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第02話:いつものメンバー


〔ぶわっはっはっはっは〕

「おい、笑いすぎだろ。ジョン松」


 ひびの入ったデスクの上。デュアルディスプレイの片方には、近未来的な銃を構えるキャラクターの一人称視点が。そしてもう片方には、小さい四角形のアイコンが横一列に三つ並んだ画面……通話アプリ『ヴィスコード』が映っていた。


〔すまんすまん。でもまたダメだったんだな、フューたんの参加型配信。── お、安置寄ったじゃんラッキー〕


 ヴィスコード上でピカピカと光った赤髪縦ロールの女の子。お嬢様みを感じさせるこのキャラクターアイコンの主は、俺のヴァペ仲間であり、ヴァー学推しの同類……名を『ジョン松』という。


 アイコンは女の子だが、普通に男だ。


〔でもカジュアルマッチに、とりぞうさんが入ったら無双しちゃうんじゃないんですか? ── あ、ジョン松さんそのライフル私もらいますね〕


 続けて光った、ゆるキャラっぽくデフォルメされたライオンのアイコン。


 子供がクレヨンで描いたひまわりにも見えるし、少し配色を間違えた太陽にも見える……が、中央にあるつぶらな瞳の下に申し訳程度に牙が生えているあたり、やはりライオンなのだろう。


 彼女は『ポコライオン』さん。ジョン松と同じくヴァペ仲間の一人であり、俺の数少ない女の子の友人だ。


〔たしかに、こいつキモイぐらい上手いからな。 ── ほいどうぞ〕

「キモイって......それくらい許してくれよ。ヴァペぐらいしか取り柄ないんだし、そんでもってフューたんに褒めてもらうのが夢でやってんだから」


〔夢ときたか。流石とりぞう、ガチ恋勢は言うことが違うねぇ〕


 カッチーン。


「うるせー、いいだろうが別に」

〔そ、そうですよ!! いいじゃないですか別にVtuberに本気で恋しても〕

〔なんでお前もキレるんだよ、ポコライオン〕


 ジョン松もガチ恋勢だろうが。という二の矢を用意していたのだが、思わぬ援護射撃がきた。


「ん? もしかして、ポコライオンさんもV好きだったりする?」

〔ふぇっ!? いや、私はあんまり……。 ── あ!! 残り二部隊ですよ〕


 彼女と出会った当初、ボイスチェンジャーを使っているネカマ疑惑もあったのだが、この咄嗟に出る「ふぇっ!?」が全てをひっくり返したのを覚えている。


 本人はそんな間抜けな声は出していないと主張してくるあたり、真の無意識下で発せられているのだろう……。


〔へぇ、あんまりねぇ。── あーコンテナの中にいるな〕

「そっか、あんまりなんだ。 ── 裏取るわ、ジョン松そこロックしといて」


〔ういー。ポコライオン、カバーよろ〕

〔了解です〕


 さて、今まさに三人でやっているのはヴァぺックスのランクマッチである。


 このゲームのランクマッチは、プレイヤー99人から成る全33部隊から始まり、最後の一部隊になることを目指すという非常にシンプルなルールだ。


 そして現在、自分達も含めて残りは二部隊で試合は大詰め。普通ならば手に汗握る一番の緊張ポイントなのだが……そんなことはお構いなしといった具合に、呑気に世間話を繰り広げながらプレイできるこの二人とのヴァぺックスは、フューたんの配信を見る以外での俺の日常になっていた。


〔とはいえ、ポコライオンってかなりVネタ分かるよな〕

「そうそう。ポコライオンさん、時々俺よりフューたんに詳しかったりするからビックリするんだよね」


〔ま、まぁ私も一端のオタクではありますからね〕

〔一端つーか、ドロドロのガチオタだろ? オレ達のヴァー学談義に入ってこれるって相当だぞ?〕

「それな。 ── あ、グレ入れるよー」


 ドォン!!!!

 《WINNER》


 爆発音と共に画面いっぱいに表示された金色の文字。最後の一部隊が隠れているコンテナに投げ込んだ俺のグレネードが見事に決まり、俺達は勝利した。


〔流石とりぞうさん。これで六連ウィンナーですね〕

〔ナイグレ、お前マジで上手いな。ヤバッ。ランク九位まできてんじゃん〕


「お、本当だ。今ので上がったか」

〔凄っ。尊敬するなぁ……〕


 リザルト画面に表示された〝九〟の数字は月桂樹に囲われ、キラキラと光り輝く白い羽が生えていた。


 それはまるで数字が天使の遣いにでもなったかのような神々しさを放っており……実際、一桁ランクに属するプレイヤーは『神眼』やら『神速』といったその特徴を神格化するような二つ名で呼ばれている人間ばかりで。扱いとして『天使の遣い』というのは一番の下っ端である〝九〟を表現するには適しているのかもしれない。


 前に世界ランク二位の所謂いわゆる〝神〟がインタビューを受けている記事を読んだことがあった。


 どうやらこの一桁ランクという領域に立ち入るには才能だけではなく血の滲むような努力が必要らしい。そして俺は、その血の滲む努力とやらをしてしまったようで……。


 朝昼晩。仕事と、フューたんの配信を見ること以外の全てをヴァペに捧げていた俺のプレイ時間はゆうに一万を超えていた。三年で一万だ、滲むどころではなく事実ケツから血が出たことすらある。流石にこれだけやっていれば腕はそれなりについてくるというものだろう。


〔おぉう。すげーな、一桁ランクはトッププロ以外いねーじゃん〕

〔本当、有名人ばっかりですね〕


〔フューたんには感謝だな、この天才にヴァペをやらせたんだから〕

〔たしかに〕


「ははは……そんな」


 いやはや、リスナーの才能まで発掘してくれるフューたん、マジ神すぎる……。


 とはいえヴァペックスはチーム戦だ、だれも俺一人の力でここまで到達できたとは思ってはいない。かれこれ一年以上一緒にプレイしてくれているこの二人には感謝しかなかった。

  

「二人のおかげでもあるからね? ずっとランク回すの付き合ってくれてたし」


〔なわけ、オレはお前にキャリーしてもらってるだけだって〕

〔わ、私もです.......もっとお役に立ちたいのですが〕

 

 謙遜しているが、二人ともかなりの実力者である。


 出会った当初こそ初心者だったが、いまやポコライオンさんもこのゲームの最上位ランク『ドミネーター』に到達し。ジョン松なんかは普通にプロと比べても遜色ないのではなかろうか? コイツの反射速度や、フリック射撃の精度は、神にすら届く気がする。


「いやいや、謙遜しないでくれ。普通に上手いからね二人共」


〔ふっ。なんか照れるな。とりぞうに褒められると〕

〔あ、ありがとうございます!! でもとりぞうさんはやっぱり別格っていうか〕


〔だな、もし敵なら一ミリも勝てる気しねーもん〕

「そんなことないって。自信もってくれよ、ふぁ~あ」


 現在は土曜日の零時過ぎ。ゲーマーにとってはこれからがゴールデンタイムなのかもしれないが、ランクマッチの勝利による脱力と平日の仕事の疲れからか、つい欠伸が漏れてしまった。


 そして、回路の鈍った頭が二人のお世辞を話半分で受け流し「次、ラストにしようかな」そう切り出そうとした時だった。


〔あ、すいません。今日は私、これで落ちますね〕


 そんな思考を遮るようにピコピコとライオンのアイコンが跳ねた。


〔お、珍しいじゃん、ポコライオンがこの時間抜けるの〕


〔は、はい。ちょっとこの後、用事があって〕

〔こんな夜中に? ってまぁ色々あるか......お疲れ~。とりぞうはどうする?〕


「ポコライオンさんお疲れ~。そうだな、やってあと一試合かなと思ってたけど、ジョン松に任せるわ」

〔もちろんオレは付き合うぜ相棒。七連続ウィナーで締めるべ〕

「おけ、ならやるか」


〔ではでは、お疲れ様でした。とりぞうさん、おやすみなさーい〕

「おやすみ~」


〔え、オレには?〕


 ペコンっとアプリの切断の音を鳴らし、ポコライオンさんが落ちていった。


〔泣けるぜ……〕

「ははっ」


 さて、残った二人はどちらも野郎。そして互いにVオタとなったら話題は一つ……ヴァー学談義の始まりである。


「そういやジョン松の推しって今日は配信してねーの?」

〔キア嬢? あぁしてないんだよな。土曜だし、もしかしたらゲリラあるかもって楽しみにしてたんだが......まぁ忙しいんだろ、ライブも近いし〕


 ジョン松の推しはフューたんと同じ箱、ヴァーチャ学園の夢堕ゆめおちキアという赤髪の女の子だ。こいつの通話アプリのアイコン、縦ロールのお嬢様がまさにそのキア嬢である。

 

「確かにヴァー学のメンバー皆、最近ライブの準備でめっちゃ忙しそうだもんな」


〔ちょっと寂しいが……まぁ楽しみのほうが勝つだろ? 三カ月後のサードアニバーサリーライブ、絶対盛り上がること間違いなしってな〕

「違いない」


〔そういやフューたんの出番も一日目だよな?〕

「そうだよ。あ、そっか、キア嬢もか」


〔そうそう。ってことはあれだ、オレ達二人ともチケット当選したら現地で会えるじゃねーか!!〕

「おぉたしかに!?」


〔うわ激熱やん!! 頼むー、まじで当たってくれ~!!〕


 ジョン松が口にしたサードアニバーサリーライブ。これはヴァーチャ学園設立の三周年を記念した二日間にかけて行われるオフラインイベントのことだ。


 十数万人が収容できる規模の会場が貸し切られ、ステージではヴァー学のメンバーが歌って踊り、その他様々な催しやグッズ販売が行われるまさにVtuberのお祭りで、全国各地からヴァー学のファンが集結するこの一大イベントのチケット抽選に俺とジョン松は応募していた。


「俺、こういうイベント系に参加するの初めてなんだよな。もし当たったらだけど」

〔オレは何回か行ってるけどいつもソロだし、親友と参加するのは初めてだな〕


 ジョン松の口から出た〝親友〟という響きが俺の心をくすぐる。


 恐らくだが、普段会話をしている感じジョン松は俺と年齢が近い。それでいてゲームの嗜好が似ておりVtuberの趣味も同じである。そんな気の合う友人と一緒に現地でライブ参加というのはあまりにも魅力的だった。


「いやー、本当わくわくしてくるな。まじ当たれー……」

〔スポッ〕

「ん?」


 画面の前で手を合わせて目を瞑る俺の耳に、ジョン松のスマホ通知らしき音が入ってきた。


〔おいとりぞう。つづりんが今から配信するらしいぜ〕

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