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第17話:幸先や良し


 一度目はライブチケットの獲得。

 二度目は杁ヶ池との謎遭遇。


 どうやら人生において奇跡というのは三度起こるらしい。


 暗転から光を取り戻したモニターは、フューたんとつづりんに挟まれるようにして立つ俺のキャラを映していた。


〔えっと、本日最後の参加者は……とりぞうさん☆ よろしくねー〕


〔ぶふぉあっ!!!! ごほっ、けほっ……かっはっ〕


〔だ、大丈夫!? つづりん〕

〔す、すいません、むせました。ととと、とりぞうさんよろしくお願いします〕


「・・・・・・・我が人生、一片の悔い無し」


 とり蔵さん ────

 とり蔵さん ────

 とり蔵さん ────


 フューたんから呼ばれた自分の名前が、頭の中で残響する。


 それは凪いでいた心の水面に一石を投じ、徐々に荒ぶる波紋は大波の叫び声となって溢れ出た。


「うおぉおおおおおおおおおおおお!!!! きっっったああああああああああ!!!! きたきたきたきたあああああああ!!!! まじでこんな日が来るとは、か、感無量すぎる……もうここで死んでもいい」


〔もう定型文になっちゃってるけど、とりさんはパシリスかな?〕

「…………はっ!?」


 連打。

 連打連打。

 連打連打連打。

 連打連打連打連打。


 『肯定』エモートを連打ぁあああああ!


「ここで人差し指が動かなくなっても構わん。俺が、俺こそがパシリスだ!!」


〔あはは☆ 凄い首振ってくれてる。とりぞうさんはパシリスなんだね〕


〔いや、もしかしたら綴り手でもあるかもですよ? ねぇとりぞうさん?〕


「ん……?」


 フューたんの笑い声と共に飛んできたのは妙に圧のある声で……、みれば画面左端に居るつづりんが、ハイライトの消えたガンギマリの目をこちらに向けているではないか。


 Vtuberの多彩な表情というのは当然手動で切り替えることもできる。だが、基本的には配信者の顔をキャプチャーしトレースすることで作られている。


 つまりこのガンギマリeyeはつづりんの魂の表情であり感情そのもの……、まるで目の前で本物の女性から問い詰められているようなプレッシャーが背筋を凍らせた。


「えっと……これは一応肯定しておいた方がいいのか? え、てかなんで俺は圧をかけられてるわけ? 今までの人たちとなんか反応違くない?」


 どうする……。


 たしかに先日つづりんのチャンネルを登録しているが、俺はあくまでもフューたん一筋……。綴り手か? という問いに、はいそうですとノータイムで首を縦に振ることははばかられた。


「いや、でも流石にか……」


 とはいえ、こう聞かれてしまった以上、首を横に振るのもつづりんを傷つけることにもなりかねない……。悩んだ挙句、チャンネル登録はしましたよという意味を込めて、俺は軽く『肯定』エモートを実行した。


〔ふっふーん。ですよね、ありがとうございます〕

〔ん? つづりん、とりぞうさんのこと知ってるかんじ?〕


〔あ、いやちがくて!! ほ、ほら。最近フューさんの配信から来ました~ってつづり手さんけっこういるんですよ〕


〔へぇそうなんだ。まぁ、あーしらよくコラボしてるからねー☆ つづり手さんもウェルカムだよ、ねー? パシリスさん〕


:もちろん、パシリスにおいで―

:フューたんはいいぞぉ

:パシリス兼 つづり手です

:ん? このとりぞうって人どこかで...


「なるほど、ポコライオンさんの言ったとおりパシリス兼、(つづ)り手ってけっこういるんだなぁ」


〔さてさて、じゃあ順位予想いっきまーす☆ とりぞうさん自信の程は?〕


 待ってましたと、俺はまた『肯定』エモートを連打した。

 

 ヴァペックスには運が絡むと言ったが、それは一般論だ。

 この瞬間、俺がフューたんとマッチしたこの試合だけはそれは通用()()()()


「今の今までフューたんのためにやってきたんだ。負けはない、絶対に勝たせる」


〔おぉ☆ すごい自信だ。これは……そうだなぁ、あーしは五位で!!〕


 過去一の順位予想。

 フューたんからも期待されてるぞ俺……気合い入れろ。


〔次、つづ ────〔一位で〕〕


 ふぁっ!?


〔えぇ!? 一位?〕

〔はい、一位で〕


〔今まで堅実な予想をしていたのに、急に変えてきたねー〕

〔あ、い、いや。えっと。ほら、これでラストですし最後くらいは一位でもいいかなぁ……なんて〕

〔ふーん。つづりんもやっぱり配信者だねぇ☆ なるほどなるほど。じゃあ最後リスナーさんはー……って、ん?〕


:フューたん、この人多分ランカーだ

:まじだ、ランキング九位に同じ名前がいる

:本物じゃなくない?

:同名は設定できるしなんとも......

:このとり蔵はガチだぞオレのフレだもん


〔えっ、そうなんだ。とりぞうさんってランカーなの?〕


「おぉ、気づいてもらえた」


 ブンブンブン──。


〔すごっ☆ あーもしかして、つづりん知ってたなぁ?〕

〔へっ!? あ、いや、まぁそうなんですよねぇ。ははは〕

〔ずる〜、あーしも一位に変えよーっと。おぉコメントも一位が多いね〕


 結果。三者、全てが一位予想となった。


〔じゃあ決まりね☆ しゅっぱーつ!!〕


 ──────

 ────

 ──


〔とりぞうさん、落下地点はまかせたよー☆〕

「よし、行くぞ……」

〔流石〕

 

 ヴァペックスの試合は、99名のプレイヤーが上空から降下するシーンからスタートする。広大なマップに各々の部隊が降り注ぐ様は、まるで地球に落ちる隕石が空中分解したようで、どこか終末じみていて中々に好きな演出だ。


 そして俺が落下地点に選んだポジションは画面中央、入り組んだ建物が多く存在し物質が豊富な激戦区だった。


「二部隊、いるな」

〔敵、二チームいるね☆〕

〔片方、中央のタワー。もう片方はほぼ真横に降りました〕


 このゲーム、最序盤の落下と同時に接敵した場合数秒のもたつきが命取りになる。


 バトルロワイヤル……つまり銃火器をつかって相手を倒していかなければならないのだが、試合開始時点で各プレイヤーは武器を持っていないのだ。そしてそれを拾えるかどうかは、そこにアイテムが沸いているかというランダム要素が絡むのである。


「隣の建物入ったか……お、ナイス。丁度いいのがあった」


 着地から間髪入れず、俺は目の前に落ちていたショットガンを拾うと敵のいる建設中のビルのような建物に飛び込んだ。


〔ちょ、とりぞうさん突っ込んだよ!?〕

〔あ、大丈夫ですよ。フューさん、ここシールドあります、どうぞ〕

〔え、カバーは!? ぶ、武器ないけど〕

〔大丈夫ですって、ほら〕


「下向いているとこ、ごめんよー」


 バァン!! という銃声と共に、放射状に広がる散弾の全てを身体に受けた敵がパタリと倒れる。運に見放され、床を舐めるように見回していた典型的アンラッキープレイヤーだ。


 出会い頭に一キル……幸先いいな。

 

「この建物あんまりアイテム湧かないからな、残り二人もこのままやりきれるか」


〔すごっ〕

〔ナイスです、とりぞうさん。じゃあそろそろ行きましょうかカバー〕


「敵さんは……上か」


 一階でダウンするプレイヤーをよそ目に、建物内の階段を登った先には敵が二人。

手にはすでにライフル銃が握られ、見事にその照準はこちらを向いていた。


「おっ、当ててくる!? 上手いなぁ」


 クリアリングで一瞬だけ晒した身体に撃ち込まれる銃弾。


 反射神経や良し……だいたい、こんなとこに降りてくるのは腕に自信のある猛者かトリガーハッピーな戦闘狂である。そして、そんなの二人と正面から撃ち合って勝てると思うほど俺は驕ってはいない。


「正直、エイムはたいしたことないからなぁ俺……ひょいっと」


 次は、わずかに腕が見えるかという覗き込み、からの壁に向けて発砲。相手に当てる意図はない、必要なのは……。


 ダダダっと重なる銃声。

 俺の動きに釣られて敵が撃ち返してきた。


「その数秒、階段に注目しといてくれれば……ほいっ!!」


 発砲音を聞き俺はすぐさま階段を降り外に飛び出すと、大きくジャンプして敵のいる二階に窓から飛び込んだ。


 これが今回俺が使っている全身メタリックなロボットキャラクターの特徴……背中と脚部についたスラスターで道なき所に道を作りだすという縦の移動に特化した能力だ。


「まぁ二秒もあれば十分。ジョン松なら一秒だろうなぁ」


 バリィン!! とガラスを割って飛び込んだ特殊部隊顔負けの突撃は完全に相手の意表を突いたようで、一瞬反応が遅れた二人のうち、近くの敵をしっかりとキル。そしてそのままダウンした敵の身体を使って、俺は残った敵からの射線を切った。


 雨のような銃弾が飛んでくる。


「それ味方撃ってるよーっと……落ち着いてリロードして。ラスト!!」


 止んだ発砲音。それ即ち弾切れの合図と俺は飛び出した。


「お、相手も隠れたか。やるな」


 既に視界に敵はなく、一部屋挟んだ奥の扉……相手が隠れているであろう壁からの飛び出し位置にエイムを合わせる。


「こうなったらガチの反射神経勝負……いや、アドバンテージ貰いに行くか。最悪負けるけど……まぁ丁度いいな」


 FPSにおける飛び出し有利の法則。オンラインゲームで必ず発生するラグを利用し、相手よりも先手を取るために俺は突っ込んだ。


「うぉっ」


 まさに俺が角を覗こうとしたタイミングで、スライディング姿勢の敵が先に飛び出し決め撃たれた弾が直撃する。


 シールドもつけていなかった俺は一瞬でダウンした。


「うわーあんた上手いな ──── でも俺《《ら》》の勝ち」


 ダダダダダダダ!!

 ドォンドォン!!


 俺のダウンと同時に、敵のものとは異なる二種類の銃声が鳴った。


〔ごめーん☆ ちょいカバー遅れたー〕

〔ナイス二キルです、とりぞうさん〕


「助かった~、ナイス二人共」


 かけつけたフューたんとつづりんのおかげで見事に一部隊を殲滅。

 こうして俺らは序盤の戦闘に勝利した。


〔アーマーなしで二キルって、とりぞうさんメッチャ強いね☆〕

〔起こしますね〕


 成果としては近くの脅威を排除しつつ、フューたんに一キルを献上……。


「まずまずってとこか……? いやコメントの反応はそうでもないな」


:フューたん間に合わなかったら負けてんじゃん

:大したことないなランカー

:俺の方が上手いな

:九位ってこんなもんか


「まぁそう見えちゃうか」


 あの状態、突っ込まずに二人の合流を待った場合、間違いなく死なずに済んだであろう。だが、わずかながら敵に逃走の選択肢を与えてしまう可能性があった。これは普段から意識している対人における基本的戦略の一つ ────

 

〔相手の思考時間を奪う……お見事〕

〔ん? どしたんつづりん〕

〔あ、いや、恐らくとりぞうさんはワザとダウンしたのかなって〕

 

「おぉ、つづりんには伝わってたか。凄いな、声以外もポコライオンさんみたいだ」


〔あ、もしかして敵が逃げないようにしてくれてたってこと?〕

〔ですです、冷静に考えたら相手は逃げ一択でしたが多分その隙を与えなかったんだと思います。周りにいるのは遠いタワーの一部隊だけって情報は割れてますしね〕


 つづりんの言う通り、たとえ撃ち負けたところでそこに立っているのは空のマガジンが刺さった銃を持ち、油断して背を向けている敵である。初心者でも倒すのはわけないだろう。


 一対一で撃ち負けるなど些細なこと、チームで勝てばよいのだ。


〔すごー☆ まじですごいじゃんとりぞうさん〕

〔ふっふーん、ですよねー〕

〔なんでつづりんがドヤってんの〕

〔あ、いや違くてっ……そ、それにしても幸先良いですし一位狙えそうですね〕

〔たしかに、これはガチでいけるかもね☆ じゃあ今回はリーダーの名を冠して……〕


 フューたんの右腕が高らかに上がった。


〔チームとり蔵、いくぞー☆〕

〔はいっ!!〕

「おー!!」


 画面の前に腕を突き出し、イマジナリーフューたん及び、イマジナリーつづりんと拳を合わせる。


 距離は離れていようとも確かにいまこの瞬間、俺は二人と心が通じ合った気がした。


 そしてここから俺史上、色んな意味で最高に頑張った試合が始まったのである。

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