黄色くてかわいいオープンカー
掲載日:2026/08/22
「冴子ちゃん、乗ってかない!」
「広くん、どうしたの。そのかわいいオープンカー」
「気分転換になればと思って借りてきた」
そうなんだ。
たまにはいいかぁと思って、助手席に座った
黄色いオープンカーはダムへと走る
黄色いオープンカーは、ワインディングをスルスルと走り抜ける
黄色いオープンカーが左右に振れれば、彼女も振れる
黄色いオープンカーのエンジンが唸りをあげれば、彼女の叫び声も大きくなる
彼女は麦わら帽を吹き飛ばされないように、ずっと抑えている
黄色くてかわいいオープンカーはゆっくりと駐車場に入った
辺りは静かだ
こんなに静かな世界があったことに驚いた
高いダムが勢いよく放水をしていた
もっと静かな世界があった
彼女は何も考えられなくなった
もっと、もっと静かな世界があった
スローモーションのように、彼女の麦わら帽は風に飛ばされて、深い深いダムの放水路の底へゆらりゆらりと落ちていった
もっと、もっと、もっと静かな世界があった
心が洗われるとは、こういうことなんだ
これからも、やっていける
明日からも、やっていける
いまから、やっていける
まだまだ、これからだ
帰り際、彼女の目を見ないで
「気分転換になった?」
と、彼は言った
あれ・・・私のためだったの
ありがとう




