番外編 私の小さな魔女2
その時の気持ちを一言で言えば、もう「やっちゃった」以外のなにものでもなかった。
意味のわからない八つ当たりなんて許されるのはよくて小学生までだと思っていたというのに。
イライラを暴れたり叫んだり馬鹿なことをやって晴らすって人もいるだろうけど、私には絶対に向かない。
それでも情けないことにすぐに謝りに追いかけられるような度胸と度量が私にはなかった。自分は間違ってないって思いもあって、たぶん大丈夫と自分に言い聞かせてとぼとぼと先に体育館へと向かった。
私が体育館についてしばらくして、始業のチャイムが鳴り響く。ちらりと入り口を見たけれど、そこには誰の姿も見えなかった。
とたんにドクリと心臓が嫌な感じに跳ね上がる。あの子は何にもなく授業をサボったりするような子じゃない。真面目……というのとはちょっと違って。親が厳しいのかな、ちゃんとしなきゃって気負ってる感じ。
何があったのかなってソワソワしている間に先生が来て、点呼を取り始める。彼女の名前の番になってももちろん返事はなくて、先生が意外そうに軽く眼を開いて私を見た。ドキリと心臓が飛び跳ねた。
「何か知ってるか?」
「運動靴を取りに行くって言ってましたけど……」
そうか、と先生は少し思案気だったけど、それ以上は拘らずにまた次の名前を点呼していった。
点呼が終わって授業が始まっても彼女の姿は見えず、嫌な感じの汗がじわりと背中に滲むのを感じる。
いくら大丈夫だって思っても止まらなくて、急に肩を叩かれてびくりと跳ねる様に身体が震えた。
「ねぇ、大丈夫?すごく顔色悪いよ」
振り向いた先にあった心配そうな友達の顔に彼女の顔が重なって、限界だと思った。
「あ……うん。えぇと、生理で貧血気味で。ちょっと保健室行って来てもいいかな?」
「分かった。1人で大丈夫?」
「うん、大丈夫」
「じゃあ、先生に言っておくね」
「ごめん、ありがとう」
軽く手を合わせて感謝を示すと、友達に背を向ける。先生に報告しに行く友達を尻目に、なるべく気分悪そうに見えるように重い足取りを作ってゆっくりと体育館の出口へと歩いた。
出口を出てからしばらくも警戒してゆっくりと歩いていたけれど、体育館から少し離れたところで我慢の限界が来て走り出す。
授業中でシンとした廊下は足音がよく響くけど、構うものかと自分の教室へと急いだ。
辿り着いたがらりと教室の扉を開くとそこには誰もいない。ある程度の予想はしていたけれど、私の中の焦燥がまたさらに強くなる。
時間にしたらたぶんそんなに経ってないのだろうけど、ものすごく長く感じる間しばらく探し回ってからようやく彼女を見つけたのは、屋上に続く人気のない階段だった。
その姿に気づいた一瞬だけ、自分の行状を棚に上げてこんなに心配させられたことにムカムカしたんだけど、ちゃんと彼女の姿を見てすぐにそれは引いていった。
彼女が階段に腰掛けて膝を抱えるようにぎゅっと小さな体をさらに小さく丸めていたから。
ふっと思い浮かんだのは、いつだったかテレビで放送されていた虐待されていた子供たちを追ったドキュメンタリー番組。そこに出ていたこどもは、人気のない部屋の隅にいって彼女と同じようにぎゅっと膝を抱えて小さく小さくなっていた。まだ幼稚園くらいの子なのに、周囲に怯えているのに虐待されていない子と違って泣き喚いて助けを求めたりしない、必死で自分を守ろうとするその姿はものすごく胸を締め付けた。
それでも、じっとしてても仕方がないので、驚かさないようにゆっくりと近づいて隣に座る。
「授業、終わっちゃうよ?」
たったこれだけに半年近く…すみませんorz
色々とあーだこーだとこの先の展開とか書きたいことを考えてると筆が進まず…。
しばらく微妙に鬱な展開が続きます。