャーク!!」

 聖装にカードを差し込むと、サメを模った戦闘機の姿の聖獣ジェットシャークを召喚した。ジェットシャークは、全身に付いて居る銃火器を用いてヘルニアに追撃を加えた。

 ヘルニアは、この攻撃も先ほどと同じ形で防御した。結果、弾薬の爆発で発生した煙で当たりが見えなくなった。

「いまだ、主砲サイクロンノヴァ!!」

 なので、源は一枚のカードを聖装で読み込んだ。それは、以前行った聖獣バトルの後に、増田薫から貰った技カード「主砲サイクロンノヴァ」である。使用するのは勿論、ジェットシャークである。

 ジェットシャークは飛行機の状態で、尾翼をドラグーンに掴んでもらい体を支えると、サメの口に当たる部分を開いて大きな大砲を出し、そこから破壊光線を放った。

 結果、その攻撃はヘルニアに当たったのか、さらなる爆風が発生した。

「やったか?」

 様子を見ながら、源がこう思った瞬間である。彼の背後から、今まで何度も向けられた殺気を感じ取った。

「まさか?!」

 源、ドラグーン、ジェットシャークが一様にこう思った瞬間である。彼らの背後から無傷のヘルニアが飛び出し、尾の先に針と背中の鋏で攻撃を仕掛けようとした。

「危ない!!」

 寸での所でジェットシャークが飛び出し、源とドラグーンを攻撃より庇った。しかし、その結果ジェットシャークは鋏により大ダメージを受け、聖装の中へと戻って行った。

「あれが効いていないのか?」

 源がこう言うと、

「あれで行けると思われたのなら、心外だな。」

 ヘルニアはこう言った。その後、源とドラグーンを見ながら更に言った。

「しかし、今ので殺せたと思ったのだがな。」

「冗談、そこまで欠陥的なつくりでは出来ていないのでね。」

 ヘルニアに対し、ドラグーンはこう言ったが、内心では焦っていた。これまでの戦いでは、相手が手を抜いて居た為に圧倒できたり、良い所で源がミスを犯した為負けたりと、勝負の中で苦戦する事自体が無かった。しかし、今行っている戦いは、正真正銘の本気で挑み、苦戦している状況である。

 一方のヘルニアは、余裕の態度が感じられる様子で源にこう言った。

「死をまじかに感じて恐くなったか?だがもう遅い、私をこうしたのは他でもない、お前達人間だ。」

 この言葉に、苛立ちにも似た何かを感じた源は、思わずこう言った。

「じゃあ訊くけど、そっちは自分を理解してもらうとしたのか?!もし勝手に絶望して人間嫌いになっているなら、それはただの自己満足だよ!!自分の思い通りにならない事を無理矢理納得させてるだけだ!!」

 源の言葉に、ヘルニアは一瞬だけ口元を歪めた。怒りを覚えたのだろうが、その様子は出さずに言った。

「さも全うな意見だ。お前は何不自由した事が無いんだろうな。」

 次の瞬間、ヘルニアは先ほどと同じ要領で飛び出した。ただし、今度は針は鋏では無く、わき腹から生えている足でドラグーンを捕まえようとした。

「まずい、ドラグーン、戻れ!!」

 源は一旦ドラグーンを戻すと、

「ステゴサウルス・Jack!!グランスピンだ!!」

 名前の通りの姿を持つ恐竜族聖獣、ステゴサウルス・Jackを召喚し、彼の得意技であるグランスピンを発動させた。

 召喚されたステゴサウルス・Jackは、激しい縦回転でヘルニアに迫り真っ二つにしようとした。しかしヘルニアは、初見でこの技の弱点に気が付いたのか、尾を長く伸ばすと、針を横からステゴサウルス・Jackに突き刺した。その際、尾が膨らんだり縮んだりしていたので、毒を流し込んでいたのだろう。すぐさまステゴサウルス・Jackを戻すと、今度は黒いカエル型の獣族聖獣、エレクトードを召喚した。

「エレキシュート!!」

 エレクトードは、召喚されると同時に口から電流の玉を吐き出して、ヘルニアに攻撃を仕掛けようとした。

「虫がカエルに弱いと、誰が決めた!!」

 ヘルニアがこう言って、エレキシュートを防ぎ、その後エレクトードに攻撃を仕掛けようとした瞬間である。

「ウィンフレア!!」

 頭上からこっそり召喚されたフェニックスが、炎を纏った羽を風と共に浴びせており、逆方向からは、

「ドラグーンハイドロレーザー!!」

 再びドラグーンハイドロレーザーを発動させ、ヘルニアに水流を浴びせた。

 一見すれば、水と炎と雷の波状攻撃に見えるが、これはただの連携では無い。水を電気が分解し、発生した水素に炎が点火し爆発する。かつてゴーレムを粉砕した、水素爆発コンボである。

「一人の力でダメなら、寄せ集める。」

 源がこう言った瞬間である。爆風の中から針が飛び出し、源に刺さろうとした。源は何とか回避したが、針の先端を腕に掠らせてしまった。

「しまった!!」

 源は勿論、召喚された三体の聖獣が叫ぶと、爆風の中不燃性と粘着性の強い毒液で身を守ったヘルニアは、伸ばした尾を縮めながらこう言った。

「掠っただけでも、私の今の毒は必殺の効果がある。」

 神司が絶体絶命、そんな状態に置かれた聖獣たちは、意を決しある事をした。自ら実体化を解き、聖装の中に戻った。その際、ただでは戻らず、自分たちの霊力をすべて源に送り返した。

 そのため、源はある程度の免疫を発揮し、毒で気分は悪いが何とか活動できる状態でとどまった。

 しかし、毒の影響が軽減されたとはいえ、聖獣が居なくなったために彼は丸腰の状態である。その隙を見逃さず接近したヘルニアは、尾の先端に針を源に突き付け、こう言った。

「散々好き勝手されたが、これで最後だ。」

 一方の源は、気分が悪い中彼女にこう言った。

「良いの?こんな事を続けても、永遠に一人ぼっちなだけ。」

「黙れ…」

 静かな声であったが、ヘルニアは怒りを含んだ口調で言った。源は、この言葉に効果が有りと判断すると、再び言った。

「こんな場所に閉じこもっても、何も進展しない。」

「黙れ…」

 今度のヘルニアの言葉は、先ほどよりはっきりしていた。

「いつまで自己満足で納得してるつもりだ?」

 源がこう言った時、ヘルニアの怒りは限界に来たのか、彼女は思わず叫んだ。

「アンタに私の何が分かるのよ!!」

「分からないし、分かりたくも無いね!!」

 ヘルニアに対し、源も同じくらいの大声で叫ぶと、彼女に言った。

「自分に合わないなら、自分に合うように変える、もしくは自分が合うように変われば良いだけだ。確かにふざけてるくらいの理不尽はこの世に五万とあるし、誰かに怒りたくなる事もある。だけど、自分が嫌な思いをしたから、相手に同じことをして許される道理は無い!!」

 この言葉が良く響いたか、悪く響いたかは分からないが、ヘルニアはこの言葉に訊くと、

「黙れぇ!!」

 激昂して叫ぶと、隙を見つけて逃げ回る源にこう言った。

「私だって、今までずっとこうして居た訳では無い!!何百年、何千回と私を受け入れさせようとした!!でも誰も私を、そして私の意志を受け入れなかった!!仲間の昆虫族聖獣ははみ出し者として追い出し、人間は化け物と罵り、お前達神司は私を道具のようにしか扱わない!!私はもう絶望したくも無いし失いたくも無い!!私はどうすれば良かったのよ!!」

 この言葉を聞いた源は、自分の中に何かの力がわき上がるのを感じた。自らの気分の悪さが吹き飛ぶ程の、

「何百年、何千回と努力したなら、もう少しくらい努力出来ただろ!!」

 源はヘルニアにこう叫ぶと、聖装である大剣を用いてヘルニアの伸ばした尾を弾き飛ばした。

「うわぁぁぁぁ!!」

 ヘルニアがその勢いで吹っ飛ぶと、部屋の壁に激突した。

(神司とはいえたかが人間、だが何だ、今までの神司には無いこの力は?)

 ヘルニアがこう思うと、彼女は見た。源の全身から水色に染まった霊力が溢れており、それが覇気のようにして全身にまとわり付いているのを。そして聖装の中では、その霊力を受けた聖獣が元気を取り戻していた。

「これは?」

 最初に倒れたジェットシャークが驚くと、

「まさか、源の中で何かの意志が爆発するほどに滾っている。それが、我々にも影響を…」

 と、ドラグーンは分析した。なので、聖獣たちは揃って、

「受け取れ、我らの力!!」

 聖装の中で力を発揮し、聖装に水、炎、雷、大地、鋼属性の霊力を纏わせた。

「これで、終わりだ!!」

 源はこう叫ぶと、五つの属性を纏った大剣を思いっきり振り上げ、ヘルニアに巨大な斬撃を浴びせた。

(ダメだ、躱しきれないし、防御も敵わない)

 ヘルニアがこう思った瞬間、山の中に建つ古い屋敷の中で、物凄い大爆発が発生した。





 結果として、ヘルニアは倒されなかった。最後の一撃を放った時、源はわざと狙いを外したのだ。そのため、斬撃はヘルニアを傷つけず、戦いの現場である部屋の壁と天井を跡形も無く破壊するだけで終わった。

「………一思いに止めを刺して。」

 ヘルニアは源にこう言ったが、源はこう返した。

「もうそんな力は残ってない。それに、今倒せば余計に人間嫌いになるでしょう。」

「本当に…神司と言うのは最低な人間ばかりが選ばれるんだな。」

 ヘルニアは口ではこう言っているが、心の中ではこれ以上ない清々しさを感じていた。いつもの彼女であれば、人間に敗北したと言う事実は、どんな事をしてでも無かった事にしたい屈辱になっただろう。だが、源の姿を見ながらヘルニアは思った。

(彼は、今までの神司と違う)

 そして、何故だかわからないが、彼に訊いた。

「人間、お前は何を望んでいる。」

 源にとって、この問いは何度も聞かれた問いである。なので、

「願いは現在捜索中です。」

 いつも通りの答えで返した。そして、

「これで敵対の意志が無い事は分かってもらえました?僕らは帰るんで、ここに来た三人の解毒をしてもらえます?」

 と、ヘルニアに頼んだ。

 しかしヘルニアは、口元を歪めて笑みを浮かべると、彼に言った。

「さっきも言ったぞ人間、お前は何かを要求する立場に無いと。」

 そして、おもむろに立ち上がり、源の手を掴んだ。先ほどまでの事があったため、源は思わずビビッたが、ヘルニアは彼をどうする事も無く、魂の状態になって彼の聖装の中に入り彼に言った。

「お前は私の神司だ。要求じゃなくて命令で済ませ。」

 早い話、源の仲間になる意志を見せたのだ。だが、ただで味方になる気は無いようで、

「だが、お前が私の期待に添わないようなら、次こそ本当に殺すぞ。綾小路源。」

 と、言った。





「5、4、3、2、1」

 山の中での激闘の後、ヘルニアはカウントダウンしていた。目の前に圧倒的な実力差で倒した聖獣の集団、背後にはお菓子を食べる自身の主、源の仲間だと言う神司と居る。ヘルニアは一分間だけ一人で戦うと言いだし、こうしてカウントダウンしながら戦い、決着に至るのだ。

「人間ども、サボりすぎだ!」

「ヘルニアが働きすぎ何だよ。」

 ヘルニアの言葉に、源はこう返した。

 戦いの後、源の聖獣となったヘルニアは、自身の与えた毒を解毒する「アンチポイズン」で祐介や小雪、直葉の毒を消した。三人はヘルニアが源の元に居る事に驚き、警戒したが、源が説得する事で納得した。

 そして今、源は彼の所属する神司部の活動で、怪しい動きをしていた聖獣の集団を倒す事となり、新戦力のヘルニアを投入した。

 結果、源の主力だった聖獣は勿論、江美、彩妃、直樹、薫の聖獣は一回も出番が無く、事件は収束した。

「何か凄いね、彼女。」

「これでも一応、イスフィールより戦闘力レベル下なんだね。」

 様子を見ていた江美と彩妃が、それぞれこう言うと、

「大体、こんな夜中にお菓子を食べるのは体に良くないだろ。」

 ヘルニアが源は勿論、一緒にお菓子を食べる直樹と薫に言った。

「ご忠告どうも。」

 源がこう言う所を見ながら、ヘルニアは思った。

(出来ればお前達とは、もう数百年早く出会いたかったものだな)

 そう思う彼女の顔には、今までに無い穏やかな表情が浮かんでいた。

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