第一話 聖獣召来
かつて、奇跡によって生み出されるも、世界に存在する八つの力「炎」「水」「風」「氷」「雷」「光」「鋼」「大地」を操る能力を持った生命が居た。彼らは「聖獣」と呼ばれ、後の世で言う所の「ドラゴン」「獣」「巨人」「妖精」「恐竜」「機械」「昆虫」「植物」の姿をしていた。
神が住まう「神界」と言う唯一の居場所を追われた聖獣たちは、自らの力で地上に大地を、海を、空を作り出し、長い歴史を繰り返す事で生まれた、人間を始めとする生命たちと文明を発展させた。その文明は、何だかんだの内に人間にとって代わられたが、それでも聖獣たちは様々な形で人間のそばにあり続けた。
それには、ある理由がある。それは「聖獣王伝説」
世界のどこかに最初に誕生し、全ての聖獣の始祖となった、「聖獣王」と言われる神にも並ぶ、もしくは神をも凌駕した究極の存在が居て、その者の元にたどり着き、勝利するとあらゆる願いが叶えてもらえる、と言われている。だが、その者にたどり着くには、現実世界で実体をもたない聖獣は皆、それぞれ人間のパートナーを得て、彼らが持つ「霊力」を得て実体化する必要がある。そればかりか、世界のどこかにいる「竜王」「獣王」「巨人王」「妖精王」「恐竜王」「機械王」「昆虫王」「植物王」と「炎の始祖」「風の始祖」「水の始祖」「大地の始祖」を見つけて、その力を示し、認めてもらう必要がある。
聖獣たちは、それぞれのパートナーを見つけると、聖獣王を目指して、時に張り合い、時に協力して戦いを続けている。
これは、主人公とその聖獣たち、そして彼らの仲間たちの、人間、聖獣、神をも巻き込んだ戦いの物語である。
話が始まるより、数年前の事である。
「これにて、終わりなき螺旋は七十回目になるな。」
ある場所で、古びた本を見ながら、一人の少女が言った。白地の肌と、均整のとれた体つきから、美しい少女であると一目で理解できる。
「上は聖獣や人間の可能性を確かめると言っているけど、このままではいずれ二度とやり直せなくなる。何としても対策を打たなくては。」
少女はこう呟くと、本を元あった場所にしまい、ある場所に向かった。
次の瞬間、少女は本棚の沢山ある光景の中から、周りに複数の木が生え、遊具が置かれた公園の中に現れた。今は夜中のためか、誰もいない。
「ここに仕掛けを施しましょう。」
少女がこう言った瞬間である。
「ねえお姉ちゃん、もしかして一人?」
学生服を身に着けた、いかにもガラの悪そうな少年が複数人現れて、声をかけた。
(これが地上で言う、不良と言う奴か?)
少女がこう考えると、
「ねえ、これから俺たちと面白い事をしない?」
少年の一人がこう言って、少女の手を取った。
(少々穢れているが、まあ良いな)
少女はこう考えると、こう言った。
「そうだな、では少々極楽へと行ってくれるか?」
次の瞬間、不良たちは凍りついた。少女はその小さい手ではありえない握力で、手を取った不良の手を握りつぶしたのだから。
「あ、あああ! 俺の手が?!」
不良が驚きのあまりこう叫ぶと、
「実は少し困っていてな、そちらの血を借りたいのだ、十リットルほど。」
少女は笑顔でこう言った。ちなみに人間の血は平均で一人二リットル、ここに居る不良は今手を握りつぶされた者も含めて五人なので、ここに居る全員のすべての血を抜いてようやく足りる。
彼女が何をしようとしてるか悟ったのか、不良たちは震える足で逃げ出した。我先に公園の外に出ようとしたが、少女はそれを許さなかった。
「いただきます。」
まるで目の前に出された肉料理を食べるように、引きちぎり、切り裂き、あっという間にその場にいた不良を全員人としての姿も残さずに殺害した。その場には、おびただしい血がまき散っている。
「今ある血と、この肉があれば大丈夫であろう。」
少女はこう呟くと、地面に血で何かの模様を描いた、そこに先ほど殺した人間の残骸を並べると、
「大地を司る女神の名のもとに命ずる、現れよ、聖獣王。」
と自身の力を込めて言った。結果、模様が輝いた。そして、あたりには物凄い衝撃が迸った。
「うわぁぁぁ!!」
すると、どこからか声が響いてきた。見ると、一人の少年が公園の近くで転び、頭を打って気絶していた。
「あら、大変。」
少女はこう言うと、少年を助け起こし、近くに置いてあったベンチに寝かせた。この少年がこの時間に何をしていたのか、それにはあえてツッコまなかった。
その後、改めて「聖獣王」の呼び出しに専念し、自らの力を高めた。結果、先ほどと同じく衝撃が走り、魔法陣の中から何かが現れた。そこから現れたのは、全身に黒いオーラをまとった骸骨のような何かだった。
「な、あなたは?」
少女がこう訊いた。いったい何者だ?と、
「我は人間の、そしてお前たちの欲望が具現した姿。もう一つの聖獣王。」
骸骨はこう言うと、黒いが綺麗に歯の並んだ口を開けた。そこから現れたのは、何かを求めるように這いつくばる、真っ黒い人間の姿をした何かだった。
「な、何これ?」
少女がこう言うと、
「人間の欲望、お前たちが人間に与えた、もっとも穢れた物だ。」
聖獣王を名乗った骸骨はこう言って、何かを少女に嗾けた。
「まずい!」
黒い何かにまとわりつかれながら、少女は思った。この場には先程気絶した少年が居る、彼を危険に巻き込めないと考えた。
「アテネ、早く来て!」
少女は誰かに助けを求めると、自身の力の全てを集めて、一つのメッセージを残した。
「誰かが聖獣たちの戦いに乗じて良からぬ事をたくらんでいる。」
少女のメッセージは、少女とそっくりな姿で現れて、その場から消えた。
「お願い、いつか現れて、聖獣王に勝つ神司と聖獣。」
メッセージが飛んで行った事を見届けると、少女は黒い存在を遠ざけようとした。しかし、それより早く、逆に少女がどこかに取り込まれてしまった。
その後、しばらくしての事である、
「えっと、大地の女神であるガイア様のメッセージがあったのはここだけど?」
露出度の高い服装をした、長い赤い髪が特徴の美少女が現れた。彼女も、どこからか発生した光とともに現れた。
少女はしばらく周りを見回すと、やがて、ベンチの上で寝ている少年を見つけた。
「なるほど、彼を家まで連れて行けと。あの人より階級は下とはいえ、女神をなんだと思ってるんだか?」
少女はこう言うと、少年を抱えて彼の自宅に向かった。
時間は過ぎて、現在、
一人の少年が、闇に包まれた街の中を走っていた。彼は今、不思議な気配を発する謎の存在から逃げているのだ。
「まさかこんなに早く出くわすなんて。噂の殺人通り魔!!」
彼「綾小路源」はこう言うと、自分の足を速めた。彼は自分の家の近所に、夜になると現れるという、殺人通り魔について興味本位で調査しに来たのだが、なぜかいきなりその通り魔と出くわして、追いかけられているという状況である。
彼は走り続けた。息が切れようが、何かにぶつかろうが、転びかけようが気にしなかった。しかしそのうちに、道の前に壁が現れ、行き止まりとなった。
「まじか、くそっ!!」
源がこう言って振り返ると、そこには通り魔が迫っており、巨大な腕を振り上げていた。
「な、なんだこいつは?」
源はその姿を見て、こう言った。
通り魔の姿は、人間の比にはならないほどに背が高く、振り上げている右腕には骨がむき出しになっていた。
「人間じゃない、殺される。」
源はこう言って目をつむった。そしてそのまま通り魔の拳が振り下ろされると思ったら、浴びせられたのは声だった。
「ほう、生きることを望むお前の願い、確かに受け取った。」
「あきらめるなよ。お前の命運は尽きはしない。」
「なぜなら、今からお前の運命が始まるのだからな。」
最初に低めだが女性のように柔らかい声が響き、続いて飄々とした男性のような声が響くと、最後にどっしりした男のような声が響いた。
「誰だ?」
源が目を開いて、声がしたほうを見ると、そこにはしなやかな体の青い美しい竜と、赤い羽毛に覆われた鷹、全体的に黒い体の上に稲妻のマークが付いた蛙がいた。
「なんだあれ?」
源がこう言うと、
「グガガガ、セイジュウ。」
通り魔の大男はこう言った。そして、青い竜、赤い鷹、黒い蛙は一斉に飛ぶと、源を守るように着地した。
「まずは自己紹介だな、俺はドラゴン族のドラグーン。水龍だから翼は無いんだ。」
「んで、俺は見てわかると思うけどフェニックス。いわゆる”火の鳥”獣族だ。」
「最後に、俺はエレクトード。フェニックスと同じ獣族だ。」
女性のような声で喋るドラグーン、飄々としたフェニックス、どっしりしたエレメントードが自己紹介した。
「ご丁寧にどうも、僕は。」
源も自己紹介しようとしたが、
「綾小路源でしょう、わかってますよ。」
ドラグーンはこう言った、
「私はあなたを探していたのですから。」
そして、目の前の敵と向かい合うと、
「それでは、あなたの才を敵に、神に、我らに示してください。」
ドラグーンは源にこう告げた。
「待て待て、何をしろと?」
源がこう訊くと、
「簡単に言えば祈るんだ。俺たちの勝利を。」
エレクトードがこう説明した。なので、源はドラグーンがかっこよく敵を倒す姿を想像してみた。すると、
「グガァァァァ!!!!」
大男が攻撃を放った。ドラグーンはそれを見据えると、
「あなたにはこれで十分だ!!」
こう叫んで、口から吐き出した水流で大男を吹っ飛ばした。
「勝ったのか?」
源がこう言うと、その瞬間意識が途切れて、彼は倒れた。
そして源は夢の中で、
「久しぶり、それともはじめましてかな、綾小路源。」
やたらと態度のデカそうな少女と出会っていた。そしてデカいのは態度だけではなく、小さい体つきの割に、立派なものを結構露出しているが、それを気にしてる暇はないので、
「誰?」
源は彼女にこう訊いた、
「まあ良い、今は私の正体は明かすまい。だがお前にかかわり深き女神とだけ言っておこう。」
女神を名乗る少女はこう答えると、源に言った。
「おぬしは選ばれたのだ。世界の命運をも分けることになる戦いの参加者に。」
「ちょっと待って、何それ!?」
源が訊くと、
「おぬしのもとに三体の聖獣が来ておろう。そ奴に訊くがよい。」
女神はこう言って、最後に源にこう言った。
「私はおぬしが世界を正しく変えることを信じておる、健闘を祈るぞ!」
「いや、こっちは検討を祈ります!!」
源はこう抗議したが、夢はそこで目覚めてしまった。
「なんだあの夢?」
源は目覚めてみて思った、なんだかベッドが狭く感じる、と。見てみると、
「って、でたー!!」
そこには、ドラグーン、フェニックス、エレクトードがおり、爆睡していた。
「おい起きろ!!」
源はこう言って三体の聖獣を起こすと、話を聞くことにした。
「まず改めて訊くけど、お前らは何者だ?」
「聖獣。」
三体の聖獣はこう言うと、自分たちについて詳しく説明してくれた。
そもそも根本的に聖獣とは、神話やおとぎ話に登場するような生き物の姿をした、人類が誕生する以前の地球の住人である。肉体が無限に存在する人間と違い、精神が無限に存在すると言う。
「それってどういう意味?」
源が訊くと、
「人間の場合、死ぬと意識は永遠に失われるが、腐食しない限り肉体は永久に残るだろ。それと同じだよ、聖獣の場合、肉体が消えても、精神が永久に残り続ける。」
エレクトードはこう言った。
「簡単に言えば、生まれ変わった時に、生まれ変わる前の記憶があるのが聖獣だ。」
ドラグーンがこう補足説明をすると、
「そして二つ目、聖獣は八つの部族に分かれる。ちょうど人間でいう、何人っていうやつだ。」
次にフェニックスがこう説明した。
聖獣は伝説で言えば「ドラゴン」の姿を取る者が居る「ドラゴン族」、「ペガサス」や「ユニコーン」やそれに準ずる幻獣のように「獣」の姿を取る「獣族」、名前の通り、普通より大きな人間の姿を取る「巨人族」、こちらも名前のように、妖精や天使と言った特殊な力を持つ者「妖精」の姿を取る「妖精族」、ドラゴン族と違い、現実に存在した「恐竜」の姿を取る「恐竜族」、古代から現代まで、様々な昆虫の姿を取る「昆虫族」、鉄を始めとする金属で構成された肉体を持ち、科学を駆使した攻撃を行う「機械族」、植物や鉱物の姿を取り、植物の成長や特性を生かして戦闘を行う「植物族」の八つが存在し、その上にそれぞれの部族を統べる「部族王」と呼ばれる存在が居ると言う。
「そして三つ目、聖獣たちは最低一つ、八つ存在する属性のいずれか一つを所持している。」
エレクトードはこういうと、属性の説明をした。
「属性には炎、水、雷、氷、風、光、鋼、大地が存在し。一言でいうと、その聖獣の生体と特技を表す物だ。炎属性なら熱に強く、炎を出せる。風属性は空を飛べたり、風を起こせたりとな。」
聖獣の大まかな説明が終わると、それぞれの聖獣個体の説明をすることにした。
まずドラグーンは水と鋼属性のドラゴン族聖獣。竜騎士の名を取る通り剣の扱いに長けており、先ほどの戦闘では使わなかったが、両腕の手甲のような防具の中に五本ずつ剣を仕込んでいるらしい。あとは、生体は竜と言っても、水龍なのでトカゲより蛇や魚に近いらしい。
フェニックスは炎と風属性の獣族聖獣。名前の通り不死鳥で、どんな傷を負ってもある程度であれば瞬時に再生し、後遺症を残さず行動ができるらしい。なお、鷹の姿を取る理由については気にしないでほしいという。
そして一番謎な存在であるエレクトード、属性は雷で獣族の聖獣。黒いカエルは図鑑や博物館で見たことがあるが、エレクとは一体何なのだろうか?
源がその疑問を口にすると、エレクトードはその辺に置かれていた源の携帯電話を取ると、少し強く握って、源に渡した。
「いったい何をしたの?」
源がこう訊きながら携帯を受け取ると、彼は驚いた。学校帰りに携帯の充電を切らし、帰っても一つしか無い充電器を姉の携帯に取られて、今の今まで充電できなかった自分の携帯のバッテリーが、見事に満タンになっていた。
「俺の特徴、それは常に体内に電流を走らせていることさ。そしてその電流は、俺の粘液を通して好きなように放出できる。もちろん、こちらから吸収することもできる。」
エレクトードはこう説明した。
(なるほど、エレクはエレクトロのことか)
源がこう考えると、一番聞きたいことを訊いた。
「それで、何のためにここに来たの?」
聖獣たちは説明した。
「まず建前上の目的は、主の願いを叶えるために聖獣王を目指すと言う事です。」
ドラグーンがこういうと、
「ようするに、億万長者も不老不死も、世界最強も思い思いに叶うの?」
源が訊くと、
「そうそう、可能な限りなんでも願いはかなうはずだ。と言うか、最後のは達成した時点で叶ってると思うけど。」
フェニックスはこう言うと、
「主は何を望むんだ?」
と訊いた。しかし源は、
「何も望まない、というか望みが無い。」
と言った。
「つまらんな。普通の奴なら一度に五つは思いつくぞ。」
エレクトードがこう言うと、
「悪かったな、幸せボケしてて。」
源はこう言った。しかし、以外にもエレクトードは、
「まあいいさ、お前はお前が一番尊いと思う願いを見つけるまでお預けにすれば良い。ただ色々なことを漠然と願うよりずっと良いさ。」
と言うと、
「それはともかく、さっきも言った通り願いを叶えるのはあくまで建前、本当の目的は別にある。」
突然真剣な口調でこう言った。
「最近な、この戦いに便乗して何者かが何かを行っているんだ。そして、お前を襲ったあのフランケンシュタインもそのために動いている連中の仲間で、中でも雑魚の中の雑魚。俺たちはこの事態を収めるのが目的でここに来たんだ。」
「それで、俺たちがお前に何を望むかはわかるよな。」
エレクトード、フェニックスがこう言うと、
「要するに、自分たちの主となって戦ってくれと言う事だろう。」
源はこう言った。
「やってくれるなら、これを納めろ。」
すると、ドラグーンがどこからか銀色の巨大な剣を取り出した。刀身には複数の画面のような物が付いており、唾に相当する部分に、カードが差し込めそうなスロットがある。
「お前に与えられる聖装、聖獣を所有し、操るものが持つ聖獣使い「神司」の証だ。」
ドラグーンがこう説明すると、
「いやいや、こんなデカい物、普段から持ち歩けないから!!」
源はこう言った。しかし、デカいと言った瞬間、剣は縮んで、最終的にはボールペンになってしまった。
「これでお前の筆箱にも入るだろう。」
ドラグーンはこう言って、ボールペンをその辺に置かれていた源の通学用のカバンの中の筆箱に入れた。
この日、主人公の綾小路源のこれまでの日常が非日常となり、非日常が日常となった。