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聖獣王伝説  作者: 超人カットマン
第二章
12/55

第十一話 徒党結成

 ハイドラの神司「松井祐介」彼が神司部の面々と出会い聖獣バトルを行い、不利な状況の中勝利した日の翌日、彼は朝食を食べながらある事を考えていた。昨日彼が神司部の加入に誘われた時に、江美が一言言っていた事である。

「近々大きな戦いがあるみたいだから。」

 この言葉が気になる祐介は、ハイドラに訊いた。

「ハイドラ、あの言葉どう思う?」

 それに対し、ハイドラはこう答えた。

「さあな。だが、まだ薄いとはいえかなり嫌な霊力が蔓延し始めているのも確かだ。誰かが悪い事を企んでいるんだろう。」

「誰か?と言うと、人間か?」

 祐介の問いに、

「いいや、聖獣だ。」

 ハイドラはこう答えて、祐介に訊き返した。

「それで、お前はどうするんだ?奴らには仲間になるように誘われたようだが?」

「まあ、いざって時のための戦力は必要だと思うけど、あの学校は少し遠い。ここは、まず近くに当たるべきだと思う。」

 ハイドラの問いに、祐介はこう答えた。つまりは彼も彼の学校で、神司部もどきを作ろうと考えているのである。

「群れるのが嫌いな所、悪いが協力してもらうぜ。」

 そして、ハイドラにこう言った。

「了解した、我が神司殿。」

 ハイドラがこう答えると、

「祐介!誰と話してるの?!」

 台所から声が聞こえた。祐介の母親が、食器の片づけをしてるのだ。

「何でも無い、少し知り合いから電話が来ただけ!」

 祐介はこう答えると、さっさと朝食を片づけ、食器を台所へ持って行った。





 その後、祐介は夏休み中であるのにも関わらず、自身が通っている学校へとやって来た。夏も盛りに近づき、太陽は暑い光を注いでいる。そんな中なので数多くの生徒は居ないが、それでも数人の少年少女が居る。校庭で遊ぶなり、教師に宿題に付いての質問があるなり、色々目的があるのだろう。

 祐介は、下駄箱に言って靴を脱ぐと、予め持ってきた上履きに履き替えて、校舎内のある場所に向かった。

「ここ、ここ。普段はあまり来ないけど。」

 祐介がやって来た場所は、図書室である。彼は基本外で遊ぶ派なので、図書室で本を読むことはめったにない。

 彼が滅多に触れる事の無い扉に触れ、図書室の中へと入ると、心地よい冷気が全身に当たった。図書室は落ち着ける場所にしようと言う事で、特例で冷房が取り付けられているのだ。

「本当だったんだな。図書室に冷房が付いてるって。」

 祐介は中に入るなりこう言うと、中に目的の人物は居ないか探した。本を読む者、宿題をする者、図書室内での行動は人それぞれだが、奥の方には本を読みつつ世間話に興じる者も居る。

「お、居た居た。」

 祐介は目当ての人物を見つけたので、その席へと近づいて行った。





「それでね、それでね!!」

「そうなんだ。」

 祐介の目的の席では、二人の少女が本を片手に世間話をしている。一方は長く伸ばした薄い茶髪が特徴の少女で、薄緑色のワンピースを着ている。もう一方は黒真珠のように黒い髪を短く揃えた少女で、青を基調とした色合いのシャツとホットパンツを身に着けている。二人とも整った顔立ちを持っているので、文字通りの「美少女」である。

 普通なら声を掛けるのは憚られるが、祐介は躊躇い無く声を掛けた。その際、扇子で口元を隠すのも忘れない。

「ちょっと良いかな?」

 結果、二人の少女はそれに気が付いた。短い黒髪の少女は、意外そうな表情を浮かべただけだが、薄い茶髪の少女はあからさまに気に入らないと言う表情を浮かべると、

「ちょっと!女子の会話に男子が入ってこないでよ!!」

 と、祐介に言った。

「直葉!そんな風に言ったら。」

 もう一方の少女は、慌てた様子で今の少女「三藤直葉(みとうすぐは)」に言った。

「でも小雪。」

 直葉は不満そうな顔で、自身を注意しようとした少女「名倉小雪(なぐらこゆき)」に言った。

 このままでは話が進まないと判断した祐介は、彼女たちにこう言った。

「まあ、俺は別に君たちの話に入りたい訳じゃ無いけどね。」

「それじゃあ、どういう理由?」

 直葉がこう訊くと、

「単刀直入に言うよ。」

 祐介は隠すことなく、はっきりと言った。

「実は同好会を開こうと思うんだけど、二人で入ってくれないか?」

「はい?」

 祐介の一言に、直葉と小雪の二人は呆気に取られた表情を浮かべると、

「同好会開くのにはあえてツッコまないけど、なんで私たち?」

 最初に小雪が口を開き、祐介にこう訊いた。同好会を開くにもしても、気の合う面子を集めれば良いだけで、わざわざ殆ど話もした事の無い自分たちに声を掛ける理由が分からない。

 その疑問に、祐介は、

「君たちだからこそだよ。」

 と、答えた。

「私たちだから?」

 小雪がこう言うと、直葉はこう訊いた。

「まさか、同好会に花を添えるつもりで?」

「いいや、今の所君ら以外に相応しいメンバーに当てが無いだけ。」

 直葉の問いに、祐介はこう答えると、二人に言った。

「ここじゃ何だし、場所を変える。」





 そして、図書室から校舎の屋上に移動すると、

「神司、松井祐介と聖獣ハイドラの名の元に宣言する。今ここに、聖獣バトルの開催を宣言する。照覧あれ!!」

 祐介は扇子を開いてこう宣言した。結果、場所はコンクリートの床で覆われた屋上から、コロッセオを思わせる場所となった。今日もこの場所、決闘空間には数多くの聖獣や神が居る。

「決闘空間?どうしてまた?」

 直葉が周りを見回しながらこう言うと、小雪は彼の行動から理解した。彼が自分たちを選んだ理由を、

「つまり、私たちが神司だから?」

 小雪がこう訊くと、祐介は扇子で口元を隠したまま頷き、小雪の言葉を肯定した。

「確かに、うちの学校に神司は私たちとアンタだけだけど。」

 直葉は納得できたのかこう言うと、改めてこう訊いた。

「でも何で決闘空間に?普通に神司の加入を望んでるって言えばいい話じゃ?」

 この問いに、祐介はこう言った。

「普通に言っても断られるのが関の山だからね。なら、この場で白黒つけて、その上で従うか否かを決めようと思うんだ。」

「当然、勝ったら私たちの考えを優先して良いよね。」

 直葉がこう言うと、上空より白い翼をはためかせて「リブラスワン」が降り立った。この聖獣は、この決闘空間での試合のジャッジ及び立会人を務めている。因みにリブラスワンと言う聖獣は、世界中に違う性格の個体が何十体と存在しており、彼女たちは常に世界中で行われる神司同士の聖獣バトルのジャッジの為に、世界中を飛び回っている。

 今回来たリブラスワンは別の聖獣で、昨日の戦いにやって来たリブラスワンは、今もどこかで試合のジャッジをしているのだろう。

「今回の試合、仕掛け人の松井祐介とアンタ達二人が戦うって事で良い?」

 このリブラスワンはまじめなのだろう、淡々とした口調で三人に訊き、それを三人が肯定すると、

「それじゃあ、選手はフィールドの指定された場所へ、控えは控えの席へ。」

 と言って、自分はジャッジの為フィールドの外に出た。





「それでは第一試合、松井祐介・ハイドラ対名倉小雪・ビッグフット、始め!!」

 リブラスワンがこう言うと、攻撃を迎え撃とうと態勢を整えるハイドラに対し、全身が白い体毛で覆われた大型霊長類を思わせる姿をした、限りなく獣族に近いが巨人族に属する聖獣「ビッグフット」が、ドスドスと大きな足音を立てながら駆け出し、ハイドラに接近した。

「フリーズバイト!!」

 ビッグフットが一跳びでハイドラに近寄れる距離にやって来ると、小雪は自らの聖装である、自身の身の丈と同じくらいあるだろう大きな刀、所謂「斬馬刀」に付いたセンサーにカードをかざした。カードには、氷属性を持つ獣族聖獣が相手の聖獣に噛みついている様子が描かれている。

 フリーズバイトは、口に氷属性の力を集中させて噛みつく技である。本来は氷属性と獣族を持つ聖獣鹿使えない技だが、ビッグフットは巨人族でありながら獣族としての特性を持つので、発動時の条件が守れれば獣族の技がいくつか使えるのだ。

「獣の力と巨人の知恵を持つ相手か、どうする?」

 ハイドラの十本の首は一本が噛みつかれている為、その首は辛そうにくねらせているが、残った首は至って冷静に祐介に訊いた。

「とにかく、まずは首から奴を引き離す。このままじゃその首が可哀そうだし、それ以前にダメージはちゃんと来ているだろ。」

 祐介がこう言うと、ハイドラの首の内三本が、ビッグフットに噛みつこうと大口を開けて迫った。

「下がって!!」

 ハイドラの動きを見た小雪は、一言こう叫んだ。結果ビッグフットは、サルがジャングルの中を移動するように首から首に飛び移り、ハイドラと安全な距離を取った。

「言われた通り引き離したぞ、次はどうする?」

 ハイドラが祐介に訊くと、

「奴は氷属性、火に弱い筈だ!!」

 祐介はこう言って、自身の聖装である扇子にハイドラの必殺技である「ダークヒドラ」のカードを載せて、扇子を閉じた。結果、ハイドラは十本の首を大きく後ろに振りかぶると、

「ダークヒドラ!!」

 十本の口から黒い火炎を吐き出し、ビッグフットへ攻撃した。

「おいおいおい!!あれは火属性の攻撃でねえか?どうするだ、小雪?」

 一方のビッグフットは、黒い火炎が迫る中小雪に訊いた。

「ビッグフット、あれをやるよ!!」

「あれ?あれって、あのあれか?」

 小雪の出した答えに、ビッグフットがこう訊き返すと、

「あれと言ったら、あれ以外無いでしょう!!」

 小雪はこう返した。なので、

「分かっただ!!」

 ビッグフットはこう言って、自身の大きな拳を思い切り地面に叩きつけた。その結果、どこからか氷の壁がそそり立ち、ハイドラのダークヒドラを受け止めた。

「はっ!たかが氷に我が炎を防ぐ術など無い!!」

 ハイドラはこう言うと、口から吐き出している火炎の威力を高めた。しかし祐介は彼にこう言った。

「気を付けろ、相手は“あれ”と言っていた。何かがあるはずだ!!」

 祐介は思っていた、通常の火炎よりも多い熱量を発するハイドラの火炎なら、聖獣の呼び出す氷の壁位なら突破できる。しかし、ただでさえ相性が悪い炎に対し、氷を防御に使う理由が分からないのだ。冷静に考えれば、氷の壁はこちらの気を引く囮であり、本体は何らかの奇策を仕掛けてくるはずである。

 やがて、ハイドラの炎が氷の壁を突破したが、攻撃はビッグフットに当たらなかった。なぜなら、その場にビッグフットが居ないのだ。

「ハイドラ、周囲に気を付けろ!!」

 祐介がこう言うと、火炎を吐き出し終わった十本の首は、クールダウンしながら周囲を警戒し始めた。十本の首があらゆる方向を見張り、死角は無いと祐介もハイドラも考えていた。しかし、この時は気が付いて居なかった。彼らが唯一警戒していない、と言うより、体の形状的に警戒出来ない場所がある事を。

「捕まえただ!!」

 ハイドラが唯一警戒していなかった腹部の下より、ビッグフットが穴を掘って現れた。ハイドラは十本の首を用いて前後左右と上空をくまなく見張る事が出来る。しかし、彼の足が短いために腹部と地面の隙間が狭く、首が入る隙間が無いために下方向だけは警戒していないのだ。そのため、地面に穴を掘って移動したビッグフットに反応出来なかった。

 一方のビッグフットは、穴から飛び出ると同時にハイドラの腹部を掴んだ。

「フリーズバインド!!」

 それと同時に小雪も、氷属性の聖獣が掴んだ相手を冷凍する絵が描かれたカードを発動させた。フリーズバインドは氷を用いて相手の動きを封じる技である。

「何? 凍るだと?」

 ハイドラがこう言うと、祐介はハイドラにこう言った。

「高く飛び上がれ!!」

「? 分かった!」

 ハイドラは祐介の指示に疑問を覚えたが、それでもすぐに彼の考えを理解したのか、高く飛び上がった。しかし、ハイドラの腹をしっかり掴んでいるビッグフットは離れない。その上、氷は今もハイドラの腹を伝って、全身に行き渡ろうとしている。

 しかしハイドラは、腹のビッグフットも体の氷も気にする事無く、地面に着地した。その際、着地には足では無く腹を用いた。そのため、腹にくっ付いていたビッグフットは、ハイドラの巨体の下敷きになった。結果、ビッグフットは霊力を失って実体を失い、小雪の元に戻った。

「勝者、ハイドラ!!」

 リブラスワンの宣言を持って、一回戦は祐介の勝利に終わった。





 続いて現れたのは直葉である。彼女はフィールドに現れると、持っているシャープペンを大型のナイフに変形させた。そして、柄の先端で一枚のカードに触れると、ナイフの切っ先で空間に何かを描いた。その結果、彼女の目の前に空間の切れ目が現れ、中から光の当たり具合によって様々な色に輝く空色の鱗を持ったドラゴンが現れた。

「スカイドラゴンか?」

 姿を見た祐介は、優雅に飛ぶ姿と容姿の美しさからこう呟いた。因みに彼のパートナーハイドラは、地上を住処にしているモールドラゴンに分類される。

「いいえ、この子はラベンダードラゴン。モールドラゴンの特性を持つ植物族聖獣よ。」

 そんな祐介に、直葉が説明を入れると、ハイドラはこう言った。

「成程、かつてはドラゴン族に属するも、その特性と性格から植物族に追放されたモールドラゴン。初めて見たが…」

「余り甘く見ないで下さいよ。確かに今は植物族の聖獣ですが、姿はドラゴンなのですから。」

 甘く見ているような言動を取るハイドラに、ラベンダードラゴンがこう言うと、審判のリブラスワンはこう言った。

「それでは、試合開始!!」

 この宣言と共に、観客席からは歓声が上がった。しかし、両者はまったく動きを見せようとせず、ただにらみ合いを続けている。

(この勝負)

(先に動く方が不利になる)

 直葉、祐介はこう思っているようで、目線で火花を散らすだけで動こうとしない。その様子を見た小雪は、

「もしかして、相手が動くのを待っている?」

 こう呟くと、聖装の中に戻り回復しているビッグフットに訊いた。

「もう一回だけ出られない?」

「分かっただ!!」

 ダメージはあるが、元気よく返事を返したビッグフットに安心したのか、彼女は聖装の中からビッグフットのカードを出すと、こう呟いた。

「発動は一回、どちらにも等しく効果が発生するように。」

 そして、ビッグフットのカードを聖装のセンサーにカードを翳すと、もう一枚のカードも翳した。

 一方、小雪の霊力で一時的に実体化したビッグフットは、互いににらみ合うラベンダードラゴンとハイドラの頭上へ飛び上がった。それと同時に、小雪が翳したカードの効果も発揮した。

「パーフェクトブリザード!!」

 ビッグフットが大の字に体を広げると、全身から冷気が迸り、やがて吹雪となって両者の頭上に降り注いだ。

「な、妨害行為か?」

 祐介は驚いたが、余り気にはしなかった。聖獣バトルのルールで、乱入による妨害は合法と認められているからだ。しかし、一人だけ不満に思っている人物も居た。それは、小雪の味方である直葉その人で、彼女は小雪の援軍を喜ぶことなくこう言った。

「ちょっと、何で私まで?」

 何故なら、ビッグフットの放ったパーフェクトブリザードは、ハイドラは愚かラベンダードラゴンにまで命中していたからだ。

 だが、ビッグフットの行動によって状況が動いたのも事実で、祐介はハイドラに技を発動させた。

「ダークヒドラ!!」

 ハイドラが火炎を吐き出すと、直葉も技を発動させた。

「防火炉威戸!!」

 ラベンダードラゴンが地面に複数の種を投げつけると、地面に落ちた種は瞬く間に成長し、巨大な壁になった。防火炉威戸は植物族の持つ特殊植物の一つで、幹から枝に掛けて普通の木と同じ成分であるにも関わらず、何故か燃えない特性を持つ。そのため、炎に弱い植物族にとっては頼りになる武器である。

 そのため、ダークヒドラは防火炉威戸に阻まれ、不発に終わった。

「次、行くよ!!」

 直葉はこう言うと、次のカードを読み込ませた。

「茨の森!!」

 ラベンダードラゴンは飛び上がると、ハイドラの頭上から複数の種を投げつけた。その結果、ハイドラの足元の種は芽を出すや否やグングン伸びて行き、やがて茨の囲いとなってハイドラを拘束した。

「こちらの動きを封じる作戦か?」

 ハイドラがこう言う中、祐介は考え込んでいた。

(ダークヒドラはさっき破られたし、ブレイキングラッシュはこの状態では使えない。だからと言って、邪気眼砲を今使ってもな…)

 その間にも、ラベンダードラゴンはハイドラの周りを旋回飛行しながら様子を窺っている。絶好の攻撃の瞬間を見つけようとしているのだろう。

「よし、そのままその場所に括り付けて…」

 一方の直葉は、他の指示を出すことも無くこう呟いた。

「! そうだ!」

 その瞬間、祐介は一つの作戦を思いついた。

「ハイドラ、ジャンプだ!!」

 祐介がこう叫ぶと、ハイドラはその巨体に似合わない大ジャンプを見せ、茨の森から脱出した。

「いまだ、下に向けてダークヒドラ!!」

 祐介がこう指示を出し、ダークヒドラのカードを読み込ませると、

「ダークヒドラ!!」

 ハイドラは下を向き、十本の首から黒い火炎を吐き出し、茨の森を焼き尽くした。

「良し、成功だ!!」

 祐介はこの行動で、ハイドラが再び自由に動けるようにしようとしたのだが、直葉はうろたえる事無くこう言った。

「作戦通り。」

「?」

 直葉の発言に、祐介とハイドラが疑問符を浮かべた瞬間である。突如地面から巨大な蛇が姿を現し、その巨大な口でハイドラを飲み込んでしまった。

「な、何だぁ?!!」

 祐介が驚くと、直葉はこう言った。

「ヨルムンガンド、大地属性、獣属性の蛇型聖獣よ。」

 直葉は、最初にラベンダードラゴンを使用する事で、植物族の能力で相手を追い込み、ヨルムンガンドで決める作戦で動いていたのだ。

 一方、試合を見ていたリブラスワンは、こう宣言した。

「勝者、ラベンダードラゴン!!」

 こうして、今回の聖獣バトルは、小雪&直葉組の勝利に終わった。





 そして、決闘空間から帰って来た祐介、小雪、直葉はと言うと、

「ねえ松井君、一つだけ訊かせて。」

 最初に、直葉が口を開いた。

「そもそも、どうして神司で集まる集団を作ろうと思ったの?」

 この問いに、祐介はこう答えた。

「俺の知り合いの神司が言っていたんだ。今俺達が参加している戦いの陰で、何かが起こっていると。」

「何かが起こっている?」

 小雪が訊くと、祐介は昨日江美達より訊いた話を彼女たちに話した。

「詳しい事は分からないが、その知り合いは近々大きな戦いが起こると予想していて、自分の所属する学校の神司を集めて徒党を組んでいるとか。」

 祐介の言葉を受けた直葉は、少し考え込んでこう言った。

「もしかして、ラベンダードラゴンの言葉と何か関係が?」

「?」

 直葉の呟きに、小雪と祐介が疑問符を浮かべると、その空気を察してか直葉は打ち明けた。

「私のラベンダードラゴンやヨルムンガンドは、私が何も望まないのに勝手にやって来たのよ。今とんでもない事が起ころうとしているから、解決に協力してくれって。」

「つまり、事態の収拾を目的としていると言う事か?」

 直葉の言葉に、祐介はこう言った。聖獣と言う生き物は霊力が無いと実体化は出来ないが、霊力を生み出せる人間なら誰でも良い訳では無い。

 聖獣たちが人間に従うのにはそれぞれ理由があり、神司がそれを受け入れ、最低限のサポートをしてくれるのを条件に、聖獣は人間に忠誠を従っている。そのため、神司と聖獣との関係は、必然的に利害の一致が伴っているはずなのである。

「ねえ、直葉。」

 話に参加していない小雪が、直葉にこう言うと、

「分かった。貴方の言う団体に入ってあげる。小雪と二人でね。」

 と、直葉は祐介に言った。

「良いよね小雪?」

「勿論。」

 直葉の決定に、小雪も納得すると、直葉は祐介に言った。

「となると、組織の結成を生徒会と職員に報告して…」

「いいや、あくまで非公式での行動に徹する。」

 それに対し、祐介はこう言った。

「え?じゃあ、どこで活動するの?」

 直葉が祐介に訊いた。どこの学校でもこの決まりは同じだが、クラブ活動を発足する際には、学校の許可が居る。その事はちゃんと分かっているだろう祐介は、小雪の顔を見ながら言った。

「小雪の家、そこなら十分な広さがあるし、三人くらいなら十分に集まれるよな。」

「え、えっと、まあ……、と言うか、私の家がどんなか知ってるの?」

 小雪はこう言ったが、拒否するつもりは無いようで、祐介や直葉を案内して自分の家に行った。





「これって?」

「お寺。」

 小雪の家にやって来た直葉は、その外観を見ながら思わず呟いた。そこは、小雪の言った通りお寺なのだ。勿論、寺の本堂に住んでいるわけでは無く、ちゃんと居住宅もある。

「と言うか、何で松井君は私の家の場所を知ってたの?」

 小雪が、今までずっと気にしていた事を訊くと、

「ああ、隣の小道をしばらく行った所にある三階建ての家。そこが俺の家。」

 と、祐介は言った。

「ご近所さんなんだ。」

 直葉がこう言うと、小雪は祐介に言った。

「私の家の場所を知ってるのは分かったけど、どうして私の家なの?余り広いスペースは無いよ。」

「本堂を使えば良いと思うな。」

「貴方、お寺を何だと思ってるんですか?」

 祐介の言葉に、小雪がこう言った瞬間である。お寺に設けられた居住宅から、一人の少年が大きな入れ物を持って現れた。

 その瞬間、三人は揃ってこう言った。

「源?!何でここに?!」

 言うや否や、三人は揃って驚いた。声がはもったのは勿論の事、三人揃って現れた少年「綾小路源」の事を知っている事に。

「ああ、私の従弟なんだ。私のお父さんの弟の子供が彼なの。」

 最初に小雪が説明すると、

「つい昨日聖獣バトルをした所で…」

 次に祐介が説明したが、

「私はちょっと…」

 最後の直葉だけは、何故か言葉を濁していた。

 一方の源は、珍しいメンバーが揃っている所を見て、三人に訊いた。

「ところで、何をしてるの?」

「それはこっちのセリフ。」

 三人がこう返すと、源はこう言った。

「借りた鍋を返しに来た。そしたら肉じゃがをくれたんだよ。」

 彼の持っている入れ物には、肉じゃがが入っているようで、香ばしい匂いが漂っている。

「ああ、ここの肉じゃが、美味しいんだよね。」

 小雪と仲が良い直葉は、以前弁当持参の日に小雪が肉じゃがを持ってきて、それを小雪に分けて貰った時の事を思い出し、こう言った。

 その後、祐介が源にここに来た理由を説明した。

「こっちでも神司で組織を作ろうと思って、その拠点にと思って…」

「私の家ですけどね。」

 祐介に小雪がこう言うと、彼女は何かを思い出したようで、こう言った。

「そうだ、ここに居る皆神司何だよね。ちょっと度胸試しに協力してくれない?」


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