第26話:彼ピッピGET大作戦2
食べ物を注文しに向かった二人を見送り、取り残された俺は一人頭を抱えていた。
なんだこの展開……。確かに面接までまだ時間はあるが、まさかこんなことになるとは全く予想だにしてなかったぞ。
とりあえず状況を整理しよう。フューたんのレイヤーさんの名前が冬華さんで、つづりんのレイヤーさんの名前が綴音さん、互いにそう呼んでいたよな? よし、じゃあ次は ────
「おまたー☆」
「お、お待たせしました」
「はやっ」
この時ばかりはモックの提供速度を呪った。
ファストフードの王様は伊達じゃなく、秒で帰ってきてしまった二人を前に、全く整理できていない頭で俺は覚悟を決める。
……やるしかないか。
「ほれ、綴音はそっちっしょ、お兄さんの正面」
「えっ、あ、うん」
カチャリと置かれたトレーにはハンバーガーとポテトが二つずつ、ガッツリいくきである。軽く考えていたが、三十分は覚悟した方がよさそうだ。
そして二人は俺の対面に腰を下ろした。
「さてさて、じゃあ早速始めますか☆ ほい綴音、フリートーク開始!」
「えぇ……いや、えっ……何話せばいいか分かんないよ?」
「なんでもいいんだって、ほらまず相手の目を見て!」
ぐいっと冬華さんによって首が捻られ、綴音さんの顔がこちらへと向く。
「ちょ……?!………っ」
真一文字な前髪の下、おっとりとしたエメラルドの瞳と一瞬だけ目があったが、すぐにパッと逸らされてしまった。
伏せられた瞳が左右に揺れ、ほんのりと頬が赤く染まる。
「だめだよそれじゃあ、本命の彼に会ってもイメージダウンだぞっ?」
「だ、だだって。リアルで男の人と会話することなんて無いし、私……コミュ障だから」
俯いてしまった綴音さんをみて顔をしかめる冬華さん。
「こりゃぁ……重症ですな。ねぇ? お兄さん」
冬華さんはそのまま怪訝な顔をこちらに向けてきたが、同意しかねた。正直、俺もそっち側の人間なのだ。
めっちゃ分かるよ綴音さん。目とか見れないよね……なんか落ち着かないよね……。コミュ障同士、案外心は通じてますよ。
「ま、まぁ自分からってなかなか難しいですよね……ははっ、俺もコミュ障なんで。すごい分かります」
「……………」
綴音さんの視線がスッと上がり、ようやく俺はまともに顔を見てもらえた気がした。
が……だ、だめだ。
今度は俺が直視できん。美人すぎる。
「ふーん、ならお兄さ……あ、てかさ、お兄さん名前は? そーいえば自己紹介まだだったじゃん☆」
「あ、俺は十理っていいます」
「とおり、とおり……うっし、ならとーりんって呼ぶね☆」
「とーりん……?」
ウェーイ☆っと三本指を開いたピースともなんとも言いにくいようなポーズを決める冬華さん。
もうノリが完全にフューたんなのよ。
あー頭おかしくなりそう。
「あーしは冬華、そして ────」
「つ、綴音です」
ペコリと頭を下げた綴音さんは、指でつまんだ一本のポテトをリスのようにポソポソと食べていた。
「じゃあ今度はとーりんから会話してみて☆」
「えっ、俺?」
「そうそう、ほら」
いやいやいや、話しかけられるのはいいけど自分からは何を話せばいいか分からないんだって。むしろその爆発するテンションで場を回してほしいのだが……。
俺だって女の子と話したことなんて、杁ヶ池とポコライオンさんくらいよ?
くぅ、だがまぁ、ここで俺がいかねば綴音さんの役には立てない。やるしかないか……とりあえず当たり障りのない感じで。
「ご、ご趣味は?」
「とーりん、それお見合いのテンション……」
「あ、いや。俺もあまり女性と話すことがなくって」
「ぷっ何それ。まぁいっか、ほら綴音ご趣味はって」
無限ポテト編に突入していた綴音さんは手を止めると、ぼそりと呟いた。
「げ、ゲームとかやります」
「おぉそうなんですね、俺もけっこうやりますよゲーム」
「好きピと出会ったのもゲームなんだよね?」
「う、うん。いつも一緒にやってる」
ほぅ、なるほどそうきたか。共通の趣味持ち、マジでそのまま適当に遊んでおけば自然とカップルが出来上がりそうだが……まだ出会って日が浅いとかかな?
「ちなみにその彼さんとはどれくらい前から遊ばれてるんですか?」
「一年ほど、ですかね」
「片思いも一年くらいなんです?」
「えっ……まぁ……」
一年ってなるとちょうど俺とポコライオンさんくらいの関係……。ふむ、あれだけ一緒に遊んでて、なおかつ好意を向けられているのであれば普通は気づくだろ。ソイツも良くないよな。
「それだけの期間片思いってのは、ちょっと相手さんにも問題がありそうですね」
「ねー☆ あーしもそう思 ────」
「彼のことを悪く言わないでくださいっ!! 」
垂れ目がキッと吊り上がったかと思えば、すぐさま落ち着きなく泳ぎはじめ、顔がじわじわと赤くなっていく。
えぇ……めっちゃ好きじゃんソイツのこと……。
もうその顔をそのまま見せればソイツ落ちるよ、絶対。なんの関係もない俺でも揺らいでるもん。フューたんという鉄壁のバリアすら貫いてくるほどの威力だよ?
「すいません、ちょっとデリカシーなかったです」
「い、いえ私もちょっと感情的に……」
「ぷっ、綴音は好きピのことになると暴走するからなぁ☆」
「ちょ、ちょっと!!」
さて、状況は振りだし。どこから攻めてみようか。目的は彼女が話しやすい雰囲気作りなのだから、このままゲームネタを続けた方がよさそうではあるが……
「ちなみにゲームはどういうのやるんですか?」
「割となんでも、ヴァペックスとか好きです」
「お、いいですね俺もやってます。ヴァペ」
ヴァペの名前を口に出した瞬間、彼女の表情が和らいだ気がした。
このネタだ。
まるで水を得た魚。完全に自分のテリトリーに引き込んだつもりの俺は、話を広げようと身を乗り出したのだが……。
「えっ、まじ?! あーしもやってるんだよね、とーりんの階級は?」
なぜか冬華さんの方が興奮気味に喰いついてきた。
「一応ドミネーターです」
「めちゃ強じゃん。綴音もドミだよ、あーしはマスター」
「へぇお二人ともすごいですね、合わせてるんだ」
本人とヴァペのランクも合わせるとは流石筋金入りのレイヤーさん達だ。
「ちな、この子の好きピもランカーでめちゃ強なの。何位だったっけ?」
「九位かな」
「おぉ九位って俺とおなじ…………」
ん? 俺と同じ?
いやまてまてまて?
現時点のヴァペックスのランク九位は俺だ。そしてこのつづりんに激似の美女、綴音さんの想い人も九位らしい。三段論法でいくならば、彼女の好きピは俺になるが……それは絶対にありえない。会ったことすらないからな。
ランクに同立とかあったっけ? いやない。
となると……。
まずいな、恐らくその想い人とやらは、俺が九位に上がったタイミングでランクが落ちた現十位の人間に違いない。
そして多分彼女はその事実を知らないのだ。ぐっ、言えない。今俺が九位で、あなたの好きピッピは十位。一桁のトップランカーではないんですよ……なんて言えるわけがない。
「おなじ?」
「おなじ?」
「いや、おなじ位強いのかもなぁなんて……ははは」
二人は互いに顔を見合わせると、ジトっとした視線を飛ばしてきた。
「九位と同じくらいって、とーりんもランカーなん?」
「い、いやまぁ一応……はい」
「えっ何位?! あーし知ってるかも」
「うっ……と、まぁ一桁……とか? ……かも?」
「一桁とかやばっ!! 有名人しかいないじゃん、誰? アカ名なに!?」
向けられたジト目はキラキラと光る好奇な瞳に変わっていた。
ぷ、プレッシャーが……。
まずい、これはバレる。
すまない、綴音さんの将来の彼氏よ……俺が今九位なんだ……まぁいいよな、ここは俺に華を持たせてくれ。
「えっと、とり蔵」
「えっ……」
「…………」
そう名乗った瞬間、何故か世界が止まった。
冬華さんの手からはポテトがポロリと落ち、綴音さんに至ってはハンバーガーを両手でもった状態で完全に石化している。瞬きひとつしていない。
あれ? なんか変なこと言った俺?
「っと……とり蔵っていうのは九位の人……かな? ごめんごめん、あーしが聞いたのはとーりんのアカ名」
「いや、なんというか……俺がそのとり蔵っす。こないだ九位になったので、その好きピさんはランクが下がってるんだと思います……」
「ま、じ……で?」
「まじで」
ガクガクとぎこちない動きで首を横へと回す冬華さん。その錆びついた機械のような動きは、隣に座る綴音さんを捉えてピタリと止まった。
一方の綴音さんは、石化したまま首元から徐々にその真っ白な肌を紅潮させていき、グルグルと瞳を回したかと思うと突如ボフッと音を立てて、逆再生したテープレコーダーのような声を漏らした。
「あdsmrいぃ、srはm」
「ちょっ?! 綴音?!」
「むりぃいいいいいいいいいい」
「へっ?!」
それから綴音さんはグィッと冬華さんの腕を引くと、お手洗いへと突撃していった。
むり? えっ? 何が? おれ?
好きピがこんなやつに負けるのが無理ってこと?
…………ずーん。
それから暫く二人が出てくることはなく、沈んだ俺の気持ちを励ますかのように店内に流れるBGMだけがやけに明るく鳴っていた。




