番外編 私の小さな魔女1
小さな彼女のお友達視点からの回想です。
彼女に出会ったのは桜の咲く4月の入学式。
1番行きたかった高校ではないけれどそれなりに期待を抱ける学校に受かり、長く感じる春休みを経てようやく通えるようになることにワクワクしながら、真新しい制服に身を包んで校門をくぐった。
案内をしてくれている人にクラス割りの紙が貼られている場所を聞いてそちらに向かうと、貼りだされた大判の紙の前には人だかりができていた。
どうやって前まで割り込んでいこうか考えていると、ふとその人混みの中で何かぴょんぴょん跳ねている人を見つける。
少しだけ色素が薄いけれど、多分染めたものじゃないふわふわの髪が跳ねるのに合わせて揺れていた。
割り込む隙間を探してあっちへウロウロこっちへウロウロしている様子が小動物的で、しょんぼりとうなだれる様子が可哀想やら愛らしいやらでつい視線がその姿を追ってしまう。
しばらくその姿を眺めてからその子に近づくと、驚かせないようにそっとその肩に触れる。
「ねぇ、良かったら私が見てこようか?」
「へ?」
振り向いた顔の中で目が大きく見開かれていて、きょとんとしたその顔が可愛くもおかしい。
笑い出しそうになるのを何とか唇が少し持ち上がる程度にこらえる。
「たぶんここで待ち合わせしてる子もいるだろうし、ギリギリまでは空かないと思うよ」
「そ、そっか」
「うん、だから私も今から探すし、一緒に探してみるよ。貴方の名前は?」
お節介だろうかと思いつつもとりあえず思ったことを提案してみると、嬉しそうににこっとその子が笑った。
とても無防備な、嬉しいって思っているのがそのまま伝わるような笑顔で、私はその子のことが一瞬で好きになった。
結局、あの時の子とは同じクラスになり、何となく一緒にいることが多くなった。
ちょっとトロくてどこか人とずれてて、でもなぜか放って置けないような雰囲気を持っているから、ついついお節介を焼いてしまう。
比較的に女子の中でも背が高くて年齢よりも上に見られることが多く、キツイと自覚のある白黒はっきり付けたがる性格の私と違い、彼女は小さくて人当たりも柔らかくて、まさに私と正反対だった。
ものすごく容姿に優れているってわけじゃないけど分類すれば可愛い部類で、彼女には砂糖菓子とか天使とか、そんなメルヘンチックな単語が良く似合う。
少しだけ私のコンプレックスを刺激されながらも、新しい妹が出来たみたいに思えた。
2つ年下のまったく可愛くない実弟よりも可愛いと思う。
実弟は私と同じで自己主張が強いから、すぐにケンカになって最近では家でもほとんど接触しない。
実弟に限らず周囲の人に対しても私は我が強く出てしまうようで、人に頼られこそすれ深く仲良くなれる人が出来にくかった。
だからこそ正反対で巧く嵌まった良い例の私と彼女は、我ながらいいコンビだと思っていた。
実際にうまくいっていたと思うし、少なくとも私は楽しく充実した日々を送っていた。
ただ、一緒に過ごす彼女にまったく不満がなかったかといえばそれはNOだった……こういう言い方をするとすごく偉そうに見えるだろうし、実際にこの時の私はものすごく上から目線だったんだけど。
彼女がよく俯いたり曖昧な態度でその場を濁したり、引っ込み思案…特に男子に対しては避けているようなところが時々カンに触った。
なんというか、その頼りなくてつけこみやすい感じが。
実際にそういった隙を狙って近づいてくる男子はいたし、対応に困った彼女に私が助け舟を出すこともたくさんあった。
そんな風に異性にかわいがられる要素の詰まった彼女にやっぱり多少の嫉妬を感じつつも、ほっとした顔で笑う彼女はやっぱり撫で回したいくらい可愛く感じて、嫉妬を自分が守ってあげているという優越感に変えて結果的にしょうがないなぁと苦笑するのが常だった。
そんな私も機嫌が悪いときっていうのはある。
その日は生理前で、私は生理通はそれほどじゃないけど生理前から生理中にかけて気持ち悪くなることが多くて、その日も微妙なだるさに見舞われていた。
これが本当に起き上がれないくらいなら素直に薬を飲んでしまうのだけど、いつだってちょっとだるいなぁってくらいで動くに支障はないのだから、逆にたちが悪い。
それくらいでも私の機嫌に影響はするし、さらにその前の夜に可愛くない愚弟と言い争いした……ちょっと自分に彼女が出来たからって調子に乗って色々と言われた……こともあって、私はイライラしていた。
だから、その日に限って体育の授業で彼女が教室に運動靴を置き忘れ、取りに行くのに付いてきて欲しいと頼まれた時、その時の教室には着替えのために男子ばかりしかいないことを承知でついきつい口調で断っていた。
「共学なんだからいつまで男子にビクビクして過ごしてるわけにはいかないんだよ。だいたい、なんでそんなに縮こまってるわけ?こびてるみたいに見えることやめなよ!」
――言ってから、驚いたような彼女の顔にハッとして、途端に後悔が押し寄せた。
これは八つ当たりだとわかったけど、とっさに次の言葉が出てこない。
その間に彼女は一度俯いてから顔を上げて、無理したような笑顔を浮かべて「ごめんね」と囁いた。
そしてそのまま1人で教室の方へ戻っていった。




